間違って村娘が勇者パーティーにいます

秋元智也

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第百十一話 楓と樹

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樹が刺されたあと、悲鳴を上げた楓に男は包丁を振りかざしていた。
遠くで警察のサイレンと叫ぶ声に、男はそのまま走り出していた。

玲華を殺した実の父親。
殺人犯として、現場を見られた樹と楓を待ち伏せていたらしい。
が、巡回中の警察にみつかりそのまま逃走していた。

すぐに救急車を呼んで、樹は急所を外していたおかげで一ヶ月の入院を
余儀なくされた。
その後、警察によって取り押さえられたらしいが、他でも人を斬りつけ
たらしい。

事件は無事解決した。
そして、楓には異世界での記憶が残っていた。
後日、樹に聞いてみたが何も覚えていないらしい。

「何も覚えてないの?異世界を冒険したんだよ?」
「なんだよ、それ?夢でもみたのか?」
「えーーっ!樹ったら男の人に強姦されてたんだよ~向こうでさ~」
「はぁ~つーか嘘言うなって!」
「はははっ!やっだぁ~本当なのに~」
「…楓が元気そうでよかった…」
「…う、うん。そうだね。樹がいてくれるからかな…」
「…!」
「さぁ~今日はこれで帰ろっかな~」
「あっ…あのさ…」
「また、来るね!退院するまで毎日きてやるから覚悟してよね?」
「ははっ、楽しみにしてるよ」

憎まれ口を言いながらもお互いに言いたい事は言えないでいた。
もう少し、もう少しだけ…この関係のままで…。

二人の歩みはこのままが一番お似合いだった。
歩みは遅くとも確実に、相手の事を知って行く、そんな関係が望ましい。
きっと笑って異世界の話ができる時がきっとくると思うと楓は病院を後に
したのだった。

樹の怪我の事で警察呼ばれていた楓は警察署へと向かっていた。
玲華の父親の事で知ってる事や、玲華本人から聞いていた事などを何度も
聞かれた。
そして最後に、犯人によってコンビニ前で刺されたであろう青年の話にな
った。
もちろん知らない人だと思っていた。
が、ここで防犯カメラの映像を見て驚いて口を覆ってしまった。
涙が溢れてきて声にならない。

(椎名くん…生きてたんだね…私の事今も恨んでるのかな?あれ…?隣にいる
 のって春くんって人?被害者って彼なの!)

警察からは彼らの素性を聞かれたが、答える事はできなかった。

「知り合いなのかな?」
「知りません…」
「さっきの反応は知ってるよね?」
「本当に知りません…本当なんです。」

(もし、知ってると言えばきっと引き合わされるだろう。今の椎名くんに会う
 のは流石に勇気がいる。あの殺意のこもった目で睨まれた時、本当に死ん
 だと思った。たまたま、元の世界に戻れたけど、あのままならどうなって
 いた事か!それに、あの時と同じ場面だった…血塗れの春さんを抱きしめ
 ていた…)

「それよりも彼はどうなったんですか?」
「…」
「結構出血してますよね?病院に?」
「はぁ~それが知りたいんだよ。こっちは…」

警察が知りたいのは、この後の青年の行動だった。
抱き上げたままどこかへ行ってしまったのだった。
近隣の病院へと掛け合わせたが、それらしき人は担ぎ込まれていないと言うのだ。

「じゃ~春さんは!嘘っ…死んじゃったんじゃっ…」
「春さん?それって被害者の彼の事かな?」
「なんでもないです。知らないです。私、関係無いんで!」

聞き逃さなかったのか、追求してこようとしたのを遮って逃げるように出てきた。

(椎名くんはどんな気持ちなんだろう)

被害にあったコンビニの横を通ると数人の学生とすれ違った。
そして一人の学生と目が合った。

(春さん!?)

すぐに視線を逸らされたが、生きている。
怪我も重症な程にぐったりしていて、すごい出血だったはずだ。

なのに今、普通に歩いているのだ。

「春さん!」

つい呼び止めてしまってから楓は後悔した。
何を聞こうとしているのか自分でもわかっていない。

「えーっと、俺の事?君は誰かな?」
「えっ、あの~ちょっと前にここで通り魔に刺されてませんか?」
「なんの事かな?ごめん、あんまり覚えてないけど…そんな事件があったん
 だっけ?」
「覚えて…ない?」

警察の防犯カメラでもハッキリと確認した。
間違いない。この人なのに…どうして?

「椎名さんはお元気ですか?」
「ん?椎名の知り合い?なら、もうすぐ来るよ?あっ!きたきた」

春樹が手を振ると先の交差点で椎名くんが手を振っていた。
が、楓を見つけると殺気がこもった。

信号が変わるとすぐにかけてきて春樹の手をとってその場から離れよう
とする。

「椎名っ、待っててば~、君に用事があるって…」
「待ってください、少し前に通り魔に刺されたのって春さんなんですよ
 ね?」

一瞬足を止めたが、すぐに睨みつけてきた。

「春にその話をしたの?」

ぞくっとするほど背筋が凍る思いがした。

「は…はい、ご、ごめんなさい。でもっ…」
「春は何も覚えてないよ。俺がそう望んだから…、春は俺だけの春だから。
 絶対に誰にも触れさせないし、余計な事はしないでくれ。何も思い出さ
 無い方がいいんだ。」

楓の耳の横で囁くと、すぐに離れて行った。
隣の春という青年を大事そうに抱き寄せるとそのまま行ってしまったのだった。
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