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デス・ゲーム11日目 灰岡ショウ

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 闇夜にショウの鮮血が舞う。
 優笑の絶望の叫び。

「いやぁああ! 灰岡さんっ!!」
 
「バカが! 調子に乗るからだぁあああ!!」
 
 獰猛な獣のような真莉愛の笑い声。

「逃げろ……」

「灰岡さんっ……!!」

 腹部を切り裂かれたショウは、その場に倒れた。
 図書館まであと少し……自分が足手まといにならなければ……。

「さぁああ! かまってくれよぉおおおおおおおおおソフィアーーーーーーーーーーーー!!」

「あっちへ行って!!」

 ショウに覆いかぶさるように、優笑は叫ぶ。
 更にその上にバリアが出現したようで真莉愛の爪は届かない。

「……逃げるんだ……」

「嫌です! お願い灰岡さん……立って」

「ぐっ……!」

 更に真莉愛からの爪の追撃。
 自分の上で覆いかぶさっていた優笑をショウは横へ突き飛ばす。

「灰岡さんっ!?」

 切り裂かれた腹からの血を使っているのか、ショウの手には1メートルにも伸びた血の剣が握られている。

「まだ生きてたか……喰ってやるよぉ灰岡……」

「出血の血を使う……こんな応用ができたとは……思わなかったが……ぐっ……まだ、負ける気はないよ……」

「やめて……灰岡さん!」

 立ち上がったショウの腹からは血が流れている。
 剣になったとしても、傷が治っているわけではないのだ。
 そんな状態で戦えば長くはもたない。

 真莉愛の口は次第に裂け、目玉も人間のものに見えなくなっている。
 ショウの血がついた爪をベロリと舐めた。

「……天乃、時間をかせぐ。図書館へ逃げるんだ」

「……いやです! ……私も戦います!」

「僕はもう、長くはもたない」

「そんな事言わないでください、吸血鬼だもん……治る可能性だってある!」

「ソフィアああああああああああ!! 二人仲良くぐってっやるよぉおおおお!!」
 
 二人の会話など構う必要もないと、真莉愛はショウに対抗してか血の剣を出す。
 しかしみるみる太さは増して、血の棍棒のようだ。

 ブゥン! と鉄骨でも振るったかのような音がする。

 どうにか拘束できればショウの剣で首や足を落とせるかもしれない!
 真莉愛相手に可哀想なんて事を考える余裕はなかった。
 しかし、やはり真莉愛からの攻撃を避けるので精一杯だ。
 
「きゃっ!」

 巨大化しているのに、スピードは速くなっている。
 図書館の中へ逃げ出す余裕もない。
 ショウの出血も酷い。
 このままでは……!

「優笑ちゃああん!」

「優楽!」

 助かった!?
 優楽が来れば、もう大丈夫!!
 そんな安堵が一瞬胸を過ぎった。

「あいつが来た!?!!!?!! ふざけるなぁああああ!!! ぐああああああああ!!」

 優楽が来る事に一番焦りを感じたのは真莉愛だろう。
 一気に真莉愛が力を放出するように吠えて、優笑を噛み殺そうと動いた。

「させるか……!」

 腹から出血したままのショウがまた優笑を庇う。
 もう未来を捨てた庇い方だった。
 自分の身体など、ただの盾にした。
 ショウの身体の盾。捨て身の攻撃。
 ショウの左腕が食い千切られ、ショウの右手の剣が最後の力で真莉愛の左の頭蓋骨に突き刺さった。

「いやぁあああ!」

 真莉愛は更に千切れたショウの首元にも食いついた。
 ショウが喰われる!!
 喰われてしまう!!

「やめてぇえええええええええ!!」

「ぐあぁあ!?」

 優笑のバリアによる拘束が発動する。
 バキバキィ! と真莉愛の上半身が折れる音がして身体はネジ曲がった。
 そのおかげでショウは牙から解放されたがそのまま土の上に無惨に転がる。

「許さない……! 許さない!!」

 更にバリアは何重にも真莉愛を包み、バキバキと骨も内臓も押し潰していく。
 真莉愛の身体はネジ曲がり、血が吹き出る。

「……優笑ちゃん……」

「すごい……優笑は灰岡先輩が大好きなんだね……優楽が一人で戦ってても逃げちゃうくせにさ……」

 惨劇を目にした優楽の横でスズメが囁いた。
 優笑がショウのために真莉愛を押し潰している。

「……優笑ちゃん……」

「灰岡さんも真莉愛も死んじゃったね」

「……優笑ちゃん…………」

 優楽は絶望したような表情で優笑を見る。
 
「ぐごごぐごごがぁあああああ」

 真莉愛の口から血の泡が溢れ、目玉が潰れ、爪も指も折れ曲がる。
 狂犬は優笑の手によって、倒された。
 無駄にすればペナルティだ。
 しかし優笑は、もう真莉愛を見ることなくショウに駆け寄る。

 左肩が根本から喰われてしまっている。
 誰がどう見ても絶望的な状況だった。

「……天乃……無事……か……」

 ひゅー……ひゅー……と空気がどこからか漏れる音がする。
 
「灰岡さん……ショウさん……ううっどうしてどうして……ごめんなさい……ごめんなさい」

「……まぁ……いいんだ……」

 ショウの視点は定まっていない。
 もう、何も見えていないのか……。
 
「何も何もよくないです! 私なんかと一緒にいたせいで……あぁ……」

「……たのし……かったよ……す……ごく……」

 思い出される二人の時間。
 
「……ショウさん……いや、いや……」

「……に……会える……楽しみだ……ぐっ……」

「ショウさん! 待って! 待って……! あぁ……死なないで!」

 何か何か方法が!
 その時、パッと蘇る血だらけの優楽の顔が思い出された。

「あ……」

 崖の下。優楽。死なないで。
 私。そうだ。
 真似をした。
 思い出して。
 ソフィアの。
 自分の血を重ねて。
 混ぜ合わせて。
 噛んだ。
 優楽は。それで……。

 生きてた。

「天乃……せっかくなんだ……僕を喰って……力に変えろ」

「いやだ……待ってください! ……今、記憶が……」

 ソフィアがしてくれたように、自分も優楽を助けたんだ。
 ならば、じゃあ!

「いいんだ……無理……だ……はやく……」

 ショウの声がかすれていく。

「待って! い、今すぐ!」

 優楽の時のように!!
 
「無理だよ、優笑ちゃん」

 ショウの首元に噛みついた……のは優楽だった。

「優楽……なに……やめて! やめてぇええええ!!」

 優笑の絶叫が響くが、もうショウの耳には入らなかった。
 最後には双子の顔もわからなかったのかもしれない。

「ゆら……あり……がと……ユ……イ……」

 最後に呼んだのは妹の名か。
 ショウは……サラサラと真っ白な灰になって消えていく。

 呆然とする優笑。
 朝陽が昇って、カラスがうるさく鳴いている。

「こちらこそ、ありがとう灰岡さん」

 無表情で優楽が言う。

「……優楽……な……んで……」
 
 初めて抱いた感情だった。
 絶望と絶望と絶望と絶望と、憎しみ。
 

 
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