164 / 252
四,思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり
Ⅱ,年貢の納め時の様です
「それにしても、あの人が移住していた先がフランスだったとはね」
カレンダーも十月に変わり、真澄の離婚話は着々と現実味を帯びてきているらしいと風の噂――もとい雅隆本人の口から度々聞く今日この頃だが。
一ヶ月のバカンスを終えたローズも帰国し、ようやく店も静けさを取り戻し――
「お邪魔致します」
「え、お兄様!?」
店にやって来た客に、茅が目を丸くした。
何となく見覚えのある顔だな、と思っていた舞は、茅の声でその少年の大人びた顔と一年前の記憶の齟齬が噛み合い、あぁ、と納得した。
茅とて去年と比べれば随分と幼さが抜けてきているのだ。
男の子なら尚更見目の変化は著しい。
「いらっしゃいませ、お好きなお席へどうぞ」
ルシアンが彼――確か名前は柳――を席へ促す。
茅ちゃんの兄であり、天狗の若様の婚約者である恵李果様の弟だったはずの彼はしかし、店内を見回し、「春暁殿は居るだろうか?」と尋ねた。
「ああ、春暁なら厨房に……」
「呼んで来ますね」
舞が一度厨房に引っ込んでいる間に茅が代わりに柳にお水とおしぼりを給仕する。
呼ばれて出て来た春暁と茅に、柳はスッとそれぞれに封筒を差し出した。
茶封筒の様な事務的なそれではなく、明らかに贈答用の品のある物を。
「招待状……?」
「ええ。そろそろこの生活も一年経つでしょう?
姉の結婚式も間近に控えていますし、いい加減しっかり話を詰めたいとの事で」
「つまりかまいたちの里への招待状って訳か。
……俺のはともかく茅ちゃんのも招待状なのか?」
「ふふふ、これは……アレだね。
『お嬢さんを下さい』って言いに行って、彼女の父親に殴られるお約束イベントだろう?
なら二人揃ってないとねぇ……?」
嘉谷様が楽しそうににんまり笑う。
「それは……。会った事はないけど、恵李果様と茅ちゃんを見る限りは殴るお父さんの手の方が心配だよね」
茅ちゃんは勿論、恵李果様も性格は豪快だが、身体の線は細い。
目の前の柳も去年と比べて精悍さは増しているものの、華奢な身体をしているのだから、筋肉達磨な春暁とを見比べれば、心配すべきがどちらかなど言うまでもない。
「いや、かまいたちのあやかしなんだし、拳で殴るより刀で〝一閃〟だったりしてな」
他人事だと楽しそうにニヤニヤ笑いながら、ルシアンはカクテルグラスをカウンターに並べる。
シェイカーにラム酒とライムジュース、砂糖と氷を入れてシェイクしたカクテルをグラスに注ぐ。
「――こちら、ダイキリというカクテルです。カクテル言葉は【希望】。
取り敢えず殴られるにしろ皮一枚斬られるにしろ、春暁は潔く受け入れてとっとと話を纏めて来いよ」
ルシアンが春暁を煽る様に言う。
「……姉の時は急な見合いで、相手もその場で見極める必要があったが、茅の場合は一年通して春暁殿を見てきているからな。
そこまで揉める事は無い……はずだ。
何より父上は私以上の剣の使い手。
皮一枚であれば血も出ぬし、茅の薬を以てすれば即完治するだろう」
柳が春暁から若干目を逸らしながら言うのを、春暁は営業スマイルを引き攣らせながら受け取った招待状を見下ろしていた。
……その後の話し合いで、スポーツの日を含めた三連休に、春暁は茅の故郷のかまいたちの里へ挨拶に出向く事が決まり、同時にペルシュの臨時休業も決定した。
一晩くらいなら舞とルシアンで回せない事もないが、連日ともなれば誤魔化しが効かなくなる。
「私も頑張ってるけど、まだまだ春暁さんには到底及ばないからなぁ」
「こちとら半世紀近く修行を重ねてきてるんだ。
それをほんの数年で追い付かれたら俺の立つ瀬が無えだろうよ」
カレンダーも十月に変わり、真澄の離婚話は着々と現実味を帯びてきているらしいと風の噂――もとい雅隆本人の口から度々聞く今日この頃だが。
一ヶ月のバカンスを終えたローズも帰国し、ようやく店も静けさを取り戻し――
「お邪魔致します」
「え、お兄様!?」
店にやって来た客に、茅が目を丸くした。
何となく見覚えのある顔だな、と思っていた舞は、茅の声でその少年の大人びた顔と一年前の記憶の齟齬が噛み合い、あぁ、と納得した。
茅とて去年と比べれば随分と幼さが抜けてきているのだ。
男の子なら尚更見目の変化は著しい。
「いらっしゃいませ、お好きなお席へどうぞ」
ルシアンが彼――確か名前は柳――を席へ促す。
茅ちゃんの兄であり、天狗の若様の婚約者である恵李果様の弟だったはずの彼はしかし、店内を見回し、「春暁殿は居るだろうか?」と尋ねた。
「ああ、春暁なら厨房に……」
「呼んで来ますね」
舞が一度厨房に引っ込んでいる間に茅が代わりに柳にお水とおしぼりを給仕する。
呼ばれて出て来た春暁と茅に、柳はスッとそれぞれに封筒を差し出した。
茶封筒の様な事務的なそれではなく、明らかに贈答用の品のある物を。
「招待状……?」
「ええ。そろそろこの生活も一年経つでしょう?
姉の結婚式も間近に控えていますし、いい加減しっかり話を詰めたいとの事で」
「つまりかまいたちの里への招待状って訳か。
……俺のはともかく茅ちゃんのも招待状なのか?」
「ふふふ、これは……アレだね。
『お嬢さんを下さい』って言いに行って、彼女の父親に殴られるお約束イベントだろう?
なら二人揃ってないとねぇ……?」
嘉谷様が楽しそうににんまり笑う。
「それは……。会った事はないけど、恵李果様と茅ちゃんを見る限りは殴るお父さんの手の方が心配だよね」
茅ちゃんは勿論、恵李果様も性格は豪快だが、身体の線は細い。
目の前の柳も去年と比べて精悍さは増しているものの、華奢な身体をしているのだから、筋肉達磨な春暁とを見比べれば、心配すべきがどちらかなど言うまでもない。
「いや、かまいたちのあやかしなんだし、拳で殴るより刀で〝一閃〟だったりしてな」
他人事だと楽しそうにニヤニヤ笑いながら、ルシアンはカクテルグラスをカウンターに並べる。
シェイカーにラム酒とライムジュース、砂糖と氷を入れてシェイクしたカクテルをグラスに注ぐ。
「――こちら、ダイキリというカクテルです。カクテル言葉は【希望】。
取り敢えず殴られるにしろ皮一枚斬られるにしろ、春暁は潔く受け入れてとっとと話を纏めて来いよ」
ルシアンが春暁を煽る様に言う。
「……姉の時は急な見合いで、相手もその場で見極める必要があったが、茅の場合は一年通して春暁殿を見てきているからな。
そこまで揉める事は無い……はずだ。
何より父上は私以上の剣の使い手。
皮一枚であれば血も出ぬし、茅の薬を以てすれば即完治するだろう」
柳が春暁から若干目を逸らしながら言うのを、春暁は営業スマイルを引き攣らせながら受け取った招待状を見下ろしていた。
……その後の話し合いで、スポーツの日を含めた三連休に、春暁は茅の故郷のかまいたちの里へ挨拶に出向く事が決まり、同時にペルシュの臨時休業も決定した。
一晩くらいなら舞とルシアンで回せない事もないが、連日ともなれば誤魔化しが効かなくなる。
「私も頑張ってるけど、まだまだ春暁さんには到底及ばないからなぁ」
「こちとら半世紀近く修行を重ねてきてるんだ。
それをほんの数年で追い付かれたら俺の立つ瀬が無えだろうよ」
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
黄金の魔族姫
風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」
「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」
とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!
──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?
これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。
──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
ファンタジー
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!