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第三章 緋川の追っ手
弐話 滅びた村
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日の出から数時間が経った。
……なのに畑に出て仕事をする人影は一つも見ない。
私達は一軒ずつ家を見て回る。
どこの家でも、その家の住人が大量の血で地面や床を赤く染めた上に倒れ伏していた。……老若男女問わず、首や腹を切られ刺されて事切れている。
私達はそんな遺体を全て広場に集め、墓穴を掘って埋めて弔った。
――今は夏。……既に異臭がし始めている。これ以上おいておけば、状況はあっという間にもっと悪化するだろうから。
だけど、こんな大量殺人を犯した奴は一体何者なのか。とんだ殺人鬼じゃないか。日本なら各放送局で特番組んでニュースで実況してもおかしくあるまい。
「犯人はもうここには居ないよ。……役人に通報した所でこんな田舎村の事件など揉み消されて終わりだ」
怒りを抑えた顔と声で言いながら作業を続ける草治さん。
「……これをやらかしたのは、おそらく俺達の同族だからな」
全ての墓標が立ち、日も沈みかけた村で、だけど人死にがあった屋敷で休みたいとは思えず、昨夜に引き続き優菜ちゃんの亜空間で休む事にした。
「……俺達の一族が、諜報やら暗殺業やらに特化している事は以前に話したな?」
そこで草治さんが重い口を開いた。
「俺達を気に入らない家を、俺達は捨てて家を出た。だが、それを気に入らない連中が追っ手として刺客を放った。……俺達も黙ってやられてやる義理はないから適当にあしらって来たんだが……」
「あの連中は己が一族を貶められる事を酷く嫌いますからね。……お嬢がされた事を耳に入れてしまったんでしょうなぁ。……連中の気に入らない者でも姫は姫。それをこんな田舎の平民の若造が汚そうとした。――許せなかったんでしょうな。そやつらを庇う村の連中共々」
「……諜報を得意とするだけあって、人から話を聞き出す術には長けているからな。――俺と優菜にもその能力は備わっている。そしてその能力は普段の診察にも役立てているが、それ以上に連中の足取りを探るのに重宝しているんだからな。全く皮肉なものだ」
諜報系の能力はあっても、戦う術において劣る為に直接対決は分が悪く、運良く勝ってもまた新たな刺客が放たれるだけ。
「ここまで酷いのは初めてだが……」
似たような事はこれまでにも何度かあったらしい。
「ああ、くそ。一日中血の臭いを嗅ぎ続けたせいで、喉が乾いて仕方ねえ……!」
優菜ちゃんには華乃さんが、草治さんには蒼月さんがそれぞれさっき血を飲ませたばかりなんだけど。
……優菜ちゃんは――首を横に振っている。これ以上はいらないみたい。――だったら。
「……飲みますか?」
そう言えば、私はいつも優菜ちゃん担当で、草治さんに飲ませるのは初めてだ。
「アレを見て、今の話を聞いても俺を怖がらないのか?」
「草治さんがした事じゃないでしょ?」
それに、一人じゃ手に負えない事ってのもこの世には実際あるからね。
「……そうか」
草治さんが静かに私の腕に牙を立てた。
……やっぱり痛くはない。だけど……気のせいかな? 優菜ちゃんに血をあげる時には感じない、妙な感覚が……ある様な……?
だけど、それをはっきり認識するより早く吸血は終わってしまった。
一体今のは何だったのか。
あえて聞くのも……とその場は流してしまったけれど。少しだけ心臓の鼓動が早まっていたのだけは気のせいなんかじゃなかったと思う。
……なのに畑に出て仕事をする人影は一つも見ない。
私達は一軒ずつ家を見て回る。
どこの家でも、その家の住人が大量の血で地面や床を赤く染めた上に倒れ伏していた。……老若男女問わず、首や腹を切られ刺されて事切れている。
私達はそんな遺体を全て広場に集め、墓穴を掘って埋めて弔った。
――今は夏。……既に異臭がし始めている。これ以上おいておけば、状況はあっという間にもっと悪化するだろうから。
だけど、こんな大量殺人を犯した奴は一体何者なのか。とんだ殺人鬼じゃないか。日本なら各放送局で特番組んでニュースで実況してもおかしくあるまい。
「犯人はもうここには居ないよ。……役人に通報した所でこんな田舎村の事件など揉み消されて終わりだ」
怒りを抑えた顔と声で言いながら作業を続ける草治さん。
「……これをやらかしたのは、おそらく俺達の同族だからな」
全ての墓標が立ち、日も沈みかけた村で、だけど人死にがあった屋敷で休みたいとは思えず、昨夜に引き続き優菜ちゃんの亜空間で休む事にした。
「……俺達の一族が、諜報やら暗殺業やらに特化している事は以前に話したな?」
そこで草治さんが重い口を開いた。
「俺達を気に入らない家を、俺達は捨てて家を出た。だが、それを気に入らない連中が追っ手として刺客を放った。……俺達も黙ってやられてやる義理はないから適当にあしらって来たんだが……」
「あの連中は己が一族を貶められる事を酷く嫌いますからね。……お嬢がされた事を耳に入れてしまったんでしょうなぁ。……連中の気に入らない者でも姫は姫。それをこんな田舎の平民の若造が汚そうとした。――許せなかったんでしょうな。そやつらを庇う村の連中共々」
「……諜報を得意とするだけあって、人から話を聞き出す術には長けているからな。――俺と優菜にもその能力は備わっている。そしてその能力は普段の診察にも役立てているが、それ以上に連中の足取りを探るのに重宝しているんだからな。全く皮肉なものだ」
諜報系の能力はあっても、戦う術において劣る為に直接対決は分が悪く、運良く勝ってもまた新たな刺客が放たれるだけ。
「ここまで酷いのは初めてだが……」
似たような事はこれまでにも何度かあったらしい。
「ああ、くそ。一日中血の臭いを嗅ぎ続けたせいで、喉が乾いて仕方ねえ……!」
優菜ちゃんには華乃さんが、草治さんには蒼月さんがそれぞれさっき血を飲ませたばかりなんだけど。
……優菜ちゃんは――首を横に振っている。これ以上はいらないみたい。――だったら。
「……飲みますか?」
そう言えば、私はいつも優菜ちゃん担当で、草治さんに飲ませるのは初めてだ。
「アレを見て、今の話を聞いても俺を怖がらないのか?」
「草治さんがした事じゃないでしょ?」
それに、一人じゃ手に負えない事ってのもこの世には実際あるからね。
「……そうか」
草治さんが静かに私の腕に牙を立てた。
……やっぱり痛くはない。だけど……気のせいかな? 優菜ちゃんに血をあげる時には感じない、妙な感覚が……ある様な……?
だけど、それをはっきり認識するより早く吸血は終わってしまった。
一体今のは何だったのか。
あえて聞くのも……とその場は流してしまったけれど。少しだけ心臓の鼓動が早まっていたのだけは気のせいなんかじゃなかったと思う。
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