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第十五章

お伽噺

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 「むかーし昔、この世界にはいくつかの国がありました」

 海の波音が絶えず聞こえる海辺の街。
 そのあるお宅で。

 「いくつかの国の偉い人は、神様のお話を真面目に聞かず、ある日『神様のご意思だ』と間違ったお言葉をもとに、召喚魔法を使いました」

 絵本を読んでとせがむ息子に読み聞かせてている。

 「へぇ、成功したの? 聖女様が来たの? それとも勇者様?」

 「いいや、召喚魔法はそもそも神様の助け無くして成功する魔術じゃない。神様のお願いでもないのにそんな魔術が成功するはずないだろう?」

 ざざん、ざざん、と普段より大きな波音に負けない声で父親が笑う。

 魔術は、いくつもの国でほぼ同時に行われた。
 行われた場に現れた人物は一人も居なかった。

 「だけど、一辺に大変な魔術を使ったものだから、世界は危うく消滅の危機に陥り、結果、呼ばれてもいない異世界人が一人、この世界にやって来てしまったんだ」

 「え、聖女様でも勇者様でもなく?」
 「ああ。それを憐れまれた神様が、精霊様を遣わし、彼女は尚懲りずに召喚魔法を行使し、知らず世界を消滅させかねなかった悪い偉い人を懲らしめて回った」
 「へぇぇ!」

 「結果、神様の言葉をいい加減にしか聞いてこなかった国は滅び、ちゃんと神様の声が聞ける国が残った」

 「じゃ、僕の国はちゃんと神様の声を聞けるんだね!」

 「ああ、そうだよ。だから、その神様のお話を聞かない悪い子のところには……今も海をさまようその人にお仕置きされちゃうんだぞ? ……ほら」

 嵐の暴風が家の雨戸を叩くのを、ほらほらと笑う。

 「あんた、いい加減にしなさいよ!」
 「はは、父ちゃんはまず神様の声の前に母ちゃんの言葉を聞かなきゃな」

 ……これは、海に近い土地に住むものなら、細部の多少の違いはあれど大筋では誰もが知る物語。


 ……噂される当人はといえば。

 「ままー、絵本よんでー」
 「はいはい、むかーし昔おじいさんとおばあさんが……」

 と、アルトとの間に生まれた息子に日本の絵本を読み聞かせていた――
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2022.03.06 ユーザー名の登録がありません

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