好きになっていいですか?

秋元智也

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22 友との距離感

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2学期が始まる。転校手続きと共に新たな学校生活を送る事となった。

糸田先生「今日からこのクラスに転校してきた田嶋利久斗君だ、皆
     仲良くするように。自己紹介をしなさい」
 リクト「田嶋利久斗です。えっと、群馬から東京に来ました、
     土地勘もなくて、道に迷う事がよくあるのでいろいろ
     仲良くしてくれると嬉しいです。」
 ユウマ「あーーー。この前のやつじゃん!」
糸田先生「高橋の知り合いか?」
 ユウマ「うちの医院に来てた客だよ!」
糸田先生「ふん。友達は選んだ方がいいな」
 ユウマ「喧嘩売ってんのか?」
糸田先生「さぁー。授業を始める、席につけ!君も空いてるそこ
     の席に着きなさい。」

優馬は担任に嫌われているらしい。周りの生徒も優馬には話か
ける事はないみたいだった。放課になっても優馬は一人だった。
席を立とうとすると、近くの席の男子に呼び止められた。

 シロウ「どこ引越してきたの?学校から近いのか?」
 アツシ「自己紹介がまだだったな、俺は乃木淳史、こいつは
     藤史郎。田嶋って東京初めてだろ?この近く案内し
     てやるよ、帰り一緒に帰ろうぜ」
 リクト「あっ、ごめん。まだこの辺わかってなくて。家の場所
     と学校までのルートしか知らないんだ。また今度頼む
     よ」
 シロウ「いいじゃん、今日歓迎がてら遊びに行こうぜ。いいと
     ころ知ってるし」

授業のチャイムが鳴り、話はそこで止まった。
話してる間も震えが止まらなくて、相手に不快に思われないかが
気がかりだった。チャイムにホッとすると、先生が入ってきた。
お昼になると各自弁当を持参するか購買へ買いに行くかだった。

 シロウ「りっくん、一緒に食べようぜ!」

そう言って藤史郎が利久斗に抱きついてくる。一瞬、体を強張ら
せ全身に寒気がするのを必死で抑えた。

 アツシ「ん?大丈夫か?なんか顔色悪いぞ?」
 シロウ「そうなのか?気分悪いのか?保健室連れてこうか?」
 リクト「いや、大丈夫。平気だから。」
 アツシ「そうは見えないぞ?」

利久斗の腕を掴むと額に触れようとした。恐怖で後ずさろうとす
ると、後ろから引っ張られた。

 ユウマ「気分悪いなら俺が保健室連れて行ってやるよ。ほら、
     うち病院だし。いいだろ?」

低い声で睨むと、二人は黙り込んだ。そのまま利久斗の腕を引くと
屋上へと連れてきた。

 ユウマ「わりぃ~な、俺も怖かったか?」
 リクト「あ、ありがとう。助かった。」
 ユウマ「触れても平気か?」
 リクト「ごめん。まだ平気じゃないかも。どうしても震えが止ま
     らなくて。高橋のせいじゃないんだ。」
 ユウマ「知ってる。かーさんから聞いた。どんな事情かは知らね
     ~けど、嫌がる事はしねーよ。昼はここに来いよ。どう
     せ俺しかいねーから。邪魔なら席外すし」
 リクト「大丈夫。高橋君、ありがとう。」

優馬の気遣いが嬉しかった。体に触れられるのはいまだに慣れないが
優馬とは、話しやすかった。

 ユウマ「優馬でいいぜ!」
 リクト「うん。これからもよろしく」
 ユウマ「あぁ。」


その日から優馬と過ごす事が多くなった。教室では他の生徒も話かけて
来るのだが、優馬が来るとそそくさと出て行ってしまう。

 ユウマ「今日、一緒に帰ろうぜ」
 リクト「うん。日誌置いてきたら帰れるから。」
 ユウマ「下駄箱のところで待ってるな」
 リクト「うん、すぐいく」

普通に接する事ができるのは事情を察した優馬だけだった。彼は体には
一切触れてこないので、過剰なスキンシップがない分、付き合いやすか
った。体育では、ペア組む時も優馬がすぐに利久斗を指名するので他の
生徒の入る隙間を与えなかった。


3年になり、クラス替えも行われたが優馬とは一緒のクラスになれて一安
心していた。だいぶ他の生徒とも話せるようになり、恐怖心もやわらいで
きていた。不意の行動には多少恐怖は感じるものの、多少の絡みには慣れ
てきていた。普通に生活する分にはなんの支障もないくらいには。


教員室では高橋優馬が学校をさぼらなくなったと話題に上がっていた。

糸田先生「二年の時に担任でしたが、もう手がつけられない生徒でしたよ」
岸元先生「そうですか?今は大人しいですよ。田嶋という生徒と仲がいい
     みたいで、成績も赤点は最近は取ってないようですし、進学する  
     ようでしてね」
魚谷教頭「問題児が更生するとは、いい事ですな」
糸田先生「そうですか?まぁ、確かに田嶋が転校してきてからは揉め事も起
     きていないようですし、いい事ではあるのですが…」
魚谷教頭「何か問題が?」
糸田先生「いえ、その田嶋という生徒ですが、前の学校で問題を起こしたと
     聞いていたのですが…警察に厄介になったとか、大丈夫なのでし
     ょうか?」
魚谷教頭「あぁ、それは校長が知った上で、許可しましたよ。まぁ、事が事
     なので公表しないように厳重に言われていましてな」
岸元先生「何があったのですか?」
魚谷教頭「…いや~、これは他言無用でしてな!はっはっはっ、そろそろ先生
     方、時間ですよ」
糸田先生と岸田先生はその後各教室へと向かう為、職員室を出た。
糸田先生「どう思わせます?なんか怪しいですよね?」
岸元先生「そうですか?問題さえ起こせなければいいんじゃないですか?それに
     田嶋には人との距離を置く癖があるようですね。あまり深く関わらな
     いようにしている節があります。」
糸田先生「確かに、転校初日も誰かと話すのを嫌がっていたようにも思えました
     しかし、高橋には普通に話せているように見えましたけどな」
岸元先生「まぁ、いいじゃないですか、私が担任としてちゃんと見ておきますよ」
糸田先生「そうですか!では、僕はこちらなので」

糸田先生は、そのまま理科室へと向かった。納得いかない思いを抱いて田嶋を観察
していた。転校してきてすぐに仲良くなったのがあの不良の高橋優馬だったのだ。
それからはよく一緒にいるのを見かけた。あの高橋が図書室で勉強するなんて意外
だった。どの先生も手を焼いていたのに、ちゃんと学校にも時間通りに来るし授業
も出るようになった。
ただ、他の生徒とは距離があるのは変わらなかった。田嶋はその分、他の生徒とも
普通に話していた。ただ、途中でいつも優馬が田嶋を連れて行ってしまうのは不思議
だった。

(一体、何があるのか?弱みでも握っているのか?)

不思議で仕方なかったが、今は授業に集中しようと一旦、忘れる事にする。
岸元先生は真面目になる事はいい事だし、過去に何があろうが関係ないというスタン
スで接していた。
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