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プロローグ
愛花の寄り道。
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「ぐ、ぅぅ……」
「他愛も無いな、くだらん」
地面に這いつくばっている男たちを睨み、私はその場を去る。
帰り道はいつもこうだ。どこで私を知ったのか、他所の学校の不良や、それを従える番長。
どいつもこいつも最後には私を見上げることになるのだが、決まって口に出すのはこんな言葉だ。
なんだ、お前たち。こんな女に負けたのか、と。
その次も決まって、覚えてはいないが私が打ち負かしたらしい男が「なめちゃいけません、あの女は怪物です」と言うのだ。
私程度で怪物になれるのなら、よほど世界を知らないらしい。一種の哀れみを感じ、いっそ愛しささえ覚えた。更に言うのなら、私は笑ってしまった。嘲笑でも失笑でもなく、清々しく。
そしてどうやらそれが気に入らなかったようで、男たちはそれを合図のように一斉に殴りかかってきた。
確か私は怪物と言ったが。
私は本物の怪物を知っている。その人と比べたら私なんてとてもとても。
だから申し訳ないんだ、そう呼ばれることが。だが彼らがそう呼ぶのなら、それに恥じぬように。
徹底的に叩き潰してやった。
拳を握り、顔面に打ち込む。頬ではなく真正面、鼻を狙って。大抵のやつはこれで、鼻血と痛みでしゃがみ込む。
痛みと、それに伴って発生した血をみると戦意をそがれてしまうのだ。鼻血なんてちょっとの衝撃で出るものなのに、勝手にあの拳で殴られたからだと、勝手に萎縮してくれる。
もちろんそれだけでは止まらない奴もいる。鼻血を撒き散らしながら考え無しに突っ込んでくる馬鹿には木刀を握る。
後はもう人数に合わせて一振り。何人居たとしても関係ない。弱い、弱すぎる。どうして木刀の一撃が耐えられないんだ。いや、いつだってそうだった。
どうすれば本気を出せるんだ、私は。
私の全力を受け止めてくれるような奴は、父以外に現れるのだろうか。
「くだらん」
木刀を収納バッグに戻して呟いた。
そして現在に至り、私は下校を再開する。
どうにも私は平穏に帰ることが出来ないみたいだ。毎日毎日飽きもせずに売ってくる喧嘩を買ってしまうせいで家に着くのが遅くなる。
だが今日はいつもよりも時間に余裕がある。
これならあれを食べにいけそうだ。
いつもよりも遠回り、寄り道。
それは駅ナカで展開されている商業スペースの一つ。
中に入れば甘い香り。ほのかに頬の内側が引き締まるこの感覚。さっきの連中との喧嘩よりもよほど気が入る。
「いらっしゃいませ~! 1名様でしょうか?」
「一人だ」
同世代の女子高生、または恋人たちが私が求めているものを食べ、また写真を取ってきゃいきゃいとはしゃいでいる。
甘味だ。
ただ甘いだけじゃない、見た目もそれは綺羅びやかで、見ているだけでも心に安寧をもたらしてくれる。
素晴らしい食べ物だ、パフェ。
早速メニューに目を通す。
何度も見たから内容は覚えているが、そういうものじゃない。一度は見る、それは礼儀のようなものだと捉えている。
それに「今日は何にしようか」という迷う瞬間も好きだ。だからいつも通り、ざっとメニューを眺めて、好きなものを注文しようと思っていたのだが。
「なっ……これは……!」
メニューの一面全てを使って私にアピールしてくる新しいパフェがそこに書かれていた。サイズもさることながら、その内容も凄まじい。
イチゴにメロンにオレンジ、マスカットにブルーベリー、クランベリー。下までたっぷり詰まった生クリームとチョコソース。頂点には純白のアイスクリーム。
わんぱく娘のわがままセットと書かれている内容に私は心底震えてしまった。
だって私、イチゴにメロンにオレンジ、マスカットにブルーベリー、クランベリー、全部好きだから。
もちろんすぐにこれを頼もう! と注文ボタンを押し、店員を呼び、いざ注文……となったところで気付いてしまった、いや気づけて正解だったのかもしれない。
(よっ……4500円だとッ?!)
また別の理由で震えてしまった。確かにそれだけ払う価値はあるのかもしれない。だがあまりにもこれは痛手だ、出せないことはないが所詮は高校生の財布事情、吹き飛ぶぞ。財布が。
わんぱく娘のわがままセットは値段までわんぱくなのか……!
「……この、普通のイチゴパフェを」
泣く泣く私は指をわがままセットから遠ざけて、その隣のイチゴパフェを指差す。いいさ、私はこれが一番好きなんだ……。
だが瞬間目に入る、ある項目が。
期間限定、材料が無くなり次第終了、と。
★★★
「お待たせしました! わがまま娘のわんぱくパフェで御座います!」
「お、ぉおお……!」
思わず声が出てしまった。写真と実物ではこうもインパクトが違うものなのか、まったく違うものに見えた。無論、良い意味でだ。
スプーンで掬うと、理由はわからないが重みが違う気がした。豊潤な果物と、蕩けるようなアイスクリームと生クリーム。それらを組み合わせた食べ物、これが嫌いな人類が世の中にいるのか?
「っ~♡
口に入れた瞬間たまらず頬が緩んだ。あぁ、素晴らしい……なんて素晴らしい食べ物、パフェ……。
喧嘩よりも好きだ……。
私は、幸せを噛み締めながらきれいに、少しも残すことなくパフェを平らげた。
そしてその日の晩、夕食があまり入らなかったのは、言うまでもない事だった。猛省。
「他愛も無いな、くだらん」
地面に這いつくばっている男たちを睨み、私はその場を去る。
帰り道はいつもこうだ。どこで私を知ったのか、他所の学校の不良や、それを従える番長。
どいつもこいつも最後には私を見上げることになるのだが、決まって口に出すのはこんな言葉だ。
なんだ、お前たち。こんな女に負けたのか、と。
その次も決まって、覚えてはいないが私が打ち負かしたらしい男が「なめちゃいけません、あの女は怪物です」と言うのだ。
私程度で怪物になれるのなら、よほど世界を知らないらしい。一種の哀れみを感じ、いっそ愛しささえ覚えた。更に言うのなら、私は笑ってしまった。嘲笑でも失笑でもなく、清々しく。
そしてどうやらそれが気に入らなかったようで、男たちはそれを合図のように一斉に殴りかかってきた。
確か私は怪物と言ったが。
私は本物の怪物を知っている。その人と比べたら私なんてとてもとても。
だから申し訳ないんだ、そう呼ばれることが。だが彼らがそう呼ぶのなら、それに恥じぬように。
徹底的に叩き潰してやった。
拳を握り、顔面に打ち込む。頬ではなく真正面、鼻を狙って。大抵のやつはこれで、鼻血と痛みでしゃがみ込む。
痛みと、それに伴って発生した血をみると戦意をそがれてしまうのだ。鼻血なんてちょっとの衝撃で出るものなのに、勝手にあの拳で殴られたからだと、勝手に萎縮してくれる。
もちろんそれだけでは止まらない奴もいる。鼻血を撒き散らしながら考え無しに突っ込んでくる馬鹿には木刀を握る。
後はもう人数に合わせて一振り。何人居たとしても関係ない。弱い、弱すぎる。どうして木刀の一撃が耐えられないんだ。いや、いつだってそうだった。
どうすれば本気を出せるんだ、私は。
私の全力を受け止めてくれるような奴は、父以外に現れるのだろうか。
「くだらん」
木刀を収納バッグに戻して呟いた。
そして現在に至り、私は下校を再開する。
どうにも私は平穏に帰ることが出来ないみたいだ。毎日毎日飽きもせずに売ってくる喧嘩を買ってしまうせいで家に着くのが遅くなる。
だが今日はいつもよりも時間に余裕がある。
これならあれを食べにいけそうだ。
いつもよりも遠回り、寄り道。
それは駅ナカで展開されている商業スペースの一つ。
中に入れば甘い香り。ほのかに頬の内側が引き締まるこの感覚。さっきの連中との喧嘩よりもよほど気が入る。
「いらっしゃいませ~! 1名様でしょうか?」
「一人だ」
同世代の女子高生、または恋人たちが私が求めているものを食べ、また写真を取ってきゃいきゃいとはしゃいでいる。
甘味だ。
ただ甘いだけじゃない、見た目もそれは綺羅びやかで、見ているだけでも心に安寧をもたらしてくれる。
素晴らしい食べ物だ、パフェ。
早速メニューに目を通す。
何度も見たから内容は覚えているが、そういうものじゃない。一度は見る、それは礼儀のようなものだと捉えている。
それに「今日は何にしようか」という迷う瞬間も好きだ。だからいつも通り、ざっとメニューを眺めて、好きなものを注文しようと思っていたのだが。
「なっ……これは……!」
メニューの一面全てを使って私にアピールしてくる新しいパフェがそこに書かれていた。サイズもさることながら、その内容も凄まじい。
イチゴにメロンにオレンジ、マスカットにブルーベリー、クランベリー。下までたっぷり詰まった生クリームとチョコソース。頂点には純白のアイスクリーム。
わんぱく娘のわがままセットと書かれている内容に私は心底震えてしまった。
だって私、イチゴにメロンにオレンジ、マスカットにブルーベリー、クランベリー、全部好きだから。
もちろんすぐにこれを頼もう! と注文ボタンを押し、店員を呼び、いざ注文……となったところで気付いてしまった、いや気づけて正解だったのかもしれない。
(よっ……4500円だとッ?!)
また別の理由で震えてしまった。確かにそれだけ払う価値はあるのかもしれない。だがあまりにもこれは痛手だ、出せないことはないが所詮は高校生の財布事情、吹き飛ぶぞ。財布が。
わんぱく娘のわがままセットは値段までわんぱくなのか……!
「……この、普通のイチゴパフェを」
泣く泣く私は指をわがままセットから遠ざけて、その隣のイチゴパフェを指差す。いいさ、私はこれが一番好きなんだ……。
だが瞬間目に入る、ある項目が。
期間限定、材料が無くなり次第終了、と。
★★★
「お待たせしました! わがまま娘のわんぱくパフェで御座います!」
「お、ぉおお……!」
思わず声が出てしまった。写真と実物ではこうもインパクトが違うものなのか、まったく違うものに見えた。無論、良い意味でだ。
スプーンで掬うと、理由はわからないが重みが違う気がした。豊潤な果物と、蕩けるようなアイスクリームと生クリーム。それらを組み合わせた食べ物、これが嫌いな人類が世の中にいるのか?
「っ~♡
口に入れた瞬間たまらず頬が緩んだ。あぁ、素晴らしい……なんて素晴らしい食べ物、パフェ……。
喧嘩よりも好きだ……。
私は、幸せを噛み締めながらきれいに、少しも残すことなくパフェを平らげた。
そしてその日の晩、夕食があまり入らなかったのは、言うまでもない事だった。猛省。
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