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68 本当の気持ち
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全て聞いていたのだった。
優馬が病室に向かった時、扉が開いていて中から声が聞こえ
て来ていた。
リクト「……死なせてよ」
ユウマ「…!」
そんな弱気な彼じゃない。心の中ではいつもあった不安だっ
た。自ら命を絶ってもおかしくないくらい辛い思いをしてき
た彼は、どんな時でも自分自身で立ち直ってきた。
今回だって何があっても大丈夫だと、思いたかった。
でも、違う。
いつだって怖い事から逃げ出したいと思っているのだ。
こんな現実から、楽になりたいと…。
優馬は気づいてあげられなかった自分を恥じて、拳を握り
締めた。
今まさに利久斗の上に乗り掛かっている看護師の首根っこ
を掴むとドアの方へと放り投げたのだった。
ユウマ「看護師が何をやってるんだ?」
納戸を睨みつけると、驚きと恐怖を張り付かせ慌てて出て
行ってしまった。
振り返り、利久斗の腕を掴んで引き寄せた。
ガラスのカケラが刺さったままの掌は血だらけになって痛々
しかった。
ユウマ「俺は利久斗にずっと側にいて欲しいんだ。どんな
利久斗でも、居なくなるのだけは許さないからな」
リクト「ゆう…ま…ごめん。」
ユウマ「一緒に生きて行こう。俺の嫁さんは利久斗だけだよ」
額にキスして頬にも軽く触れるだけのキスを落とした。
落ち着いた利久斗を残して病室を後にすると納戸を呼び出した。
ヒビキ「あの~なんでしょうか?」
ユウマ「聞きたい事があってな!」
ヒビキ「さっきのは誤解ですよ。ただ落ち着かせようとした
だけですから」
ユウマ「落ち着かせるのに、ベットに押し倒すのか?」
優馬の睨みに一歩後退り、反論を返す。
ヒビキ「あれは…たまたまそうなっただけで…そもそも田嶋は
俺の同期で、しかも男ですよ。変な想像はやめて下さ
いよ。」
ユウマ「だったら、誰に売ったって?」
ヒビキ「それは…話をする機会が欲しいと言われて…」
ユウマ「誰とだ?利久斗は嫌がってたんだろう?」
ヒビキ「えぇ、取り合ってもくれないからと…」
優馬は納戸の襟元を掴み壁に押しつけた。
ユウマ「誰だ。誰がやった?」
ヒビキ「それは…」
イツキ「はーい、そこまで。喧嘩はよくないよ。」
納戸は助かった~と言わんばかりに声の方を振り向いた。
そこには警察官が立っていた。
ヒビキ「助けて下さい。いきなり乱暴してくるんです」
イツキ「そうだね。では署の方に一緒に行こうか?」
ヒビキ「え…あの~、どうして?」
優馬は手を離すと樹の方へと納戸を投げてよこした。
ユウマ「そいつが、何か知ってるぜ!利久斗をあんな目に
合わせた奴の情報をさ。金で売ったんじゃねーのか?」
ヒビキ「違う!お金なんかじゃ。」
イツキ「じゃー、なんで売ったのかな?りくに手を出したらどう
なるか教えておかないといけないね?」
笑顔でさらっという言葉に優馬以上に恐怖を覚えた。肉体的な暴力
はないが、それ以上にただじゃおかないととばかりに視線が痛い。
ヒビキ「なんでも話すので、勘弁して下さい。」
イツキ「いい心構えだね。さー話せる場所へ行こうか?」
そう言うと樹の車の中へと乗り込んだ。
イツキ「まずは、なんで田嶋くんに目をつけたのか、からかな?」
ヒビキ「俺は医者なんてなりたくなかったんだ。芸能界に憧れて…
そしたら杉本悠星さんがうちの病院で入院してて、担当に
俺と田嶋が抜擢されて…。」
イツキ「それで?」
ヒビキ「なんか、探してる女性がいるって話になって。看護婦の全員
の写真が見たいって言ってて。見せたんだけど納得してなく
て、交代で入った田嶋になんか毎回しつこく話してたみたい
だったんだけど。ある日俺にも田嶋の事を詳しく教えてくれ
って言い出してきて。一度ちゃんと話せる機会を作って欲し
いと言われて…」
ユウマ「拉致に加担したのか?」
ヒビキ「ちがう!ただ裏口に案内して、麻酔薬で眠らせただけだ」
ユウマ「それを拉致っていうんだよ!てめーは馬鹿か!」
掴みかかりそうな優馬を止めると樹は疑問を投げかける。
イツキ「どうしてりくだったんだい?田嶋くんには接点などなかった
だろうに?しかも看護婦を探していたんだろう?」
ヒビキ「それは、俺も疑問だったんです。なんか前に見た女性を探
してるって聞いてたんで。」
ユウマ「あーー。それは、だな。多分CMに使われた写真だろ?」
樹はCMと聞いて、ハッと思い当たる。
イツキ「そういえば横顔の女性が映った写真を愛しそうに見つめる
CMかな結構気になってネット上でも話題になっていたね。」
ユウマ「それな。利久斗なんだよ。」
頭をポリポリかきながら、その写真の被写体は誰だと何度も聞かれた
事を三宅仁美がぼやいていたのを思い出した。
樹が言葉に詰まると、しばし俯き大きなため息を漏らした。
りくを諦める。そう決めてから、一目惚れした相手だった。
モデルだろうか?と散々調べても分からなかった人物。それが好き
だったりくだったと知って、納得した様な、諦めきれなくなりそうな、
そんな感覚だった。
ヒビキ「それで、探してたのが田嶋と分かってしつこかったのか~。」
イツキ「それで、君も同罪だね。理由もわかった事だし、その杉本
悠星の連絡先と住所を教えてくれるかな?」
ユウマ「それよりも、何があったかを教えろよ」
ヒビキ「知りませんよ。夕方連絡が入った時には意識はなかったし、
呼吸も止まってたってくらいしか聞いてないですし。多分
ですけど、先生達の見立てでも同じ見解だったので。」
眉を歪めた優馬納戸はビビりながら、話しだした。
ヒビキ「髪もずぶ濡れだった事もあり、溺れかけたのでは?という
事になったんです。話あいだけで、溺れかけるって大概です
けど。あとは考えられるのは無理やり…って事ですかね。腕
には薄らと強く握られた跡がありましたし。」
イツキ「腕の跡は写真に取ってありますか?証拠として欲しいので」
ヒビキ「いえ、それより、処置と検査で忙しかったので。」
イツキ「そうですか。では、また捜査にご協力下さい。拒否権はない
ので」
有無も言わせぬ迫力に押され、納戸はただ頷くだけだった。
優馬が病室に向かった時、扉が開いていて中から声が聞こえ
て来ていた。
リクト「……死なせてよ」
ユウマ「…!」
そんな弱気な彼じゃない。心の中ではいつもあった不安だっ
た。自ら命を絶ってもおかしくないくらい辛い思いをしてき
た彼は、どんな時でも自分自身で立ち直ってきた。
今回だって何があっても大丈夫だと、思いたかった。
でも、違う。
いつだって怖い事から逃げ出したいと思っているのだ。
こんな現実から、楽になりたいと…。
優馬は気づいてあげられなかった自分を恥じて、拳を握り
締めた。
今まさに利久斗の上に乗り掛かっている看護師の首根っこ
を掴むとドアの方へと放り投げたのだった。
ユウマ「看護師が何をやってるんだ?」
納戸を睨みつけると、驚きと恐怖を張り付かせ慌てて出て
行ってしまった。
振り返り、利久斗の腕を掴んで引き寄せた。
ガラスのカケラが刺さったままの掌は血だらけになって痛々
しかった。
ユウマ「俺は利久斗にずっと側にいて欲しいんだ。どんな
利久斗でも、居なくなるのだけは許さないからな」
リクト「ゆう…ま…ごめん。」
ユウマ「一緒に生きて行こう。俺の嫁さんは利久斗だけだよ」
額にキスして頬にも軽く触れるだけのキスを落とした。
落ち着いた利久斗を残して病室を後にすると納戸を呼び出した。
ヒビキ「あの~なんでしょうか?」
ユウマ「聞きたい事があってな!」
ヒビキ「さっきのは誤解ですよ。ただ落ち着かせようとした
だけですから」
ユウマ「落ち着かせるのに、ベットに押し倒すのか?」
優馬の睨みに一歩後退り、反論を返す。
ヒビキ「あれは…たまたまそうなっただけで…そもそも田嶋は
俺の同期で、しかも男ですよ。変な想像はやめて下さ
いよ。」
ユウマ「だったら、誰に売ったって?」
ヒビキ「それは…話をする機会が欲しいと言われて…」
ユウマ「誰とだ?利久斗は嫌がってたんだろう?」
ヒビキ「えぇ、取り合ってもくれないからと…」
優馬は納戸の襟元を掴み壁に押しつけた。
ユウマ「誰だ。誰がやった?」
ヒビキ「それは…」
イツキ「はーい、そこまで。喧嘩はよくないよ。」
納戸は助かった~と言わんばかりに声の方を振り向いた。
そこには警察官が立っていた。
ヒビキ「助けて下さい。いきなり乱暴してくるんです」
イツキ「そうだね。では署の方に一緒に行こうか?」
ヒビキ「え…あの~、どうして?」
優馬は手を離すと樹の方へと納戸を投げてよこした。
ユウマ「そいつが、何か知ってるぜ!利久斗をあんな目に
合わせた奴の情報をさ。金で売ったんじゃねーのか?」
ヒビキ「違う!お金なんかじゃ。」
イツキ「じゃー、なんで売ったのかな?りくに手を出したらどう
なるか教えておかないといけないね?」
笑顔でさらっという言葉に優馬以上に恐怖を覚えた。肉体的な暴力
はないが、それ以上にただじゃおかないととばかりに視線が痛い。
ヒビキ「なんでも話すので、勘弁して下さい。」
イツキ「いい心構えだね。さー話せる場所へ行こうか?」
そう言うと樹の車の中へと乗り込んだ。
イツキ「まずは、なんで田嶋くんに目をつけたのか、からかな?」
ヒビキ「俺は医者なんてなりたくなかったんだ。芸能界に憧れて…
そしたら杉本悠星さんがうちの病院で入院してて、担当に
俺と田嶋が抜擢されて…。」
イツキ「それで?」
ヒビキ「なんか、探してる女性がいるって話になって。看護婦の全員
の写真が見たいって言ってて。見せたんだけど納得してなく
て、交代で入った田嶋になんか毎回しつこく話してたみたい
だったんだけど。ある日俺にも田嶋の事を詳しく教えてくれ
って言い出してきて。一度ちゃんと話せる機会を作って欲し
いと言われて…」
ユウマ「拉致に加担したのか?」
ヒビキ「ちがう!ただ裏口に案内して、麻酔薬で眠らせただけだ」
ユウマ「それを拉致っていうんだよ!てめーは馬鹿か!」
掴みかかりそうな優馬を止めると樹は疑問を投げかける。
イツキ「どうしてりくだったんだい?田嶋くんには接点などなかった
だろうに?しかも看護婦を探していたんだろう?」
ヒビキ「それは、俺も疑問だったんです。なんか前に見た女性を探
してるって聞いてたんで。」
ユウマ「あーー。それは、だな。多分CMに使われた写真だろ?」
樹はCMと聞いて、ハッと思い当たる。
イツキ「そういえば横顔の女性が映った写真を愛しそうに見つめる
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ユウマ「それな。利久斗なんだよ。」
頭をポリポリかきながら、その写真の被写体は誰だと何度も聞かれた
事を三宅仁美がぼやいていたのを思い出した。
樹が言葉に詰まると、しばし俯き大きなため息を漏らした。
りくを諦める。そう決めてから、一目惚れした相手だった。
モデルだろうか?と散々調べても分からなかった人物。それが好き
だったりくだったと知って、納得した様な、諦めきれなくなりそうな、
そんな感覚だった。
ヒビキ「それで、探してたのが田嶋と分かってしつこかったのか~。」
イツキ「それで、君も同罪だね。理由もわかった事だし、その杉本
悠星の連絡先と住所を教えてくれるかな?」
ユウマ「それよりも、何があったかを教えろよ」
ヒビキ「知りませんよ。夕方連絡が入った時には意識はなかったし、
呼吸も止まってたってくらいしか聞いてないですし。多分
ですけど、先生達の見立てでも同じ見解だったので。」
眉を歪めた優馬納戸はビビりながら、話しだした。
ヒビキ「髪もずぶ濡れだった事もあり、溺れかけたのでは?という
事になったんです。話あいだけで、溺れかけるって大概です
けど。あとは考えられるのは無理やり…って事ですかね。腕
には薄らと強く握られた跡がありましたし。」
イツキ「腕の跡は写真に取ってありますか?証拠として欲しいので」
ヒビキ「いえ、それより、処置と検査で忙しかったので。」
イツキ「そうですか。では、また捜査にご協力下さい。拒否権はない
ので」
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