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第二章 第一次選考会

筆記試験

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 空気が凍ろうとも、本来社交が主なお仕事の令嬢達は、表面上は穏やかに微笑み会話を楽しむ。
 ……が、男爵令嬢と言う事で元々下に見られるのが当たり前だったエルシエルへの当たりは確実にキツくなった。

 「(予想はしてたけど……。やっぱり私に社交は向かないわ)」

 唯一例外はスーザン様。
 彼女も令嬢らしくなく、剣の道を志す女性だけあって、働く女に理解がある様だ。
 普通に話かけてくれる。

 そして侯爵令嬢とあって、伯爵令嬢は彼女にあからさまに失礼な対応は出来ず、たまに話を振っている。
 同格の侯爵令嬢は……伯爵令嬢達が振った話題にたまに乗る位。流石に格下の私と同じ対応は出来ないみたい。
 リュセ様は困った様に微笑むだけで攻撃はしないけど助け舟も出してはくれなかった。

 「はぁ、午前中だけで疲れた」

 体力は有り余っているのだけど、精神力が普段の仕事ではありえない程削られた。

 部屋に戻ってランチ……の前にゴロゴロダラけたいのに、ドレスが気になって出来ないし、かと言って、一度着替えてお昼を食べた後にもう一度着替える程の時間の余裕もなく。

 「……午後は筆記試験だけって言うし、仕方ない。終わった後に存分にゴロゴロしよう」

 ランチとして提供されたスパゲティを頬張りながら、何か楽しみはないかと考える。

 「あの、暇な時間とかに図書館とか行けないかしら?」

 王宮の図書館なら、希少な資料があったりするかもしれない。
 学者として見逃せないよね、この機会は。

 そう思いついて尋ねてみる。

 「そうですね、午後の予定の後、夕飯までの時間でしたらご案内出来るかと」

 苦行の後の楽しみと、この登城が無駄に終わらない確証をえたエルシエルの瞳にようやく光が戻った。

 「それではお嬢様、お時間ですので広間にお戻りを」

 ああ、このためにわざわざ部屋に戻して昼食を摂らせたのかと、部屋を見てエルシエルは思った。

 先程まであった大きな円卓は片付けられて無い。
 代わりに一人用の書物机が椅子とセットで八組。
 筆記試験用の部屋に様変わりしていた。

 このセッティングに邪魔だから部屋に戻したんだ……。
 でなきゃあのままここでランチの方が楽なはずだったから。

 エルシエルだったら、ちょっと脇に避けて貰って……と考えてしまうけど、真っ当な貴族のご令嬢相手にそれはNGって事なんだろう。

 「それでは筆記試験を始めますので席に着いて下さい」

 用紙と筆記用具が配られ、試験が始まる。

 試験の内容は貴族のお嬢様なら知っていて当たり前の常識から、知っておいたほうが良いと言われる知識、それから貴族のご令嬢がコレ分かるのか? と言う専門知識まで。
 幸いエルシエルは学者として多くの知識を身に着けているので大半は答えられたが、幾つか畑違いの分野の問題には答えられず、空欄のあるまま試験は終了。

 ご令嬢は各々部屋に戻された。
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