8 / 32
8話
しおりを挟む
どうしてこんな…。
ただ脅して弟に怪我させたいだけだった。
「裏の駐車場で何かあったらしいですね~」
騒がしくなるのを横目に上田は霧島の事を離さなかった。
「あの……離してくれないかな?」
「うん、いいけど…離したら逃げるでしょ?」
「それは……」
『うん』とは答えられなかった。
やっぱり雅人といると危険な目にあう。
それが今さっき実証されたのだ。
それなのに、まだ一緒にいるとでも言うのだろうか?
そんな人はいない。
自分が一番大事なのに……なのに……。
「どうして逃げようとするの?怖いのか?俺が怪我すると
思って?」
「別に……そんな訳じゃ……」
見透かされている。
そう思うと、余計に言葉が出てこなかった。
上田は大きく息を吐くと雅人の腕を掴んだまま歩き出した。
「おいっ…どこ行くんだよ……」
「保健室。怪我したんだろ?」
言われてみれば、頬を掠めたのか手で拭いとると血が付いた。
「ほら、そんなんで拭くなって…ちゃんと綺麗なガーゼで消毒
するから待ってて」
さっきまでの事故がなかったかのように、普通に話してくる。
こんな関係を求めてはいたけど、実際にそうされると少し気恥
ずかしくなるのだった。
保健室には担当医がおらず、たまたま席を外しているらしかっ
た。
上田は手慣れた手つきで保健室の備品を漁ると消毒液とガーゼ
を持って来て消毒すると綺麗に拭き取り、薬を塗りつける。
新しいガーゼを当てるとテープで止めた。
「これで、よしっと!」
「あ……ありがと」
「うん、言えるじゃん。俺は素直なままの霧島のがいいと思う
よ?」
「それって……どう言う」
にっこり笑うとぎゅっと抱きしめられていた。
人の体温ってこんなに温かかったのだろうか?と感じてしまう
ほどに、心地よくて温かかった。
人と接するのを極力避けて来たから、こんなに誰かが歩みよっ
て来てくれたのは初めてだった。
あの時の子みたいだ…。
今は思い出せない、ずっと雅人にべったり側にいてくれた、あ
の子……。
「君は……一体………」
「俺は戻るけど、霧島はどうする?少し休んでく?」
「うん…ちょっと休んでいくよ…」
「分かった。先生に言っとく。ゆっくりしててよ」
こんなに安心出来るのも不思議でならない。
ベッドに横になると瞼を閉じた。
別にたいして眠くもなかったはずなのに、しっかり眠ってしま
っていた。
起きた時には、すでに帰りの時間だった。
「……今……何時……」
「おぉ、目が覚めたか?もう下校時間だぞ?」
「えっ!うそっ……」
時計を眺めるとすでに時間がだいぶ経ったのだと気付かされた
のだった。
養護教諭の先生も起こしてくれればいいのに、声すらかけてく
れなかったらしい。
慌てて帰って来たが、父から言われた経営学を教えてくれる先
生はとうに帰ったあとだと言う。
「………」
これは何を言われるかと悩んだが、こればっかりはどうしようも
なかった。
ただ脅して弟に怪我させたいだけだった。
「裏の駐車場で何かあったらしいですね~」
騒がしくなるのを横目に上田は霧島の事を離さなかった。
「あの……離してくれないかな?」
「うん、いいけど…離したら逃げるでしょ?」
「それは……」
『うん』とは答えられなかった。
やっぱり雅人といると危険な目にあう。
それが今さっき実証されたのだ。
それなのに、まだ一緒にいるとでも言うのだろうか?
そんな人はいない。
自分が一番大事なのに……なのに……。
「どうして逃げようとするの?怖いのか?俺が怪我すると
思って?」
「別に……そんな訳じゃ……」
見透かされている。
そう思うと、余計に言葉が出てこなかった。
上田は大きく息を吐くと雅人の腕を掴んだまま歩き出した。
「おいっ…どこ行くんだよ……」
「保健室。怪我したんだろ?」
言われてみれば、頬を掠めたのか手で拭いとると血が付いた。
「ほら、そんなんで拭くなって…ちゃんと綺麗なガーゼで消毒
するから待ってて」
さっきまでの事故がなかったかのように、普通に話してくる。
こんな関係を求めてはいたけど、実際にそうされると少し気恥
ずかしくなるのだった。
保健室には担当医がおらず、たまたま席を外しているらしかっ
た。
上田は手慣れた手つきで保健室の備品を漁ると消毒液とガーゼ
を持って来て消毒すると綺麗に拭き取り、薬を塗りつける。
新しいガーゼを当てるとテープで止めた。
「これで、よしっと!」
「あ……ありがと」
「うん、言えるじゃん。俺は素直なままの霧島のがいいと思う
よ?」
「それって……どう言う」
にっこり笑うとぎゅっと抱きしめられていた。
人の体温ってこんなに温かかったのだろうか?と感じてしまう
ほどに、心地よくて温かかった。
人と接するのを極力避けて来たから、こんなに誰かが歩みよっ
て来てくれたのは初めてだった。
あの時の子みたいだ…。
今は思い出せない、ずっと雅人にべったり側にいてくれた、あ
の子……。
「君は……一体………」
「俺は戻るけど、霧島はどうする?少し休んでく?」
「うん…ちょっと休んでいくよ…」
「分かった。先生に言っとく。ゆっくりしててよ」
こんなに安心出来るのも不思議でならない。
ベッドに横になると瞼を閉じた。
別にたいして眠くもなかったはずなのに、しっかり眠ってしま
っていた。
起きた時には、すでに帰りの時間だった。
「……今……何時……」
「おぉ、目が覚めたか?もう下校時間だぞ?」
「えっ!うそっ……」
時計を眺めるとすでに時間がだいぶ経ったのだと気付かされた
のだった。
養護教諭の先生も起こしてくれればいいのに、声すらかけてく
れなかったらしい。
慌てて帰って来たが、父から言われた経営学を教えてくれる先
生はとうに帰ったあとだと言う。
「………」
これは何を言われるかと悩んだが、こればっかりはどうしようも
なかった。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/1:『はえ』の章を追加。2025/12/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/11/30:『かべにかおあり』の章を追加。2025/12/7の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる