唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜

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念願の旅路で

エルフの森

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    エルフ。
    ファンタジーには最早欠かせない存在だと思う。
    「すごい森ね……」
     一口に森と言ってここまで違うものなのかと感心する。
     妖精の森のファンシーさは一切感じられない、神々しさすら感じそうな荘厳な古き森。
    背の高い、幹も大の大人数人でようやく囲める様な太さの大樹が当たり前のようにそこかしこに普通にある。
    そこに棲む獣も可愛い小動物ではなく、立派な角を持つ鹿だったり虎だったりの大型の貫禄ある獣たちが悠々と闊歩する。
    そこで悠久の時を生きるエルフ達は木の上に家を作り、各戸建てを吊り橋で繋いで樹上生活をしている。
    ――究極のスローライフ。
    既に完成された完璧な世界と、少なくとも彼らはそう信じて生きている。
    ……他国にはエルフの経営する店や宿というのもたまにあるけれど。
    その大半はこの暮らしを嫌う若者で。
    この国には余所者を泊める宿さえない。
    旅人がこの国を通り隣国へ行く事までは拒まないけれど。
    保守的な考えの強い彼らは変化を嫌う。
    だから、私達もこの清々しい森の空気と神秘的な彼らの生活をそっと眺めながら馬車を駆り。
    集落の無い森でセイルを遊ばせながら進んで行く。
    ――その、つもりだったんだけど……ね。
    「そなたに折り入って頼みたい仕事がある」
    既に国の中央近くまで旅を進めていた頃に通りかかった集落で。
    声をかけられ何かと思えば――
    「我らが王が皇帝陛下より伺った。君達が優秀な冒険者だと」
    曰く。困った魔物を退治してくれと。
    「我らは魔族の中でも魔法と弓に長けた一族である」
    「我らの森の事は森の民たる我らが一番良く知る事故に」
     この一帯でしか取れない希少品を市場に流すため商業ギルドは利用するけれど、種族の固有魔法を使うエルフは魔術ギルドや錬金術師ギルドにも属さない。
    ましてや、冒険者ギルドなど。
    だから、この国に冒険者ギルドの支部は首都にしか無く、それすら相当規模の小さいもの。
     ――が。
    「あんなものが居着くなぞ我らの長老すら知らぬと……」
    長命のエルフの長老が知らない。
    数百年単位でなかった異常事態が起きているのだと。
    「故に、退治を頼みたいのだ」
     ……それが何なのか。
     正式に依頼を受ける前にそっと様子を伺いに来たんだけど……。
    「あれ、本当に退治しちゃっていいものなの……?」
    それは確かに人でも獣でもなかった。
    かと言って魔物にも見えない。
    むしろこの国の森の様な神秘的な雰囲気を感じる。
    あれに弓を引くとか……。何か神社で白蛇苛めてバチを当てられるの図が脳裏に浮かんでくる。
    白い翼を背負う子供。男の子にも女の子にも見える、美しい子供。
    ……エルフという美形種族についさっきまで囲まれていた私の目にも、見目だけでない何かを訴える姿。
    ――天使と。そう称したくなる姿だけど。
    この世界、悪魔や有翼人や鳥の獣人も居るけれど、天使は居ない。
    しかもアレ、なんかそこに確かに生きる生き物でないと一目で分かるんだよ。
    まるでホログラムで作られたような半分透けた……レイスの様な。でも魔物のレイスと明らかに違う神々しさを持ち。
    かといってホログラムなんて技術も無いこの世界で、あんな美を再現出来る者が居るのか?
    「……それで。あれがどんな悪さをするんです?」
    「歌うのです」
    「――は?」
    「あれが歌うと、森が凍るのです」
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