白と黒の呪い戦線

界 あさひ

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呪いと祝福の境界

010 神の言葉

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 悲しみに暮れる中、黒いローブの男は自らをカルタと名乗り、初めは息子のシータの前に現れた。
「あなたの悲しみは尤もでしょう。大切な人を失う悲しみは形容できるものじゃない。」
カルタはそう切り出して、一度ここで区切った。
「しかし、このスラムにおいては、力が無いものは弄ばれる運命にあると思いませんか?」
 母は無力ゆえに殺された、と言われていると感じたシータは、泣き腫らした目でカルタをキッと睨んだが、カルタは気にも留めずに続ける。
「力さえあれば、あなたの母は、抵抗できた。命を落とすことはなかったはずです。
 力がないから、命を落として、周りの人間を悲しませる。そうは思いませんか?
 あなたも、今のまま誰かに殺されてみなさい。あなたの父も、天国の母も、きっとあなたの無力を嘆くでしょう。」
 シータは動揺した。急に話が変わったと感じたが、少しだけ話を聞きたいと感じる自分がいた。
「私の「呪い」があれば、私の「祝福」があれば、あなたに力を与えられる。そうなれば、あなたの母も喜ぶでしょう。」
シータは心を動かされた。震えた声で、
「どうすれば、その「祝福」を、貰えるのですか?」
 カルタは目を遠くに送って微笑を浮かべてゆっくり言った。
「…私を、崇めるのです。」

 それ以来、シータはカルタを崇める者の一員となった。 
 息子の異変に気付いたトウは、カルタについて調べた。
 カルタは少し前に教団を立ち上げ、自身を現人神として、着実に信者を増やしていた。大方、息子の様に、弱った所に漬け込んで甘い言葉で騙しているのではないかと勘繰った。
 その頃にはシータはどっぷりとカルタの宗教に浸かっていた。トウは、残された最愛の息子が変な宗教にハマったことに頭を抱えた。
 ある日、トウは思い立ってカルタの教団に赴いた。
「頼む、息子を返して欲しい。」
「返す…?シータ殿は、自ら望んでここに来たのですよ。返すも何もありません。
 それに、シータ殿が望めば、あなたの元に帰っている筈です。そうしないのは、あなたの元より、私の元に居たいと彼が考えているからではないですか?
 あなたのエゴで、シータ殿の自由を奪うのは、神としては、余り看過できませんね。」
 一気に捲し立てられたトウは、頭に血が上った。
「神?ふざけるな、詭弁もいい所だ!」
「あなたがそう思うならそれもまた自由。では。」
 そう言ってカルタは立ち去ろうとした。
「待て!勝負しろ。俺がお前に勝ったら、シータを返してもらう!」
 
 カルタはピタリと止まり、ゆっくり振り返った。目を細め、不気味に微笑んで言った。
「いいでしょう。神たる所以を教えて差し上げます。」
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