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第二章

気になる噂

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 「俺はカニを貰おうか」
 「私、具沢山で!」
 「あたしゃシンプルなので良いかな、一番安いし」

 やはり人というものは人の集う場所に興味を惹かれる生き物らしい。

 最初の一人が来てからというもの、順調に客が入り、そして料理を美味しいと平らげ満足して出ていくと、その様子に惹かれてあらたな客が入る。
 そんな順調な流れができ始めた頃。

 「どうもー、商業ギルドの見回りでーす。許可証確認させて貰って良いっスか~?」
 「あ、はい。ちょっとお待ちを。はい、お待ちどうさま、具沢山天津飯です、ごゆっくりお召し上がり下さいね!」

 商業ギルド員が見回りに来た。

 これ、熱心にやってる街とそうでない街とあるんだよね。
 一々許可証求められるのはちょっと面倒なんだけど、やっぱり熱心に見回りやってる町は商売人の行儀も良くて、私達みたいな行商人でも商売がしやすいんだ。

 見回りとかあまり仕事に熱心でないギルドのある町は、やっぱり他より気を使って商売しないと、いくら許可証があったとしても、いらぬトラブルを引き寄せかねないから。

 「すいません、お待たせして。これ、昨日交付して貰った許可証です」
 「はい、確かに。……ところでそろそろ昼時なので、私も食事をしたいのですが、私にもそれ、いただけますか?」
 「勿論、けどちゃんと並んでくださいね?」
 「いやいや、私はギルド員ですが、お貴族様ではありませんからねぇ。しかも商売人にとって評判は命。自ら人々の不興を買うような輩は商売人には向きませんよ」

 そして列の最後尾に並び、待つこと五分。

 「思った以上に回転が良いですね。……では、注文を。正直具沢山とカニで最後まで迷ったのですが、私はカニでお願いします」
 「はい、カニ尽くしがお一つですね。かしこまりました。少々お待ちを」

 チャーハンに関しては他のメニューと同じように作る。
 ただし、その上にかける卵には少しながらカニの身を入れてかに玉に。
 勿論あんにもカニ身を浮かせて出来上がり。
 あ、勿論グリーンピースも忘れずに!

 「お待たせしました」

 「ほう、これはまた変わったメニューですね。どれ……、あむ、んぐんぐ……、おお、美味い!」
 「お気に召していただけたようで何よりです」

 「いやいや、これは美味しいですよ! ふふふ、実は最近噂で美味い屋台飯の話を聞いたばかりでね。ちょっと羨ましく思っていたところでね」

 「噂、ですか……?」

 「ええ、何でも勇者殿が美味い屋台飯を見つけ気に入ったらしい、と。どんな店かも定かでない、尾ひれハヒレだらけの詮無い噂話ですがね。
 けど、美味い飯の話を聞かされれば、自分も美味いものが食いたくなるってのが人間の性。
 この町の飯は美味いですが、何分この町で育った者には食べ慣れた味ですからね。
 たまには目先の変わった、けど美味い飯が食べたくなりましてね。
 いや、実に良いタイミングで来てくださいました」

 と、何だかよく分からない感謝のされ方をして戸惑いつつ。
 ……まさか、ね、と。
 浮かんだ嫌な予感を振り払うのだった。
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