好きになっていいですか?

秋元智也

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52 再開と苦悩

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イツキside

群馬を出ていった友人に会いたい。
そういった思いだけで、東京の高校に進学した。
夜遊びも覚えた。しかし、彼を見つける事は出来なかった。
自棄になっていると、父から警察学校へと入れられた。
はっきり言って何もやる気はしなかった。
目標もなくただ過ごすよりは体を動かした方がいいのかも
しれないと思い始めた。
警察学校で彼女もできた。
だが、あまり気乗りしない。
彼女の為に気を使う?なぜ?そんな疑問が浮かぶ様になって
から、別れるまでは早かった。
体を重ねるのはただの性処理としていいのだが、どうしても
気持ちが付いて来ない。
いつしか、男同士の発展場を探す様になった。
ただ見るだけで、帰るには怪しまれると思い。適当な男を
抱いた。
何も感じない。ただの性処理に過ぎなかった。
これに関しては男も女も一緒の感情しか持てなかった。
男のが後腐れがない分、楽ではあった。
彼は、この広い東京のどこにいるのだろう?会えるのだ
ろうか?
ちゃんと覚えててくれているだろうか?
不安は過ぎるばかりだった。
交番に勤務し始めた。
たまたま不審な男を発見し捕まえた事によって、表彰される。
薬物の常習犯だったとか。家族を刺して逃亡中だったらしい。
配属が変わり、刑事課に転属が決まる。職場の近くのアパート
に引っ越し実地研修中。
いつもの様に男漁りで性欲処理して、帰りに前から慌てて走って
来る男性がいた。疲れているのか足がもつれて転びそうになるの
を抱きとめる。間近で彼を見ると、見覚えのある顔だった。
大人びていて、一瞬迷ったが、声が先に出ていた。

 リクト「すいません。ありがとう…」
 イツキ「りく…利久斗だよな?」
 リクト「え!樹?どうして東京に?」
 イツキ「偶然こっちに仕事でさ。元気だった?」
 リクト「あ、うん。毎日忙しくてさ」
 イツキ「俺さ、この近くに住んでるんだ、今度遊びに来いよ」
 リクト「そうだね、懐かしいし。今度お邪魔するね。」

彼がいた。
ずっと探していた彼が目の前にいる。これほど嬉しい事はなかった。
今、どこに住んでるんだろう?聞きたい。
知りたい。今すぐに行きたい。
疼く衝動を抑え込むと、自分の近況を話しながら、利久斗の近況
を聞き出したかった。
しかし、思わぬ情報が耳を打つ。
一人じゃなくて、今は同棲中との事だった。
頭の中が真っ白になった。
何を聞いても上の空だった。

 イツキ「そっか、彼女できたのかぁ~…そっか」
 リクト「まだ同棲してるだけだけどね」
 イツキ「本当はさ、りくにさ話したい事があったんだけどな」
 リクト「ん?なに?」
 イツキ「いや、いいや。また今度な。ほら電車きたぞ」
 リクト「うん、またね~」

電車が到着して、利久斗を乗せて離れていく。
あれから、どうやって家に帰ったのか覚えていなかった。
まだ、何も言えてないのに。それなのに、これで終わりなのかと…。
今の住所を聞くのを忘れた事に後悔した。
次の日は非番だったので、朝から酒を煽った。
街をぶらつく様に彷徨って、いつもの発展場に向かった。
気が滅入っていて、思いっきり欲望を晴らしたい気分だった。
だが、酒の匂いをしてたせいか、追い出されてしまった。
酒が絡むと何が起こるかわからないという事で。発展場には入れさ
せてもらえず、ふらふらと歩き、電車でうたた寝してしまった。
順繰り回る路線の中で利久斗を見つけた。
昔の様に屈託なく笑う顔が好きだった。そんな彼の横にいたのは
知らない男だった。
ヤクザにでも見間違いそうな目のキツそうな奴で。
まるで前科でもありそうな感じがするのだが、利久斗を見る目だけは
穏やかだった。

(ま…まさか、そいつと同棲してるわけじゃないよな?そんな…事って)

いけないことだとわかっていても、どうしても突き止めたくて。真実を
知りたくて尾行した。
駅から少し離れたアパートに二人で入っていった。
しばらくして3階の一室の電気が付いた。

(ここに住んでいるのか?一体中でナニをやっているんだ?)

中に突撃したい衝動を抑えると、電気が消えた。
それから、なんの動きもないので一旦帰宅する事にした。
朝早く、利久斗の入っていったアパートに来た。ベランダには下着
も干してある。
明らかに男性にしては露出の高そうな、発展場でよく見かける下着
があったのだ。あれは利久斗が履いているものなのか?
想像しながら様子を伺う。
全く動きがないので電話をかける事にする。

 イツキ「もしもし、りくか?」
 リクト「もしもし?」
 イツキ「今日暇か?ちょっと出てこれるか?」
 リクト「あー。ちょっと待って、昼からでもいいなら」
 イツキ「あぁ、いいよ。新宿の駅前で待ってる」
 リクト「分かった。」

約束を取り付けると、先に新宿へと向かった。
話そう、自分の気持ちを。他の男に取られるくらいなら奪い取る
つもりで振り向かせよう。
数年の空白はあるが、昔からの付き合いだし、きっと大丈夫。
心の中で自分に叫ぶ様に決意を決めた。
昼を回り、改札口を通る利久斗の姿を見つけた。
手を振るとこっちに気付いて駆け足で来てくれた。

 イツキ「りく~!大丈夫だったか?いきなりで悪いな」
 リクト「うんん、平気。大事な話なの?」
 イツキ「あぁ、そうなんだ。だからうちに来いよ。ゆっくり
     話せるしさ。」
 リクト「うん。久しぶりだからね。樹は彼女できたの?」
 イツキ「あぁ、ちょっと前まではいたかな。」
 リクト「えー。別れちゃったの?」
 イツキ「振られたんだ。」
 リクト「へ~、珍しいね。何かしたの?」

きょとんとして、樹の話を聞いていた。
樹が振られるなど思っても見なかったのだろう。モテてはいたが、
付き合った経験がないのだから仕方がない。
それに彼女より会いたい人が今、目の前にいるのだから。
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