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第10話 変化
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━籠城戦5日目━
早朝、私たちが1番目の魔物の部屋から通路へ出ると壁、床、天井至るところに魔物との戦いの形跡、傷痕は残っているものの、それは意外なほどわずかで、なにも知らずにみれば、つい昨日まで無数とも言える魔物の群れがいたなどと、感じさせないほど落ち着いた景観になっていた。
出入口に設置された防御結界内の『小屋』がそういった平和とも言える雰囲気をさらに強調するようになっている。
「ここの壁はもっと大きな傷になってたと思ったが修復してる」
「修復する遺跡はよくあるじゃないか」
「早すぎないか?」
壁などの修復能力にガイアスくんが驚いているのに対して、ジャックくんの方はそれほどでもないようだ。
私は改めて通路の天井を見上げた。
この遺跡の光源はわからないが、明るさは保たれたまま。
天井の素材その物が光源であるなら不思議では無いけれど、相応の魔力、或いはエネルギー、そうでなければ非常に高度な技術が必要なはずだ。
私につられるように一緒に天井を見ていたエレイナさんが、天井の模様を「綺麗」と表現した。彼女に抱き上げられた状態のバッシュくんたちも一緒に見上げている。
『装置のある部屋』の壁などには魔鉱石が使われているようだったから、この遺跡が造られた時代はそういうエネルギー源となるものの豊富さと魔導技術の発展に寄与する何かが合致していたのかもしれない。
『ロビー』や『お客さん用の部屋』など各部屋が数千年の長い時、それなりの美観を保っていたのも納得が出来た気がする。
私たちが何気なく立っているだけのこの場所は、大昔の人たちの技術が詰まった場所と言っていい。
こういう訪れ方でなければ、どんなによかっただろう。
そう思ったけれど、そのままだと気持ちが曇ってくる気がしたので、こういう事態だからこそ目にすることが出来ているのだからと思い直すことにした。
それから、私の思考はガイアスくんやジャックくんの様子から、彼らがこういった遺跡関連の技術にさほど驚いていない事実に直面してしまう。
加えて目の当たりにしている彼らと魔物との力量の差。
謎の魔物『三郎太』に対する警戒も、2人が嫌がっているのは『三郎太』が使う転送魔術によって自分たちがその場から離脱されることを懸念してのものだ。
姿の見えない『何者か』と『シナップ』はともかく、『三郎太』ではガイアスくんとジャックくんに勝てないだろう。
私たちの最初の頃の想定では魔物を倒すのにはもっと時間がかかると考えていたし、そのために食料や回復アイテムも無限にあって困らないくらいに私なんかは特に考えていた。
私の予想というか、イメージでは、魔物との連戦で彼らが受ける損傷を回復させるために回復薬は大量に消費され、魔力回復にも四苦八苦すると思っていたけれど、実際にはそうなっていない。
修復されてきてわかりにくくなっているけれど、通路に残る戦いの形跡は魔物が一概に弱いと示すようなものには見えないし、エレイナさんの弓や魔術で一撃で倒せるような魔物も少なかったはずだ。
魔物が弱いというより、ガイアスくんたちが想定より強いとしか思えない。
私が安心と彼らへの信頼感を実感する一方で、彼ら自身はもっと強い魔物の出現を想定し、用心して行動している。
今もなおそうであるのが伝わってくるけれど……。
私は今さらと思いながら、エレイナさんに尋ねた。
「私が聞いているガイアスくんとジャックくんの冒険者ランクと、彼らの実力がどうも見合わない気がするんだけど」
彼らが強いという意味で聞いていることはすぐに伝わったはずだ。
直接聞いても良かったんだけど、エレイナさんが近くにいたので聞きやすかった。
するとエレイナさんが「そういえば2人ともランクの見直しをしてないかもしれないですね!」と、気がついたように言った。
「私はちゃんとランクの見直しをして、更新しています!」
彼女の笑顔が、どこか寂しげに私には映った。
長い通路の奥に向かって右側に5つの扉のあった出入り口には、扉の代わりに、バッシュくんたちが構築した魔方陣『屈強なコテージ』が設置され、そのうちの1つは部屋の内側、残り4つの『小屋』が通路の側に建っている。
そして『装置のある部屋』の出入口にも『屈強なコテージ』の『小屋』が建っているので、落ち着いてみると、通路は木造の居住地のような雰囲気になっていた。
遺跡に使用されている魔力を多く含む建築材の素材の性質や、『何者か』によって魔力がエネルギーとして充填されたせいなのか、それとも修復機能に魔力が注がれ、実際に光が弱くなっていたのか。
それとも私の心象を表していただけだったのか、魔物が犇めいていた時にはどこか薄暗く感じていた通路が再び明るさを取り戻しているように見える。
「よし!行こう」ガイアスくんの力強い声が、魔物がいなくなった通路に響いた。
ようやく遺跡内の全ての部屋へ行き来が出来るようになった私たちは、朝食を済ませ、身支度を整えると予定通り『装置のある部屋』に向かう。
「魔物が入り込んで荒らされてはいるかもしれないが、資料や手がかりが残されているかもしれない場所でもある。それに念のため装置の無事も確認したい」
ガイアスくんが私たちに確認するように言った。
「装置の鍵は魔物の『シナップ』に1つ持っていかれてしまったが、それで終わりと決まった訳じゃないからな。装置にはまだ何か他の役割があるかもしれない」
ガイアスくんがそう言って力強く歩いている。
そんなガイアスくんを見るジャックくんの表情はいつも明るい。
ただ、『装置のある部屋』は謎の魔物『三郎太』とも遭遇し、バッシュくんとノアくんが酷い目にあったところでもある。
『三郎太』は『シナップ』と違い、こちらへの敵意や憎悪が凄まじかった。
私は『三郎太』と対峙した際に頭の中に響いた『三郎太』の声を思い出すと、嫌な寒気を感じる。
エレイナさんも一緒にいて、彼女の魔導術が効かないことを体験している。彼女は風属性の魔導術と水属性の魔導術が使えるが、そのどちらも効果がなかったという。
私の視界でもエレイナさんが魔術を使ったことがわかっただけで、その魔術式が『三郎太』に発動しているのがわからなかった。
そのためエレイナさんが若干不安げにしたけれど、当のバッシュくんたちは『ロビー』に施した『三郎太』対策の仕掛けからもみてとれるように、何か秘策をもって対応しようという意気込みのようなものを醸し出している。
そういえばバッシュくんたちは魔物専用の魔導具を持っているのだった。消費魔力が大きすぎて普段は使えないと言っていたけれど。
バッシュくんとノアくんが魔導具を取り出したときの『三郎太』の抵抗ぶりを思い出して私は思った。
本当は、エレイナさんも私も『三郎太』の方の分の悪さを心配してあげた方がいいのかもしれない。
バッシュくんたちは保有する魔力の大きさから考えても、おそらく見た目より強い。私は彼らが時折見せるすばしっこさや跳躍力、頑丈さに目を見張ることがある。
私は小さな2人を改めて見つめた。
バッシュくんもノアくんも、大人で編成された救援部隊に混じって活動し、私たちと行動を共にすることを許可された、れっきとした特殊ランク保持の冒険者なのだ。
加えてガイアスくんもジャックくんもエレイナさんも、魔導研究ギルドと商人ギルドの共同開発の装備品に備えられた魔導技術をほとんど使わずにここまで来ている。
そこまで考えて、私は自分の身体の中に、迸るような感情が涌き出てくるのを禁じ得なくなってきた。
「『三郎太』への警戒も必要だが、まだ魔物がいるとしたら、雷属性の可能性が高い。気をつけよう」
ガイアスくんが私たちに注意を促した。
たとえ雷属性だったとしても、ここの魔物の強さや肉体的強度は、今のところガイアスくんとジャックくんにとって脅威と言えないように思う。今のところ食料もアイテムもまだまだ充分に残っている。
「雷属性の魔物からの攻撃は、痺れや麻痺とかを引き起こすことがあるから注意してくれ」
雷属性の魔物からの攻撃には高熱によるダメージや範囲攻撃が多いなど、ガイアスくんが説明しながら何か思い出したのか、嫌そうな表情をした。
ジャックくんとエレイナさんは、なにも言わないけど、微妙にガイアスくんを見ない。
「2人とも、どうしたの」ノアくんに円らな瞳で聞かれたエレイナさんが「なんでもないのよ。ノアちゃん」
と答えているすぐそばで、バッシュくんがやはり無垢な瞳で
「嫌なことでも思い出した?」
と気遣いながらガイアスくんに尋ねている。
『装置のある部屋』の前まで来ると、私たちは出入口前に設置した防御結界の小屋には入らず、半ノーツあるかないかの幅になった結界の端をガイアスくんを先頭にして歩き、ゆっくりと『装置のある部屋』の中へ入った。
防御結界『屈強なコテージ』は魔方陣1つで構築されたものは陣地の殆どが建物で占められるので、戦い向きとは言いにくい。
「屋上か何かがある建物だと使い勝手がだいぶ変わると思うわ」
エレイナさんがバッシュくんとノアくんに話していて、ノアくんが熱心な様子で記録している。
私はその様子を見ながら、防御結界『屈強なコテージ』がもうすぐ改良されて『要塞』に進化しそうだな、と思ってちょっぴり開発に参加でもしているような気分になった。
部屋に入ると、中は思ったほど荒らされてはおらず、藍色の塔のような見た目の装置も、無事にそのまま立っている。
ただ、装置の周りに出現していた球体や立方体は消えていた。
エレイナさんが装置を完全に怪しい物を見る目で見ている。
動きやすい椅子は何個か倒れた状態にはなっているものの、位置などはテーブルや椅子も以前訪れた時とほとんど同じ場所のように思える。
「もっと荒らされてるかと思ったけど、そうでもなかったな」
ジャックくんが倒れた椅子を戻しながら言った。
彼は普段あまり表情を崩さないが、いくらかほっとしたような表情を浮かべている。もしかするとわかりにくいだけなのかもしれない。
少し時間が経つと、1人で装置の向こう側まで行き、潜んでいる魔物がいないか見てきたガイアスくんが戻ってきて、装置の近くで待機していた私たちに報告してくれた。
「魔物はいない。昨日飛び出してきたのが入り込んだ最後の1体だったみたいだ」
扉を開け放って私たちが『第1ゲート』の出入り口前まで走り、魔物が通路を埋め尽くしてから何日も経過していたため、当然、開け放たれた『装置のある部屋』へも魔物が流れ込んでいると覚悟していたけれど。
私なんかは初め、場合によって装置が魔物に破壊されてしまうような事態も懸念していたくらいだ。
それで今日まで大して何も思わずにいられたのは
「あの装置は高魔力を含む物質でできていて、その上高い魔導技術で防御も施されてるから、簡単には壊れないと思うよ」
と、バッシュくんとノアくんが揃って否定してくれたおかげだ。
それに装置が壊れていたら壊れていたで、ガイアスくんたちの言う通り、別の方法を探す。
『シナップ』に鍵を持っていかれた時点で、ある程度割りきる必要もあった。
ガイアスくんから『装置のある部屋』の中に魔物がいないことが確認できたと報告を受け、今度は私たちも一緒に部屋の奥へ手がかりを求めて向かう。
「ここの魔物たちにとっては『侵入者』である俺たちが移動先を決定する時の目標なんだろうな」
奥の方には魔物が足を踏み入れた跡も感じられない様子を再度確認しながらガイアスくんが苦笑いをした。
確かに『装置』の解錠に挑戦した時に聞こえてきた声も『兵を配置』と言っていた。
そして魔物の部屋にかけられた施錠が外れたのだから、魔物の標的は間違いなく私たちだ。
そうだとすると、魔物たちがそういう行動を取るようにここを造った古代の人に改良されているという可能性が考えられる。
以前にバッシュくんたちも、ここの魔物が単に飼われているとかそういった種のものでないことを言っていたし、怯えて逃げるとかそういった意見にも否定的な発言をしていた。
断言できるような情報が今の時点では無いだけで、仲間の犬族が襲われていることだけでなく、懸念を抱くような根拠となる情報はもっているのかもしれない。
奥へ来ると棚や引き出しのついた机、椅子や卓上型の棚、縦長の長方形の箱等、置かれているものは案外多い。
めぼしい物は大体バッシュくんたちがすでに調べているけれど関係の無さそうなものでも、調べ直す価値は十分にある。
「魔術関連の導具やメモが残っているかもしれない」
持ち出すものはどこにあったものなのかをノアくんが記録しながら、袋で仕分けて木箱にいれていく。
「どれが手がかりになるものか、疑いだしたら全部持ち出したくなるんだが!」ガイアスくんが頭を抱えてしまった。
「今、手がかりにならないものは放っとけばいい、キリがない」ジャックくんが軽くそう言うと、バッシュくんが「それだと調べ直し自体が不必要になっちゃうよ」とガイアスくんに変わって言った。
引き出しには、おもちゃにしか見えないような物も入っている。「これ、魔導具じゃないけど、ただのおもちゃでもなくて、筆記具なんだ」
バッシュくんが魔物の一種であるスライムを模したような、艶があって丸い見た目のおもちゃをガイアスくんに見せた。
スライム型のおもちゃを指でつまんで軽く捻ると、パカッと2つに分かれて、片方から折り畳んで収納されていた小さなペンが出てきた。
「面白いけど、ちょっと使いにくいな」
ガイアスくんがそう言いながら手近にあった用紙に線を引いてみて、バッシュくんに返した。
様子を横からみていた私が、古代の人もこんな風に筆記具を使っていたんだなと感慨深く思っていると、バッシュくんがペンを畳んで、もうひとつを合わせ直して捻ると、また元通りのおもちゃのようになった。
継ぎ目があるはずだけど、上手い具合に、わからないように出来ている。
すると様子を見ていた私にバッシュくんが
「面白い?」と尋ねたので、私が正直に
「うん。面白い」
と答えると、バッシュくんの愛らしい瞳がキラッと光った。
バッシュくんがアイテムバッグからごそごそと保存紙を取り出しおもちゃをくるんで、ノアくんがそれをバッシュくんから受け取って袋に分けいれて木箱に詰めた。
この遺跡を造った古代の人たちがこういった細工が好きだったとしたらと思うと、何もかも疑わしいものに物に見えてきたというガイアスくんの気持ちを理解できる。
ただ、ジャックくんがいう通り、なんでもかんでも気にする必要は無いだろうとも思う。
「そろそろ休憩を挟んでもいいんじゃないか」ジャックくんにそう言われて、時刻魔導具を見ると、思ったより時間が経っていて、もう昼を過ぎる時間になっていた。
「そういえば、腹も減ったし飯にしようか」
ガイアスくんがそう言って、私たちもそれに同意した。
表情が先程よりややスッキリしたものになっている。
私たちは木箱に集めた資料を各々手分けして1番目の魔物の部屋の小屋まで戻ることにした。
この部屋の出入口に設置した小屋はこの人数でも休憩出来ないこともないけれど、調べものをする資料も置くとなると狭い。
食事をするとなると、もっと狭い。
「見た目より多くの物を収納する技術はかなり進んできているんですが、生き物など、もともと密度が高い実体を持っていて、なおかつ生きている人間が中で生活出来るような空間の構築は、まだまだ実現に時間がかかりそうです」とノアくんが手振りや身振りも交えて説明してくれた。
魔力のみで出来た物質は圧縮や再構築がしやすいのに対し、生き物ではそれが簡単にはいかない。
「僕たちを無理に分解したり、圧縮なんてしたら、それこそ死んじゃうからね」
いつの間にかガイアスくんの肩に乗ったバッシュくんが言った。
私たちがここで使用している防御結界は別の次元の空間を創っているわけではないので、実際の広さがないことにはどうもならない。と言うわけだ。けれどそれは今現在という話で、遥か未来、或いは近い将来もそうとは限らない。
「バッシュちゃんとノアちゃんは場所を取らないけど、ガイアスが大きすぎるのよ!」
エレイナさんが冗談めかして言っている。
ノアくんたちの研究の話を聞いた影響か、不意に友人が言っていたことを思い出した。
「あらゆる事象の実現に魔力は大きく貢献する」
「魔力。それは例えるなら手札遊びの切り札みたいな性質をもった魔性の物質なんだ。魔力はあらゆる物質の代用になることが解っている。掌握できれば人は……」
魔力はあらゆる無理を押し通すための手懸かりとなる可能性を私たちに示すその一方で、ヒトは未だどうすれば魔力が思った通りの振る舞いをするのか明確な法則などが完全には判っておらず、技術が発展してなお手探りの状態の中にある。
「掌握できればヒトは無限の可能性を手に入れることが出来るのかもしれません」
ノアくんがどこかうっとりした表情をして言った。
◇
私たちが装置のある部屋から小屋に戻って昼食の準備をしていると、穀物や砂糖の焦げる独特の芳ばしい良い匂いがしてきた。
豆を醸造して造られた調味料と砂糖を合わせて濃いめに味付けされた保存食は栄養も豊かで主食の穀物に良く合うおかずに仕上がっている。
そういえば、魔力を多く含んだ食材や、高級食材のなかには食べ続けることで特別な効能をもたらすようなものもある。ただし、ああいうのは手に入る量がそもそも限られている。
それだけに高い。
薬草も食材として考えると高価な部類になる。
ガイアスくんたちの地域の貨幣価値で例えて銅貨10枚で通常の野菜1束が買えるとしたら、薬草は1束で銅貨100枚を必要とする。白銅貨なら1枚。
その代わり薬草には大きな怪我でもその場で治癒させるだけの薬効があるのだから、充分その価値はあると言える。
香草でも普段食べるような野菜として使おうというのならそれなりの贅沢品だ。ましてや治癒目的の薬草として売られているものをわざわざ野菜代わりにしようとすることは希だろう。
採集して調合したり、販売を一般の人がしていても、基本的に身体に即座に作用するような高い魔力を保有した調合品は冒険者や危険な地に赴く人の専用アイテムとなっている。
冒険者たちが緊急でやむを得ず、そのまま薬草類を食べて食料とすることはあっても、わざわざ野菜スープの野菜や食事に混ぜて使うには、薬効を失わせるだけでなく、費用面でももったいないと思うのが普通だと思う。
その点、エレイナさんが飲ませてくれる魔導研究ギルドと商人ギルドの共同開発商品は手に入りやすい価格帯で私たちが希望する効能をかなり実現している。
もちろん、その効果はほんのわずかな効能に過ぎず、薬品のような効果を期待してはいけない。
それでも気休め以上の効果が与えてくれる“安心感”がもたらす効能は馬鹿には出来ないのだ。
昼の食事を食べ終えて、その飲み物を飲みながらホッとみんなで一息ついた。
美味しい。
通路の魔物はもういないし、『シナップ』も『三郎太』も現れていない。装置のある部屋からも気になるものは持ち出した。
ノアくんたちと『装置のある部屋』から持ってきた資料を調べている間に厨房ではバッシュくんとエレイナさんがお水を魔力で用意している。
「食料が残ってても水が無いと結局生きれないからな」
ガイアスくんはそう言うと器にまだ少し残っていた飲み物を飲みきった。
そこに水を容れた容器を持ってバッシュくんとエレイナさんが戻ってきた。
「ん、魔力で作った水は純粋すぎて、本物の水に含まれているたくさんの栄養が足りない。そこまで再現できてないからちょっと心配だけどね」
バッシュくんがガイアスくんにそう言うと、エレイナさんの方が
「傷んだ水を飲むよりはずっと良いとは思うわ!」と言った。
それでガイアスくんが、2人に向かって、
「干からびて死ぬよりありがたい!」と言って笑った。
◇
テーブルの上にキレイな水の入った容器が置かれて、各々の器に注いでいく。
それを早速飲みながら、ガイアスくんが
「あまり期待するのは良くないが、俺たちが帰らないでいる期間が長くなれば待機中のバッシュたちの救援隊が動き出す可能性がある」
と言うと、ノアくんが
「はい。ボクら以外に洞窟内に救援のために配置されたメンバーは、一定期間ボクたちからの連絡が途絶えた場合に備えていました」
ノアくんによると、洞窟から転送魔術でこの遺跡に入る前に情報は送っていて、遺跡に入ってからは情報を送ることも受け取ることも出来なくなっている状態だという。
そのため、救援の部隊がどのようにいつ行動を起こす判断を下すのか等、詳細はノアくんたちにもわからない状態だ。
「救援隊はボクたちが転送魔術で移動したことを知っています。その上で帰らない事実によって、使用した転送術が一方通行の魔術である可能性を考慮します。救援隊はボクたちを遭難者と位置付け、遭難人数を増やしてしまうだけにしないため簡単には動きません」
ノアくんがそう言うと、ガイアスくんも
「脱出方法が見つかってないうちは、こちらも気持ちだけで来られては、戸惑うことになりそうだ」と苦笑した。
そんな彼らがここに来てくれたときは、打開策を得てから来てくれるものと考えて良いだろう。
私はガイアスくんたちとの会話でさらに希望を得ることになった。
◇
『ロビー』に加えて『装置のある部屋』の資料もおおかた調べ終わってきた。今のところ、装置を動かす以外にここを出ることが出来るような記述は見つかっていない。
このままなにも見つけられないなら当然書かれている以外の方法も探して試していくことになる。
一番有力な手がかりがありそうなのが、魔物の部屋だ。
誰かがこの遺跡を動かして魔物たちを放さなくても、ここの魔物が落とす素材は私たちの地にやって来ていたし、魔物たちは魔生物として現れた。
それを踏まえて考えると、魔物を洞窟に放すために使用された出入口は、装置や魔術を介さなくても開いてしまうような、物理的構造の出入口である可能性が高い。
「どうしても方法が見つからないなら、それを見つけ出して力付くでこじ開けて脱出する」バッシュくんたちが導き出した結論のうちの1つだ。
破壊による衝撃でこの遺跡自体が崩落する危険を伴う可能性もあるため、慎重になる必要はあるけれど、まずはその危険性も含めて調べてみる価値がある。
それは私たち全員が共通して持っている認識だ。
資料を調べはじめてしばらく経つと、バッシュくんが『屈強なコテージ』の魔力コインを入れる箱を手にとって、魔力の残量を確認している。
そろそろ魔力残量が少なくなっている頃だ。
『拠点』の『第1ゲート』出入口前に敷いた防御結界『防御の陣』の方は明日の朝には役目を終えて消滅する。
通路から魔物もいなくなったし、ここに来るときバッシュくんたちが追加で結界を張っているので、今は新しく防御結界を張り直さなくてもいいんじゃないかな?
私なんかは楽観的に思っていたりするわけなんだけど。
バッシュくんたちはちょっと迷っているみたいだ。
転送魔術を使う『三郎太』や『シナップ』が気になるのかもしれない。
「装置のある部屋のほうも、もうこれ以上はなにも出てこなさそうだ」そう言ってガイアスくんが伸びをした。
テーブルの上には分類された資料が積まれてあるけれど、古代文字で書かれてあるだけで、量としてはさほど多くないが全員が古代文字の知識に長けているわけではないので、多少時間がかかっている。
「俺は古代文字は得意じゃないからな」ガイアスくんが目をしばしばさせて首をふった。私もすらすらと読めるわけではない。
エレイナさんとバッシュくん、ノアくんとジャックくんが頼りだ。
その内容でこれまでにわかっているもの以外に、目新しいものと言えそうなのは、私たちが『装置のある部屋』と呼んでいるこの部屋に『創造の間』という名称がつけられているのが明確になったことと、施設が常時5人程で運用されていたらしいことだ。
あとはどれも脱出や遺跡の操作とは関係なさそうに思えた。
部屋の名前を考えると、なんでも出来そうな印象は受けるけど。
「他に期待だな」ガイアスくんはそう言うと、今度は魔石の入った袋を持ってきて、テーブルの上に置いた。
魔石の入った袋の数は全部で9袋。
数がわかりやすいように1,000個を1袋ずつにして、私たちがここの魔物を倒して手にいれた魔石の数は、これまでの分を合計すると8,840個になっている。
ガイアスくんたちが引き受けた依頼の内容は行方不明のパーティの救出、魔生物と洞窟内の調査、洞窟の地形変化の謎の解明と出来れば解決、だった。それに加えて私が求める素材集めだ。
魔物のドロップ品の納品については依頼の契約に入っていない。行方不明のパーティについては無事が確認されたことで解決済み。私が探していた素材のほうもデビスさんから受け取った分がある上に、ここの魔物からも手にいれることが出来ている。
魔石と素材はここの魔物から手にいれたものなので、報告の対象にはなるけれど、所有権はガイアスくんたちにあると言って問題ないだろう。これが一般的な考え方だ。
「これだけあれば魔力コインを作れるか?」ガイアスくんがテーブルに置いた袋をグッとバッシュくんたちのいる方に向かって押し出しながら、彼らに尋ねた。
するとバッシュくんが「充分!こんなに必要ないよ!」と目を丸くして言った。ガイアスくんが魔石を全部差し出す勢いだったのだ。
バッシュくんが早速、袋の中に詰まった魔石の欠片を取り出すと、用意していた自分の魔力変換魔導具に近づけた。
するとブタの形の魔導具が、まるで生きているみたいにモシャモシャと魔石の欠片を食べ始めた。
それを見たエレイナさんが「かわいい……!」と言いながら口元に手を当てている。
ブタ型の魔導具は魔石の欠片を20個食べたところで、全身が一瞬パッと光って背中の辺りから銀色のコインがポンッと飛び出した。
「20個でよく見かける大きさの魔石くらいの魔力量だね」
コインをノアくんと一緒に確認しながら、バッシュくんが満足そうに言った。「魔力コインの精製は魔力量が出来上がる数に影響しますが、魔石でも同じです」と、ノアくんが説明してくれた。
ブタ型の魔導具は動くのをやめてじっとしている。
テーブルの高さまで目線を下げ、ブタ型の魔導具を見ていたジャックくんと、私の目があった。
……さっきの魔力コインを作るのを自分もやってみたい。
◇
バッシュくんのブタ型魔導具が魔力コインを作るのを私たちが見せてもらってから、しばらくの時間が過ぎ、時刻魔導具がすっかり夜を教えてくれる時間になった頃……
「どうすんの!こんなにコインを作っちゃって!」
バッシュくんに呆れられ、大人4人が部屋の一角に並べられていた。
テーブルの上には出来上がった銀色の魔力コインが200枚くらいになって積まれている。
「ノアも何で止めないの」
ノアくんが巻き添えで叱られてしまった。
「バッシュだって止めなかったじゃないか」
とノアくんに言われると、バッシュくんが
「だって。ガイアス君たちが楽しそうだったから。ごめんノア」
バッシュくんがシュンとなったので、私たちは一同で申し訳ないと思った。
魔石の欠片が詰まっていた9袋のうち4袋が空の袋になっている。
「これだけあれば、今使ってる防御結界全部、結構長い間使えるんじゃないか?」ガイアスくんが誤魔化すように明るく言った。
すると気を取り直したバッシュくんが
「うん。これだけあれば、全部の『屈強なコテージ』を何十日も連続で使える!」
と目を細め、椅子によじ登ってちゃんと座ってから、飴玉を1つ口に入れた。
今日のは白地に色とりどりの細い縞模様のある愛らしい飴玉で、以前に分けてもらったときに特別な効果は無いと言っていたけれど、とても美味しかった。
バッシュくんとノアくんによると、4つ1組で使っている魔方陣は使用のしかたで多少の時間のズレがあっても魔力コイン1枚で1日使用期間が延長でき、1つの魔方陣で構築された結界なら3日維持できる。
つまり6つの防御結界を3日間維持するのに必要な魔力コインは8枚で足りることになる。
「コイン200枚もあれば70日以上、楽に運用できるね」
1個パン2切とか3切れ分くらいの値打ちの魔石の欠片が20個で白銅貨4枚相当で取引される魔石と同程度の魔力を保有する『魔力コイン』という塊になった。
まだ市場に出回らない『魔力コイン』だが、もし出回るようになれば、その辺りの金額で取引される可能性が高い。
ちなみに、この地域で1人が食事付きで宿に1泊するのに必要な費用は、大体で白銅貨4枚か小銀貨1枚、素泊まりで1泊が1人白銅貨2枚が相場だ。白銅貨4枚あれば2泊出来る。
最初の設置にかかる手間や魔方陣構築の技能と、大きな魔力を必要とすることさえなんとかなれば、これって商売になるんじゃない?
もっと言えば、魔導研究ギルドと魔導ギルドの共同開発で設計された魔方陣の設計書の市場価値次第では、共同開発製品に使える専用の魔力コインの値打ちは更に上がる。
その魔力コインを私たちのために使うバッシュくんたちが私には眩しく感じられた。
◇
「次の目標を決めよう」
魔力コインに夢中で遅くなってしまった夕食の準備を整えながら、ガイアスくんが切り出した。
「俺は、氷の壁をそろそろ何とかしたいと思うんだが、どうだ?」と私たちに意見を求めた。
氷の壁が自然に解けるのを待つ選択肢をとっていたけれど、通路も自由に移動が可能になり、『ロビー』と『装置のある部屋』の調べ直しも終わった。
手がかりを探すためには、このあとも何をすべきか、考えなければならない。
バッシュくんとノアくんが「僕たちもそれがいいと思う」とガイアスくんに応じた。
彼らは魔物の部屋からの脱出も提案している。
選択肢は『魔物の部屋』『入口通路』『入口入ってすぐの部屋』『応接室』『寝室』『書斎』『厨房』
そこまで思い浮かべてから、拠点の『入口通路』は省いてもいいのかもしれないと私は思い直した。
有力な候補には『書斎』と『厨房』もみんな考えている。
エレイナさんと、ジャックくんと私も顔を見合せ、頷いた。
氷の壁の向こうに現れている他より大きな魔物の存在が少し気になっている。最初に確認したのはノアくんが見つけた1体だけど、少し前に氷の壁の向こう側に、2体目も見つけている。
元々、ここの魔物は大きさや体力、耐久がまちまちだし、見えなかっただけ、ということもあるのだけど。
「魔物が変化してきているなら対処しておいた方がいい」
そう判断したのだ。
そうやって話している間に、テーブルの上に晩ごはんの準備が進んで、飲み物が並んでいく。
バッシュくんが食事の前に『屈強なコテージ』の魔力を補充して、コインの絵柄が3つになったのを確認すると、満足そうな表情と共に尻尾が小さく揺れた。
明日に備えて今日も夜が更けていく。
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────────
籠城戦5日目
推定魔物討伐数 0体、素材獲得数 0個(赤青黄白黒)、魔石の欠片 0個
□共有アイテム□
◇主な食料55日分
◇嗜好品お菓子類(魔導系回復あり)、嗜好品、お菓子類(飴9粒、チョコ1箱)、未調理穀物6日分
◇魔力回復ポーション(EX132本、超回復112本、大252本、中1,028本、小1,434本)
◇治癒ポーション(EX132本、超回復254本、大1,020本、中2,420本、小5,018本)、薬草(治癒2,216袋、解毒120袋)2,336袋、他
□各自アイテムバッグ
ガイアス、ジャック、エレイナ、バッシュ、ノア、マクス
□背負袋
ガイアス、ジャック、エレイナ、バッシュ、ノア、マクス
早朝、私たちが1番目の魔物の部屋から通路へ出ると壁、床、天井至るところに魔物との戦いの形跡、傷痕は残っているものの、それは意外なほどわずかで、なにも知らずにみれば、つい昨日まで無数とも言える魔物の群れがいたなどと、感じさせないほど落ち着いた景観になっていた。
出入口に設置された防御結界内の『小屋』がそういった平和とも言える雰囲気をさらに強調するようになっている。
「ここの壁はもっと大きな傷になってたと思ったが修復してる」
「修復する遺跡はよくあるじゃないか」
「早すぎないか?」
壁などの修復能力にガイアスくんが驚いているのに対して、ジャックくんの方はそれほどでもないようだ。
私は改めて通路の天井を見上げた。
この遺跡の光源はわからないが、明るさは保たれたまま。
天井の素材その物が光源であるなら不思議では無いけれど、相応の魔力、或いはエネルギー、そうでなければ非常に高度な技術が必要なはずだ。
私につられるように一緒に天井を見ていたエレイナさんが、天井の模様を「綺麗」と表現した。彼女に抱き上げられた状態のバッシュくんたちも一緒に見上げている。
『装置のある部屋』の壁などには魔鉱石が使われているようだったから、この遺跡が造られた時代はそういうエネルギー源となるものの豊富さと魔導技術の発展に寄与する何かが合致していたのかもしれない。
『ロビー』や『お客さん用の部屋』など各部屋が数千年の長い時、それなりの美観を保っていたのも納得が出来た気がする。
私たちが何気なく立っているだけのこの場所は、大昔の人たちの技術が詰まった場所と言っていい。
こういう訪れ方でなければ、どんなによかっただろう。
そう思ったけれど、そのままだと気持ちが曇ってくる気がしたので、こういう事態だからこそ目にすることが出来ているのだからと思い直すことにした。
それから、私の思考はガイアスくんやジャックくんの様子から、彼らがこういった遺跡関連の技術にさほど驚いていない事実に直面してしまう。
加えて目の当たりにしている彼らと魔物との力量の差。
謎の魔物『三郎太』に対する警戒も、2人が嫌がっているのは『三郎太』が使う転送魔術によって自分たちがその場から離脱されることを懸念してのものだ。
姿の見えない『何者か』と『シナップ』はともかく、『三郎太』ではガイアスくんとジャックくんに勝てないだろう。
私たちの最初の頃の想定では魔物を倒すのにはもっと時間がかかると考えていたし、そのために食料や回復アイテムも無限にあって困らないくらいに私なんかは特に考えていた。
私の予想というか、イメージでは、魔物との連戦で彼らが受ける損傷を回復させるために回復薬は大量に消費され、魔力回復にも四苦八苦すると思っていたけれど、実際にはそうなっていない。
修復されてきてわかりにくくなっているけれど、通路に残る戦いの形跡は魔物が一概に弱いと示すようなものには見えないし、エレイナさんの弓や魔術で一撃で倒せるような魔物も少なかったはずだ。
魔物が弱いというより、ガイアスくんたちが想定より強いとしか思えない。
私が安心と彼らへの信頼感を実感する一方で、彼ら自身はもっと強い魔物の出現を想定し、用心して行動している。
今もなおそうであるのが伝わってくるけれど……。
私は今さらと思いながら、エレイナさんに尋ねた。
「私が聞いているガイアスくんとジャックくんの冒険者ランクと、彼らの実力がどうも見合わない気がするんだけど」
彼らが強いという意味で聞いていることはすぐに伝わったはずだ。
直接聞いても良かったんだけど、エレイナさんが近くにいたので聞きやすかった。
するとエレイナさんが「そういえば2人ともランクの見直しをしてないかもしれないですね!」と、気がついたように言った。
「私はちゃんとランクの見直しをして、更新しています!」
彼女の笑顔が、どこか寂しげに私には映った。
長い通路の奥に向かって右側に5つの扉のあった出入り口には、扉の代わりに、バッシュくんたちが構築した魔方陣『屈強なコテージ』が設置され、そのうちの1つは部屋の内側、残り4つの『小屋』が通路の側に建っている。
そして『装置のある部屋』の出入口にも『屈強なコテージ』の『小屋』が建っているので、落ち着いてみると、通路は木造の居住地のような雰囲気になっていた。
遺跡に使用されている魔力を多く含む建築材の素材の性質や、『何者か』によって魔力がエネルギーとして充填されたせいなのか、それとも修復機能に魔力が注がれ、実際に光が弱くなっていたのか。
それとも私の心象を表していただけだったのか、魔物が犇めいていた時にはどこか薄暗く感じていた通路が再び明るさを取り戻しているように見える。
「よし!行こう」ガイアスくんの力強い声が、魔物がいなくなった通路に響いた。
ようやく遺跡内の全ての部屋へ行き来が出来るようになった私たちは、朝食を済ませ、身支度を整えると予定通り『装置のある部屋』に向かう。
「魔物が入り込んで荒らされてはいるかもしれないが、資料や手がかりが残されているかもしれない場所でもある。それに念のため装置の無事も確認したい」
ガイアスくんが私たちに確認するように言った。
「装置の鍵は魔物の『シナップ』に1つ持っていかれてしまったが、それで終わりと決まった訳じゃないからな。装置にはまだ何か他の役割があるかもしれない」
ガイアスくんがそう言って力強く歩いている。
そんなガイアスくんを見るジャックくんの表情はいつも明るい。
ただ、『装置のある部屋』は謎の魔物『三郎太』とも遭遇し、バッシュくんとノアくんが酷い目にあったところでもある。
『三郎太』は『シナップ』と違い、こちらへの敵意や憎悪が凄まじかった。
私は『三郎太』と対峙した際に頭の中に響いた『三郎太』の声を思い出すと、嫌な寒気を感じる。
エレイナさんも一緒にいて、彼女の魔導術が効かないことを体験している。彼女は風属性の魔導術と水属性の魔導術が使えるが、そのどちらも効果がなかったという。
私の視界でもエレイナさんが魔術を使ったことがわかっただけで、その魔術式が『三郎太』に発動しているのがわからなかった。
そのためエレイナさんが若干不安げにしたけれど、当のバッシュくんたちは『ロビー』に施した『三郎太』対策の仕掛けからもみてとれるように、何か秘策をもって対応しようという意気込みのようなものを醸し出している。
そういえばバッシュくんたちは魔物専用の魔導具を持っているのだった。消費魔力が大きすぎて普段は使えないと言っていたけれど。
バッシュくんとノアくんが魔導具を取り出したときの『三郎太』の抵抗ぶりを思い出して私は思った。
本当は、エレイナさんも私も『三郎太』の方の分の悪さを心配してあげた方がいいのかもしれない。
バッシュくんたちは保有する魔力の大きさから考えても、おそらく見た目より強い。私は彼らが時折見せるすばしっこさや跳躍力、頑丈さに目を見張ることがある。
私は小さな2人を改めて見つめた。
バッシュくんもノアくんも、大人で編成された救援部隊に混じって活動し、私たちと行動を共にすることを許可された、れっきとした特殊ランク保持の冒険者なのだ。
加えてガイアスくんもジャックくんもエレイナさんも、魔導研究ギルドと商人ギルドの共同開発の装備品に備えられた魔導技術をほとんど使わずにここまで来ている。
そこまで考えて、私は自分の身体の中に、迸るような感情が涌き出てくるのを禁じ得なくなってきた。
「『三郎太』への警戒も必要だが、まだ魔物がいるとしたら、雷属性の可能性が高い。気をつけよう」
ガイアスくんが私たちに注意を促した。
たとえ雷属性だったとしても、ここの魔物の強さや肉体的強度は、今のところガイアスくんとジャックくんにとって脅威と言えないように思う。今のところ食料もアイテムもまだまだ充分に残っている。
「雷属性の魔物からの攻撃は、痺れや麻痺とかを引き起こすことがあるから注意してくれ」
雷属性の魔物からの攻撃には高熱によるダメージや範囲攻撃が多いなど、ガイアスくんが説明しながら何か思い出したのか、嫌そうな表情をした。
ジャックくんとエレイナさんは、なにも言わないけど、微妙にガイアスくんを見ない。
「2人とも、どうしたの」ノアくんに円らな瞳で聞かれたエレイナさんが「なんでもないのよ。ノアちゃん」
と答えているすぐそばで、バッシュくんがやはり無垢な瞳で
「嫌なことでも思い出した?」
と気遣いながらガイアスくんに尋ねている。
『装置のある部屋』の前まで来ると、私たちは出入口前に設置した防御結界の小屋には入らず、半ノーツあるかないかの幅になった結界の端をガイアスくんを先頭にして歩き、ゆっくりと『装置のある部屋』の中へ入った。
防御結界『屈強なコテージ』は魔方陣1つで構築されたものは陣地の殆どが建物で占められるので、戦い向きとは言いにくい。
「屋上か何かがある建物だと使い勝手がだいぶ変わると思うわ」
エレイナさんがバッシュくんとノアくんに話していて、ノアくんが熱心な様子で記録している。
私はその様子を見ながら、防御結界『屈強なコテージ』がもうすぐ改良されて『要塞』に進化しそうだな、と思ってちょっぴり開発に参加でもしているような気分になった。
部屋に入ると、中は思ったほど荒らされてはおらず、藍色の塔のような見た目の装置も、無事にそのまま立っている。
ただ、装置の周りに出現していた球体や立方体は消えていた。
エレイナさんが装置を完全に怪しい物を見る目で見ている。
動きやすい椅子は何個か倒れた状態にはなっているものの、位置などはテーブルや椅子も以前訪れた時とほとんど同じ場所のように思える。
「もっと荒らされてるかと思ったけど、そうでもなかったな」
ジャックくんが倒れた椅子を戻しながら言った。
彼は普段あまり表情を崩さないが、いくらかほっとしたような表情を浮かべている。もしかするとわかりにくいだけなのかもしれない。
少し時間が経つと、1人で装置の向こう側まで行き、潜んでいる魔物がいないか見てきたガイアスくんが戻ってきて、装置の近くで待機していた私たちに報告してくれた。
「魔物はいない。昨日飛び出してきたのが入り込んだ最後の1体だったみたいだ」
扉を開け放って私たちが『第1ゲート』の出入り口前まで走り、魔物が通路を埋め尽くしてから何日も経過していたため、当然、開け放たれた『装置のある部屋』へも魔物が流れ込んでいると覚悟していたけれど。
私なんかは初め、場合によって装置が魔物に破壊されてしまうような事態も懸念していたくらいだ。
それで今日まで大して何も思わずにいられたのは
「あの装置は高魔力を含む物質でできていて、その上高い魔導技術で防御も施されてるから、簡単には壊れないと思うよ」
と、バッシュくんとノアくんが揃って否定してくれたおかげだ。
それに装置が壊れていたら壊れていたで、ガイアスくんたちの言う通り、別の方法を探す。
『シナップ』に鍵を持っていかれた時点で、ある程度割りきる必要もあった。
ガイアスくんから『装置のある部屋』の中に魔物がいないことが確認できたと報告を受け、今度は私たちも一緒に部屋の奥へ手がかりを求めて向かう。
「ここの魔物たちにとっては『侵入者』である俺たちが移動先を決定する時の目標なんだろうな」
奥の方には魔物が足を踏み入れた跡も感じられない様子を再度確認しながらガイアスくんが苦笑いをした。
確かに『装置』の解錠に挑戦した時に聞こえてきた声も『兵を配置』と言っていた。
そして魔物の部屋にかけられた施錠が外れたのだから、魔物の標的は間違いなく私たちだ。
そうだとすると、魔物たちがそういう行動を取るようにここを造った古代の人に改良されているという可能性が考えられる。
以前にバッシュくんたちも、ここの魔物が単に飼われているとかそういった種のものでないことを言っていたし、怯えて逃げるとかそういった意見にも否定的な発言をしていた。
断言できるような情報が今の時点では無いだけで、仲間の犬族が襲われていることだけでなく、懸念を抱くような根拠となる情報はもっているのかもしれない。
奥へ来ると棚や引き出しのついた机、椅子や卓上型の棚、縦長の長方形の箱等、置かれているものは案外多い。
めぼしい物は大体バッシュくんたちがすでに調べているけれど関係の無さそうなものでも、調べ直す価値は十分にある。
「魔術関連の導具やメモが残っているかもしれない」
持ち出すものはどこにあったものなのかをノアくんが記録しながら、袋で仕分けて木箱にいれていく。
「どれが手がかりになるものか、疑いだしたら全部持ち出したくなるんだが!」ガイアスくんが頭を抱えてしまった。
「今、手がかりにならないものは放っとけばいい、キリがない」ジャックくんが軽くそう言うと、バッシュくんが「それだと調べ直し自体が不必要になっちゃうよ」とガイアスくんに変わって言った。
引き出しには、おもちゃにしか見えないような物も入っている。「これ、魔導具じゃないけど、ただのおもちゃでもなくて、筆記具なんだ」
バッシュくんが魔物の一種であるスライムを模したような、艶があって丸い見た目のおもちゃをガイアスくんに見せた。
スライム型のおもちゃを指でつまんで軽く捻ると、パカッと2つに分かれて、片方から折り畳んで収納されていた小さなペンが出てきた。
「面白いけど、ちょっと使いにくいな」
ガイアスくんがそう言いながら手近にあった用紙に線を引いてみて、バッシュくんに返した。
様子を横からみていた私が、古代の人もこんな風に筆記具を使っていたんだなと感慨深く思っていると、バッシュくんがペンを畳んで、もうひとつを合わせ直して捻ると、また元通りのおもちゃのようになった。
継ぎ目があるはずだけど、上手い具合に、わからないように出来ている。
すると様子を見ていた私にバッシュくんが
「面白い?」と尋ねたので、私が正直に
「うん。面白い」
と答えると、バッシュくんの愛らしい瞳がキラッと光った。
バッシュくんがアイテムバッグからごそごそと保存紙を取り出しおもちゃをくるんで、ノアくんがそれをバッシュくんから受け取って袋に分けいれて木箱に詰めた。
この遺跡を造った古代の人たちがこういった細工が好きだったとしたらと思うと、何もかも疑わしいものに物に見えてきたというガイアスくんの気持ちを理解できる。
ただ、ジャックくんがいう通り、なんでもかんでも気にする必要は無いだろうとも思う。
「そろそろ休憩を挟んでもいいんじゃないか」ジャックくんにそう言われて、時刻魔導具を見ると、思ったより時間が経っていて、もう昼を過ぎる時間になっていた。
「そういえば、腹も減ったし飯にしようか」
ガイアスくんがそう言って、私たちもそれに同意した。
表情が先程よりややスッキリしたものになっている。
私たちは木箱に集めた資料を各々手分けして1番目の魔物の部屋の小屋まで戻ることにした。
この部屋の出入口に設置した小屋はこの人数でも休憩出来ないこともないけれど、調べものをする資料も置くとなると狭い。
食事をするとなると、もっと狭い。
「見た目より多くの物を収納する技術はかなり進んできているんですが、生き物など、もともと密度が高い実体を持っていて、なおかつ生きている人間が中で生活出来るような空間の構築は、まだまだ実現に時間がかかりそうです」とノアくんが手振りや身振りも交えて説明してくれた。
魔力のみで出来た物質は圧縮や再構築がしやすいのに対し、生き物ではそれが簡単にはいかない。
「僕たちを無理に分解したり、圧縮なんてしたら、それこそ死んじゃうからね」
いつの間にかガイアスくんの肩に乗ったバッシュくんが言った。
私たちがここで使用している防御結界は別の次元の空間を創っているわけではないので、実際の広さがないことにはどうもならない。と言うわけだ。けれどそれは今現在という話で、遥か未来、或いは近い将来もそうとは限らない。
「バッシュちゃんとノアちゃんは場所を取らないけど、ガイアスが大きすぎるのよ!」
エレイナさんが冗談めかして言っている。
ノアくんたちの研究の話を聞いた影響か、不意に友人が言っていたことを思い出した。
「あらゆる事象の実現に魔力は大きく貢献する」
「魔力。それは例えるなら手札遊びの切り札みたいな性質をもった魔性の物質なんだ。魔力はあらゆる物質の代用になることが解っている。掌握できれば人は……」
魔力はあらゆる無理を押し通すための手懸かりとなる可能性を私たちに示すその一方で、ヒトは未だどうすれば魔力が思った通りの振る舞いをするのか明確な法則などが完全には判っておらず、技術が発展してなお手探りの状態の中にある。
「掌握できればヒトは無限の可能性を手に入れることが出来るのかもしれません」
ノアくんがどこかうっとりした表情をして言った。
◇
私たちが装置のある部屋から小屋に戻って昼食の準備をしていると、穀物や砂糖の焦げる独特の芳ばしい良い匂いがしてきた。
豆を醸造して造られた調味料と砂糖を合わせて濃いめに味付けされた保存食は栄養も豊かで主食の穀物に良く合うおかずに仕上がっている。
そういえば、魔力を多く含んだ食材や、高級食材のなかには食べ続けることで特別な効能をもたらすようなものもある。ただし、ああいうのは手に入る量がそもそも限られている。
それだけに高い。
薬草も食材として考えると高価な部類になる。
ガイアスくんたちの地域の貨幣価値で例えて銅貨10枚で通常の野菜1束が買えるとしたら、薬草は1束で銅貨100枚を必要とする。白銅貨なら1枚。
その代わり薬草には大きな怪我でもその場で治癒させるだけの薬効があるのだから、充分その価値はあると言える。
香草でも普段食べるような野菜として使おうというのならそれなりの贅沢品だ。ましてや治癒目的の薬草として売られているものをわざわざ野菜代わりにしようとすることは希だろう。
採集して調合したり、販売を一般の人がしていても、基本的に身体に即座に作用するような高い魔力を保有した調合品は冒険者や危険な地に赴く人の専用アイテムとなっている。
冒険者たちが緊急でやむを得ず、そのまま薬草類を食べて食料とすることはあっても、わざわざ野菜スープの野菜や食事に混ぜて使うには、薬効を失わせるだけでなく、費用面でももったいないと思うのが普通だと思う。
その点、エレイナさんが飲ませてくれる魔導研究ギルドと商人ギルドの共同開発商品は手に入りやすい価格帯で私たちが希望する効能をかなり実現している。
もちろん、その効果はほんのわずかな効能に過ぎず、薬品のような効果を期待してはいけない。
それでも気休め以上の効果が与えてくれる“安心感”がもたらす効能は馬鹿には出来ないのだ。
昼の食事を食べ終えて、その飲み物を飲みながらホッとみんなで一息ついた。
美味しい。
通路の魔物はもういないし、『シナップ』も『三郎太』も現れていない。装置のある部屋からも気になるものは持ち出した。
ノアくんたちと『装置のある部屋』から持ってきた資料を調べている間に厨房ではバッシュくんとエレイナさんがお水を魔力で用意している。
「食料が残ってても水が無いと結局生きれないからな」
ガイアスくんはそう言うと器にまだ少し残っていた飲み物を飲みきった。
そこに水を容れた容器を持ってバッシュくんとエレイナさんが戻ってきた。
「ん、魔力で作った水は純粋すぎて、本物の水に含まれているたくさんの栄養が足りない。そこまで再現できてないからちょっと心配だけどね」
バッシュくんがガイアスくんにそう言うと、エレイナさんの方が
「傷んだ水を飲むよりはずっと良いとは思うわ!」と言った。
それでガイアスくんが、2人に向かって、
「干からびて死ぬよりありがたい!」と言って笑った。
◇
テーブルの上にキレイな水の入った容器が置かれて、各々の器に注いでいく。
それを早速飲みながら、ガイアスくんが
「あまり期待するのは良くないが、俺たちが帰らないでいる期間が長くなれば待機中のバッシュたちの救援隊が動き出す可能性がある」
と言うと、ノアくんが
「はい。ボクら以外に洞窟内に救援のために配置されたメンバーは、一定期間ボクたちからの連絡が途絶えた場合に備えていました」
ノアくんによると、洞窟から転送魔術でこの遺跡に入る前に情報は送っていて、遺跡に入ってからは情報を送ることも受け取ることも出来なくなっている状態だという。
そのため、救援の部隊がどのようにいつ行動を起こす判断を下すのか等、詳細はノアくんたちにもわからない状態だ。
「救援隊はボクたちが転送魔術で移動したことを知っています。その上で帰らない事実によって、使用した転送術が一方通行の魔術である可能性を考慮します。救援隊はボクたちを遭難者と位置付け、遭難人数を増やしてしまうだけにしないため簡単には動きません」
ノアくんがそう言うと、ガイアスくんも
「脱出方法が見つかってないうちは、こちらも気持ちだけで来られては、戸惑うことになりそうだ」と苦笑した。
そんな彼らがここに来てくれたときは、打開策を得てから来てくれるものと考えて良いだろう。
私はガイアスくんたちとの会話でさらに希望を得ることになった。
◇
『ロビー』に加えて『装置のある部屋』の資料もおおかた調べ終わってきた。今のところ、装置を動かす以外にここを出ることが出来るような記述は見つかっていない。
このままなにも見つけられないなら当然書かれている以外の方法も探して試していくことになる。
一番有力な手がかりがありそうなのが、魔物の部屋だ。
誰かがこの遺跡を動かして魔物たちを放さなくても、ここの魔物が落とす素材は私たちの地にやって来ていたし、魔物たちは魔生物として現れた。
それを踏まえて考えると、魔物を洞窟に放すために使用された出入口は、装置や魔術を介さなくても開いてしまうような、物理的構造の出入口である可能性が高い。
「どうしても方法が見つからないなら、それを見つけ出して力付くでこじ開けて脱出する」バッシュくんたちが導き出した結論のうちの1つだ。
破壊による衝撃でこの遺跡自体が崩落する危険を伴う可能性もあるため、慎重になる必要はあるけれど、まずはその危険性も含めて調べてみる価値がある。
それは私たち全員が共通して持っている認識だ。
資料を調べはじめてしばらく経つと、バッシュくんが『屈強なコテージ』の魔力コインを入れる箱を手にとって、魔力の残量を確認している。
そろそろ魔力残量が少なくなっている頃だ。
『拠点』の『第1ゲート』出入口前に敷いた防御結界『防御の陣』の方は明日の朝には役目を終えて消滅する。
通路から魔物もいなくなったし、ここに来るときバッシュくんたちが追加で結界を張っているので、今は新しく防御結界を張り直さなくてもいいんじゃないかな?
私なんかは楽観的に思っていたりするわけなんだけど。
バッシュくんたちはちょっと迷っているみたいだ。
転送魔術を使う『三郎太』や『シナップ』が気になるのかもしれない。
「装置のある部屋のほうも、もうこれ以上はなにも出てこなさそうだ」そう言ってガイアスくんが伸びをした。
テーブルの上には分類された資料が積まれてあるけれど、古代文字で書かれてあるだけで、量としてはさほど多くないが全員が古代文字の知識に長けているわけではないので、多少時間がかかっている。
「俺は古代文字は得意じゃないからな」ガイアスくんが目をしばしばさせて首をふった。私もすらすらと読めるわけではない。
エレイナさんとバッシュくん、ノアくんとジャックくんが頼りだ。
その内容でこれまでにわかっているもの以外に、目新しいものと言えそうなのは、私たちが『装置のある部屋』と呼んでいるこの部屋に『創造の間』という名称がつけられているのが明確になったことと、施設が常時5人程で運用されていたらしいことだ。
あとはどれも脱出や遺跡の操作とは関係なさそうに思えた。
部屋の名前を考えると、なんでも出来そうな印象は受けるけど。
「他に期待だな」ガイアスくんはそう言うと、今度は魔石の入った袋を持ってきて、テーブルの上に置いた。
魔石の入った袋の数は全部で9袋。
数がわかりやすいように1,000個を1袋ずつにして、私たちがここの魔物を倒して手にいれた魔石の数は、これまでの分を合計すると8,840個になっている。
ガイアスくんたちが引き受けた依頼の内容は行方不明のパーティの救出、魔生物と洞窟内の調査、洞窟の地形変化の謎の解明と出来れば解決、だった。それに加えて私が求める素材集めだ。
魔物のドロップ品の納品については依頼の契約に入っていない。行方不明のパーティについては無事が確認されたことで解決済み。私が探していた素材のほうもデビスさんから受け取った分がある上に、ここの魔物からも手にいれることが出来ている。
魔石と素材はここの魔物から手にいれたものなので、報告の対象にはなるけれど、所有権はガイアスくんたちにあると言って問題ないだろう。これが一般的な考え方だ。
「これだけあれば魔力コインを作れるか?」ガイアスくんがテーブルに置いた袋をグッとバッシュくんたちのいる方に向かって押し出しながら、彼らに尋ねた。
するとバッシュくんが「充分!こんなに必要ないよ!」と目を丸くして言った。ガイアスくんが魔石を全部差し出す勢いだったのだ。
バッシュくんが早速、袋の中に詰まった魔石の欠片を取り出すと、用意していた自分の魔力変換魔導具に近づけた。
するとブタの形の魔導具が、まるで生きているみたいにモシャモシャと魔石の欠片を食べ始めた。
それを見たエレイナさんが「かわいい……!」と言いながら口元に手を当てている。
ブタ型の魔導具は魔石の欠片を20個食べたところで、全身が一瞬パッと光って背中の辺りから銀色のコインがポンッと飛び出した。
「20個でよく見かける大きさの魔石くらいの魔力量だね」
コインをノアくんと一緒に確認しながら、バッシュくんが満足そうに言った。「魔力コインの精製は魔力量が出来上がる数に影響しますが、魔石でも同じです」と、ノアくんが説明してくれた。
ブタ型の魔導具は動くのをやめてじっとしている。
テーブルの高さまで目線を下げ、ブタ型の魔導具を見ていたジャックくんと、私の目があった。
……さっきの魔力コインを作るのを自分もやってみたい。
◇
バッシュくんのブタ型魔導具が魔力コインを作るのを私たちが見せてもらってから、しばらくの時間が過ぎ、時刻魔導具がすっかり夜を教えてくれる時間になった頃……
「どうすんの!こんなにコインを作っちゃって!」
バッシュくんに呆れられ、大人4人が部屋の一角に並べられていた。
テーブルの上には出来上がった銀色の魔力コインが200枚くらいになって積まれている。
「ノアも何で止めないの」
ノアくんが巻き添えで叱られてしまった。
「バッシュだって止めなかったじゃないか」
とノアくんに言われると、バッシュくんが
「だって。ガイアス君たちが楽しそうだったから。ごめんノア」
バッシュくんがシュンとなったので、私たちは一同で申し訳ないと思った。
魔石の欠片が詰まっていた9袋のうち4袋が空の袋になっている。
「これだけあれば、今使ってる防御結界全部、結構長い間使えるんじゃないか?」ガイアスくんが誤魔化すように明るく言った。
すると気を取り直したバッシュくんが
「うん。これだけあれば、全部の『屈強なコテージ』を何十日も連続で使える!」
と目を細め、椅子によじ登ってちゃんと座ってから、飴玉を1つ口に入れた。
今日のは白地に色とりどりの細い縞模様のある愛らしい飴玉で、以前に分けてもらったときに特別な効果は無いと言っていたけれど、とても美味しかった。
バッシュくんとノアくんによると、4つ1組で使っている魔方陣は使用のしかたで多少の時間のズレがあっても魔力コイン1枚で1日使用期間が延長でき、1つの魔方陣で構築された結界なら3日維持できる。
つまり6つの防御結界を3日間維持するのに必要な魔力コインは8枚で足りることになる。
「コイン200枚もあれば70日以上、楽に運用できるね」
1個パン2切とか3切れ分くらいの値打ちの魔石の欠片が20個で白銅貨4枚相当で取引される魔石と同程度の魔力を保有する『魔力コイン』という塊になった。
まだ市場に出回らない『魔力コイン』だが、もし出回るようになれば、その辺りの金額で取引される可能性が高い。
ちなみに、この地域で1人が食事付きで宿に1泊するのに必要な費用は、大体で白銅貨4枚か小銀貨1枚、素泊まりで1泊が1人白銅貨2枚が相場だ。白銅貨4枚あれば2泊出来る。
最初の設置にかかる手間や魔方陣構築の技能と、大きな魔力を必要とすることさえなんとかなれば、これって商売になるんじゃない?
もっと言えば、魔導研究ギルドと魔導ギルドの共同開発で設計された魔方陣の設計書の市場価値次第では、共同開発製品に使える専用の魔力コインの値打ちは更に上がる。
その魔力コインを私たちのために使うバッシュくんたちが私には眩しく感じられた。
◇
「次の目標を決めよう」
魔力コインに夢中で遅くなってしまった夕食の準備を整えながら、ガイアスくんが切り出した。
「俺は、氷の壁をそろそろ何とかしたいと思うんだが、どうだ?」と私たちに意見を求めた。
氷の壁が自然に解けるのを待つ選択肢をとっていたけれど、通路も自由に移動が可能になり、『ロビー』と『装置のある部屋』の調べ直しも終わった。
手がかりを探すためには、このあとも何をすべきか、考えなければならない。
バッシュくんとノアくんが「僕たちもそれがいいと思う」とガイアスくんに応じた。
彼らは魔物の部屋からの脱出も提案している。
選択肢は『魔物の部屋』『入口通路』『入口入ってすぐの部屋』『応接室』『寝室』『書斎』『厨房』
そこまで思い浮かべてから、拠点の『入口通路』は省いてもいいのかもしれないと私は思い直した。
有力な候補には『書斎』と『厨房』もみんな考えている。
エレイナさんと、ジャックくんと私も顔を見合せ、頷いた。
氷の壁の向こうに現れている他より大きな魔物の存在が少し気になっている。最初に確認したのはノアくんが見つけた1体だけど、少し前に氷の壁の向こう側に、2体目も見つけている。
元々、ここの魔物は大きさや体力、耐久がまちまちだし、見えなかっただけ、ということもあるのだけど。
「魔物が変化してきているなら対処しておいた方がいい」
そう判断したのだ。
そうやって話している間に、テーブルの上に晩ごはんの準備が進んで、飲み物が並んでいく。
バッシュくんが食事の前に『屈強なコテージ』の魔力を補充して、コインの絵柄が3つになったのを確認すると、満足そうな表情と共に尻尾が小さく揺れた。
明日に備えて今日も夜が更けていく。
────────
────────
籠城戦5日目
推定魔物討伐数 0体、素材獲得数 0個(赤青黄白黒)、魔石の欠片 0個
□共有アイテム□
◇主な食料55日分
◇嗜好品お菓子類(魔導系回復あり)、嗜好品、お菓子類(飴9粒、チョコ1箱)、未調理穀物6日分
◇魔力回復ポーション(EX132本、超回復112本、大252本、中1,028本、小1,434本)
◇治癒ポーション(EX132本、超回復254本、大1,020本、中2,420本、小5,018本)、薬草(治癒2,216袋、解毒120袋)2,336袋、他
□各自アイテムバッグ
ガイアス、ジャック、エレイナ、バッシュ、ノア、マクス
□背負袋
ガイアス、ジャック、エレイナ、バッシュ、ノア、マクス
0
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長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜
ハリネズミの肉球
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「おい、城の噴水が止まったぞ!?」
「街の井戸も空っぽです!」
無能な王太子による身勝手な婚約破棄。
そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを!
ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。
追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!?
優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。
一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。
「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——!
今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける!
※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。
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