彼女の犬になった日

秋元智也

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10話 友人

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いつもの様に朝起こしにいくと眠たそうな顔をしていた。

「着替えますよ~」
「ふわ~い」

寝起きは苦手なのかまだ眠そうだ。
玲那はまたパジャマの下は下着をつけていない。
が、今日は平常心を保ちながら着替えさせた。
動揺しない。
動揺したって何も変わらない。

人形の着せ替えと思えば、なんの感情も湧かない。
そう自分に言い聞かせながら下着もつけさせるとスカートを履か
せると胸のリボンがよがんでないか確認して完成だ。

「じゃ~先にキッチンに行ってるから」
「ありがと~。私もいく~」

甘えた様な声で玲那も言った。
一緒に食事をしてから彰は先に家を出る。
昨日買ってもらったテニスラケットを専用のカバンに入れて背負う。

今日から部活というのが少しウキウキしていた。
昨日は散々悩んだが、やってみるのは悪い事ではないと結論づけた
のだった。

教室に行くと和泉が一番驚いていた。

「マジでテニスやるのか?」
「う…うん…」
「そっかぁ~、頑張れよ!いじめられたら言えよ!俺も言ってやる
 からさ」
「お前は事を大きくしそうだからやめとけ!伊波は将棋部に誘いた
 かったんだがな~、仕方ないか」

本当に残念そうにしている。
もうすぐテスト期間に入るので部活もしばらく休みになる。
入部届を出してから初めての部活だ。

朝練はさほど強制されていなかった。
お遊び程度で強豪校というわけではないからだ。

金持ちのボンボン達の遊びの延長みたいなものなのだった。

「おい、お前、見ない顔だな?一年か?」
「はい!」

いきなり声をかけてきたのは部室の奥にいたのか見たことがある顔
だった。
屋上であった。この前女子に囲まれて黄色い声援を一新に受けてい
た生徒だった。

「曽根崎…先輩ですよね?」
「お?俺を知ってるのか?」
「はい、イケメンで有名ですから…女子の話題に出ない日はないです」

適当に言うと、機嫌が良くなったらしい。

「おぉ、いいやつだな?お前、名前はなんて言うんだ?」
「伊波…彰と言います。よろしくお願いします」
「おっけ、おっけ。俺に従えば間違いないからな!」

まるで自分がこのテニス部を支えているかの様な言い方だった。
実際には部長でもなんでもない。
顔がいいだけのマスコットだ。

しかし、自信家なのでおだてには弱い。

「今日部活終わったらどうだ?ちょっと遊びに連れてってやるよ!」
「す、すいません。僕…門限があって…」
「それは仕方ねーな。今度行こうぜ!」
「はいっ」

なんとかやり過ごすと他の生徒達も入ってきた。
自分以外にも無名の生徒はいる様だった。

ラケットが買えなかった人は学校のやつを使う。
古びていて手入れさえもされていない。
初めは素振りだけしかさせてもらえない。
その為、自分の高級な材質を見せびらかす生徒もいるのだ。

彰はそれも見越してロッカーに自分のをしまうと学校の備品を借り
た。
他にも何人かはそうしていた。

その中の一人に小金井渉という生徒がいた。
スイングが綺麗でまるで経験者の様だった。

「おい、もっと腰をしっかり!そこっ!手だけで振るな!」

先生からの怒号が呼ぶ。

「ねぇ、小金井くんってテニスやった事あるの?」
「君は…?」
「あ、一年の伊波彰。僕、テニスは初めてで…」
「初めてなのに入ったの?」
「はははっ…恥ずかしながら…」
「金持ちの部類か?なら…話しかけるなっ!俺はそう言う奴が一番
 嫌いだ」

一緒のボロボロのラケットを持っていたので、警戒していなかった
様だが、遊びで入っただけだと思われたらしい。

「違うっ…ちゃんとやるつもりで…それに僕はお金持ちじゃ…」
「ふ~ん。でも、曽根崎には気に入られてるんだな?」
「それは、たまたまだよ…信じないのは仕方ないけど…」

少し気落ちすると素振りを始めた。
同じ一年なので仲良くしたい。
そう思っただけだった。
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