あやかしたちのとまりぎの日常

彩世幻夜

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四,思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり

Ⅱ,年貢の納め時の様です

 「それにしても、あの人が移住していた先がフランスだったとはね」

 カレンダーも十月に変わり、真澄の離婚話は着々と現実味を帯びてきているらしいと風の噂――もとい雅隆本人の口から度々聞く今日この頃だが。

 一ヶ月のバカンスを終えたローズも帰国し、ようやく店も静けさを取り戻し――

 「お邪魔致します」

 「え、お兄様!?」

 店にやって来た客に、茅が目を丸くした。
 何となく見覚えのある顔だな、と思っていた舞は、茅の声でその少年の大人びた顔と一年前の記憶の齟齬そごが噛み合い、あぁ、と納得した。

 茅とて去年と比べれば随分と幼さが抜けてきているのだ。
 男の子なら尚更見目の変化はいちじるしい。
 
 「いらっしゃいませ、お好きなお席へどうぞ」

 ルシアンが彼――確か名前はやなぎ――を席へ促す。
 茅ちゃんの兄であり、天狗の若様の婚約者である恵李果様の弟だったはずの彼はしかし、店内を見回し、「春暁殿は居るだろうか?」と尋ねた。

 「ああ、春暁なら厨房に……」

 「呼んで来ますね」

 舞が一度厨房に引っ込んでいる間に茅が代わりに柳にお水とおしぼりを給仕する。

 呼ばれて出て来た春暁と茅に、柳はスッとそれぞれに封筒を差し出した。
 茶封筒の様な事務的なそれではなく、明らかに贈答用の品のある物を。

 「招待状……?」

 「ええ。そろそろこの生活も一年経つでしょう?
 姉の結婚式も間近に控えていますし、いい加減しっかり話を詰めたいとの事で」

 「つまりかまいたちの里への招待状って訳か。
 ……俺のはともかく茅ちゃんのも招待状なのか?」

 「ふふふ、これは……アレだね。
 『お嬢さんを下さい』って言いに行って、彼女の父親に殴られるお約束イベントだろう?
 なら二人揃ってないとねぇ……?」

 嘉谷様が楽しそうににんまり笑う。

 「それは……。会った事はないけど、恵李果様と茅ちゃんを見る限りは殴るお父さんの手の方が心配だよね」

 茅ちゃんは勿論、恵李果様も性格は豪快だが、身体の線は細い。
 目の前の柳も去年と比べて精悍さは増しているものの、華奢な身体をしているのだから、筋肉達磨だるまな春暁とを見比べれば、心配すべきがどちらかなど言うまでもない。

 「いや、かまいたちのあやかしなんだし、拳で殴るより刀で〝一閃〟だったりしてな」

 他人事だと楽しそうにニヤニヤ笑いながら、ルシアンはカクテルグラスをカウンターに並べる。
 シェイカーにラム酒とライムジュース、砂糖と氷を入れてシェイクしたカクテルをグラスに注ぐ。

 「――こちら、ダイキリというカクテルです。カクテル言葉は【希望】。
 取り敢えず殴られるにしろ皮一枚斬られるにしろ、春暁は潔く受け入れてとっとと話をまとめて来いよ」

 ルシアンが春暁をあおる様に言う。

 「……姉の時は急な見合いで、相手もその場で見極める必要があったが、茅の場合は一年通して春暁殿を見てきているからな。
 そこまで揉める事は無い……はずだ。
 何より父上は私以上の剣の使い手。
 皮一枚であれば血も出ぬし、茅の薬を以てすれば即完治するだろう」

 柳が春暁から若干目を逸らしながら言うのを、春暁は営業スマイルを引き攣らせながら受け取った招待状を見下ろしていた。

 ……その後の話し合いで、スポーツの日を含めた三連休に、春暁は茅の故郷のかまいたちの里へ挨拶に出向く事が決まり、同時にペルシュの臨時休業も決定した。

 一晩くらいなら舞とルシアンで回せない事もないが、連日ともなれば誤魔化しが効かなくなる。

 「私も頑張ってるけど、まだまだ春暁さんには到底及ばないからなぁ」

 「こちとら半世紀近く修行を重ねてきてるんだ。
 それをほんの数年で追い付かれたら俺の立つ瀬が無えだろうよ」
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