最弱英雄の魔王討伐!?

秋元智也

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第37話

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意識が消えかかっていたその時、天上から黒い影が飛び降りてきた。
英樹は遥の方に夢中で全く気づかなかった。
囚われの少年、ジュディスはその目ではっきりと見たのだ。
魔族が城の中をうかがっていたのを。
そして、いきなり降りてくるなり英樹目掛けて頭上から後頭部に衝撃をあたえたのだ。
ゴツンッ。
と盛大な音がしたが誰も駆けつけてくる様子はなかった。
英樹は気絶したのか動かなくなった。
ベットから床に転がすと魔族はさっきまで苦しんでいた遥の元に駆け寄ったのだ。
「ごほっ・・げほっ・・っっーーー。」
暫くうずくまると暫く硬直していた。
「旦那?大丈夫ですか?動けますか?」
「あぁ、ちょっと待ってくれ。」
マナを溜めると鎖をはずすとジュディスの元に駆け寄って手首や首にはまった鎖を取り外した。
それから破れた服を脱ぐともうひとつのタンスに入っている服を着るとジュディスにも渡した。
「ここから出るだろう?一緒に来るかい?」
「貴方は、人ですか?それとも・・・」
遥は首を振るとまっすぐにジュディスを見つめた。
「どちらでもないよ。さっきの音で誰かが来るかもしれない。早く出るとしよう?」
すると、ジュディスは落ち着いて話し出した。
「誰も来ませんよ!朝にはなるまでは。どんなに叫んでも聞かない振りをするんです。そういう人達なんです。」
「それはこちらには好都合じゃないですかい?」
カイルがいっていることは何となくわかる。
「なら、やっときますか?」
遥は指輪を回収すると、床に転がしてある秀樹に向き直るとこめかみを両手で覆うとマナ流して混沌の魔法をかけていく。
これをかけられた者は一ヶ月くらいは幻を見続けるのだ。
いきなり奇声をあげたり、笑い出したりと解けた後でも精神を病んで元には戻らなかった。
「死ぬよりもこの方がいいだろう?」
遥は殺すことではなく使い物にならなくする気でいたのだ。
「これで、よしっと。」
「行きますか?」
カイルの声にさっきのアイテムを思いだし英樹の足から拝借した。
そして、少年を探したとき少年の手には短剣が握られていた。
「何を・・・待てっ・・・!」
声をかけたときには英樹の心臓目掛けて降り下ろしていた。
「こいつのせいで!お父さんもお母さんも死んだんだ。生かしてなんておくもんか!復讐出来るなら死んでも構わない!お前さえ、死ねば!」
「やめろって。何してんだよ。狂ったのと殺されたのでは勝手が違うんだ!」
何度も降り下ろしたせいか、完全に事切れていた。
遥かが止めたときにはもう遅く、治癒魔法では治せない状態だった。
一応手当てはしたが間に合わなかった。
少しの間黙祷すると振り返った。
「今日の事は忘れて新たな人生を送るんだ。さぁ、行こう!」
そう言って少年に手を差し伸べるがジュディスはその手を振り払うと、短剣を自分の首に当てた。
「もう、いいんです。苦しいのは消えない。心に刻み込まれた傷は癒えないんです。ありがとう、でももう疲れちゃった。」
そう言うと一気に迷いもなく切り裂いたのである。
「やめろーーー!!」
ドサッと、少年の体は倒れ込むと絨毯を真っ赤に染めあげた。
「旦那、早く行かないとヤバイっすよ?俺らは見られるわけにはいかないんすから!」
「あぁ、わかってる。」
悔しさを心の隅に押し込むと立ち上がった。
多少ふらつくが治癒をかけるのは後回しで城を飛び出した。
英樹から拝借した具足は軽く制御も楽だった。
「それ、便利っすね?」
「そうだね。今度は皆に配れるように分析して練り込んであるマナの仕組みを解明しなきゃな?」
「それは、いいっすね!」
乗り気のカイルを見ながらさっき出てきたクルス皇国の城を振り返った。
「あれは、旦那のせいじゃないっすよ?」
「あぁ、分かってはいるんだ。でも・・・あんな幼い子が!」
いたたまれなくなった。
神は一体どういう基準で選考しているのか?まさか顔じゃないよな?
少し疑いたくもなった。
自分を含め、霞もかなりの美人だった。美咲に感しても可愛い部類であった。
さっきの秀樹に関してはまず間違いなくナンパすれば結構な確率で釣り上げそうな感じであった。
話し口調からも自信の現れが見てとれた。
遥はあまり自分の顔を好きではなかった。
しかし、端から見れば彼氏にしたいナンバー3には必ず入るほどであった。
親衛隊ができるほどの人気だったのだが、当の本人は全くの無頓着であった。
朝になってからいつものように侍女がジュディスを探しに来たときには二人の死体を見付けて悲鳴を上げたのだった。
城の中では大騒ぎになっていた。
確かに素行は悪く、やっていることは犯罪そのものだったが、兵士たちには絶対に勝てないほどの力があったはずだった。
それなのに、少年一人にまさか刺殺されるとは思ってもみなかったのでる。
そんなことでクルス皇国は勇者は失うなど思っても見なかったのだった。
「どうなっているんだ?秀樹殿の部屋には誰も入れていないんだろうな?」
「はい。その筈です。いつも、叫び声も笑い声も何が聞こえても入ってこないようにと言われておりましたので。」
「しかし、昨日は女性の叫び声も聞こえたような?」
ジャック・グノシス王は予期せぬ悪夢に悩まされることになったのだ。
これから、戦が始まるというのにエスタニアを撃つどころではなくなってしまったのだ。
悪智恵が働く勇者はもう、いないのだ。
一応戦略は紙に纏めさせておいたのでそれをなぞるように動くとこととして、指揮を誰に任せるかだが。
「ザイン、お前に全体の指揮を任せる!」
「はっ、必ず期待に応えておみせします」
平伏するとザインは名誉の先陣を切ることとなった。
「オルマ、そなたはザインの補佐につけ、いいな?」
「必ずや、我らに勝利を。」
「ふむ。では、準備に取り掛かれ」
「はっ」
ザインとオルマは兵士の宿舎に向かった。
「これで、良かったんだよな?」
「あぁ、あの恥さらしが。まさか昨日は女を連れ込んでいたなど言えるか。それを俺たちは見てたなんて言ってみろ?捜索で時間が取られた挙げ句俺たちは見ていたことが罪に問われかねん」
「あぁ、そうだよな。入っていくのを見たとは言えんな!」
「早く忘れろ。あんな奴がいなくても我らは強いところを見せてやろうぜ?」
「そうだな?さっさと皆に伝えるか!」
二人の会話は宿舎に帰ってから詳しく伝えられた。
他言無用と言われても噂というのは広がるのは早いもので街中に勇者の訃報が伝えられたのだった。
そう、街に着いたばかりの美咲の耳にまで届いたのだった。
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