奴隷と過ごす毎日

宝。

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1話はじめまして。こんにちは。

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『はじめまして。こんにちは。』
それがきっかけだった。
真っ暗な世界が、さらに暗く感じた。
ニセモノの笑いを顔に貼りつけた男は、わたしを″買った″らしい。
そう、わたしは奴隷だ。
一月程前、14歳の誕生日に親がわたしを売った。多額の借金があったらしい。わたしは掃除や洗濯、ご飯をつくることも親に教わっていた。今思えば、借金をした時に少しでも高く売れるようにしたのだろう。借金完済は叶わなかったものの、かなりの額で売れたようだ。その後の親の動向は知らない。知りたくもなかった。その時以来、わたしは人を信じることが出来なくなった。
『それじゃあ行こうか』
首輪をつけられる。奴隷とその主人は常に首輪でつながっている訳ではない。これは今買われたばかりだからだろう。わたしは行きたくもない男の家に無言でついていった
『ここだよ』
どうやら男の家らしい。かなり立派だ。中には執事やメイドがいるのだろう。
ギィイ…
男が扉を開く。だがそこには、執事やメイドはおろか、人の気配が一切しなかった。
「?」
首をかしげ、どういうことかを考える。
バタン…
男が後ろ手で扉を閉める。
『ようやく二人になれたね…』
……そうか、この男はわたしで性欲を満たすためにわたしを買ったのか。
そこに来て漸くわたしはこの感情を絶望というのだと知った。
わたしは諦め、目を瞑る。ぎゅっと。なにもみないように。せめて、心は穢れないように。
でも、いくら待ってもなにもされない。少し目をあけてみよう。目を開くとそこに男の姿はなく、代わりに暖かみのある木の扉があった。首輪の縄も垂れ下がっていた。
『もうすぐお風呂沸くから入っておいで』
・・・は?
この男はなにを言っているのだろう。普通なら奴隷は風呂に入らず、精々濡れたタオルで体を拭くだけと聞いていた。それがこの男は自ら風呂に入れと言ってきた。
『あ、首輪とるの忘れてたねーーーごめんね』
男はそう言うと、わたしの首輪を外し始めた。
『服は買ってあるから。サイズあえばいいけど…』カチャカチャ
…ああ、成る程そういうことか。この男は汚いわたしを綺麗にして、服もちゃんとしたものを着させてからするつもりなのだ。それでもわたしは抵抗など出来ない。なぜなら、奴隷にはあるチップが埋め込まれている。これはGPSがついていて、すぐに居場所がわかってしまう。さらにひどいのは、主人に渡されるスイッチ。これを主人が押すと、体に電流が流れるようになっている。だから奴隷は逆らえない。
わたしは促されるままにお風呂に入った。
湯船に浸かりながら考える。
あの男の真意はなんだろうか。さっきは性欲しか思い浮かばなかった。今もそれは変わらない。でも、あの男のここへ来てからの笑みに不自然さはなかった。むしろ、今までのどの笑顔よりも柔らかく、暖かかった。…ダメだ。考えれば考える程わからなくなる。一端思考を絶ち、お風呂からあがる。なんとなしに鏡をみた。歳のわりには若干伸びなかった身長は150㎝程。その代わりに長く伸びた髪は腰辺りまであり、生まれつき白かった。胸は…これも歳相応だろう。用意されていたのは可愛らしいフリルのついた白いワンピースだった。
それを着て男の元に戻る。
『あ、あがったね。ご飯できてるからたべてね。簡単なので悪いけど』
そこにはチャーハンが湯気を出して置かれていた。そういえば今日の昼はなにも食べていない。そう考えるとお腹が空いてきた。半信半疑ながらも、わたしはそのチャーハンを一口食べた。とても美味しかった。チャーハンの温度とは違う暖かさを、ここからも感じた。
こうしてわたしとこの不思議な男との生活が始まった。
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