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第二部 第一章 新婚旅行!?

きのこの森

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 「すごい……」

 あの異世界の少女の世界には、「きのこの山」なる名前の菓子があるそうだが、広い洞窟に並ぶ原木に、立派な傘を持った肉厚で大きなしいたけが所狭しと生えるその様子は「山」ではなく「森」と呼ぶ方がしっくりくる。

 他にもなめこやえのきのびっしり生えた菌床を詰めた瓶を隙間なく並べた棚を、これまたいくつもきっちり並べた洞窟とか。

 そこを一定温度に保つためにわずかに湧く温泉を利用した仕組みなど、実に興味深かった。

 しいたけ農家のおばちゃんが、一つ「味見にどうぞ」と、椎茸を網焼きにして塩を降ったものを食べさせてくれた。

 しっかりした歯ごたえと、じゅわっと溢れる旨味。
 安い肉よりずっと美味しい。

 「バターと醤油で味付けすればステーキっぽくなるよ」

 ほう。この芳醇な旨味にさらにバターの脂とコク、醤油の香ばしさが加わればそれは美味しいに決まってる。

 「直接地面に根をはらないなら、建物の屋上に小屋を建ててでも栽培出来そう。へぇ、一つ切り取ってもまた生えてくる? 天気にも左右されないとすると、凄く効率的な作物ね……」

 栽培場所ごとおじゃんになるような大災害でもない限りは多少の大雨日照りは関係ない。
 しかも美味しい。

 「だけどな、売値はあんまり高くないんよ」

 この肉厚しいたけは特産として育てているからまた別だけど、普通のしいたけはもちろん、えのきやナメコ、エリンギも単価はひどく安い。

 肉厚しいたけだって、村をあげてその現状をどうにかしようと試行錯誤を年単位で重ねた結果だそうで。

 「品種改良の需要は幾らでもありそうね。ついでに販路や販促も調整の余地がありそうだわ……」

 そしてもう一つ。
 キノコは栄養価があまり高くないのだ。

 カロリーはゼロに限りなく低い。
 ビタミンやミネラルは少なくなく含まれているけど、そんな物は普段栄養価のありすぎる贅沢な食事をするくせに、滅多に体力を使わない富裕層が気にするものである。

 この村のような、体を動かしてナンボの庶民には、腹を膨らますかさ増し要員としては食味も良いし、そういう意味ではありがたい食材なんだろうけど、何度も言うがカロリーはないに等しい。

 きのこに合わせる高カロリーな食材が必要だ。

 そこはもやしも似たようなもの。
 もやしはタンパク源はきのこより豊富だが、カロリーほぼゼロは同じなのだ。

 光の国で主体だった露地栽培とはまるで違うシステマチックな農家に可能性と課題を見つけ、この村の視察を終え、私達は次へと出発したのだった。
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