屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜

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第二章

初の営業依頼

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 「待たれよ! そこの馬車、止まれぃ!」

 城から全力で駆けて来る騎馬。
 馬上の男が大きく声を張る。

 ……当然だけど、私達の周囲に他の馬車なんか居ない。
 やっぱりあれは私達に用があるらしい。

 「……何もしてないはずなんだけどなぁ」
 「ここは、普通にいつでも通れる街道だ。勿論通行止めだなどとは聞いていないし、たかだかあの程度の演習のために通行止めなど聴いたこともない」

 しかし、騎馬はあっという間に馬車に接近して来た。
 特にやましい事もないはずなので、大人しく待つ。

 「あい、すまんがそなたらは行商人であるか?」
 「はい、私達は行商人です。……ただ、私達の商うものは“料理”でして。その為の材料となる食材は積んでおりますが、特に売り物となる様な物は何も持ち合わせていないのですが」

 成程、行商人を呼んで買い物がしたかったのか。
 そう思い、少しだけ申し訳ない気分になる。
 最初から無いと分かっていれば諦められるものも、一瞬希望が見えたあとだとその落胆は大きいよね。

 が、だ。

 「料理……、つまり噂の屋台をやると言う行商人か?」
 「はい、……いえ、噂云々はよく分かりませんが、私達が屋台で料理をし、皆に振る舞う事で収益を上げている行商人なのは間違いありません」

 「ならば、その営業を我らの砦で行っていただく事は可能かな……?」

 騎馬に跨がるその彼が言うには、基本訓練中の砦では兵士達が交代で調理役を担い、自炊しているそうだけど。
 所詮素人の作る男の料理。
 質より量の食事に慣れた彼らでもうんざりする食事が続くのが慣例らしいのだけど。

 そんな所に通りかかったのが私達、という。

 「えーと、皆様何人程居らっしゃるのでしょう……。食材もあまり量は持ち合わせていないのですが……」

 他で手に入れ難そうな中華特有の食材は前の町でそれなりの量を買い込んだけれど、基本その町で手に入れて営業するのが私達のスタイル。
 ただでさえ大食らいの体育会系の男達の胃を満足させられる様な、それもさっき見ただけの人数は最低でも居る……そんな量の食材がある訳ない。

 ……食材が足りる一部の者にのみに料理を提供しようものなら。
 恐ろしい未来が容易に想像できてしまう。

 「食材でしたら、砦にある物をお使いいただいても、この近くの村から取り寄せていただいてもかまいません」

 まぁ、それなら……。
 それにこれって、初の営業依頼よね?

 ちょっと……、いややっぱかなり嬉しい!

 「分かりました。それでしたらお引き受け致します」
 「おお! ありがたい! 是非お頼み申しますぞ!」

 こうして私達は城に招き入れられる事になった。

 けど……、さっきちらっとでて来た噂って……。
 前の町のギルド員さんも気になる事言ってたよね……?

 何の事なんだろう……?
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