君と共に在りたい

秋元智也

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過去の痛み

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ピクリとも動かない拓実の体を抱き抱えると家に連れて帰ってきた。
体が熱い、猫の姿のままではどうしたらいいかわからない。
ただ、見守るしない。そんな自分に腹立たしさを感じていた。
拓実(前)の時は目の前で死なせてしまった。
今度こそはと思っていたのに隙を付かれて拐われてしまった。
自分の詰めの甘さに憤りを禁じ得ない。


真っ暗な暗闇の中をひたすら歩いていた。
「ここ、どこだよ?」
前にわずかな光がちらついていた。そこに向かって走っていく。
すると光は強くなって光が空間全体を包んだ。
寛貴?、、、、。
微かに聞こえる聞きなれた声に顔をしかめた。
確かに寛貴の声がしたのだった。
でも、話しかけているのは自分ではない。
こちらを見つめているのに自分とは違う何かを見ているようなそんな感覚だ。
後ろを振り向くと一人の少年がいた。
自分の変化した姿にそっくりな、いや、少し幼さを感じる少年だった。
不思議な雰囲気がある少年をじっと眺めた。
少年はいつも自分の気持ちに素直だった。
寛貴のことが好きなんだなって思えてくる。
寛貴もまた、今より幾分か若かった。そして笑っていた。
今みたいに作り上げられた笑いでなく。心から笑える関係だったのだ。
愛しそうに『拓実』と呼んでいた。
この名前は彼のものだったんだ。
なんで俺にその名前をつけたんだよ。
忘れたいんじゃないのかよ。
悪態をついても返事はどこからも返ってこない。
景色は変わり、変な化け物みたいなモノと戦っている?
なんだよ!あれ!!
根っこが縦横無人に飛んできて危なっかしくて仕方がない。
今の拓実はモノに触れることは出来なかった。なので根っこの攻撃が体を凪ぎはらっても痛くもない。
「うわーーー」
って当たんないんだった。
自分の声と少年の声とがかぶった気がして慌てて振り返ると、体を貫かれた姿が目に映る。
こんなの助からねーじゃん。
次々に刺さっていくのをただ、呆然と眺める事しか出来なかった。
寛貴の悲痛な叫び声が聞こえて少年は体ごと炎の中にかき消えた。
「そんな、、、、、」
彼は最後まで笑顔に涙を浮かべ寛貴を見つめていた。
最後に『愛している』と付け加えたのだがきっと誰の耳にも聞こえていないだろう。
俺自身少年のそばに居たから聞こえたのであって、当事者達はこんな炎の中に立っているなんて出来ないだろうかから。
なんでこんなに痛いんだよ。まるで自分の胸が痛みだしたかのように痛い。
胸を押さえその場にうずくまる。
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