彼女の犬になった日

秋元智也

文字の大きさ
上 下
10 / 20

9話 部活へ

しおりを挟む
パチパチと手を叩く玲那が現れると満面の笑みで彰を見てきた。

「上出来だわ」
「さっきのよかったんですか?」
「いいのよ!しつこい男は嫌いよ。それと部活決まった?」
「いえ…まだ…」

彰はまだ決まっていないという趣旨を伝えると要件を聞こうとする。

「これ。書いて出しなさい」
「はい?」

テニス部の入部用紙が差し出された。

「いやいや、無理でしょ?僕はテニスなんてやった事ないし。それ
 に…」

言いかけてやめた。
テニス部はユニフォームもそうだがラケットも実費負担なのだ。
貸し出しのはボロくまともに使えないからだ。

一般的な家庭でも少し躊躇する様な値段がする物を持っている人の
中に入っていく勇気はない。

「もしお金の事なら私が出すわ」
「そういう事じゃないくて…身分的に…あの…」
「人に身分なんてないでしょ?私のいうことが聞けないの?」
「いえ…そういうわけでは…」
「なら、今すぐに書いて?私が出してきてあげる」
「いや、いいです!自分で…出します」
「そう?今日中によろしくね」

何を考えているのかわからない。
だが、命令なら逆らえないのだった。

教室へと戻ると入部届にサインをした。
そして大きなため息を吐き出した。

「よ!どうしたんだ?ん?」
「あっ、えっと、これは…」
「テニス部入るのか?いいんじゃねー?」

和泉は平然と言ってきた。
横から有坂は不安そうに声をかけてきた。

「テニスは金がかかるぞ?両親は大丈夫か?」
「そ、そんなにかかるの?」
「あぁ、テニス部って言っても金持ちばかりだからな~、何かと上級
 生が上納金とか言って巻き上げるらしいぞ?」
「ええぇぇーー!」

有坂は少し脅す様に言ってきた。
しかし、それもあながち間違っていなかったらしい。
多少強引に言っても、金持ちのボンボンなのでお金には困っていない。

さっさと払って終わっているらしい。
それも、男子テニス部でよくある事らしい。

そんな事は聞いていない。
だが、今更取り下げる事もできなかった。
玲那からの、命令なのだ。

自分は彼女に買われた身、逆らう事などできない。
入部届を出すと、明日から参加することになった。

「伊波入部っと、明日から練習に参加しなさい。今日のうちに自分の分
 のラケット、ボールは用意しておきなさい。分かったかね?」
「…は、はい」
「ユニフォームはこちらで注文しておく。一週間後に取りにきなさい」
「はい」

たかが部活だが、ユニフォーム着用らしい。
やはり花形部活だけの事はある。

部活中も観客が多く見つめられている。

一際目立つのがさっき屋上にいた曽根崎新だった。
女子の歓声を浴びながらサーブを決める。
すると一際高い声が響き渡った。

「あの中に入るのか…嘘だろ…」

独り言を愚痴ると、早々に家に帰った。

大きな荷物が届けられていて、そこには受取人に彰の名前が書かれてい
た。
まだ家の主人が帰ってきていないところで開けるのは気が引けて荷物を
そのままにしておいた。

「ただいま~」
「お帰りなさい。食事は出来ているけど食べるか?」
「そう言えば荷物届いてなかった?」
「キッチンの横に運んで置いたけど…この荷物って…一体」
「それ、開けちゃって。明日いるでしょ?」
「明日?…いるとは僕が?」

言われて見て、開けていいことを知る。
玲那の前に持っていくと中を開けた。
そこにはテニスラケットとシューズ。
その他には色々と入り用な小物も入っていた。

「これは…」
「こういうには実費だから先に頼んでおいたのよ」
「でも…僕が入らないって言ったら…」
「言わないわ。絶対に入るの!そうでしょ?」

上目遣いに言われ、何も言い返せなかった。
しおりを挟む

処理中です...