唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜

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スキル「クリエイト」を獲得しました。

非力な手でも掴めるものは掴む主義です。

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    「さぁて、まず今日は昼まで私が講師として座学、午後は四人一組のグループ分けをしてその班でレクリエーションをする予定でいた。ちなみに明日からは各グループ毎にローテーションして工房を回ってもらう予定、最終日は総括として全員で討論会の予定だった」
    脚を組み、腕を組んで彼女は教卓に行儀悪く腰かけ、薄笑いを浮かべた。

    「まあ、参加者がお前ら二人だけになったら時点で今日の午後のグループ分けは必要無くなった訳だが。まぁ喜べ、他班が居なくなってローテーションの必要も無くなったお陰で、お前ら時間たっぷりじっくり体験させて貰えるぞ、気張っていけよ?」
    「はい!」
    「……はい」
    「 んじゃ、改めて今日の講師を務めるユリアだ」
    彼女は、教壇から立ち上がり話始める。

    教室に黒板代わりの魔道具らしきものはあるが、彼女は使おうとしない。
    この国の義務教育は十二才から三年間だけ。
    私達位の子供が読み書き計算ができる方がおかしい。
    市場の品物の値札が読めて、最低限の足し算と引き算ができれば上等、が普通の感覚なんだから。

    でも、私は読み書き計算は前世たっぷり時間を使って勉強してきたからできるけど、つらつら並べられた言葉をそのまま記憶しておける程頭は良くない。
    ノートを開き、ペンを持ってメモの用意をする。
    それを見たユリアさんは片眉をピクリと吊り上げたが、そのまま語り続ける。

    レイフレッド少年は、物凄く真剣な顔付きでユリア先生の話に聞き入っている。
    一言も聞き漏らすまいと、耳に入れた情報は全てその場で頭に叩き込むのだという気迫が痛い程伝わって来る。

    ……私以上に人生がかかっているんだからそれも当然、か。

    因みにユリアさんの講義の内容は、一言で言えば「職人とは何か」。
    言葉の意味するところの職人と、ギルドで統括している実際の職人。言葉の定義としては職人にあたるが、実際は別のギルドの管轄になる職の事。

    「いいか、職人ってのはモノ作りの技術を日々研究し磨きあげ、そうして鍛えた腕一つで食い扶持を稼ぐ者の事だ。そういう意味では錬金術師なんかも職人と言えるだろうが、錬金術師には錬金術師専門のギルドがあるから、あえて『職人』とは呼称しない」 
    それでも、職人と名の付く職の幅は広い。

    「本当に全部回ろうとしたら七日じゃ到底足りない。だから、ある程度系統毎に代表的な職場を回ってもらう予定だ」

    例えば「布」に関わる職人。
    糸を紡ぐ職人。糸を織る職人。染色職人。服等に仕立てる、デザイナーにパタンナーと縫製職人、他にも刺繍やレース編み等やコサージュの職人。
     挙げ始めたら切りがない。
     他にも金属加工や木工……。

     それら全てを理解して仕事をしているギルド職員は成る程大変な職業だ。

    「さて、では小難しい話はここまでだ」
    ユリアさんが晴れやかに笑う。
    「飯だ!    ギルドの食堂に案内するから付いて来い」
    冒険者ギルドの様に酒場があるのではなく、ギルド職員用のいわゆる社食らしい。

    また迷路のような通路を歩き、一際騒がしい部屋に入った。
    内装こそ飾り気のない無骨な石の柱や梁が剥き出しの部屋だけど、他の場所に比べれば少しは清潔を気にしているらしい。
    幾つも並ぶテーブルのある一角が不自然に空いている。きっちり十二人分。
    そこに三人で座る。

    ……見たところ、学食で良く見るお盆を持って一つずつおかずを選んで載せていくセミセルフタイプの食堂。
    なのにこれでいいのだろうか?
    いやまあ私じゃ明らかに背丈が圧倒的に足りないし、レイフレッド少年も惜しいところで届かないだろう。
    それにガテン系の人間が多いせいか、一つ一つの皿に盛られたおかずの量が一々多い。

    「あら?    聞いていたより随分少ないわねぇ?」
    両手にお盆を持ったおばちゃんがそれをテーブルに置いた。
    子供にも食べきれる量の、明らかに他とは違うメニュー。
    「食事は毎日三食ここで専用メニューを用意している」
    とてもスパイシーなカレーの香りのする中でクリームシチューにパンを浸して齧る。
    美味しい。正直味には期待していなかったのに。

    レイフレッドは可能な限りの早食いを目指すかの様に必死に口に掻き込む。
    咀嚼の時間さえ惜しいとばかりに次々食事を飲み込んでいく。
    そしてそれ以上に良く水を飲む。
    食事をするよりもっとずっと必死の形相で。
    私が半分も食べ終えていないと言うのに、彼の食事はあっと言う間に片付いてしまった。

    「……今日のランチ、あと十人分余ってるんだけどお代わりするかい?」
    おばちゃんもその様子を見て思うところがあったのだろうが。
    「いや、止めた方が良い。小さな胃に無理に詰めても後で吐くか下すかするだけだ。それより余った予算で栄養のあるものきっちり食べさせてやれ」
    その後、私が食事を済ませる間ひたすら彼は水を飲み続けていた。
 
    「おい誰か手の空いてる奴、この子らを研修室C-1番に連れてってやってくれ。お前達は私が飯食って食休めする間は休憩時間だ、好きにして良いが部屋から出るなよ、迷うからな」
    そうは言っても、部屋に戻ったところで何があるでもなく。
    できる事と言ったら彼とお喋りくらい。
     けど、さっき話しかけるなと牽制されたばかりだし。
    
    「おい」
     と、頭を悩ませていたのに、案内の人が居なくなった途端に彼の方から話しかけてきた。
    「お前、どういうつもりだ?」
    紅の瞳で私を睨み付け、問う。
    「僕を金で買ってどうするつもりだ?」
    大きな声を出して、牙をむいて。
    「答えろ。何が目的だ!」

    「別に、どうもするつもりなんて無いし、ましてや目的なんてある訳無いわ。あの子犬君の貴方への売り言葉を私が買って、彼に倍額で売り付けてやっただけよ」
    怯えを必死に隠して威嚇する、彼もまた子犬の様で。
    「けど、売り言葉に買い言葉とは言え一度口に出した事を無かった事にするつもりもない」

    生きるだけで精一杯、今と未来の生活を守るのに必死で。

    「貴方がウチで働くつもりなら私が責任持って雇う。一応私の従者辺りが適当だとは思うけど、貴方がやりたいと思うなら馬丁見習いでも料理人見習いでも良いわよ」

    親の庇護と愛情をたっぷり受けて丸々太った毛並みの良い子犬君がちっぽけなプライドを守る為だけに吠えて威嚇する様は見ているだけで不快だった。

    「嘘言うな!    知ってるんだぞ。アンタ、良いトコのお嬢様みたいだけど、だからってお前みたいな子供にそんな事決められるハズないだろ!」

    でも、猜疑心に満ち満ちた眼差しでこちらを警戒するその様は。

    「僕が孤児で、しかも吸血鬼だって知ったら反対するに決まってる!    孤児院の先生だって僕を気味悪がるんだ、お前だって本当は……!」

    「お父様とお母様は必ず説得する。最悪私自身で稼いで貴方の給料払う覚悟はあるわよ」
    例えスキルが無くとも前世のアドバンテージを使えば手芸品の小物を町の広場で売って稼ぐ位はできるハズ。

    「貴方が吸血鬼だろうが獣人だろうが私が困る事は何一つ無いと思うのだけど。私が貴方の何を恐れれば良いのか教えてくれる?」
    「はあ?    お前頭大丈夫か?    僕は人間じゃない。誰も彼もがそう言って罵るんだ、お前の――魔族の国へ帰れって!    人間の国に魔族が居たら困るんだろう?」
    「別に私は何も困らないわ」

    まあ、彼らが困る理由は見当は付く。
    「自分と異なる者、自分より優れた者を恐れ排除しようとするか。自分の弱さを認めて上手く付き合うか。単なる器の問題よ。だから私は別に困らないわ」
    「僕が血を啜るバケモノでも?」
    「そうね、貧血になって倒れる以上の量を一度に持っていかれたら流石に困るわね」
    私も命は惜しい。
    「でも、それが何?」

    「だって、人は平気で馬に乗るし車を引かせるじゃない。騎士はきっちり調教した馬を上手に操る。でも馬に蹴られれば人間は良くて大怪我、普通に死ねるわよ?    馬から落ちて亡くなるお貴族様ってのも割りと良く聞く話よね」
    牛に足を踏まれれば骨折、大人の豚に本気で体当たりされたらどうなるか。

    「それでも人間は彼らと上手く付き合ってるわ。なのに何故動物と違って言葉を交わして議論も可能な相手を無駄に恐れるのか、私には良く分からないわ」

    まあ、人間同士でも意見の合わない、聞く耳持たずでまともな議論もできない連中は居るからだけど。

    「全部を掬い上げるには確かに私じゃ力不足なのは認めるけど。貴方一人の手を掴むくらいなら私にも出来るから」

    それでも信じ切れない彼にはもう、論より証拠だろう。

    私は彼の目の前で、自分の左手の親指をメモ用紙の端に押し付けた。
    スッと一筋血の赤が指の腹に滲む。
    
   「喉が渇いているんでしょう?」
   私は左手を彼の前に差し出し微笑んだ。
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