好きになっていいですか?

秋元智也

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32 また好きになって

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あの事件依頼、教職員は張り詰めて空気に中にいた。
現場にいた糸田も例外ではない。

魚谷教頭「例の生徒はどうですか?」
糸田先生「えぇ、大分落ち着いて来てますが、打ちどころが悪かったの
     もありますね」
岸元先生「すまないな。本当は私が対応すべきところだったのだが…」
糸田先生「いや、あれは俺のミスだ。部外者を入れるべきではなかった。
     しかもあんな事件を起こされるとは…」

それは先日起こった卒業式での事件だった。
校門でうろうろしていた教師と名乗る男がうちの男子生徒を強姦しようと
した事件である。
大人しくさせる為に暴行を加えたせいか、自分の関わってきた記憶をなく
してしまったのである。
先日岸田が入院している田嶋の元を見舞いに行くときに糸田も同行した。
生徒を守るどころか、危険に合わせてしまった謝罪を兼ねて行ったのだが、
誰かがわからなかったのである。
一時的な事だろうと医者が説明したが、それは卒業する上で同情するしか
ない事であった。
ここでの2年間の記憶がゴッソリ抜け落ちているのだ。
あの時、友達を守ろうと体を張って助けた高橋優馬はまだ、知らない。

糸田先生「なんとも、やるせないですな」
岸元先生「友達としての記憶がなくても、また友達になればいいじゃ
     ないですか?」
糸田先生「そうですか?あの不良がどうやって仲良くなったかは知り
     ませんが、せっかく受かった、進学も取り消されたと言い
     ますし…荒れるんじゃないですかね~」
岸元先生「それは本人の心次第でしょう、私は信じたいですね。また
     やり直せる事を」
糸田先生「そうですな」


 優馬母「優馬~、あんたどこ行ってたの?」
 ユウマ「はぁ~関係ねーだろ?」
 優馬母「田嶋君のところ、行ったの?」
 ユウマ「…」
 優馬母「会ったの?あれは仕方ないわ。きっと大丈夫よ、優馬も田嶋君
     に恥じないように頑張らなくちゃ!まだ今からでも受験先は
     あるわ」
 ユウマ「母さん、何か知ってるのか?俺が行っても面会謝絶って…」

母は優馬を抱き寄せるとギュッと抱きしめた。

 優馬母「田嶋君の両親から聞いたの。誰にも会わせないのは…貴方の
     為なの。」
 ユウマ「なんだよ、それ!」
 優馬母「打ちどころが悪かったみたいで…何も覚えていないって…。
     事件の事も、この街に来る前の記憶も」
 ユウマ「は?なんで?俺に事も?」

母は頷き優馬の頭を撫でた。一時的なものかもしれないし、これから
ずっと思い出せないかもしれない事を語った。
思い出そうとすると取り乱して発狂しそうになるにで、今は誰にも
会わせないようにしている事を話してくれた。

『このまま、高校へ行ってもずっと僕らは友達だよ!優馬は僕に
                   とって大事な友達だから』

そう言った時の利久斗の顔がチラついた。
このままでいいのだろうか?いや、よくないと思い返すと母を振り切っ
て外へと駆け出していた。

『これで終わってたまるかよ』

病室はわかっている、昼間に一回来ているから、あとはこっそりと
忍び込むだけだった。
警備員室の横を屈んでやり過ごすと、エレベーターの横の階段を
駆け上がった。
8階の左手側、薄暗い廊下を抜けてナースステーションには常駐の
ナースが一人待機していた。
どうやってやり過ごそうかと考えていると、突然ナースコールが
響き渡り、走っていってしまった。

『これはチャーンス。今なら行けるじゃん』

呼び出しボタンを押してくれた患者に感謝し、利久斗の病室へ
入り込んだ。
一人部屋なので部屋に入り込めばなんとかなりそうだった。
カーテンを開けるとそこにはいつもの友人、利久斗の姿があった。
寝息を立てて、眠っている。腕には点滴がついており、頭に包帯
が巻かれていた。
側に寄ると起こすか迷った。
寝顔を見ながら再度の椅子に腰掛ける。

 ユウマ「寝てると、本当に幼く見えるよな~」

ぼそっとつぶやきながら髪を梳きながら、話しかけた。

 ユウマ「俺さ、利久斗の事…好きだぜ。お前が忘れちまっても俺は
     覚えてるから…。一緒に勉強した事も、いつも授業に遅れ
     ないように迎えに来てくれた事も。喧嘩ばっかりしてる俺
     を引き摺ってでも止めに来てくれた事も…そしてあの日の
     思い出も。一回っていってお前の体温を感じた時も…全部
     無かった事になんか…すんなよっ。」

途中から涙声になりながら話しかけた。
利久斗の手を握り締めながら、自分の気持ちを言葉に込めて話した。
聞いていなくたっていい。ただ、伝えたかっただけだからと自分に
言い聞かせて。

 ユウマ「なぁ、利久斗~、俺さお前の事ずっと好きだから。別に
     苦しめる為に言ってるんじゃないんだ。たださ、お前を
     守りたいんだ。友人としてでもいい。ただ愚痴を零す
     相手でもいい、側にいさせてくれよ」
 リクト「だ…れ…?」

微かに開いた瞳に優馬が映っていた。

 ユウマ「やっとお目覚めかよっ。俺は高橋優馬。利久斗の友人だよ」
 リクト「ゆ…うま…?」
 ユウマ「思い出さなくていいよ。また友人になろう?」
 リクト「うん…」

ゆっくりと目蓋を閉じると、そのまま眠ってしまった。
話せた事は嬉しいが、今のを朝覚えているのだろうか?
それでもいい。また友人から始めればいい。悲しい過去なら忘れ
たっていい。
楽しい思い出だけ今から作っていけばいいんだから。優馬は朝方
まで手を握っていた。
朝になったらおはようって声をかけるんだ。
一緒に頑張って受かった高校も逃してしまったけれど、これで
終わりじゃない。
今度は一人で頑張ってみるから…。
受かったらまた、一緒に祝おう。こんな自分にとって、一番大切な
友人として…。
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