好きになっていいですか?

秋元智也

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60 大事の前の静けさ

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最近は利久斗の周りで何かとしつこく付き纏われる事が増えた。
それは、少し前まで入院していた患者なのだが、芸能界では多少
名のしれたプロデューサーらしい。
自分の事務所を立ち上げていて、売れっ子の発掘には抜け目が
ないらしく、奇抜な売り方でも有名でやり手だと評判だった。
そんな人が、なぜ自分なんかのところに来るのかが不思議で
ならなかった。
病院の前で待っていたり、帰るときには電車の駅の前に車を止
めて待っていたりと、うんざりしてくる。

 リクト「あの!いい加減にしてくれませんか?」
ユウセイ「いい返事が聞きたいだけなんだがな」
 リクト「貴方に取ってのいい返事なんて、ありませんよ」
ユウセイ「何が不満なんだ?君の友達もこっちの世界でやっ
     ているよ」
 リクト「友達?誰の事です?」
ユウセイ「中学の時の、生田雅美くんだよ」
 リクト「えーっと、あまり記憶にないですけど…」
ユウセイ「君は友達も覚えてないのかい?まぁ、それはいい。
     今から食事でもどうだい?」
 リクト「結構です。」

振り切るように駅の中に入っていく。
諦めて欲しいのに…。静かにしておいて欲しかった。
毎日のように来る勧誘に病院の裏口から出るようになった。



 ヒビキ「田嶋くん、交代ね~。」
 リクト「はーい。今、こっちが終わったら行きます」
 ヒビキ「すごいよね~。この前の患者さん、入り口にまた
     来てるよ。ねー何かあった?田嶋くんの事詳しく
     教えてくれって言ってたけど?」
 リクト「何にもないです。」
 ヒビキ「素っ気無いなぁ~。同じ研修医じゃん。スカウト
     でもされてるんでしょ?いいな~。俺も誘ってく
     れないかな~。いっそ二人でコンビで出して貰え
     ないかな?」

呆れたような顔をするとため息を零した。医者になりたくて、
この仕事についているのに何を言っているのかと問うと予想
外の答えが返ってきた。

 ヒビキ「芸能界のがいいに決まってるじゃん。女の子にち
     やほやされてさ。みんな俺の事を夢中になって見
     て来るんだぜ。尊敬されてさ、憧れの眼差しって
     やつ?」
 リクト「医者だってそうだろ?」
 ヒビキ「安月給で馬車馬のように働かされるんだぜ?腕の
     いい医者は引っ張りだこだけど、その他大勢は違
     う。そんなのより、芸能界のがいいだろ?」
 リクト「そうか?僕は平穏が一番だと思うけど?」
 ヒビキ「いいじゃん、一緒に頼もう。俺の事もさ、話して
     くれるだけでいいからさ。田嶋とコンビでユニット
     組ませてくれってさ~。」
 リクト「なんで、僕を巻き込むんだ。自分だけにしろよ!」

帰り支度を済ますと、申し送りと今日の出来事を記帳し出て
行こうとする。表に来ているとわかれば、裏から出るのが
一番とばかりに裏口へと向かう。
その間も納戸響はぐちぐちと言いながらついてくる。

 リクト「いい加減にしてくれ。仕事があるだろう?もう戻っ
     たらどうだ?」
 ヒビキ「いやさ~。待ち合わせしてるんだ…、…とさ」
 リクト「は?誰と?」
ユウセイ「俺とだよ。ありがとう納戸くん。」
 ヒビキ「ごめん、今日はこの時間に終わるって教えておいた
     んだ。俺の未来もかかってるからさ。」
 リクト「なっ…」

そういうと、裏口に停めある車に押し込まれた。

ユウセイ「手荒な真似はしたくないんだよ。こうでもしないと
     話すら聞いてくれないからね。」

言い終わる前に何やら薬を嗅がされ意識が遠のいていった。

 ヒビキ「あの~。これって犯罪じゃない…ですよね?」
ユウセイ「あぁ、ただ話がしたいだけなのだが、聞いてくれ
     なくてね。納戸くんだったか、芸能界に興味があ
     ったのかい?」
 ヒビキ「はい!よろしくお願いします」
ユウセイ「考えておこう。」
 ヒビキ「ありがとうございます。連絡待ってます。」

車は事務所ではなく、杉本悠星の別宅へと向かった。そこに
はすでに、数人のガタイのいい男性と華奢な男性がベットの
撮影に精を出していた。
監督も満面の笑みで成り行きを撮っていて、よほど良い出来
と見える。
悠星に気づくと、監督が声をかけて来た。

 監督 「誰ですか?役者?にしてはぐっすり眠ってますな。」
ユウセイ「あぁ、彼にはまだ話をさせて貰えてなくてね。」
 監督 「まさか、拉致ってきたんじゃないですよね~。
     まさか杉本悠星ともあろう人が心を動かせない
     なんて…まさか」

杉本悠星はニッコリと笑って、利久斗を担いだまま、部屋
へと向かった。
質素な部屋で机と椅子以外は何もなかった。
生田雅美がベットがふわふわのが良いとの事だったので、
そこにこだわりを入れただけの別荘だった。
各部屋にバスルームを完備しどの部屋でも撮影可能にして
いる。すると、そこへさっきまでちんぽを咥えて喜んでい
た生田雅美がノックと共に入ってきた。

 マサミ「あれ?田嶋じゃん。よく連れて来れたね~。」
ユウセイ「あぁ。」

クンクンと近づいて匂いを嗅いでから、いの一番に言われ
たのが。

 マサミ「臭くない?汗もそうだけど医療品臭い~。」

それもそのはず、さっきまで働いていて、交代で帰るとこ
ろを連れて来ているので、着替える余裕も、汗を流す余裕
もないのだ。

 マサミ「ここで洗っちゃえば~?僕もお風呂入りたいし、
     ついでにさ」
ユウセイ「そうだな。手伝ってくれるか?」
 マサミ「もちろん、前のリベンジも兼ねて!かな」
ユウセイ「ん?何か言ったか?」
 マサミ「なんでもな~い。」

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