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9話
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義理母のキャサリンは今日も綺麗におめかしして出かけていった。
最近はずっと家にいる事が少なくなった気がする。
気楽でいいが、父が日本にいる間は常に気をつけているらしい。
すぐにアメリカへと経ったのを知ると、好き放題に遊び呆けている。
まぁ、大体の事はお手伝いさんがやってくれるし、問題はないのだ
が。
今日のように言いつけ通りに過ごせなかった日は、明日にでも小言
を言われるのだろう。
「はぁ~……嫌だな……」
好きでやっているわけではないので、余計に嫌になる。
全てを投げ出せたらどんなにいいか。
この不幸体質も、いっそ治して欲しいくらいだった。
そういえば、上田綾という生徒をどこかで見た覚えがあった。
どうしてそう思うのかは、わからないが、どことなく昔懐かしい気
がしたせいかもしれない。
「雅人、お前今日サボったんだって~?父さんからしっかり学べっ
てわざわざ家庭教師をつけられたそうじゃん?だっせぇ~」
父さんに相手にもされないせいか兄の永人はいつも好きな事をして
生きている。
雅人とて、そうできたらどんなにいいか…。
好きで期待を背負っているわけではない。
兄はいまだに父さんに嘘がバレていないと思っているのかもしれな
いが、もうとっくにバレていると思う。
それは、この前メーターの点検といって来た業者がこっそりお手伝
いさんに内情を聞いていたからだった。
日頃の態度や、生活習慣。
成績表なども写真に収めていた。
それは兄永人だけではない。
雅人をはじめ、キャサリンもである。
多分、そろそろ別の母親がきてもおかしくない気がする。
キャサリンは毎晩のように飲み歩き、帰ってくる。
家まで男に送ってもらっているのだから、ただ送迎というわけでは
ないのだろう。
兄の永人の僻みを無視して部屋に閉じこもった。
どっちにしてもやる事がないので勉強に励むしかない。
きっと将来、自分の力になるのだろうから。
眠りにつくと、どうしても気になる事が出て来てしまう。
顔が見えない男の子。
笑っている声が聞こえて、胸の奥がホッとした感じがする。
いきなり手を握られると思いっきり引っ張られた。
『一緒に行こうよ!』
「どこに…?」
『どこにでも……好きなところへ行けるんだよ?どうしてそこで
止まってるの?』
「それは……」
『足があるんだから、どこでも行けるじゃん?僕が連れてってあ
げるよ!』
あの日も、そうやって外に出た気がする。
帰って来て汚れた服を見た母に嫌悪され、手近にあったナイフを
振りかざすところまでは覚えている。
その後がすっぽり抜け落ちていた。
その後……どうなった?
肝心なところがない。
気がついた時には、母の葬儀中だった。
周りを見回しても彼の姿がない。
あの子はどこへ行ってしまったのだろう。
再び視線を動かすと、彼の後ろ姿を見つけて走り出す。
「待って……ねぇ、君!………待ってよ」
声は届かず、虚しく空を切った手が目の前で行き場をなくしていた。
目が覚めたのは雨が降っていたせいだろうか?
じめっとしたせいなのか。
あの時の夢を見るのは…。
本当にいつぶりだろう。
「どうして居なくなっちゃったんだよ……」
一人事を口にするも、再びベッドに横になった。
起きるにはまだ一刻ほど早かった。
最近はずっと家にいる事が少なくなった気がする。
気楽でいいが、父が日本にいる間は常に気をつけているらしい。
すぐにアメリカへと経ったのを知ると、好き放題に遊び呆けている。
まぁ、大体の事はお手伝いさんがやってくれるし、問題はないのだ
が。
今日のように言いつけ通りに過ごせなかった日は、明日にでも小言
を言われるのだろう。
「はぁ~……嫌だな……」
好きでやっているわけではないので、余計に嫌になる。
全てを投げ出せたらどんなにいいか。
この不幸体質も、いっそ治して欲しいくらいだった。
そういえば、上田綾という生徒をどこかで見た覚えがあった。
どうしてそう思うのかは、わからないが、どことなく昔懐かしい気
がしたせいかもしれない。
「雅人、お前今日サボったんだって~?父さんからしっかり学べっ
てわざわざ家庭教師をつけられたそうじゃん?だっせぇ~」
父さんに相手にもされないせいか兄の永人はいつも好きな事をして
生きている。
雅人とて、そうできたらどんなにいいか…。
好きで期待を背負っているわけではない。
兄はいまだに父さんに嘘がバレていないと思っているのかもしれな
いが、もうとっくにバレていると思う。
それは、この前メーターの点検といって来た業者がこっそりお手伝
いさんに内情を聞いていたからだった。
日頃の態度や、生活習慣。
成績表なども写真に収めていた。
それは兄永人だけではない。
雅人をはじめ、キャサリンもである。
多分、そろそろ別の母親がきてもおかしくない気がする。
キャサリンは毎晩のように飲み歩き、帰ってくる。
家まで男に送ってもらっているのだから、ただ送迎というわけでは
ないのだろう。
兄の永人の僻みを無視して部屋に閉じこもった。
どっちにしてもやる事がないので勉強に励むしかない。
きっと将来、自分の力になるのだろうから。
眠りにつくと、どうしても気になる事が出て来てしまう。
顔が見えない男の子。
笑っている声が聞こえて、胸の奥がホッとした感じがする。
いきなり手を握られると思いっきり引っ張られた。
『一緒に行こうよ!』
「どこに…?」
『どこにでも……好きなところへ行けるんだよ?どうしてそこで
止まってるの?』
「それは……」
『足があるんだから、どこでも行けるじゃん?僕が連れてってあ
げるよ!』
あの日も、そうやって外に出た気がする。
帰って来て汚れた服を見た母に嫌悪され、手近にあったナイフを
振りかざすところまでは覚えている。
その後がすっぽり抜け落ちていた。
その後……どうなった?
肝心なところがない。
気がついた時には、母の葬儀中だった。
周りを見回しても彼の姿がない。
あの子はどこへ行ってしまったのだろう。
再び視線を動かすと、彼の後ろ姿を見つけて走り出す。
「待って……ねぇ、君!………待ってよ」
声は届かず、虚しく空を切った手が目の前で行き場をなくしていた。
目が覚めたのは雨が降っていたせいだろうか?
じめっとしたせいなのか。
あの時の夢を見るのは…。
本当にいつぶりだろう。
「どうして居なくなっちゃったんだよ……」
一人事を口にするも、再びベッドに横になった。
起きるにはまだ一刻ほど早かった。
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