偽物の恋

秋元智也

文字の大きさ
24 / 51

第二十四話

しおりを挟む
月日が経つのは早いもので、もう季節は秋に差し掛かろうとしていた。
先輩は受験を終えて、結果を待ちながらの自由登校になっていた。

最近では綾音も柿崎先輩のクラスへと訪れるようになっていた。

出席している人が少ないので、行きやすくなったと言うのもあった。

「今日も先輩の教室行くのか?」
「うん♪」
「そっか~大学受かったんだっけ?」
「まだ結果待ちだって~、でも、そろそろ分かるはずだって言ってた」
「受かるといいな?」
「そうだね~じゃ、僕行ってくるね!」

嬉しそうに出て行く綾音を見送りながら深いため息が溢れる。

「なんだ?寂しいのか?」

横から田辺が声をかけてきた。
前田は眼鏡の奥から睨むように見上げるとさらにため息が漏れる。

「綾音が選んだんだ、応援しないとな…」
「偉いぞ?いい子にはご褒美だ!」

そういうと手の上に飴を乗せると帰り支度をする。
こう言うところが子供っぽいんだと思いながらも飴を口へと運ぶ。

「甘いな…」




綾音は先輩の教室へと着くとこっそりと覗いた。
柿崎先輩は居なかった。まばらに数人結果を聞きに来ている生徒が
たむろっていた。

「そういやさ~お前柿崎と一緒の大学受けたんだろ?最悪だよな~
 女をはべらして置いて、あいつホモなんだろ?」
「だったら最初から女に手を出すなっつーんだよ!」
「ならさ、大学入ったらあいつがホモだって流してやればいいんじゃ
 ね?」
「そりゃいいな!どうせ後輩とちちくりあってんだしさ~大学デビュー
 早々にはぶればいいだろ?」
「ちげ~ね~。俺、あいつに彼女取られたからな!友達の彼女寝とるか?
 普通…」
「最悪だよな~あいつ」

「マジ、キモッ!」

居ないのをいいことに口々に話していた。
流石に先輩の事を聞いているのは、辛かった。

こんな風に思われていたなんて思いもよらなかった。
これじゃ大学受かっても、自分と付き合ってるせいでハブられてしまう。

「先輩…」

先輩の教室をそのまま通り過ぎるとあてもなく歩いた。
罪悪感を抱きながら歩いていると、急に引き寄せられた。

ふわっと香る先輩の匂い。

「柿崎先輩!」
「正解♪第一時志望受かってた!祝ってくれる?」

後ろから抱きすくめられると目頭が熱くなった。

「もちろん、おめでとうございます。お祝いしましょ!」
「そうだな~これでもう受験勉強から解放されるぜ~」

さっき聞いた事は決して悟られないようにしないと。

「どうした?どこか調子悪いのか?」
「なんでもないです。帰りましょ!」
「だな!」

嬉しそうな先輩の顔を曇らせたくはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

愛玩人形

誠奈
BL
そろそろ季節も春を迎えようとしていたある夜、僕の前に突然天使が現れた。 父様はその子を僕の妹だと言った。 僕は妹を……智子をとても可愛がり、智子も僕に懐いてくれた。 僕は智子に「兄ちゃま」と呼ばれることが、むず痒くもあり、また嬉しくもあった。 智子は僕の宝物だった。 でも思春期を迎える頃、智子に対する僕の感情は変化を始め…… やがて智子の身体と、そして両親の秘密を知ることになる。 ※この作品は、過去に他サイトにて公開したものを、加筆修正及び、作者名を変更して公開しております。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...