唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜

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悪役令嬢に転生しました。

どうやら転生したらしい。

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    眠い。

    ただひたすらに眠い。

    はっきりしない意識を夢の世界へといざなう眠気が度々訪れ、ある時は走馬灯の様に高梨杏李たかなしあんりとして物心付いた時分から雪崩に巻き込まれるまでの日々を、またある時は見覚えの無い女性が赤ん坊の自分に乳を与え下の世話を焼く日々を夢に見る。
    ふわふわと、夢と夢の間を揺蕩たゆたいながら行き来を繰り返す。

    ふと眠気に負けて深い眠りに時にその行き来を中断されながらも、その心地良さにうつらうつらする日々。
    しかし、走馬灯の様な夢の方は、切り取られた時期や場面からの相違はあれど、変わり映えのしないものなのに対し、赤ん坊の夢の方はと言えば、寝て起きて乳を飲み、おむつの世話をされるだけの日々からやがて寝返りを打ち、ハイハイが上手くなり、つかまり立ちをする頃には食事が離乳食に変わりと、日々変化し続ける。

    その日々の食事が、流動食から固形物に変わる、一歳の誕生日目前のある日の事。
     それまで強弱の差はあっても、無くなる事無くあり続けた眠気がふと失われた。
    常に夢見心地に微睡み続けていた意識がはっきり覚醒し、赤ん坊の手足を自らの物として自発的に動かせるようになった。
     代わりに走馬灯はリアルな夢として、忘れこそしなかったが、過去の記憶の一部として日々の食事のメニューの様な日常的な記憶の様にゆっくり遠ざかり始める。

    それまで意味の無い音の一部のように聞こえていた言葉が、意味を伴った会話として理解出来る様になり、そこでようやく高梨杏李は、アンリ=カーライルという名の娘に転生したらしいことを自覚した。
    
*******************

    ……ハイ、この度ワタクシ高梨杏李はどうやら雪崩に巻き込まれて享年18歳で人生を終えて転生し、新たな人生を歩む事と相成った様で。
    ……エー、それはどうにか理解し飲み込んだ次第でありますが、リアルに「ワタシはダレ、ココはドコ、今日は何年何月何日何曜日!?」と叫びたい気持ちを抑え、毎日情報収集と集めた情報を解析し考察、更に分析し繋ぎ合わせる作業に徹しましたよ。

    まずは言語。……普通に皆日本語で会話をしています。
    ラノベで良くある転移または転生モノならではの言語チートによる翻訳の結果ではなく、間違い無く耳慣れた日本語です。

    なのに、日本人らしい黒髪黒目の人を見かけないんですよ。
    茶髪四割、金髪・銀髪合わせて三割、赤髪・青髪合わせて二割、残り一割に緑や紫やピンクや黒髪といった具合に実に色彩豊か。
    勿論、瞳の色もまた同様に色とりどり。

    現代の日本でなら、ヘアカラーやカラコンを駆使すればそういった色彩を身に纏う事は可能だろうけど、こうも誰も彼もがコスプレ中とは、ハロウィンの渋谷か薄い本の祭典かと突っ込んでやりたい。
    が、それにしては部屋の内装はやけにアンティークっぽい造りだし、パソコンやスマホどころかテレビや照明器具さえ見当たらないのよ。
    この部屋の夜の明かりは全て蝋燭やランプ。
    目に付く人々の服装はと言えば、まるで名探偵シャーロックホームズの実写ドラマを見ているみたいな。
    かちっとした本場の執事服やメイド服。
    襟付のシャツにサスペンダー付のズボン。
    仕立ての良いスーツやドレス。

    とにかく言語と生活水準にちぐはぐな印象が拭えない。
     離乳食として出されたイチゴやリンゴは見るからに見慣れ、食べ馴れたものなのに、それぞれ「ストベリー」に「リンガ」と言う果物として出て来た。
    まるで日本語の名前を基に無理矢理別の名を付けたみたい。

    ……うん、何だかとある疑念がむくむく湧いてきますよね。
    最初に「い」の付くアレな世界。
    でもそれにしてはやけに日本を思わせるポイントが多い気がする。
    ただ赤ん坊ライフのままに日がな一日部屋に居て得られる情報量ではこれ以上いくら考えても埒が明かないし。
     せっかく歩いて動けるようになったんだし、ここはラノベの定石として、探検に出掛けようじゃないか。

    「フフフフフ」
    ――アンリは、赤ん坊にあるまじき怪しげな笑いを漏らしながらそっと部屋を抜け出した。
     もしこの当時にメイドのルフナが居たならば、アンリは即刻ベビーベッドに連れ戻され、医者を呼ばれた事だろう。
    だがまだ十歳の彼女はこの家の馬丁の父とメイドの母と共に使用人寮で暮らしており、本邸に立ち入る事が許されていなかった。
    故にアンリの脱走は容易く成功し、意気揚々と最初の一歩を踏み出したのだった。
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