唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜

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悪役令嬢に転生しました。

どうやらゲームの世界に転生したらしい。

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    日々欠かさず続けたの書庫通いも、そろそろ始めて一年が経つ。

    明日は二歳の誕生日。けれど正式には存在を認められない子供の誕生日は、親兄弟のみでささやかに祝うものとされる。
    私、アンリ=カーライルにはまだ兄弟が居ないから、お父様とお母様の三人だけのパーティーだ。
    まぁ、パーティーのご馳走を作るのは家のお抱えシェフだし、給仕役のメイドさんも居るんだけどね。

    でも、お父様の誕生日には人を大勢呼んで大がかりなパーティーを開いていた。
    まだ二歳の私は勿論そのパーティーには参加させて貰えなかった。
    お母様の誕生日には親戚一同が集まっての食事会があった。
    まだ二歳の私は以外同文。
    でも、こっそり壁に耳あり障子に目あり(この屋敷に障子なんて無いけど)を実行し、情報収集に勤しんだ結果、お父様は大きな商会を経営するお金持ちで、お母様も様々な分野の職人を束ねるギルドのお偉いさんを多く輩出してきた家系の娘らしいと知った。

    つまり家はお金持ちの平民と言う訳だ。

    商会では主に食料品と日用品を扱って
いるらしい。
    その恩恵なのか、食卓に並ぶご馳走の数々は、下手な貴族のそれより豪勢かもしれない。
    瑞々しい葉野菜と「トメト」という名のトマトとフレッシュチーズに生ハムを合わせたサラダ。
    「トキビ」という名のトウモロコシと新鮮で濃厚なミルクを使用したポタージュスープ。
    色とりどりの野菜と共にグリルされたチキン、じっくり煮込まれた豚肉の角煮、肉汁滴る分厚い牛肉のステーキ。
   小骨一つ無い白身魚のムニエル。
   デザートのケーキとフルーツ。
   うん、食事情までイギリスっぽくなくて本当に良かったと思う。
    今日は洋食が食卓に上がって居るけれど、この世界には米も味噌汁もラーメンもある。
    うん、嬉しいけど。
  「マヨネーズ及びプリンチート」という異世界定番ルートは潰えた。

    そう、相変わらず異世界のはずが、元の世界の気配がそこかしこに散りばめられている。
    過去に私と同じ様に地球からの転生者や転移者が居て、その彼らによるチートの結果かもと一時考えたけれど、この世界の歴史にそれらしき痕跡はなく。
    ある時突然突出して現れたものの記録はなく、きちんと段階を踏んで現在に至った歴史がしっかり刻まれていた。

    ただ。

    例えば自分の名前に。例えばこの国の名前に。例えば現王の名前に。例えばその王の主だった王子達の名前に。例えばいくつかの貴族家の家名に。
    何故だか聞き覚えがある。

    いや、アンリの名前は前世と同じなのだから聞き覚えがあって当然なんだけど。

    カーライルというのは正確に言えば家名でなく屋号らしいんだけど、それだって西洋人の名前としてはそこまで珍しいものでもない。
    国名だって初代王のファーストネームだったシレイドから取ってシレイド王国。
    現王の名はロナルド。
    今年三歳のお披露目があった第二王子はマティスで、二つ年上の第一王子がアルベルト、だったか。
    他にロバート、レイモンド、リカルド、ラッセル……。
    どれも日本で言えば、高橋さんには及ばずとも、石橋さんや石井さん程度には良くある名前なんだから、聞き覚えがあって当たり前……のはず。
    でも、良くある名前もこうも揃っちゃうと、またしてもラノベあるあるのとある一つの可能性に引っかかる。

    既知の小説や漫画、ゲームの世界に転生、というパターン。

    そして、私――高梨杏李にはこの名前の並びに心当たりがあった。
    据え置きタイプのゲーム機専用のゲームソフト。
    タイトルは「目指せ勝ち組!~君と歩む花道~」、略して「君花」。

    所謂乙女ゲームに分類されるタイトルだけど、このゲームは良くある背景とキャラクター達の立ち絵と文字で記されるシナリオを読み、要所要所での選択肢によってエンディング分岐がある仕様ではなかったのだ。
    3Dの主人公たるヒロインを操り、広いフィールドを駆け回る。
    時に魔物と戦闘を繰り返して経験値を得て戦闘系ステータスを上げ。
   時にクイズやパズルゲームをクリアすることで得られるポイントを使って学力系ステータスを上げ。
    時にリズムゲームをクリアすることで得られるポイントでお嬢様レベルを上げ。
    時にゲーム内の時間軸における月始めに貰える小遣いの使い道に左右される美容ステータスを上げ。
    攻略したいキャラクターを探して積極的に話しかけ、イベントを発生させる。
    所謂選択肢の類いはここぞというキーポイントでしか現れず、基本的にはステータス次第で結果が変わる、という一風変わった仕様だった。
    ゲーム性、やり込み要素も秀逸。
    キャラクターデザイン、声優陣といったスタッフも人気の人材を集め、売り上げは悪くなかったらしいけど、いかんせん色々と欲張って盛り過ぎた。
     それなりに売れた割には利益が制作費に見合わず、続編やファンディスク、グッズの類いもほとんど無かったはず。
    かくいう私も、好みのキャラを2、3人クリアしただけで疲れ、コンプリートには程遠い状態のまま投げ出した。

    故に、アンリ=カーライルというキャラクターの名前と立ち位置は知っていても、彼女がどんなキャラだったかまでは、私こと高梨杏李も知らなかった。
    アンリ=カーライルは、「君花」に登場するライバルキャラの内の一人。
    つまり、「悪役令嬢」だ。
    このゲームは攻略対象キャラの数と同じ人数のライバルキャラが居るタイプで、アンリ=カーライルが登場するのも対象のキャラが攻略対象として選択された場合のみ。
    そう、アンリ=カーライルの婚約者、ビル=ラッセル。ラッセル子爵の嫡男である彼が、平民のアンリと婚約しているのは勿論、子爵家の資産が大ピンチだから。

    金目当ての政略結婚。

    顔こそ乙女ゲームの攻略キャラなだけあって相応にイケメンとして描かれているが、他の王子や宰相の息子や騎士団長の息子に比べればモブ顔同然な上、割り当てられたキャラ設定が軟派で派手好きときた。
    実際ゲームでは何度かさわっただけで面倒臭くなり、おさわり禁止キャラに勝手に指定していた程だ。

    その為、彼のルートのシナリオがどう進んでいくのか、どんなエンディングに辿り着くのか分からない。
    だけど、ヒロインが彼を選んだ結果、ライバルキャラとしてのペナルティがどうなるのか。
    相手は腐ってもお貴族様で、こちらはしがない平民でしかない。
    最悪無礼打ちなんて可能性も決して低くはない。
    それでも自分だけならまだしも、家族や親戚、果ては商会の関係者にまでペナルティの余波が及ぶ可能性すら考えられる。
    かといって、ヒロインが彼を選ばなければ、ライバルキャラは対象キャラと何事もなく結ばれる。

    金もないのに放蕩に明け暮れる旦那なんか要らない。
    奴と結婚なんざ真っ平御免だ。
    ……どうやら私は自分の将来について、早急に対策を練る必要があるらしい。

    目指せ婚約破棄!
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