唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜

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私の攻略対象は。

初対面は冷ややかに。

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    明日、私は四歳になる。

    今年は鑑定式が無いので、予定は午後のパーティだけ。
    基本、招待客は去年とそう変わりはない。だから、去年に比べれば色々と余裕があるはずだったのに――。

    今年もまた一応の礼儀として送った婚約者への招待状に対し「楽しみにしている」と参加の意志を伝えてきたのだ。
    慌てて他の招待客にお貴族様の参加を伝えて改めて参加の可不可を尋ねて回ったり、私の衣装も作り直し、警備の手配のやり直し、メニューの変更と両親は勿論使用人にも負担をかける事態となった。

    「これまで音沙汰も無かったのに、突然どうしたのでしょう?」
    「……いや。確かにアンリに対しては何もなかったが、これまで何度も金の無心が用件の連絡はあった」
    なら、私の誕生日はただの口実で、今回も金の無心が目的?
    「……ならまだ良いんだが。そろそろお貴族様の社交界にも噂が回り始めているだろう。何か面倒を思い付いたのでなければいいが」
    ――そんな父の懸念は、当日に現実となってしまった。 

    お貴族様が来ると聞いて、招待を受けたお客様は少なく、去年に比べて半分以下になってしまった。
    その上、当日の朝どころか前日の今日から髪やら肌やらに色々塗りたくられ全身マッサージを受けさせられる。
    メイド達の鬼気迫る必死さに、レイフレッドはドン引き。
    「……お嬢様の身支度に僕は邪魔になるだけですし、セバスチャンさんかシェフのお手伝いをして来ます」
    と逃げて行った。

    明日はどう考えてもレイフレッドにとって愉快な場にはならないから、臨時休暇を取るよう言ったのだけど。
    「表の仕事のお手伝いは出来ませんが、シェフのお手伝いみたいな裏の仕事ならご迷惑にはならないでしよう」
    と断られてしまった。

    仕事を覚え、言葉遣いも改まり礼儀正しく振る舞う彼は、仕事熱心だと古参の使用人には受け入れられている。
    執事、シェフ、メイド長、馬丁。
    記憶力も要領も良くて、すぐ仕事を覚えるレイフレッドに、次から次へと自分の仕事を仕込んでいる。

    当日はもう私もレイフレッドも自分の事で一杯一杯になるのが分かりきっていたから。
    「明日は正直どういう展開になるか分からないし、いつもみたいに時間を取れるか分からないから」
    散々いじくり回されてやけにツルピカもちもちでいい匂いのする腕をいつものように彼に差し出した。
    「もしも明日時間が取れなくても大丈夫な様に、今日は少し多めに飲んどいて」
    「……お嬢様がその婚約者の男に会うのは初めてなんですか?」
    「そうよ。それどころか直接手紙のやり取りをした事も無いわ」

    パーティーの招待状はお父様の名前で出しているし、あんなものはノーカウントでしょ?
    「……」
    レイフレッドはその答えに何か言いたいことがあるような、不安そうな顔をする。
    「どうしたの?」
    「もし……僕が――」
    尋ねると何か言いかけ――
     「……いえ、何でもありません。いただきます」
    けれどそれを飲み込み、すぐに私の腕へ牙を埋めた。

    まあ、裏方仕事なら直接会うことは無いはずだけど、知らない人が大勢来るんだからレイフレッドにとってはストレスになるだろうし……。
    近いうちに何かレイフレッドの好物を出す美味しいお店をお父様に教えて貰って連れてってあげよう。

    「ごちそうさまでした。ありがとうございます」
    吸血を終えたレイフレッドが、不意に立ち上がり、机の引き出しから何かを取り出した。

    「お嬢様、これを明日身に着けて貰えませんか?」
    レイフレッドが手に乗せたのは、赤い石。
    まるで赤瑪瑙めのうのような、光沢はあるけれどどちらかと言えば宝石ではなく天然石の様な……。
    それをトップに皮のベルトでブレスレットに仕立てたアクセサリーだった。

    革の加工は明らかにプロのものではなく、彼が自分で加工した物と分かる。
    これは……誕生日プレゼント?
    あれ、何だろう。思う以上に嬉しい。
    試しに着けてみる。
    まるでレイフレッドの瞳のような色の石が映えるよう黒の革を細く加工し、腕時計のベルトの様にサイズ調整が可能なデザイン。
    「レイフレッド、ありがとう」
    明日の為に用意されてたアクセサリーはネックレスと髪飾りだけだったし、ドレスも袖口に余裕のあるデザインだから着けていても目立たない。

    明日は私にとっても試練の一日になる。
    心の癒しとして持っててもいいよね……?

    翌日も朝から風呂で磨かれ、風呂上がりにもまた色々塗ったくられ着せ替え人形にさせられたけど、何とか隙をみてブレスレットの装着には成功した。

    去年は正式に挨拶するまで公式には〝居ないもの〟とされていた私はお客様のお迎えの挨拶はできなかった。
    が、今年はこのパーティーの主宰として、お父様やお母様と一緒にお客様のお出迎えの挨拶からの参加となる。

    「ようこそカーライル家へ。本日は私の誕生日パーティーにお越し下さりありがとうございます」
    といった挨拶を来る人来る人全員にするのだ。
    かったるい以外の感想も無いけど、まあそんな事は勿論言わないで、イイコでニコニコしてれば、お客様も機嫌良く挨拶を交わして会場に入っていく。

    今年の会場もウチの別館だ。
    この街にもレンタル会場はあるけどね。まあ、お貴族様に失礼にならない平民も入れる場所なんてそうそう無いよ。

    ……それにしても。

    来 な い じゃ ね ぇ か !

     最初のお客人と挨拶を交わしてから早一時間。大半のお客様は既に会場入りしている。
    主役の私が挨拶しなければパーティーは始まらない。
    今はまだお客人同士で雑談を交わし楽しんでいるけど。
    遅れてくることになっている他のお客様は先に始めていることを当然承知している。
    後は奴らだけなのだ。

    今日のゲストは皆貴族が来ることを承知で来てくれているからだけど。
    先に始めてしまえばプライドを傷付けられたと怒るのに。
    お客様を放置せざるを得ない主宰者の面子など考えもしない。
    全ての貴族がそんなゴミクズとは思わないけど、奴らはまさに理不尽の塊だ。

    まあこんなこともあろうかと、事前に会場担当の使用人に頼んで、露店の商品の試供品を配って営業して貰っているから少しは気が楽だけど。

    ようやく紋章付の馬車が現れたのはそれから更に30分もしてからだった。

    二頭立ての立派な馬車からまず降り立ったのは、サンタクロースのお手本みたいな体型に、プ◯ングルズのパッケージに居る髭のおっちゃん顔の男。
    ……似た様な体型にぽっちゃり顔のユリスさんを知っているからこそ湧き上がる不快感。
    毛色こそ綺麗な金髪なのに、それを台無しにする容姿の男の次に降り立った子供。

    背は、レイフレッドより頭一つ分低い。父親譲りの金髪に、まだ幼さの抜けきらない青く丸い目。
    乙女ゲームの攻略キャラらしく目鼻立ちの整った美しい少年。

    初めて出会った攻略キャラの一人であり、不本意ながら自分の婚約者であるビル=ラッセル。
    彼を見てまず私が思った事は。

    (……どう見てもレイフレッドのが圧倒的に高スペックじゃね?)

    ……まあいずれ婚約破棄する相手とは言え、今は歓待しなければ。
    「ようこそお出で下さい――」
    「何だ、この貧相なブスは。まさかコレが私の婚約者ですか?」
    カーテシーで出迎え、挨拶を述べるのを遮り、大きな声で私を嘲った。
    「父上、何故に私がこのような身分目当ての卑しい女と結婚せねばならないのですか!」

    それは、彼らがようやく到着したとセバスチャンが会場の扉をちょうど開いた瞬間の事。

    シンと空気が凍り付いた。    
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