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第一章 もしかして異世界……?
壱話 狐の嫁入り、からの……
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それは、とてもよく晴れたある日の午後の事。
ゴールデンウィークも終わり、けれど梅雨に入るにはまだ少し早く湿度もそう高くなくてとても過ごしやすい陽気の貴重な季節。
近所にあるその神社は、正月の初詣や夏と秋に二度あるお祭りの日こそ大勢の人が詰めかけるけど、今日みたいな何もない日は誰も来ない。
とても静かで平和で平穏……。
陽彰にとってそれは何より重要な要素だったから、彼女はいつもの様に鳥居の前の石段の一番上の段に腰掛けて、図書館で借りてきたばかりの文庫本を開き、物語のプロローグを読み始めた。
そこらの公園や、まして図書館の閲覧コーナーと違って子供が騒ぐ声もなく、ただ時折吹くそよ風が新緑もまぶしい木々の葉を揺らす音だけがある静寂。
何より、こんな小さな神社でも神域であり聖域でもあるここには、奴らは入って来れない。
ほんの一時の平穏だけど、この時間だけが陽彰にとって唯一安らげる貴重な機会だったから。
ぽつぽつと、晴れた空から雨粒が落ちてきた時に思わず空を見上げてしまったのがいけなかったのだろうか。
青い空に白い雲が浮かぶ晴天なのにぽつぽつと降り注ぐ雨。
……狐の嫁入り、か。これならすぐに止むだろう、と。
太陽の光を気にして目を腕で庇いながらゆっくり流れていく雲を眺めていた、その時。
石段の両脇に植わった木々目掛けて目を灼く様な閃光と、地響きを伴って腹に来る轟音が落ちた。
はっきりと形を伴った稲妻と雷鳴に、思わず目を閉じ、その場にしゃがみ込んで頭を庇ったのは殆ど脊髄反射で。
何だ、とパニックを起こしかける頭の隅で、これが落雷であると冷静に判断しつつも、こんな良い天気の中、何故突然の落雷なのかと疑問に思う。
白い雲はあっても、積乱雲なんか無かったはずなのに。
……凄まじい光に目はまだチカチカするし、耳もまだバカになったまま。
まだしばらくはまともに動けそうにない。
仕方なく少しその場で休む事にした陽彰は、目が慣れるのを待って、ゆっくりと閉じていたまぶたを開け――。
「……は?」
思わず間抜けな声をあげた。
「ここ……どこ?」
今の今まで自分は通い慣れた近所の神社に居たはずで。
落雷に感覚をやられてそこから動けなかった筈なのに、自分はいつの間にこんな――森の中に居るのか。
石段の両脇からお社の裏方まで続く鎮守の森なんか目じゃない位にうっそうとした本格的な森の中。
自分が腰かけていたはずの石段は腰かけるのにちょうど良いサイズの大岩に変わっていて。
「……うん。取り敢えず落ち着こう。もう一度目を閉じて――」
開けたら、きっと元の景色に戻っているはず。
いくら自分でも、流石に異世界トリップなんてあるはずは……ない、と信じたかったから。
目を閉じ両手で耳をふさいだ陽彰は元の景色を脳裏に思い浮かべた。
ゴールデンウィークも終わり、けれど梅雨に入るにはまだ少し早く湿度もそう高くなくてとても過ごしやすい陽気の貴重な季節。
近所にあるその神社は、正月の初詣や夏と秋に二度あるお祭りの日こそ大勢の人が詰めかけるけど、今日みたいな何もない日は誰も来ない。
とても静かで平和で平穏……。
陽彰にとってそれは何より重要な要素だったから、彼女はいつもの様に鳥居の前の石段の一番上の段に腰掛けて、図書館で借りてきたばかりの文庫本を開き、物語のプロローグを読み始めた。
そこらの公園や、まして図書館の閲覧コーナーと違って子供が騒ぐ声もなく、ただ時折吹くそよ風が新緑もまぶしい木々の葉を揺らす音だけがある静寂。
何より、こんな小さな神社でも神域であり聖域でもあるここには、奴らは入って来れない。
ほんの一時の平穏だけど、この時間だけが陽彰にとって唯一安らげる貴重な機会だったから。
ぽつぽつと、晴れた空から雨粒が落ちてきた時に思わず空を見上げてしまったのがいけなかったのだろうか。
青い空に白い雲が浮かぶ晴天なのにぽつぽつと降り注ぐ雨。
……狐の嫁入り、か。これならすぐに止むだろう、と。
太陽の光を気にして目を腕で庇いながらゆっくり流れていく雲を眺めていた、その時。
石段の両脇に植わった木々目掛けて目を灼く様な閃光と、地響きを伴って腹に来る轟音が落ちた。
はっきりと形を伴った稲妻と雷鳴に、思わず目を閉じ、その場にしゃがみ込んで頭を庇ったのは殆ど脊髄反射で。
何だ、とパニックを起こしかける頭の隅で、これが落雷であると冷静に判断しつつも、こんな良い天気の中、何故突然の落雷なのかと疑問に思う。
白い雲はあっても、積乱雲なんか無かったはずなのに。
……凄まじい光に目はまだチカチカするし、耳もまだバカになったまま。
まだしばらくはまともに動けそうにない。
仕方なく少しその場で休む事にした陽彰は、目が慣れるのを待って、ゆっくりと閉じていたまぶたを開け――。
「……は?」
思わず間抜けな声をあげた。
「ここ……どこ?」
今の今まで自分は通い慣れた近所の神社に居たはずで。
落雷に感覚をやられてそこから動けなかった筈なのに、自分はいつの間にこんな――森の中に居るのか。
石段の両脇からお社の裏方まで続く鎮守の森なんか目じゃない位にうっそうとした本格的な森の中。
自分が腰かけていたはずの石段は腰かけるのにちょうど良いサイズの大岩に変わっていて。
「……うん。取り敢えず落ち着こう。もう一度目を閉じて――」
開けたら、きっと元の景色に戻っているはず。
いくら自分でも、流石に異世界トリップなんてあるはずは……ない、と信じたかったから。
目を閉じ両手で耳をふさいだ陽彰は元の景色を脳裏に思い浮かべた。
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