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第四章 第二次選考会

オニゴッコ開始

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 エルシエルは走っていた。

 広間に集まって、解散して。そろそろ十五分だろうか?
 ……城の中は、とにかくどこに居るのか自分で分からなくなる事が多い。

 いつもは護衛でクルトが居るから迷うことはないが、今日は彼も居ない。
 一応影の護衛は付いてるらしいが、そっち方面は完全にド素人なエルシエルにはその存在を認識できない。

 ここ数日で顔見知りの使用人も増えたけど、所詮新参も新参。
 敵はおそらくこの国の人なんだろうから、城の中で勝負すればエルシエルは圧倒的不利。

 だから、エルシエルは昨日クルトに庭を案内して貰ったのだから。

 表に出れば、フィールドワークで鍛えた足腰を武器に逃げ回れる。
 だから、昨日死ぬ気で覚えた庭へ続く道をひたすら辿り、駆ける。

 流石に駆け足の速さは人並だ。
 箱入りのお嬢様よりは早いだろうが、平民のやんちゃ坊主に負ける程度の、女の子としては普通の速さ。
 だけど持久力ならちょっと自信があった。

 途中話しかけてきた怪しい人物は、
 「ごめんなさい! 敵か味方か今は見分けがつかないのでまた今度! 失礼します!」
 と声だけ掛けてスルー。

 それでもしつこい輩には……

 「すみません!」

 と、懐からある物を取り出し投げつける。

 「ふ、ぶっ、ぶえっくしょい! くしゅん、ハックショ!」
 たちまち涙と鼻水が止まらなくなるおじさん達。

 「後で謝りますから、今はごめんなさい!」

 いやー、研究所にも産業スパイとか入り込むことはあるし、自然豊かなんで野生動物が紛れ込むこともあるんで。

 「こらとまれ!」

 あまりに分かりやすく武器を振りかざしてきた輩には容赦なく

 「ふっ!」

 「ぎゃ、何だこれ痺れ……!」

 「流石プロ、動きがちょっと鈍るだけとか! 素人なら動けなくなるのに!」

 痺れ薬を仕込んだ吹き矢を放つが、思った程は効果が出ない。

 「竜人族を舐めるな!」

 「えぇい、一度でだめなら量で攻めるよ!」

 ポンポンと手持ちのアレコレを投げつける。

 「くっ、このお嬢さん、マジで貴族令嬢なのかよ!」

 「ふふん、自分の成果を死守する研究員の意地、見たか! ……って、うひゃっ、天井裏から落ちて来るって、ちょっと本気出しすぎじゃないですか!」

 ちょっと、正規の軍人じゃない裏の稼業っぽい人に追いかけられ、エルシエルは流石に怖くなってくる。

 「えぇい、必殺目潰し!」

 庭を覆う白石を掴んで投げつけたり。
 庭木にするすると登ってみたり。

 昔取った杵柄とばかりにお転婆を発揮した結果。

 終了の鐘が聞こえた頃にはヘトヘトでもう立ち上がる事も出来なくなっていた。
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