最弱英雄の魔王討伐!?

秋元智也

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第29話

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いきなり腕を掴まれたと思うと廊下へと投げ飛ばされていた。
バターン。という大きな音と共に霞は背中から転がった。
受け身は取っているものの痛みはあるのだ。
すぐに立ち上がると下の階に降りるとキッチンへと足を踏み入れると無惨にも何度も包丁を刺された跡のある女性の死体が横たわっていた。
いまだに包丁は刺さったままになっていて痛々しさが伝わってきた。
一瞬躊躇ったせいか後ろから来ている父に気づくのが遅れた。
その隙に腕を掴まれ、関節を押さえ込まれた。
男の力で押さえ込まれると非力な女性では抜け出すことは難しかった。
しかも、格闘技の経験があるものならば尚更だった。
「やめてよ。お父さん!こんな酷いことしないわよ・・・うっ・・」
バタバタともがくが緩む気配もなかった。
上からポタッ。と水滴が垂れてきた。
上を見上げると父の始めて見た涙だった。
「私のこと、信じられないの?」
声を振り絞って言うが、やはり通じない。
「お前たちと会ったのは間違いだった。すまん。俺も後を追うから・・・」
「そんなっ・・・」
意識が朦朧としてきていた。近所の人が物音を聞いて警察に通報したのか遠くでパトカーのサイレンが鳴り響いていた。

気がつくと目の前には女神が立っていた。
そして自分は死んだのだと告げられた。
そして新たな世界で魔王から人々を救ってほしいと頼まれたのだった。
どうせ一度死んだ人生だと快く引き受けた。
そして祭壇で目覚めた。
そこでライラに会った。
彼女もまた自分が女に生まれた事に劣等感を持っていた。
「勇者様、我が国エスタニア王国をお救いください。」
「あなたの名前は?なんて呼べばいいかしら?」
「わたくしはエスタニア王国ハロルド・エスタニア王の娘、ライラ・エスタニア。ライラとお呼びください。」
そういうと服を差し出した。
霞はそこで自分が何も纏っていない事に気がついた。
「私は堂島霞。かすみと呼んで。ありがとう、助かるわ」
服を着ると城のなかを案内された。
武器庫に案内されると色々な武器が並んでいた。
「好きなものをお取りください。」
「えっ?くれるの?、、、そうだなぁ~。コレがいいかな?」
そう言って手に取ったのは細い日本刀に近いモノだった。
それから横にある太い大剣を手に取ると振り回してみた。
「コレも以外と見た目と違って軽いのね?」
「いえ。霞様、それは誰も持つことが出来なかった武器にございます。」
「えっ!そうなの?こんなに見た目ごっついのに凄く軽量化してあるなって不思議だったけど、私の方が身体能力が上がってるってことかしら?ねー誰か模擬戦してくれないかしら?」
近くの兵士に聞くと兵士長が引き受けてくれた。
そして兵士達が集まるなか、兵士長との一騎討ちが設けられた。
「どこからでもどうぞ、勇者殿。」
「じゃー行くわよ!」
地面を踏み込むと一気に加速して距離を詰めた。
そのまま斬るのもなんだかつまらないので左側にすり抜けるとそのままバックから大剣を叩きつけた。
まさか反応出来ないとは思っていなかったので霞は吹き飛ばされる姿を見て驚いてしまった。
まだ初手の一発だというのに戦闘不能になっていた。
周りの兵士は口が閉まらないのか暫し呆然としていた。 
「まさか、こんなんでダウンな訳?」
「さすがでございます。彼も弱くはないのですよ?霞様がお強いのです。」
それから何人かと手加減して訓練したが全く手応えがなく、練習にもならなかった。
動きは遅く、無駄が多いのだ。
それからクルス皇国にも男の勇者が現れたと知ると兵士達は浮き足だっていた。
「おい、聞いたか?クルス皇国の勇者の話!」
「おぉ、なんでもバカでっかい武器を振り回すんだってな!」
「俺は素手で大きな岩をも砕いたって聞いたぞ?」
「なんでも女好きで毎晩いろんな女を侍らしてるって話だぞ?」
「マジかぁ。羨ましい限りだなぁ~。」
「勇者ならうちにもいるじゃねーか?」
「な~に言ってんだよ女が男にかなうわけないだろ?同じく勇者なら男の方が良かったなぁ~。」
「ちげーねー。」
兵士たちの話し声が響いてきて霞は過去を彷彿とさせた。
「男の方が良かったですって?私に負けた分際で何を言い出すのかしら?もっと鍛えてあげるわ。」
明日からまた、特訓は厳しくなるのだった。
ある日、魔族領の方から不穏な動きがあると聞き、現場に駆けつけると川沿いの村から火の手が上がっていた。
「あなた達は村人の避難と消化活動をしてちょうだい。私が出向くわ」
魔族が引き返していった方へと分け入っていった。
すると頭上から火の玉が霞にめがけて飛んできたのだ。
ギリギリの所でかわすと一気に距離を詰めて思いっきり剣を振り下ろした。吹き飛んだのは魔族の上半身だけだった。残された下半身からは大量の血飛沫が飛び散っていた。
止まることなく霞は魔族のなかに飛び込んでいった。
魔族は兵士に比べれば早い方だが霞にとってはゆっくりに見えた。
しかし、頭上から降ってくる氷の鋭い塊や炎の凝縮した球体が厄介であった。
「あれは魔法よね?ここって魔法が使えるのね?後で色々聞かせてもらわなくっちゃ!」
次から次へと切り刻んでいく霞はまさに修羅か羅刹のようだと魔族間では呼ばれた。
そして霞は斬ることに夢中で気づかなかった。
周りを囲まれている事に・・・。
頭上からの攻撃を避けている霞に前後左右からも鋭い氷の塊が飛んで来たのである。
仲間も犠牲にした捨て身の攻撃だった。
勿論霞には軌道は見えていてもあまりにも数が多過ぎて避けきるのは不可能であった。
ギリギリの所で避けているのではかわしきれない。
左腕を犠牲にして致命傷を避けてなんとか全部をかわしきる頃には魔族達は立ち去った後だった。
「霞殿ー!」
村の方から兵士たちの声が響いてきた。
左腕は完全に動かなくなったが全身の擦り傷はたいしたことはなく、かすり傷程度で済んだ。
しかし、霞は疲労と血の欠乏からかゆっくりとその場に倒れふしたのだった。
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