好きになっていいですか?

秋元智也

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71 許しを請うのは

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事件は表面化せず、簡素に片づけられた。
杉本悠星にとってスキャンダルは命取りなのだ。
弁護士を立てて示談で解決する方向で話が進んでいた。
慰謝料は2億を提示された。優馬は利久斗の代わりに、示談に応じた。
利久斗を直接合わせたくないというはからいの元、もう二度と接触を
はからないという条件も付け加えた。異例の金額に弁護士も驚いてい
たが、話題性を考えれば妥当と納得した。女性スキャンダル以上に、
男性にも手を出したとなれば、しかも相手の男性に一生消えない傷
をつけてしまったのである。表沙汰には出来ようはずもなかった。
利久斗自身をマスコミに晒したくないという配慮も加わって、示談
交渉は手早く勧められた。
利久斗が退院した日には金額の入金も終え、働かなくてもいいだけの
金が手に入ったのだが、優馬はそれ以上に今までの生活を大事にした
かった。


樹の協力で示談も順調に済み、これからの生活を考える事になった。
優馬は部屋の合鍵を樹に投げてよこした。

 イツキ「これは…いいのか?」
 ユウマ「俺も仕事があるからな。それに…アイツ、この前自殺を
     謀ったんだよ。一人で置いておくのが怖くてな。巡回つ
     いでに、たまに見てやってくれよ。」
 イツキ「信頼してくれたって事かな?いいだろう。俺も気になっ
     てたんだ。外から見てるだけだからな。」
 ユウマ「ただし、俺のいない時に変な気を起こすなよ!」
 イツキ「もう、しない。りくの嫌がる事はしないよ、誓うよ」

それだけ言うと、優馬はバイクに乗ると帰っていった。
樹はなんとも言えないむず痒さを覚えたのだった。

いつも通り、彼の自宅へと足を運ぶと、少し緊張しながら鍵を開けて
中へと入った。
ガシャーん。と何かを倒したような大きな音が響いてきた。

 リクト「優馬?帰ってきたの?今日は早いね。」

落とした物を必死に手探りで探している。返事に迷っていると探しなが
らごつんとぶつける音がした。
おっちょこちょいなところは昔となんら変わっていない事に笑いが込み
上げてきた。
側に屈むと一緒になって、拾った。元の場所に戻すと立ち上がる為に手
を出したが、見えていないので掴まる事はなかった。

 リクト「優馬?あ…これ、ちょっと引っ掛けちゃって…黙ってないで
     よ。」

樹の事を優馬と勘違いしている。
勝手に入って来ただけに、どう言おうとかと思ったが、彼の手を握ると
引き寄せた。バランスを崩し倒れそうな彼をそっと抱きしめた。

 リクト「だれ?…離してっ!」

すぐに優馬じゃない事に気づいたのか暴れそうになるのを抑え込んだ。

 イツキ「すまない。俺だ、樹だ。優馬くんに頼まれて様子を見に来た
     んだ。勝手に入って悪かった。」
 リクト「樹?…優馬に頼まれた?」
 イツキ「そうだ。ここに来る事は彼も承知している。」

警戒してか、少し離れると距離を置いていた。

 イツキ「ご飯、まだだろ?作るよ。」
 リクト「仕事中じゃないの?」
 イツキ「あぁ、交番勤務だからな。気楽なもんさ。街に見回りに出て
     いる事になっているよ。」

そう言うと、キッチンに行き冷蔵庫の中を確認した。
男2人にしては、色々と作っているらしく野菜も肉も小分けにされていた。

 イツキ「いつもは優馬くんが作ってるのか?」
 リクト「いや、どっちも交互に作ってた。樹って料理出来るの?」
 イツキ「いや~それが…いつも外食だったからな!」
 リクト「ダメじゃん。真ん中にベーコンあるでしょ。あと、下の野菜
     室に玉ねぎの残りあるから出して。それから~。」

リクトの言う通りに野菜を切り、炒めた。
なんとか形は歪でも、味はそれほど悪くはなかった。

 イツキ「おぉ、出来たぞ」
 リクト「お疲れ様。食べよっか」

二人はテーブルに着くと向かい合わせに座ると皿に盛り付けて利久斗
の前に出した。器用に箸で位置を確認しながら掴んで口に運ぶ。

 イツキ「見えてないのに、器用だな」
 リクト「食事くらいはね。最初はスプーンしか使えなかったけど、
     慣れればなんとかなるよ。行儀が悪いかもしれないけど、
     最初はこうやって箸で形や量を確認しないといけないけ
     どね。」

全部完食すると洗い物を終え、一旦交番に戻る事にした。

 イツキ「鍵はかけておくから、そこにいていいからな」
 リクト「ありがとう、なんだか昔を思い出すな~」
 イツキ「明日も、見に来るから。大人しくしてろよ」
 リクト「うん。」

少し距離が縮まった気がして樹はご機嫌だった。
玄関の鍵をかけ帰っていった。
利久斗にとっては、懐かしい様な樹と一緒にいるのが少し不安な様な感
覚でいた。嫌いではないけど、前の様にいきなり怒り出すのはどうして
も、慣れなかった。
優馬と一緒に過ごしていて心地よいのは、自分の思いをそのまま包み隠
さずぶつけてくるからだとわかった。
黙っているとか性に合わないせいかどんな事でも、ストレートに聞いて
くるし、行動もまっすぐだった。
隠そうとする方が恥ずかしくなるくらい、素直に物事を捕らえるので、
こっちも隠し事はしない事にした。
後ろめたさがない分、お互いに信用できるし、一緒にいて心地よかった。

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