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2話あなたの名前は?
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チャーハンを食べ終わったわたしを待っていたのは烏龍茶だった。
なぜこの男はわたしを普通の人のように扱うのだろう。
わたしは奴隷でこの男はわたしを買った主人。
体を洗わせるならともかく、食事を用意することも、新しい服を用意することも、この男にとってメリットはないはずだ。
もう訳がわからなかった。
『美味しかった?』
コクッ
特に無視する理由もないので、素直に頷く。
『そっかーーー良かった』ニコッ
…この笑顔だ。多分だけど、この男の本当の笑顔はこっちなのだろう。
『そういえば自己紹介がまだだったね』
『僕の名前はハルト。よろしくね』
コクッ
ハルト……なんだかしっくりきた。というのも、さっきのこの男の笑顔や態度に感じた暖かさ、それがまるで春の晴れた日の日だまりにいるようだったから。
『君の名前を…教えてくれるかな?』
冷水を頭からかけられた気がした。もちろん名前はある。けどそれは……
『ぁ、そっか』
この男も気づいたらしい。わたしの名前は親が決めた。でもその親はわたしを売った。それに、あそこではずっと467って番号で呼ばれてた。だからその名前はもう聞くことも、言うこともない。いや…聞きたくも、言いたくもなかった。
『なら…僕がつけてもいいかな?』
いちいちこの男はわたしを普通の人として扱う。いや、14歳の女子に名前をつけるなんて状況なかなかないか。
わたしが黙っていると、男はどこかへいってしまった。少しして戻ってきた男の手には、ハサミと……
スイッチが握られていた
脚が震える。呼吸が上手く出来ない。それほどまでにあのスイッチは、奴隷の中では絶対的な恐怖の象徴。
男はハサミをテーブルに置き、スイッチを両手で握ると、
無造作に二つに折ってしまった。
今起きたことに頭がついていけず、こんがらがってしまう。
『このスイッチ、意外と簡単でね。二つに折って、こっちの黄色の線を切ると…』チョキンッ
そう言いながら男はハサミをとり、黄色い線を切ってしまった。
『信号が出されないで使えなくなるんだよ。』
なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?
頭の中が疑問符で埋め尽くされる中、男は続ける。
『昔これを分解したことがあってね…仕組みはわかってたんだよ。怖がらせてごめんね?』
わからない
この男の考えが
わからない
こういうとき、どうすればいいのか
わからない
何もかも
わからないことだらけの頭の中、たった一つわかることがあった。
それは…
『僕は君に、苦痛や絶望の代わりに』
この人が…
『シロナって名前と、希望をあげるよ」
わたしのことを…
「気に入って貰えたかな?」
大切に想ってくれていること。
そっか。こういうときは、感情をさらけ出していいんだ。
視界がぼやける。目尻に暖かいものが溜まり、それが溢れ出す。頬を伝い、顎に延びる透明な光は、堪えきれなくなったかのように滴り落ちる。
「はい…!」
ああ。なんて暖かい。ここへ来てから、ずっと感じていた暖かさ。それを希望ということを今知った。なんて素敵なプレゼント。ハルトがくれた、わたしの名前。シロナの名前。今までは誰も信じることが出来なかった。今もそれはあまり変わらない。でも、この人だけは信じられる。
ハルト……シロナのご主人様
なぜこの男はわたしを普通の人のように扱うのだろう。
わたしは奴隷でこの男はわたしを買った主人。
体を洗わせるならともかく、食事を用意することも、新しい服を用意することも、この男にとってメリットはないはずだ。
もう訳がわからなかった。
『美味しかった?』
コクッ
特に無視する理由もないので、素直に頷く。
『そっかーーー良かった』ニコッ
…この笑顔だ。多分だけど、この男の本当の笑顔はこっちなのだろう。
『そういえば自己紹介がまだだったね』
『僕の名前はハルト。よろしくね』
コクッ
ハルト……なんだかしっくりきた。というのも、さっきのこの男の笑顔や態度に感じた暖かさ、それがまるで春の晴れた日の日だまりにいるようだったから。
『君の名前を…教えてくれるかな?』
冷水を頭からかけられた気がした。もちろん名前はある。けどそれは……
『ぁ、そっか』
この男も気づいたらしい。わたしの名前は親が決めた。でもその親はわたしを売った。それに、あそこではずっと467って番号で呼ばれてた。だからその名前はもう聞くことも、言うこともない。いや…聞きたくも、言いたくもなかった。
『なら…僕がつけてもいいかな?』
いちいちこの男はわたしを普通の人として扱う。いや、14歳の女子に名前をつけるなんて状況なかなかないか。
わたしが黙っていると、男はどこかへいってしまった。少しして戻ってきた男の手には、ハサミと……
スイッチが握られていた
脚が震える。呼吸が上手く出来ない。それほどまでにあのスイッチは、奴隷の中では絶対的な恐怖の象徴。
男はハサミをテーブルに置き、スイッチを両手で握ると、
無造作に二つに折ってしまった。
今起きたことに頭がついていけず、こんがらがってしまう。
『このスイッチ、意外と簡単でね。二つに折って、こっちの黄色の線を切ると…』チョキンッ
そう言いながら男はハサミをとり、黄色い線を切ってしまった。
『信号が出されないで使えなくなるんだよ。』
なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?
頭の中が疑問符で埋め尽くされる中、男は続ける。
『昔これを分解したことがあってね…仕組みはわかってたんだよ。怖がらせてごめんね?』
わからない
この男の考えが
わからない
こういうとき、どうすればいいのか
わからない
何もかも
わからないことだらけの頭の中、たった一つわかることがあった。
それは…
『僕は君に、苦痛や絶望の代わりに』
この人が…
『シロナって名前と、希望をあげるよ」
わたしのことを…
「気に入って貰えたかな?」
大切に想ってくれていること。
そっか。こういうときは、感情をさらけ出していいんだ。
視界がぼやける。目尻に暖かいものが溜まり、それが溢れ出す。頬を伝い、顎に延びる透明な光は、堪えきれなくなったかのように滴り落ちる。
「はい…!」
ああ。なんて暖かい。ここへ来てから、ずっと感じていた暖かさ。それを希望ということを今知った。なんて素敵なプレゼント。ハルトがくれた、わたしの名前。シロナの名前。今までは誰も信じることが出来なかった。今もそれはあまり変わらない。でも、この人だけは信じられる。
ハルト……シロナのご主人様
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