唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜

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私の従者が可愛すぎる。

授業開始です。

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    「お嬢様には昨日既に自己紹介を済ませていますが、新しい生徒さんも居ることですし改めて自己紹介させていただきましょうか」
    神経質そうなクール眼鏡。
    ……乙女ゲームの攻略キャラのような属性だが、二十歳越えた彼は勿論ゲームとは無関係。

    彼はウチが新人のなかでも選りすぐりの人材に教育を施し未来の幹部候補に仕立てあげる為に雇っている教師の一人だ。

    「私はあなた方に読み書き計算を始めとする教養を教えるよう言われて参ったディルク。何を教えるにもまずは文字の読み書きが出来なければ話になりませんので、今日の課題は文字の書き取りです」

    うん。文字の読みは完璧だし、書く方もまぁ出来るんだけどね。
    例のイライラフォントのせいで「キレイな文字」ではまだないんだよね。
    昨日の顔合わせの時に書いて見せたら、驚いてはいたけど、すぐに一刀両断されちゃったよ……トホホ。
    だから今日は大量の紙を渡されてひたすらお手本の書き取り。

    レイフレッドはと言えば――
    「これが五十音表、こちらが例文集です。まずは読みを覚えなさい」
    と教材を渡されひたすら音読を繰り返していた。

    朝食を済ませた後の朝一番の教養の授業が終ると、三十分の休憩を挟んで昼食の時間まではマナーのレッスン。
    これは異性であり使用人のレイフレッドが学ぶべきマナーが違うため、この時間はセバスチャンかエルザについて仕事を学ぶ事になっている。

    昼休憩の後は魔術の授業。
    こちらもまずは魔法文字の勉強から。
    文字を既にマスターしている私は組み合わせの基礎をドリル形式で叩き込まれている。

    ……それにしても、レイフレッドが凄い。
    私がもしフランス語とイタリア語を同時に覚えろなんて言われたら絶体泣く。
    勉強する端からごっちゃにして訳が分からなくなる未来が明確に予想できちゃうのに。

    レイフレッドの集中力と記憶力は私には到底真似が出来ない。
    明らかに脳ミソの出来が違う。
    私の前世アドバンテージなんか、うかうかしてたらあっという間に抜かされる。

    そんな危機感が、私の集中力も上げる。
    うん。やっぱり良い拾い物をした。

    そして今日のラスト。
    「アンリ、レイフレッド君、君達に護身術を教えて下さるガルム氏だ」
    お父様が紹介して下さったのは、傭兵ギルドで指南役をしていた人。

    パッと見柳腰の優男で、戦闘職種の人間には見えない。
    けれど、腰には確かに剣を下げているし、手はタコの出来た剣士のもの。

    「剣でも槍でも拳でも、何を武器にするにもまずは体力がなきゃ振り回すことすらできないからねぇ。まずは陸トレからはじめようかぁ」
    と、まずは今現在の限界を見るためと言われ、ひたすら屋敷回りを走らされた。

    え、私?    ……二周でダウンしましたよ?
    でも、この広い屋敷を一周って結構あるからね?
    中学校の外周と同等の距離はあると思う。
    その距離を三歳児の身体で二周出来たら上等じゃない?

    まぁ、私より年上で男の子で、そもそも人間より身体能力に優れた吸血鬼のレイフレッドは平気で十周以上走ってたけどさ!

    早々にバテた私を横目に走るレイフレッドがやけに嬉しそうだったのが気になるけど……。

    「明日は耐久腕立て伏せ、明後日は耐久腹筋、明々後日は柔軟と様子見てくから、夜はしっかり休んで体力回復しておくこと!」
    との先生のお言葉には心の中で号泣したさ……。

    「それで、今日一日過ごしてみてどうだった?」
    自分の夕食を済ませた後、レイフレッド様にカレーを作って彼の部屋を訪ねた。

    彼の部屋の間取り1DKアパート仕様。
    入り口のすぐ脇にはトイレと洗面とバスタブを押し込んだユニットバス。
    小さなシンクと一口コンロのみのキッチン。
    扉一枚隔ててベッドと机があるだけの寝室。

    私は寝室の机に料理を置き、彼のベッドに腰かける。
    食事を始めたレイフレッドは一旦手を止め少し考える素振りをした後口を開いた。
    「三食飯が食えて、まともな服が着れて、自分専用の寝床がある。勉強も出来て、手に職がつく。まぁ楽とは言えないが最高の環境なのは間違いないな」
    二口、三口とまたカレーに手をつけ。
    「……何より渇きの心配のない生活がこんなにも余裕があるもんなんだって初めて知った」
   残りを一気にかき込む。
   咀嚼し飲み込み、水を飲む。

    「……あなたの場合はこれまでが異常だったのよ。むしろようやく正常に戻りつつあるだけよ」
    「そうだな。規格外のお前にも、体力方面でなら勝てそうだし」
    「いや、流石にそれで勝てるって私はどんな化け物なのよ!    魔族――それも年上の男の子に勝てるはずないじゃない」
    「……勝てるはずないって分かってて一人で僕の部屋に血を吸われに来てるのか」
    レイフレッドが困った子を見る目で私を見下ろす。

    「分かりましたよ、。時が来るその日まで、僕はお嬢様の従者としてお仕えしますよ」
    困った顔をしたまま何か諦めたように微笑んだ。

    美少年のアンニュイな微笑みの攻撃力は凄まじく、心臓にクリティカルヒットダメージを喰らった私は思わず息を飲んだ。

    腕に彼の指が触れ、淡い温もりが肌を通して伝わる。
    熱い吐息がかかり、二本の牙の硬い感触が肌を押す。
    その鋭い凶器が肌を破るも痛みはなく、ただ舌の熱さと湿り気だけがその存在を主張する。
    じゅう、と血を吸い出す音が静かな部屋の中ではやけに生々しく聞こえる。

    それでも、たった七歳の子供相手に何やら色気を感じて心臓が鼓動を早めているのは、まだつい今しがたのダメージが残っているせいで――
    決して私はショタコンではないと明確に主張しておきたいと思う。
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