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プロローグ

低血圧ガール。

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 八月朔日家での一日の始まりは、6時にかけたアラームの音だ。
 俺と真奈美さんは二人共それで目を覚ます。真奈美さんは仕事に行くまでの準備──着替えや化粧を済ませる。

 俺の朝最初の仕事は、全員分の朝食を作る事だ。
 昨晩の残りのご飯と、味噌汁まではセット。後は簡単な目玉焼きとウィンナーを焼いたもの。
 食べるかどうかはわからないけど、適当に漬物や納豆などを置いておく。

 朝日がカーテンの隙間から差し込みだす頃、最初に起きてきたのは愛花だった。既に身だしなみを整えていて、起こす必要もないところはさすが長女と言ったところなのだろうか。

 そう、愛花は起こしてあげる必要はない。

 下の二人はそうもいかない。叶は日によるが、アキラは起こしに行かないと布団から出てこない。

「愛花、アキラと叶はまだ寝てる?」
「そうだな。物音もしなかったから、おそらく」
「まったく……夜ふかしばかりするからだ」

 二人を起こしに部屋に向かう。
 愛花は一人部屋だが、アキラと叶は同じ部屋だ。俺はノックをして中の二人に呼びかける。

「おーい、もう朝だぞー」

 返事はない。

 だが小さく「あと5分」と典型的すぎて逆に感動的なお決まりの返しに少し笑いそうになる。しかしそれとこれとは話が別だ。

「入るぞ」

 初めて入ったときも思ったが、部屋の中は想像よりも普通だ。知らなければまさかこの二人が番長だなんて思えないほどに、至ってごく普通の少女の部屋。

 少し意外だったことは、部屋にはぬいぐるみがたくさんあるのだが、それ等は全てアキラのものだった事だ。最初に見たときは勝手に叶の物だと決めつけていたから驚いた。

 むしろ叶の趣味は可愛い物よりもカッコイイ物が多い。棚にある漫画本も展開が熱いあの有名漫画や、ヤンキー漫画。
 逆にアキラの棚には少女漫画ばかりがある。

「叶、アキラ。朝だぞ、起きないと遅刻するぞ」
「ん~……はぁい……」

 むくりと叶が起き上がる。目をこすりながら「おはよぉ楓太兄ぃ」とあくび混じりに起床のご挨拶。

「もう朝ごはん用意してるから、下降りて食べな」
「うん、いつもありがとぉ」

 叶は案外目が覚めればスイッチが入るようで、そのまますぐに制服を手に持って部屋から出ていった。
 しかし毎日の事だが、問題はここからだ。

 八月朔日家に居候しだして、それなりに日が経った。この三姉妹達の事も一緒に生活するうちに、それぞれの性格や癖などもわかりだした。

 そのうちの一つが、アキラは朝に非常に弱い。

 日頃の番長としてのオーラのようなものが今に限っては消え失せている。今なら俺でも勝てそうなくらい、ただのか弱い少女と化している。

「アキラ、もうみんな起きてるぞ。早く起きないと」
「ぅんんん……」

 声をかけても布団を頭から被って嫌がる。引っ剥がそうとしても抵抗してくる。

「アーキーラ」
「やだぁまだねむいぃ……」

 今の発言と言い方、動画に納めて後で本人に聞かせてやろうか。そんな事したらボコボコにされそうだけど。
 ここまで弱っているところを見せられるとなんだか可哀想になってくるけど、甘やかしても仕方がない。

「アキラー! ほんとうに起きないともう知らないぞー!」
「んぁぁ……」

 のろりと辛そうに上半身を起こす。まだ寝ぼけているのか、まぶたがまだ閉じたままだ。

 そしてそのままの体制でパジャマの前ボタンを開け始めた。

「ちょっ、おい待て! まだ俺いるから!」
「ぇあ……別にいいすよ……」
「良くない! と、とりあえず着替えたら二度寝とかしないで降りてくるんだぞ」

 目をそらしながらそれだけ伝えて俺は部屋から出た。
 下へ降りると既に制服に着替えた叶と愛花は先に朝食を食べ始めていた。
 しかし真奈美さんに用意したものがまだ手を付けられていなかった。

「あっ! 楓太くん、ごめんなさい! ちょっと今日は大事な会議があること忘れてて、これからすぐに出ないといけなくて……!」
「あぁ、そうだったんですね。でも大丈夫ですか? 朝食抜きで」
「途中で何か食べながら行くんだけど、それよりも……洗濯物がまだ……」
「え? あぁ……」

 そう、家事全般は俺がやる、とは言ったものの洗濯物を干すのは、真奈美さんに任せていた。つまり今日ばかりは……

「二人とも、別に楓太くんが洗濯物干してもいいよね?」
「最初から構わないと私は言っていた」
「わたしも全然いいよー」
「う、うーん……まぁそれでいいなら……」

 いままでなんとなく、男の俺に下着を見られるのは嫌だろうなと思い避けていたけれど、意外とケロッとしている。俺の考えすぎだったのかもしれない。

 洗濯物を俺が干して取り込む事が決まると、真奈美さんは急いで出ていった。社会人は大変だ……それと同時に、真奈美さんは俺が来るまで一人で全てこなしていたのかと、密かに尊敬の念を抱いたのだった。
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