好きになっていいですか?

秋元智也

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69 これからの新生活

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 ヒビキ「あの!なんでそこまで?ただの傷害でしょ?」

樹のメガネの奥が光った気がした。

 イツキ「傷害…そうでしょうね。でも、俺もりくの事が昔から好きな
     んですよ。男とか関係なく。ただそばにいたかった。まだ幼
     かったから彼の側で守ってあげる事すらかなわなかったです
     けどね。」
 ユウマ「よく言うぜ、りくを襲おうとした奴のセリフか?」
 イツキ「毎晩盛ってる人には言われたくないですがね」
 ユウマ「なんだとぉ?」

騒がしい2人は消え、納戸はいつもの業務へと戻った。
田嶋の方は他の看護婦が手当てをしたのか、首元と手には包帯を巻かれ
どこを見ているのか、ぼうと外を眺めていた。
看護婦達も視力がない事を知っている為、余計な事は話さず、黙々と仕
事に打ち込んでいた。

 いつもなら、軽口を叩いて、デートに誘ったりとお誘いは多かったが、
今はそんな事をいう人は誰もいなかった。今は多少の光でも中途半端に
入れない方がいいという事で目の周りに包帯を巻かれている。
どのみち、見えないのだから一緒なのだが。すこしでも早く視力を取
り戻して欲しいという願いもあって林医師の方から検査を何度も受けさ
せてもらっている。
退院までの一週間検査尽くめだったが、それでも改善の兆しは全くなか
った。
怖そうないかつい男性に連れ添われ、退院していった。
話題に上がったCMを目にしたが、写真の女性?が彼だとは気づかなか
った。しかし、良ーく見てみると、そう見えなくも無いと納得してし
まった。
いつもは見せない色気のある表情。そして、夜に、人気のないトイレに
響くくぐもった喘ぎ声が耳から離れなかった。

タバコを吸いに一番奥にあるトイレを使うのだが、夜中の静かな空間に
水音が響いていて、興味本位で当直の時に隠れていたらあきらかにシて
いる声とくちゅくちゅという卑猥な音が聞こえてきていた。
出るに出れなくなって、最後までそこにいる羽目になってしまった。
後悔しかなかった。
なんとも思ってなかった同僚の意外な一面を覗いてしまったせいで、
彼を見る度に思い出してしまって、まともに見れなくなった。
声を殺しても、どうしても漏れてしまう声、良く見ると真っ白な肌。
体を拭く時に思ってしまうのはどうやって乱れていくのだろうと想像
ができてしまうところだった。
男に興味はない!そう思っていたのが、だんだんと揺らいでしまい
そうになる。
ただ、手を出せば、あの男に何をされるか分からないという恐怖で、
何もできないまま、退院していった。
荷物を纏めると、郵送した。
その際に住所を控えておいた。
(俺、どうかしてるのかな?おかしいだろ?)
自問自答して、仕事へともどった。


家に帰る事が出来た利久斗だったが、何もできる事がなくて、戸惑っ
ていた。

 リクト「これじゃ、ただのお荷物じゃん。」

せめて自分の事くらいは自分でできるようにと壁づたいに移動しなが
ら色々と触っては見るのだが、その度に足元の物に躓いたり、机の物
をひっくり返してしまったりと、失敗ばかりだった。

 リクト「あ~またやっちゃった~。」

床に手を着くと落とした物を探し始めた。
すると玄関の鍵が開き、ドアが開く音がした。

 リクト「優馬?帰ってきたの?今日は早いね」

時間感覚も分からないが、大体の体内時計でお昼くらいだろうと推察
する。
入ってきた人物はキッチンに来て、足を止めた。

 リクト「優馬?あ…これ、ちょっと引っ掛けちゃって…黙ってないで
     よ。」

終始無言でいると、近づいて来たのが気配で感じ取れた。
床に散らばったペンや紙を拾い集め机に戻してくれる。
何も言わない事に違和感を感じて、ゆっくりと立ち上がった。
すると、腕を引かれ、前へ転びそうになるのを抱きしめられた。
そこで、優馬と違う匂いに気付いて警戒を強めたのだった。
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