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第9話 魔物の部屋ー3
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━籠城戦4日目━
「まだ大丈夫そうだ」「こっちもまだ放っておいて平気そう!」
時刻魔導具が早朝を教えてくれるころ、『1番目の魔物の部屋』の氷の壁の前で、ガイアスくんが寒そうにしながら、部屋の端の方にいるエレイナさんに手を振った。
ジャックくんとバッシュくんは魔物の様子を見に通路の方に行っている。
氷の壁は昨日とあまり変わらず、わずかに表面が溶けはじめてはいるものの、魔物たちの行く手を阻みながら周囲に冷気を撒き散らしていた。
ガイアスくんの頭の上に乗ったノアくんが一生懸命氷の向こう側にいる魔物を観察している。
「どうだ?ノア」ガイアスくんがノアくんに魔物の様子を聞いた。魔物の殆どは丈がガイアスくんより少し低いか、大きくても同じくらいなので、ガイアスくんの頭に乗ったノアくんにみてもらっているのだ。
「部屋は氷の障壁で5ヶ所に仕切られてるみたいです。魔物は空間の6割くらいを占めています」ノアくんが角度を色々変えながら体を伸ばすようにして氷の向こう側を観察するのを、ガイアスくんが落っこちないように、両手で支えている。
氷の壁の向こう側はそこまでくっきりと見える状態ではないので状態を明確に言うのは難しい。
奥へ向かうほどボンヤリとした見えかたをしている。
少し移動しながら、続けてノアくんに観察してもらっていると、ノアくんが「1体、他より明らかに大きいのがいます」と報告してくれた。
ガイアスくんがノアくんに「強そうか?」と尋ねると、ノアくんは首を小さくふって「わかりません」と答えた。
その1体が特別に周りの魔物を攻撃してるとか、そういう状態とは違うので、強さまでは推し量れない。
「でも、他の魔物からめちゃくちゃに押されたり踏まれても、なすがままにされていないです。すごく体力や耐久が高そうに見えます」
多くの魔物は踏まれたり押されると力に逆らいきれず、移動をさせられたりしている。
「それだけわかれば充分だノア、おつかれさん」
ガイアスくんはそう言うと、ノアくんを乗せたまま防御結界の小屋の方へ歩き出した。私とエレイナさんも小屋へ向かう。
そろそろジャックくんとバッシュくんがこちらに戻ってくる。
私たちは小屋で朝食の準備に取りかかった。
朝食の後は昨日そのままにした魔石と素材を拾って、4番目と5番目の扉付近まで出来れば今日中に空白地帯にしてしまおうと考えている。
少し経つと火にかけたスープからいい匂いが漂ってきた。今日の朝は塩漬けの魚を塩抜きし調理したものと、野菜のスープ、野菜と芋の甘辛煮、これは味をだいぶ濃くした保存食だ。それと穀物の粉を水で練って焼き上げた少し堅いパンもどきに、甘くて温かい飲み物を添えている。
戻ってきたジャックくんとバッシュくんが、ガイアスくんに通路の様子を報告し終えた辺りで、テーブルに朝食が6人分並んだ。ジャックくんとバッシュくんがホカホカした感じなので、私とガイアスくんは通路がものすごく冷えていることを覚悟した。
◇
朝の食事をし終えて全員で通路に向かうと、ジャックくんとバッシュくんに再び凍らされて動けなくされた魔物たちと、すっかり冷えた通路の床に散らばった小さな魔石と素材に迎えられた。
素材と魔石は昨日拾うのを後回しにしたものだ。
「ジャックとバッシュは加減をしないから、加減するように言っておいたのは正解だったな」と、ガイアスくんが真面目な顔でそう言うと、床に落ちた魔石を拾っていたバッシュくんとノアくんが心外そうに「加減くらいするよ」と反発した。
通路の魔物は見た感じ、今からだと私たちが昼の食事を終えるくらいまで、大して動けそうにないくらいには凍らされている。
私たちがやられたら、通常生きていられないと思うのだけど、魔物たちは凍結が解けると普通に動き出して襲ってくる。
加えてここの魔物は痛い思いをしたから逃げようとかそういう所がない。
ガイアスくんたちの話では「魔物による」ということらしいんだけれど。
魔石と素材を拾い終わった後、小屋に戻る前に『ロビー』の様子を見てみることにして、中の様子を窺う。
本格的に『ロビー』で新しい手がかりが無いかを調べ直すのは、通路を自由に行き来出来るようにしてからの予定にしたところだ。
それまではすでに持ち出した資料や記録用の魔導具の方を見直す作業を行っていく。
『ロビー』内の中央辺りまできて部屋を見回して特に変わったところがないのを確認すると、バッシュくんが少しだけ残念そうにした。
実はバッシュくんとノアくんは『ロビー』に『三郎太』対策の『仕掛け』を施している。
もし『三郎太』が『ロビー』に現れたら、バッシュくんたちに『マーキング』され、私たちがこの遺跡を『三郎太』と再会すること無く脱出しても、『三郎太』の情報をある程度持ち帰ることが出来る、という寸法になっている。
◇
通路と『ロビー』の様子も見終わったあと、小屋に戻った私たちは、エレイナさんが厨房でお湯を沸かして飲み物を用意してくれている間、拾い集めた魔石の欠片と素材の数を数えることにした。
テーブルの上に魔石が転がり落ちにくいように布を敷いて、袋から魔石と素材を出して広げる。
「多いな。そういえば初日と2日目の分もまだ拾えてなかったから、その分が多く見えるのか」
ガイアスくんが驚きながらも、同時に思い出してそう言った。
魔物が回復に使った分の魔石は失くなってしまったはずだけど、実際には思ったほど使われずに残っていたらしく、魔石の数は4,501個もあった。素材は2,506個。
過密な状態だった上に途中からは凍らされたりと、魔物にとっても落ちた魔石を拾うのは大変だったのかもしれない。
気がつくと良い香りと共に、人数分の飲み物がテーブルの上に置かれている。
私たちが魔石を数え終え、置かれた飲み物で一息ついていると、エレイナさんが白い素材を手にとって「きれいだなあ」という表情をして眺め始めた。
白い素材は黒い素材と違い、滑らかな表面をしていて、形は丸くはないけれど、真珠を思わせる光沢を持った素材のため気持ちがわかる。魔導具のような特別な効果が生まれ無かったとしても、ちょっとした装飾品などに利用できそうだ。
エレイナさんがそうしてるうちに、バッシュくんとノアくんがガイアスくんに頼んで仕訳けた『ロビー』の資料と記録用の魔導具をテーブルの上に置いた。今のところ目新しい発見は無い。
それを今度は全員で目を通して行く。
資料と言えそうなのはこの遺跡の間取りや、案内について示されたものや、時間割り、設備、洞窟内の構造について記されたもの、それぞれの部屋についての簡単な説明、利用したお客様名簿のらしきものだ。
どれも古代文字で書かれているけれど、挿し絵が多いためなんとなく何について書かれているかを察することが難しくはない。
それらを読んでいくと、『お客様』は装置のある部屋で管理された、専用の出入口を通って出入りしていたことがわかる。
ここが稼働していた当時はその出入口が『お客様』であれば自由に行き来出来るようになっていて、特定の時間帯は閉じられて管理されていたらしい。現在は閉じられた状態にあるのだ。
『ロビー』の情報で気になっているのは、見取り図が2つ見つかっていることだ。
1つは記録用の魔導具から見つかった簡易の見取り図と、紙に書き出された見取り図。
現実に近く描かれているのは紙に書き出された方なのだけど、どちらも詳細などが特に説明書きだされていないため、この謎を今すぐ追及しようとすると、時間ばかりがかかる可能性がある。
ただ単に正確さを必要としない時期に書かれた物が保存されているだけ、ということも考えられる。
そのため、今は情報としてこの事実を共有だけしている。
「『ロビー』の見直しは現時点ではこのくらいでいいだろう」
そう言うとガイアスくんはカップに残った飲み物をグイッっと飲み干した。
今は『ロビー』の資料の見直しで、装置を動かす必要性を再確認した格好だけど、まだ調べていないものや、わかっていないことがある。
時刻魔導具を見ると、まだ昼になっていない時間だったけれど、私たちは昼食の準備を始めた。
昼にはおそらく通路の魔物が動き出す。4番目と5番目の魔物の部屋の前まで空白地帯に出来ればこの先、私たちの自由度が高まってくる。ただし、通路の奥へ行くほど魔物の数は増えてくる。
エレイナさんの弓矢や魔術でも、これまでは攻撃が届かない位置だったからだ。
「気を引き締めていこう」
ガイアスくんの言葉に全員が頷いた。
◇
早めに昼食を済ませて通路に出た私たちは、魔物に対する各々の役割を確認している。すぐそばにはジャックくんとバッシュくんに凍らされた魔物がいて、いつ動き出して飛びかかってきてもおかしくない状態だ。
私の緊張をよそに、ガイアスくんたちは、バッシュくんやノアくんも含めて、みんな落ち着いている。
「まだ断定は出来ないが、『書斎』の本には4番目と5番目の魔物の部屋の魔物は、火属性と雷属性とある。火属性は水属性で対応が可能だが、すぐ側にいる雷属性の魔物が水属性にどんな反応を示すかわからない」
『書斎』でバッシュくんとジャックくんが見つけたシリーズ物の本によれば、『1番目の魔物の部屋』の魔物の魔力属性は風、2番目が水、3番目が地属性或いは土関連の魔力属性ということになる。
「そこでマクスさんの地属性魔術が重要になってくる」ガイアスくんがそう言ったことで、バッシュくんたちの視線が私に集まった。緊張してしまう。「マクスさんにお願いしたいのは、雷属性の魔物たちの足止めだ」私は緊張をかくせないまま、頷いた。
私たちの戦略としては、これまで通り、ジャックくんとガイアスくんが前衛として魔物と対峙し、エレイナさんとバッシュくんたちが後方から魔物に対応する。
これまでと違うのは、私たちの適正魔力や扱える魔術の属性と、魔物たちの属性との相性が、あまり好ましくないという点だ。
そのため、私の役割も足止めで変わりはないけれど、その責任と重要性は増した。
絶対とは言えないが、エレイナさんが得意とする風属性魔術『風刃』は火属性に力を与えてしまう可能性がある。
水属性魔術の使用は雷属性の魔物に対して不安材料となる。
昨日と今朝の通路の魔物たちへのジャックくんたちの様子を考えれば、それほど心配するような事態はあり得ないとは思うんだけど……。
話している間に、前方から魔物がジャックくんに飛びかかってきた!私には魔物が素早く見えて、奇襲のように感じたけれど、ジャックくんはそれを難なく弾き返す。
その衝撃で魔物が奥へ飛ばされ、何体かの魔物が巻き添えになった。
すでにガイアスくんも『大盾』を発動している。
【アースバインド!】
私はあわてて地属性魔術を発動させた。
アイテムバッグにはたくさん魔力回復薬を入れてきている。薬草も。
私が遅れをとっている間にも、バッシュくんとノアくんが『二重奏』を発動し、続けてエレイナさんが短弓技能『霧雨』で魔物たちを頭上から襲う。
さらにバッシュくんが火属性の魔物たちの頭上に魔力で生み出した水滴の雨を降らせて熱を奪い、さらに火属性魔術で追い討ちをかけるように熱を奪って、凍結させていく!
私の『アースバインド』は雷属性の魔物の一部しか押さえられていない。なるべく効果的に術が発動するように工夫しているつもりなのだけど。
魔物の凍結が解除されるのが少しだけ速い気がする。
そんな心配は無用だと言うように、ジャックくんとバッシュくんに凍らされた魔物たちをガイアスくんの大剣が凪払っていく。
氷と魔石が空中に飛び散ってキラキラと星のように散った。
それからさほど時間もかけず、4番目の魔物の部屋の入り口がバッシュくんの凍結魔術とジャックくんの『氷結』によって塞がれた。
ガイアスくんが両手に構えていた大剣を一度置いて、装備を大盾に切り替え、ふぅ、と息をつく。
それから後ろの私たちを振り返り「ちょっと休もう」と声をかけてくれた。
ジャックくんの方はそのまま戦っている。防御結界がないため前衛の2人ともが休憩してしまうと、魔物たちを止められない。
前方を全部凍らせるか。戦いやすいように結界のあるところまで後退するのも手段のひとつだと思うけれど。
そうすると再び通路は魔物に埋め尽くされ、凍らせているだけの魔物の部屋の出入口から再び魔物が溢れ出すことに対応することになる。
私は5番目の魔物の部屋の入口付近で『アースバインド』を1度だけ発動させて、持ってきておいた木箱を椅子にしてエレイナさんやバッシュくんたちと座ることにした。
ジャックくんとバッシュくんが、4番目の魔物の部屋出入口を塞いだため、通路に残っている魔物は、殆どが雷属性の魔物になっている可能性が高い。これまでに戦った魔物にも混ざっていたと思うけれど、割合としては少なかったと思われる。
しばらく経って、前方で辛抱強く魔物と対峙していたジャックくんが「バッシュ」と声を発した。
待っていたバッシュくんが立ち上がってガイアスくんによじ登った。
それから雷属性の魔物たちのがいる一番奥の狭い範囲に水属性の雨を降らせる。すると途端に、魔物を覆うように光が走って同時にパチィッと音と共に魔物同士で衝撃を受けたような反応を起こした。
しかし、魔物が衝撃を受け硬直するような反応をしたのは僅かな時間で何事もなかったように活発に動き出している。
「今ので5番目の魔物の部屋の魔物の属性が雷であることが、確定したと言ってよさそうだな」
ガイアスくんがそう言って大盾を前進させ、ジャックくんと並んだ。雷属性の魔物に水をかけると周囲に雷の力が放出されてしまい、思わぬ反応を引き起こす危険がある。
なるべく雷属性の魔物たちに近付かれないよう、私が『アースバインド』、エレイナさんが弓で射る。
バッシュくんとノアくんが防御魔術でガイアスくんとジャックくんを保護した。
「雷の力と熱にも対抗できるはずだよ!」
バッシュくんたちがガイアスくんたちに声をかけた。
「ノア、バッシュ、助かる」
2人が一気に剣技を叩き込んでいく。
しばらく経ってジャックくんが『氷結』を剣に魔術付与し、魔物たちの動きを封じ始めた。
魔物たちが徐々に凍らされていき、次々と濁流のように溢れ流出していた魔物たちが、ようやくその流れを塞き止められ始めた。
バッシュくんたちが魔力回復ポーションを使って2番目の魔物の部屋と3番目の魔物の部屋の出入口前に防御結界『屈強なコテージ』の魔方陣を構築していく。
あと少しだ。
【アースバインド!】【二重奏!】【風刃!】
ガイアスくんとジャックくんが怯まず飛びかかってくる魔物たちを凪払っていく。バッシュくんたちが4番目の魔物の部屋出入口にも魔方陣をさらに構築する。
そうしてる間に5番目の魔物の部屋の出入口がジャックくんによって、完全に塞がれた。
まるでそのタイミングを知っていたかのように、ガイアスくんが大剣を両手で持って高く振り上げ、斜め前方に振り下ろす。
激しい衝撃音と共に魔物たちが倒され、周辺の魔物も巻き添え衝撃を受け、耐えきれずに倒されていく。
バッシュくんたちの『二重奏』やエレイナさんの『風刃』で、すでにギリギリだったのかもしれない。
「これで最後か?」ガイアスくんがそう言ったところで、『装置のある部屋』に入り込んでいた魔物が通路へ飛び出してきた。
魔物は勢い良く飛び出したものの、その勢いで壁にぶつかりそうになりながら、急旋回してジャックくんたちに襲いかかって返り討ちにされてしまった。
装置のある部屋は扉を開けっぱなしにしていたので、だいぶ魔物に荒らされていても不思議ではないし、今もまだ魔物がいてもおかしくない。
ジャックくんとガイアスくんが、やれやれと言った表情をしたあと、中に入ろうとしたジャックくんのことを、ガイアスくんが引き留めた。
するとバッシュくんとノアくんがちょこちょこと2人に近づいて、「『屈強なコテージ』の魔方陣を構築するから、魔物が来ないように、見張っててね」と言って作業を始めた。
しばらくしてバッシュくんが、私たちに少し離れるよう指示を出すと、魔方陣に仕上げの魔力を一気に注いでいく。
バッシュくんから魔力が放出されると、呼応して装置のある部屋出入口と、魔物の部屋の出入口に構築された魔方陣が光を放ち、強力な防御結界『屈強なコテージ』が発動していく。
それから少し時間を置いて、それぞれの出入口前に出来た防御結界の陣地内に、小さな小屋が現れた。
「完成!」バッシュくんとノアくんが充実感を漂わせる表情で言った。そしてそのまま、2人ともペタリと床に座り込んだ。
ジャックくんとエレイナさんが2人を抱き上げ、ジャックくんに抱き上げられたバッシュくんが、ジャックくんの頭に上に乗るように移動し、前にもたれるように伏せた。
通路を見渡すとあんなにもいた魔物たちが、もう1体もいない。
時刻魔導具の盤面に嵌め込まれた、とても小さな魔石が、蒼い光を放って私たちに夜を教えてくれている。
バッシュくんを頭に被るようにしているジャックくんを正面から見たガイアスくんとエレイナさんが、ちょっとだけ間を開けて吹き出した。
◇
エレイナさんとジャックくんにはバッシュくんたちと一緒に先に小屋へ戻ってもらい、食事の用意をしてもらうことにして、通路に残ったガイアスくんと私は魔石と素材を集める作業をすることになった。
改めて通路の全体を見渡してみると、床には扉の残骸や、障壁に使った棚などの板や切れっぱしが、素材や魔石と一緒になって床のあちこちに散らばっている。
魔物の部屋の出入口には扉の変わりにバッシュくんたちが作った防御結界の建物が出来て、もう私たちの出入りは自由だ。
ガイアスくんが試しに建物の扉を開けて中へ入ってみた。
外観だけみると、1番目の魔物の部屋に設置された『屈強なコテージ』の小さいものだけど。
私も興味があってすぐ後についていく。
中には1番目の魔物の部屋に構築した防御結界と同じように、厨房があって数人が寝泊まりできるくらいの寝室1つと生活のための設備が備えられていて、2、3人で使える仕様になっており、内装は木目調の暖かい雰囲気で統一されている。
『1番目の部屋』の『屈強なコテージ』の内装とは少しだけ違う。もしかして内装が選べるようになってるのかな?
「なんかいいこれ」ガイアスくんは楽しそうにそう言ってから「俺もこの魔方陣が作れるようになりたい」と呟いた。
私はそんなガイアスくんを見て
……ガイアスくんはテント生活に戻れるだろうか。
便利さより内装の暖かい雰囲気が気に入っただけにも見えるから大丈夫なのかな?
などと、年のせいなのか、つい余計な心配をしてしまう気持ちを振り払い、小窓から中の装置の様子が見えないか試しに覗いてみた。
残念ながら十分には中の様子は見えない。
「装置は明日確認しよう」
素材と魔石を拾い終えて1番目の魔物の部屋の『小屋』へ戻ると、夕食の準備が殆ど整っていて、バッシュくんとノアくんが出迎えてくれた。
奥の厨房から部屋の入口まで魚料理に使った香草の美味しそうな匂いがしてきた。
ちなみに香草は薬草にも使用される植物の一種で、怪我を瞬時に治癒させてしまうような薬草としての薬効は失われてしまうけれど調理に使って保存していたのだ。
香草は薬草に使用されるだけあって、魔力を多く含んでいる影響なのか香りが長く保たれている。
私とガイアスくんが中に入りテーブルをみると、赤や緑黄色の野菜の食欲をそそるスープ、主食の穀物が盛られた器と、香草を使った魚料理が大きめの平らなお皿に盛り付けられて並んでいた。
乾燥させた野菜を使用しているので色鮮やかとは言えないが、テーブルの料理を美味しそうに演出し、彩りを添えている。
「いただきます」「いただきまーす」
バッシュくんとノアくんがせっせと魚を口に運び、ガイアスくんが大盛りの穀物を魚料理と交互に食べながら、満足そうに野菜スープを飲んだ。
テーブルの中央には少量ずつだけど、食べやすい大きさにされた燻製肉や胡桃やナッツを並べたお皿も置かれていて、エレイナさんとジャックくんが機嫌良く食べている。
私も野菜のスープを飲み、魚料理を楽しみながらナッツをつまんだ。少し塩が効いていて美味しい。
こうして夜が更けていき、私たちは明日に備えて眠りに落ちるのだった。
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籠城戦4日目
推定魔物討伐数 12,000体~13,000体、素材獲得数843個(赤青黄白黒)、魔石の欠片1,624個
前日の素材獲得数2,566個(赤青黄白黒)、魔石の欠片4,621個
□共有アイテム□
◇主な食料56日分
◇嗜好品お菓子類(魔導系回復あり)、嗜好品、お菓子類(飴玉10粒、チョコ1箱)、未調理穀物6日分
◇魔力回復ポーション(EX132本、超回復112本、大252本、中1,028本、小1,434本)
◇治癒ポーション(EX132本、超回復254本、大1,020本、中2,420本、小5,018本)、薬草(治癒2,216袋、解毒120袋)2,336袋、他
□各自アイテムバッグ
ガイアス、ジャック、エレイナ、バッシュ、ノア、マクス
□背負袋
ガイアス、ジャック、エレイナ、バッシュ、ノア、マクス
□シナップ 推定魔物討伐数2,000体、 魔石の欠片378個、素材187個
「まだ大丈夫そうだ」「こっちもまだ放っておいて平気そう!」
時刻魔導具が早朝を教えてくれるころ、『1番目の魔物の部屋』の氷の壁の前で、ガイアスくんが寒そうにしながら、部屋の端の方にいるエレイナさんに手を振った。
ジャックくんとバッシュくんは魔物の様子を見に通路の方に行っている。
氷の壁は昨日とあまり変わらず、わずかに表面が溶けはじめてはいるものの、魔物たちの行く手を阻みながら周囲に冷気を撒き散らしていた。
ガイアスくんの頭の上に乗ったノアくんが一生懸命氷の向こう側にいる魔物を観察している。
「どうだ?ノア」ガイアスくんがノアくんに魔物の様子を聞いた。魔物の殆どは丈がガイアスくんより少し低いか、大きくても同じくらいなので、ガイアスくんの頭に乗ったノアくんにみてもらっているのだ。
「部屋は氷の障壁で5ヶ所に仕切られてるみたいです。魔物は空間の6割くらいを占めています」ノアくんが角度を色々変えながら体を伸ばすようにして氷の向こう側を観察するのを、ガイアスくんが落っこちないように、両手で支えている。
氷の壁の向こう側はそこまでくっきりと見える状態ではないので状態を明確に言うのは難しい。
奥へ向かうほどボンヤリとした見えかたをしている。
少し移動しながら、続けてノアくんに観察してもらっていると、ノアくんが「1体、他より明らかに大きいのがいます」と報告してくれた。
ガイアスくんがノアくんに「強そうか?」と尋ねると、ノアくんは首を小さくふって「わかりません」と答えた。
その1体が特別に周りの魔物を攻撃してるとか、そういう状態とは違うので、強さまでは推し量れない。
「でも、他の魔物からめちゃくちゃに押されたり踏まれても、なすがままにされていないです。すごく体力や耐久が高そうに見えます」
多くの魔物は踏まれたり押されると力に逆らいきれず、移動をさせられたりしている。
「それだけわかれば充分だノア、おつかれさん」
ガイアスくんはそう言うと、ノアくんを乗せたまま防御結界の小屋の方へ歩き出した。私とエレイナさんも小屋へ向かう。
そろそろジャックくんとバッシュくんがこちらに戻ってくる。
私たちは小屋で朝食の準備に取りかかった。
朝食の後は昨日そのままにした魔石と素材を拾って、4番目と5番目の扉付近まで出来れば今日中に空白地帯にしてしまおうと考えている。
少し経つと火にかけたスープからいい匂いが漂ってきた。今日の朝は塩漬けの魚を塩抜きし調理したものと、野菜のスープ、野菜と芋の甘辛煮、これは味をだいぶ濃くした保存食だ。それと穀物の粉を水で練って焼き上げた少し堅いパンもどきに、甘くて温かい飲み物を添えている。
戻ってきたジャックくんとバッシュくんが、ガイアスくんに通路の様子を報告し終えた辺りで、テーブルに朝食が6人分並んだ。ジャックくんとバッシュくんがホカホカした感じなので、私とガイアスくんは通路がものすごく冷えていることを覚悟した。
◇
朝の食事をし終えて全員で通路に向かうと、ジャックくんとバッシュくんに再び凍らされて動けなくされた魔物たちと、すっかり冷えた通路の床に散らばった小さな魔石と素材に迎えられた。
素材と魔石は昨日拾うのを後回しにしたものだ。
「ジャックとバッシュは加減をしないから、加減するように言っておいたのは正解だったな」と、ガイアスくんが真面目な顔でそう言うと、床に落ちた魔石を拾っていたバッシュくんとノアくんが心外そうに「加減くらいするよ」と反発した。
通路の魔物は見た感じ、今からだと私たちが昼の食事を終えるくらいまで、大して動けそうにないくらいには凍らされている。
私たちがやられたら、通常生きていられないと思うのだけど、魔物たちは凍結が解けると普通に動き出して襲ってくる。
加えてここの魔物は痛い思いをしたから逃げようとかそういう所がない。
ガイアスくんたちの話では「魔物による」ということらしいんだけれど。
魔石と素材を拾い終わった後、小屋に戻る前に『ロビー』の様子を見てみることにして、中の様子を窺う。
本格的に『ロビー』で新しい手がかりが無いかを調べ直すのは、通路を自由に行き来出来るようにしてからの予定にしたところだ。
それまではすでに持ち出した資料や記録用の魔導具の方を見直す作業を行っていく。
『ロビー』内の中央辺りまできて部屋を見回して特に変わったところがないのを確認すると、バッシュくんが少しだけ残念そうにした。
実はバッシュくんとノアくんは『ロビー』に『三郎太』対策の『仕掛け』を施している。
もし『三郎太』が『ロビー』に現れたら、バッシュくんたちに『マーキング』され、私たちがこの遺跡を『三郎太』と再会すること無く脱出しても、『三郎太』の情報をある程度持ち帰ることが出来る、という寸法になっている。
◇
通路と『ロビー』の様子も見終わったあと、小屋に戻った私たちは、エレイナさんが厨房でお湯を沸かして飲み物を用意してくれている間、拾い集めた魔石の欠片と素材の数を数えることにした。
テーブルの上に魔石が転がり落ちにくいように布を敷いて、袋から魔石と素材を出して広げる。
「多いな。そういえば初日と2日目の分もまだ拾えてなかったから、その分が多く見えるのか」
ガイアスくんが驚きながらも、同時に思い出してそう言った。
魔物が回復に使った分の魔石は失くなってしまったはずだけど、実際には思ったほど使われずに残っていたらしく、魔石の数は4,501個もあった。素材は2,506個。
過密な状態だった上に途中からは凍らされたりと、魔物にとっても落ちた魔石を拾うのは大変だったのかもしれない。
気がつくと良い香りと共に、人数分の飲み物がテーブルの上に置かれている。
私たちが魔石を数え終え、置かれた飲み物で一息ついていると、エレイナさんが白い素材を手にとって「きれいだなあ」という表情をして眺め始めた。
白い素材は黒い素材と違い、滑らかな表面をしていて、形は丸くはないけれど、真珠を思わせる光沢を持った素材のため気持ちがわかる。魔導具のような特別な効果が生まれ無かったとしても、ちょっとした装飾品などに利用できそうだ。
エレイナさんがそうしてるうちに、バッシュくんとノアくんがガイアスくんに頼んで仕訳けた『ロビー』の資料と記録用の魔導具をテーブルの上に置いた。今のところ目新しい発見は無い。
それを今度は全員で目を通して行く。
資料と言えそうなのはこの遺跡の間取りや、案内について示されたものや、時間割り、設備、洞窟内の構造について記されたもの、それぞれの部屋についての簡単な説明、利用したお客様名簿のらしきものだ。
どれも古代文字で書かれているけれど、挿し絵が多いためなんとなく何について書かれているかを察することが難しくはない。
それらを読んでいくと、『お客様』は装置のある部屋で管理された、専用の出入口を通って出入りしていたことがわかる。
ここが稼働していた当時はその出入口が『お客様』であれば自由に行き来出来るようになっていて、特定の時間帯は閉じられて管理されていたらしい。現在は閉じられた状態にあるのだ。
『ロビー』の情報で気になっているのは、見取り図が2つ見つかっていることだ。
1つは記録用の魔導具から見つかった簡易の見取り図と、紙に書き出された見取り図。
現実に近く描かれているのは紙に書き出された方なのだけど、どちらも詳細などが特に説明書きだされていないため、この謎を今すぐ追及しようとすると、時間ばかりがかかる可能性がある。
ただ単に正確さを必要としない時期に書かれた物が保存されているだけ、ということも考えられる。
そのため、今は情報としてこの事実を共有だけしている。
「『ロビー』の見直しは現時点ではこのくらいでいいだろう」
そう言うとガイアスくんはカップに残った飲み物をグイッっと飲み干した。
今は『ロビー』の資料の見直しで、装置を動かす必要性を再確認した格好だけど、まだ調べていないものや、わかっていないことがある。
時刻魔導具を見ると、まだ昼になっていない時間だったけれど、私たちは昼食の準備を始めた。
昼にはおそらく通路の魔物が動き出す。4番目と5番目の魔物の部屋の前まで空白地帯に出来ればこの先、私たちの自由度が高まってくる。ただし、通路の奥へ行くほど魔物の数は増えてくる。
エレイナさんの弓矢や魔術でも、これまでは攻撃が届かない位置だったからだ。
「気を引き締めていこう」
ガイアスくんの言葉に全員が頷いた。
◇
早めに昼食を済ませて通路に出た私たちは、魔物に対する各々の役割を確認している。すぐそばにはジャックくんとバッシュくんに凍らされた魔物がいて、いつ動き出して飛びかかってきてもおかしくない状態だ。
私の緊張をよそに、ガイアスくんたちは、バッシュくんやノアくんも含めて、みんな落ち着いている。
「まだ断定は出来ないが、『書斎』の本には4番目と5番目の魔物の部屋の魔物は、火属性と雷属性とある。火属性は水属性で対応が可能だが、すぐ側にいる雷属性の魔物が水属性にどんな反応を示すかわからない」
『書斎』でバッシュくんとジャックくんが見つけたシリーズ物の本によれば、『1番目の魔物の部屋』の魔物の魔力属性は風、2番目が水、3番目が地属性或いは土関連の魔力属性ということになる。
「そこでマクスさんの地属性魔術が重要になってくる」ガイアスくんがそう言ったことで、バッシュくんたちの視線が私に集まった。緊張してしまう。「マクスさんにお願いしたいのは、雷属性の魔物たちの足止めだ」私は緊張をかくせないまま、頷いた。
私たちの戦略としては、これまで通り、ジャックくんとガイアスくんが前衛として魔物と対峙し、エレイナさんとバッシュくんたちが後方から魔物に対応する。
これまでと違うのは、私たちの適正魔力や扱える魔術の属性と、魔物たちの属性との相性が、あまり好ましくないという点だ。
そのため、私の役割も足止めで変わりはないけれど、その責任と重要性は増した。
絶対とは言えないが、エレイナさんが得意とする風属性魔術『風刃』は火属性に力を与えてしまう可能性がある。
水属性魔術の使用は雷属性の魔物に対して不安材料となる。
昨日と今朝の通路の魔物たちへのジャックくんたちの様子を考えれば、それほど心配するような事態はあり得ないとは思うんだけど……。
話している間に、前方から魔物がジャックくんに飛びかかってきた!私には魔物が素早く見えて、奇襲のように感じたけれど、ジャックくんはそれを難なく弾き返す。
その衝撃で魔物が奥へ飛ばされ、何体かの魔物が巻き添えになった。
すでにガイアスくんも『大盾』を発動している。
【アースバインド!】
私はあわてて地属性魔術を発動させた。
アイテムバッグにはたくさん魔力回復薬を入れてきている。薬草も。
私が遅れをとっている間にも、バッシュくんとノアくんが『二重奏』を発動し、続けてエレイナさんが短弓技能『霧雨』で魔物たちを頭上から襲う。
さらにバッシュくんが火属性の魔物たちの頭上に魔力で生み出した水滴の雨を降らせて熱を奪い、さらに火属性魔術で追い討ちをかけるように熱を奪って、凍結させていく!
私の『アースバインド』は雷属性の魔物の一部しか押さえられていない。なるべく効果的に術が発動するように工夫しているつもりなのだけど。
魔物の凍結が解除されるのが少しだけ速い気がする。
そんな心配は無用だと言うように、ジャックくんとバッシュくんに凍らされた魔物たちをガイアスくんの大剣が凪払っていく。
氷と魔石が空中に飛び散ってキラキラと星のように散った。
それからさほど時間もかけず、4番目の魔物の部屋の入り口がバッシュくんの凍結魔術とジャックくんの『氷結』によって塞がれた。
ガイアスくんが両手に構えていた大剣を一度置いて、装備を大盾に切り替え、ふぅ、と息をつく。
それから後ろの私たちを振り返り「ちょっと休もう」と声をかけてくれた。
ジャックくんの方はそのまま戦っている。防御結界がないため前衛の2人ともが休憩してしまうと、魔物たちを止められない。
前方を全部凍らせるか。戦いやすいように結界のあるところまで後退するのも手段のひとつだと思うけれど。
そうすると再び通路は魔物に埋め尽くされ、凍らせているだけの魔物の部屋の出入口から再び魔物が溢れ出すことに対応することになる。
私は5番目の魔物の部屋の入口付近で『アースバインド』を1度だけ発動させて、持ってきておいた木箱を椅子にしてエレイナさんやバッシュくんたちと座ることにした。
ジャックくんとバッシュくんが、4番目の魔物の部屋出入口を塞いだため、通路に残っている魔物は、殆どが雷属性の魔物になっている可能性が高い。これまでに戦った魔物にも混ざっていたと思うけれど、割合としては少なかったと思われる。
しばらく経って、前方で辛抱強く魔物と対峙していたジャックくんが「バッシュ」と声を発した。
待っていたバッシュくんが立ち上がってガイアスくんによじ登った。
それから雷属性の魔物たちのがいる一番奥の狭い範囲に水属性の雨を降らせる。すると途端に、魔物を覆うように光が走って同時にパチィッと音と共に魔物同士で衝撃を受けたような反応を起こした。
しかし、魔物が衝撃を受け硬直するような反応をしたのは僅かな時間で何事もなかったように活発に動き出している。
「今ので5番目の魔物の部屋の魔物の属性が雷であることが、確定したと言ってよさそうだな」
ガイアスくんがそう言って大盾を前進させ、ジャックくんと並んだ。雷属性の魔物に水をかけると周囲に雷の力が放出されてしまい、思わぬ反応を引き起こす危険がある。
なるべく雷属性の魔物たちに近付かれないよう、私が『アースバインド』、エレイナさんが弓で射る。
バッシュくんとノアくんが防御魔術でガイアスくんとジャックくんを保護した。
「雷の力と熱にも対抗できるはずだよ!」
バッシュくんたちがガイアスくんたちに声をかけた。
「ノア、バッシュ、助かる」
2人が一気に剣技を叩き込んでいく。
しばらく経ってジャックくんが『氷結』を剣に魔術付与し、魔物たちの動きを封じ始めた。
魔物たちが徐々に凍らされていき、次々と濁流のように溢れ流出していた魔物たちが、ようやくその流れを塞き止められ始めた。
バッシュくんたちが魔力回復ポーションを使って2番目の魔物の部屋と3番目の魔物の部屋の出入口前に防御結界『屈強なコテージ』の魔方陣を構築していく。
あと少しだ。
【アースバインド!】【二重奏!】【風刃!】
ガイアスくんとジャックくんが怯まず飛びかかってくる魔物たちを凪払っていく。バッシュくんたちが4番目の魔物の部屋出入口にも魔方陣をさらに構築する。
そうしてる間に5番目の魔物の部屋の出入口がジャックくんによって、完全に塞がれた。
まるでそのタイミングを知っていたかのように、ガイアスくんが大剣を両手で持って高く振り上げ、斜め前方に振り下ろす。
激しい衝撃音と共に魔物たちが倒され、周辺の魔物も巻き添え衝撃を受け、耐えきれずに倒されていく。
バッシュくんたちの『二重奏』やエレイナさんの『風刃』で、すでにギリギリだったのかもしれない。
「これで最後か?」ガイアスくんがそう言ったところで、『装置のある部屋』に入り込んでいた魔物が通路へ飛び出してきた。
魔物は勢い良く飛び出したものの、その勢いで壁にぶつかりそうになりながら、急旋回してジャックくんたちに襲いかかって返り討ちにされてしまった。
装置のある部屋は扉を開けっぱなしにしていたので、だいぶ魔物に荒らされていても不思議ではないし、今もまだ魔物がいてもおかしくない。
ジャックくんとガイアスくんが、やれやれと言った表情をしたあと、中に入ろうとしたジャックくんのことを、ガイアスくんが引き留めた。
するとバッシュくんとノアくんがちょこちょこと2人に近づいて、「『屈強なコテージ』の魔方陣を構築するから、魔物が来ないように、見張っててね」と言って作業を始めた。
しばらくしてバッシュくんが、私たちに少し離れるよう指示を出すと、魔方陣に仕上げの魔力を一気に注いでいく。
バッシュくんから魔力が放出されると、呼応して装置のある部屋出入口と、魔物の部屋の出入口に構築された魔方陣が光を放ち、強力な防御結界『屈強なコテージ』が発動していく。
それから少し時間を置いて、それぞれの出入口前に出来た防御結界の陣地内に、小さな小屋が現れた。
「完成!」バッシュくんとノアくんが充実感を漂わせる表情で言った。そしてそのまま、2人ともペタリと床に座り込んだ。
ジャックくんとエレイナさんが2人を抱き上げ、ジャックくんに抱き上げられたバッシュくんが、ジャックくんの頭に上に乗るように移動し、前にもたれるように伏せた。
通路を見渡すとあんなにもいた魔物たちが、もう1体もいない。
時刻魔導具の盤面に嵌め込まれた、とても小さな魔石が、蒼い光を放って私たちに夜を教えてくれている。
バッシュくんを頭に被るようにしているジャックくんを正面から見たガイアスくんとエレイナさんが、ちょっとだけ間を開けて吹き出した。
◇
エレイナさんとジャックくんにはバッシュくんたちと一緒に先に小屋へ戻ってもらい、食事の用意をしてもらうことにして、通路に残ったガイアスくんと私は魔石と素材を集める作業をすることになった。
改めて通路の全体を見渡してみると、床には扉の残骸や、障壁に使った棚などの板や切れっぱしが、素材や魔石と一緒になって床のあちこちに散らばっている。
魔物の部屋の出入口には扉の変わりにバッシュくんたちが作った防御結界の建物が出来て、もう私たちの出入りは自由だ。
ガイアスくんが試しに建物の扉を開けて中へ入ってみた。
外観だけみると、1番目の魔物の部屋に設置された『屈強なコテージ』の小さいものだけど。
私も興味があってすぐ後についていく。
中には1番目の魔物の部屋に構築した防御結界と同じように、厨房があって数人が寝泊まりできるくらいの寝室1つと生活のための設備が備えられていて、2、3人で使える仕様になっており、内装は木目調の暖かい雰囲気で統一されている。
『1番目の部屋』の『屈強なコテージ』の内装とは少しだけ違う。もしかして内装が選べるようになってるのかな?
「なんかいいこれ」ガイアスくんは楽しそうにそう言ってから「俺もこの魔方陣が作れるようになりたい」と呟いた。
私はそんなガイアスくんを見て
……ガイアスくんはテント生活に戻れるだろうか。
便利さより内装の暖かい雰囲気が気に入っただけにも見えるから大丈夫なのかな?
などと、年のせいなのか、つい余計な心配をしてしまう気持ちを振り払い、小窓から中の装置の様子が見えないか試しに覗いてみた。
残念ながら十分には中の様子は見えない。
「装置は明日確認しよう」
素材と魔石を拾い終えて1番目の魔物の部屋の『小屋』へ戻ると、夕食の準備が殆ど整っていて、バッシュくんとノアくんが出迎えてくれた。
奥の厨房から部屋の入口まで魚料理に使った香草の美味しそうな匂いがしてきた。
ちなみに香草は薬草にも使用される植物の一種で、怪我を瞬時に治癒させてしまうような薬草としての薬効は失われてしまうけれど調理に使って保存していたのだ。
香草は薬草に使用されるだけあって、魔力を多く含んでいる影響なのか香りが長く保たれている。
私とガイアスくんが中に入りテーブルをみると、赤や緑黄色の野菜の食欲をそそるスープ、主食の穀物が盛られた器と、香草を使った魚料理が大きめの平らなお皿に盛り付けられて並んでいた。
乾燥させた野菜を使用しているので色鮮やかとは言えないが、テーブルの料理を美味しそうに演出し、彩りを添えている。
「いただきます」「いただきまーす」
バッシュくんとノアくんがせっせと魚を口に運び、ガイアスくんが大盛りの穀物を魚料理と交互に食べながら、満足そうに野菜スープを飲んだ。
テーブルの中央には少量ずつだけど、食べやすい大きさにされた燻製肉や胡桃やナッツを並べたお皿も置かれていて、エレイナさんとジャックくんが機嫌良く食べている。
私も野菜のスープを飲み、魚料理を楽しみながらナッツをつまんだ。少し塩が効いていて美味しい。
こうして夜が更けていき、私たちは明日に備えて眠りに落ちるのだった。
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籠城戦4日目
推定魔物討伐数 12,000体~13,000体、素材獲得数843個(赤青黄白黒)、魔石の欠片1,624個
前日の素材獲得数2,566個(赤青黄白黒)、魔石の欠片4,621個
□共有アイテム□
◇主な食料56日分
◇嗜好品お菓子類(魔導系回復あり)、嗜好品、お菓子類(飴玉10粒、チョコ1箱)、未調理穀物6日分
◇魔力回復ポーション(EX132本、超回復112本、大252本、中1,028本、小1,434本)
◇治癒ポーション(EX132本、超回復254本、大1,020本、中2,420本、小5,018本)、薬草(治癒2,216袋、解毒120袋)2,336袋、他
□各自アイテムバッグ
ガイアス、ジャック、エレイナ、バッシュ、ノア、マクス
□背負袋
ガイアス、ジャック、エレイナ、バッシュ、ノア、マクス
□シナップ 推定魔物討伐数2,000体、 魔石の欠片378個、素材187個
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