君は死なせない

秋元智也

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14話

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朝から清々しい日だった。

キャサリンも居ないし兄の永人も家にいない。

キッチンにはいつものように朝食が用意されており、昨日までの
憂鬱な気分とは違って晴れやかな気分だった。

帰りには、また家庭教師の時間があるので急いで帰る事になりそ
うだったが、それでも一人になる口実になるからいい。

上田がクラスで馴染んでいくほど、寂しく感じていた。
が、忙しければそれも忘れられる。

それで、いいんだ。

「おはよう!霧島っ」

「え、上田……くん!どうして……」

「上田でいいよ、いや……?いっそ綾でもいいよ?」

馴れ馴れしく言ってくる上田に雅人は苦笑いを浮かべた。
まだこういう人との距離感がうまく掴めないでいたからだった。

朝は人通りも少なく、歩きやすい。
電車もまだ混雑する前のせいか、空いていた。

「いつもこの時間?」

「別に……上田はどうしてここに?」

「ん~~~。もっと霧島と話がしたかったから……って言ったら
 信じる?」

「……」

そうだったら嬉しい。
心ではそう思うけど、そのままの意味でとっていいのだろうか?
揶揄っているだけなのではないか?

そう思う自分が嫌になりそうだった。

「別に……」

「そうきたか……まぁ、いいや。俺さ~……昔の記憶がないんだよ
 ね~………だからそれを知りたいって思ってるんだ。」

いきなりのカミングアウトに雅人は立ち止まった。
雅人も、あの時の記憶だけぽっかりなくなっていた。

母が死んだ、あの瞬間。
あの暑い日の一日だけ…すっぽり消えていたのだ。

でも、それは雅人の事情で、上田には関係ない事だ。
だからあえて、同じ境遇だとかいう必要はない。

別に馴れ合いをしたいわけでもないのだから。

「そうか……」

「え~それだけ?ちょっとは同情してくれるかな~って思ったんだ
 けどな~。これ、言ったの霧島が初めてだし?」

「……」

「まぁ、いいや。学校まで一緒に行こう。いつもこの時間なの?霧島
 ってすげー真面目だよな?家庭教師ってどんな事教えてくれんの?」

今まで以上に距離が近い!

「いや……別に普通に学校の勉強とかだよ…」

「そっか、俺も分からない所は霧島に聞こっかな~。いーよな?」

こんなにぐいぐい来るやつだっただろうか?
少し、人が変わったような気がする。

「う……うん……」

「よし!もうすぐ期末だし、よろしくな!」

明るい人だと思った。
昔を懐かしくなるような、気持ちにさせる青年だった。
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