星の迷宮と英雄たちのノスタルジア

いわみね

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第14話 一方通行の入り口は開いたまま

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 籠城戦9日目

「この辺りも無いな」

 屈んで魔石を拾う作業をしながら、ガイアスくんが注意深く変わったところがないか床を見ている。

 身支度と朝食を終えた私たちは、昨日後回しにした『魔物の部屋』での手掛かりの捜索と、魔石と素材集めのために『5番目の魔物の部屋』にやって来ていた。

 魔物のいなくなった部屋を改めて見てみると、天井に薄い色彩で模様が描かれていて、中心から放射線状に引かれた淡い線で描かれた模様は、まるで開いた花のようだ。

 床は『1番目の魔物の部屋』の部屋と同じような、茶系の大理石模様が浮かび上がっている。
 この部屋でも床に模様のない〈怪しい〉箇所はすぐに見つかったけれど、魔方円マジックサークルや『鍵』があるというわけではなかった。

 老朽化で床のどこかが欠けているというのでもない。
 それでも「同じような場所に同じような怪しい箇所があって、何もないわけがない」というのが、私たちの共通した認識になっていて、外へつながる2つ目の『出口』の候補になった。

 いざとなったらガイアスくんに床の破壊を試してもらうことになるだろう。

「魔石と素材も拾い終わったし、この部屋は一旦引き上げて『2番目の魔物の部屋』に行くか。別の魔物の部屋を先にするか、どうする」

 ガイアスくんがそう切り出すと、バッシュくんとノアくんが

「ボクたちは『2番目の魔物の部屋』を先にしたいです」
「そうすればお昼ごろ部屋を調べ終わって、お昼を食べた後には魔力が回復した状態で、次の魔物の部屋に行けそうだから」
 と力強く言った。

 それを聞いたガイアスくんが頷いて、ジャックくんと私もエレイナさんもバッシュくんたちに頷いた。

「それじゃあ、今から『2番目の魔物の部屋』を調べに行こう、その後は昼飯だ!」ガイアスくんがそう言って、私たちの次の目的地が決まった。

 ◇

『2番目の魔物の部屋』に入ると、まずガイアスくんとバッシュくんたちで魔導関連の怪しい場所や罠の反応が無いかを調べてもらう。

『1番目の魔物の部屋』と同じように、「踏みつけたりして作動するような罠なら、魔物がいるときに作動してただろうから大丈夫」という気はするのだけど。

 円形に模様のない床は『1番目の魔物の部屋』も『5番目の魔物の部屋』も対応する箇所が同じで、すぐに発見できた。

 それが済むと今度は3人ずつの2組に別れて、魔石と素材集めと手掛かりの探索に取りかかった。

 あれだけいた魔物だけど、数日で急に増えた魔物の多くは魔石や素材は残さなかったようだ。
 魔力が魔石のように密度の高い物質のように固まるのには相応の圧力だったり、時間が必要なので、数が増えただけでは、単に魔力を魔石にする力も時間が足りなかったのだろう。

 それどころか増殖するのに体内の魔石を使ってたかもしれない。

「この部屋もこれ以上めぼしいところは見当たらないな」
 ガイアスくんがそう言うと、ジャックくんやエレイナさんも頷いた。

 床にはまだ拾いきれていない魔石や素材が残っている。

 もう魔石で回復や強化する魔物がいないので、魔石の方は無理に拾う必要はないかもしれないけど、素材の方は価値があるため拾っておいた方が良い。

 調べ終えた範囲を確認してガイアスくんが
「少し休憩だ」と言って床にそのまま座った。

 エレイナさんが「あと少しよ」と笑いながら励ますと、気を取り直して立ち上がる。

 時刻魔導具を確認するとまだ昼にはなっていないけれど、朝から休憩をほとんど挟まずにいるので、実際は休んだ方が良いのかもしれない。

 とはいえ、あと少しというのも本当で時刻魔導具の長い針が盤面を半周しない時間で残りの壁も床も見終えることが出来そうだ。

 するとジャックくんが「ガイアスは休んでて良いぞ。あとはオレたちだけでもそんなに時間はかからない」

 そう言いながらまだ見終えていない辺りを見た。

 部屋の端から端までを見るとずいぶん残っているように感じるけれど、部屋の入口から奥で考えれば、もう8割くらいは調べ終えたあとだ。

「ガイアスにはこのあとも働いてほしいからな」
 ジャックくんがそう言うと、バッシュくんとエレイナさんがハッとしたような顔になった。

「今のところあり得ない仮定のような気はするけど、例えばガイアスが倒れたり、不参加になった場合、ジャック1人が前衛として戦うことになるわ」

 エレイナさんは不安げにそう言ったけれど、ジャックくんは強いのでそれで簡単に魔物にやられたりしないだろうと私は思ってから、ふと気がついた。

 その強さはジャックくんが魔物の攻撃に素早く反応することに由来する強さでもある。

 ガイアスくんはジャックくんの耐久や体力を低くないと言っているし、これまでを見てきて、それを疑う余地はない。

 それでも、魔物の攻撃を受け止めた上で、損傷を受けないガイアスくんとは少々違う種類の強さで、実際雷属性の魔物の雷による攻撃を、ジャック君は素早く避けることで損傷を回避していた。

 エレイナさんがガイアスくんにビスケットを1枚、バッシュくんがお気に入りの飴玉を1つガイアスくんに差し出した。

 身を挺して護ってくれるガイアスくんは尊い。

 ◇

『2番目の魔物の部屋』も確認し終えた私たちは『5番目の魔物の部屋』の出入口に設置した防御結界『屈強なコテージ』の『小屋』に戻って昼食の準備を整えている。

 残念ながら、どちらの部屋でも『鍵』は見つからず、出口候補となる〈怪しい箇所〉はあったものの、それ以上の手掛かりや、『三郎太』や『シナップ』『何者か』につながりそうな目ぼしい発見はなかった。

「隠し通路や罠も仕掛けもなかったな」
 ガイアスくんが料理の盛り付けられた皿を受け取りながら言うと、エレイナさんが

「『魔物の部屋』がその『罠』と『仕掛け』なんじゃないのかと、私は思うんだけど。だから5つある『魔物の部屋』をどうにかして、初めて何かわかるんじゃないかしら」

 と、何気ない感じで言った。

 するとガイアスくんをはじめ、バッシュくんやノアくんも「あ」という口を開ける表情を浮かべた。
 それから
「エレイナ、いつからそう思ってたんだ?」
 とガイアスくんがエレイナさんに向かって訊くと
「え?最初からよ?」
 そう言ってエレイナさんは「あのクソみたいな『装置』が用意した罠に決まってるじゃない!」
 と、『魔物の部屋』の施錠が外されたときのことを思い出したのか『装置』を罵った。

「僕たち『魔物の部屋』を『鍵』の保管場所くらいにしか思ってなかったけど」「そうじゃなくて、『魔物の部屋』が仕掛けなのだとしたら」
 バッシュくんとノアくんが顔を見合わせた。

「エレイナ、俺たちのやることに大きな変更は無いが、目的は変わってくるぞ。『鍵』の存在を無視して『魔物の部屋』を放置する理由が減った」

 ガイアスくんの言葉に、エレイナさんが目を少し見開いた。
 エレイナさんは『魔物の部屋』に関わるのを避けられるなら避けたかったのかもしれない。

「俺たちは鍵が無くても『装置』を動かす方法や、『装置』を使わずに脱出する手がかりを探る手段の1つとして、部屋の魔物を倒しきることも視野に入れてきた。範囲内の魔物を倒すことで脱出を可能にするような仕掛けの罠があるからな」

 それにエレイナさんも「わかってるわよ」と頷いた。
 ガイアスくんが念を押して説明するのを不思議そうにしている。
「だが、この遺跡を造った古代人が、最初から『魔物』の殲滅を前提にした仕掛けを施しているのだとしたら、まず俺たちは『魔物の部屋』を優先して攻略する」
 そう言ったガイアスくんに
「外へ繋がる『出口』がわかっても、『魔物の部屋』をどうにかするまで、脱出しないってこと?」

「ああ」と、エレイナさんの質問にガイアスくんが答えた。
「今とやることは変わりない。問題がありそうか?」

「脱出が遅れるじゃない!」
 エレイナさんが慌てて言うと、ガイアスくんが
「そうとは限らない。『魔物の部屋』の攻略が『装置』を動かすことに必要な条件の1つなら、倒すことを優先することで脱出はむしろ早まる。何があるかわからない道を進むより安全だ」
 と返したけれど、エレイナさんは彼の主張に首を振った。

「ここを造った古代人はそんな親切な人たちじゃないわ!解錠にやたら短い時間制限をつけて、失敗したら何年も何百年も装置を動かせないようにした上で、何万もいる魔物と戦わせようとする人たちよ。バッシュちゃんたちの結界で魔物の出入口を塞げてるから、私たちこうしてのんびりしていられるけど」

 エレイナさんはそこまで言って、ゆっくり息を吐いた。

「あと少しだ。エレイナ」
 ガイアスくんが優しく言った。

 ◇

 昼食のあと、『魔物の部屋』の攻略を優先することにエレイナさんも納得して私たちが次に向かう予定にしているのは『4番目の魔物の部屋』だ。

『拠点』の『書斎』でバッシュくんとジャックくんが見つけた本によると、火属性の魔物で構成された部屋だ。

 古来より火属性の魔力は水属性の魔力が弱点とされているため、私たちはその対策として、昨日のうちに水属性のエネルギーを溜めた『水属性の魔石』を用意している。

『2番目の魔物の部屋』の魔物から獲たエネルギーを魔力として水属性の魔石に溜め、それをノアくんが魔導具として加工したものだ。

「前衛がジャックだけになると、パーティ内で生き残っているのがジャックだけ、という大惨事が起きる可能性があるわ!」
 エレイナさんがガイアスくんの必要性を力説している。

 ガイアスくんが「いや、さすがにそんな状況でジャックも避けないだろ。信じろよ」
 と言うと、ジャックくん本人も「信じろよ」と真顔で言ったので、エレイナさんが無言のまま、なんともいえない表情でジャックくんを見つめ返した。

 すると「それはそれで、ジャック君が怪我してしまったら僕たち困る」とバッシュくん。
 その言葉に「バッシュ。俺でも困ってくれ」と、ガイアスくんの表情が悲しげになった。

 それにはバッシュくんが
「ガイアス君は怪我なんかしないじゃないか」
 と瞳を煌めかせる。
「俺だって怪我くらいするんだぞぅ、バッシュ」
「またまたそんな冗談いっちゃってぇ」
「冗談なんかじゃないぞ。上には上があるんだ」

 バッシュくんとガイアスくんが話を始め、ゆるやかな空気が漂い始めて2人の話題が、ガイアスくんが子供の頃に遭遇したという魔物の話に差し掛かったその時。

 バッシュくんとノアくんが動きを止めた。そして、すぐにピクリと耳を動かして2人声を揃えて「『ロビー』に誰か現れた」と私たちに報せた。

 『ロビー』に魔物の『三郎太』対策として仕掛けた魔導術に反応があったらしい。

 ◇

 バッシュくんたちが『ロビー』に仕掛けた警戒用の魔導術に反応があったことで、私たちは急遽行き先を『ロビー』に変更し通路の扉の前までやって来た。

『三郎太』や新たな魔物に備えて、ガイアスくんが慎重に扉を開けようと手をそえる。

 ドガ!!

 まだ開かない扉に凄まじい音と衝撃が生じた。

 ドガ!!ドガ!!

 扉を開けるのに武器か何かで抉じ開けて出ようとしているようだ。

「正気かよ」
 ガイアスくんが盾をかまえ、ジャックくんも臨戦態勢をとる。

『ロビー』の扉には鍵はかかっていない。
 大きくて分厚く頑丈なため、多少は重いかも知れないけれど、それでいきなり武器で破壊して開けようとするのだとしたら早計すぎた。

 ドガァッ!!

 扉の中央が砕けて、飛び散り、斧の刃先のような部分が飛び出してきた。
 遺跡の修復機能は壁などの扉や棚には機能していないらしく、そのまま扉の破壊が継続される。

 ガイアスくんとジャックくんの合図を受けて、私たちは通路の『2番目の魔物の部屋』の出入口前に設置された防御結界『屈強なコテージ』まで避難する。

 メリ、バキバキ!ガシャアァッ!!ドン
 扉が倒され破壊される音が通路に響いて、『ロビー』から誰かが現れた。

 肩よりも長いゆるくうねりのある金色の髪と肩に担いだ斧。
 透き通った美しい緑色の瞳。始祖獣をサルに持つヒト属の美的感覚に照らせば整った顔立ち。金色の装飾をあしらった白く輝く金属の鎧で、頭以外の全身を覆った男。

 大きな鎧と斧という装備に、女性的で柔和な顔立ちがチグハグな印象を与える。

 男は冷たく微笑んだ顔で担いだ斧を振り上げると、何の会話もないままジャックくんの頭上めがけて躊躇いなく振り下ろした。

 カァンッ!! 金属のぶつかる大きな音が通路に鳴り響く。

 ガイアスくんが大盾で受け止め、そのまま男を盾で『ロビー』の中に弾き飛ばした。

「どこにでも現れやがって!」ガイアスくんが男に向かって吐き捨てるように言うと、『ロビー』に飛ばされた男が

「君の力量で私の斧が止められるとは思わなかったな。腕をあげたのかい?」とよく通る声で言った。

「さあね。装備を新しい物に買い換えはした」
「なるほど。装備品の力か!そうだと思ったよ!」

 再び『ロビー』から現れた男はガイアスくんの言葉に笑いながらそう言うと、今度は直接ガイアスくんに向かって斧を振り下ろす。
単独活動ソロのあんたと違って仲間の支援も受けてる」
「なるほど、なかなかの強力な防御魔術だ」
 斧から一瞬迸った閃光。
 雷属性の攻撃
 それもガイアスくんに受け止められると、面白くないという顔で睨み付けたが、すぐに思い直したように向きを変え、潤んだような瞳で微笑んだ。

「ああ!エレイナ!愛しの女神!君の夫が囚われた君を今救出にやって来た!さあ!安心して出てきておくれ!」

 夫?

 男の唐突な発言に驚いた私は一応エレイナさんに確認の視線を送ってみる。
 エレイナさんが私を見て、ブンブンと頭を振った。

 エレイナさんからの反応を大して待たずに、男が今度は
「おお、そこにいるのはバッシュとノアではないか!」
 と親しげに話しかけ始めた。

 どうやらエレイナさんたちだけでなく、バッシュくんたちにも面識があるようだけど、当のバッシュくんとノアくんが唸り声をあげた。体力と魔力を奪う弱体化魔術『二重奏』まで使っていて、間違いなく男にその効果が現れているけれど、倒れる気配はない。
 回復薬を使っているようにも見えず、まるで体力と魔力が無限にでもあるかのようだ。
 私の地属性魔術アースバインドは万能ではなく、男には効果が見られない。
 時々こちらをチラ見している様子がある。エレイナさんを見ているのでなければ、嫌がらせ程度には負荷があるのかもしれない。
 エレイナさんは補助魔術でガイアスくんたちを支援している。

 親しげに話しかけたバッシュくんたちに唸られても、堪えるようすもない男は揚々とガイアスくんとジャックくんに向かって斧を振り回し、ガイアスくんがそれを何度も受け止め、その度に激しい衝撃音がしてガイアスくんの身体が僅かに後ろへ押される。

「バッシュ!ノア!!もっと後ろの結界へ!それから防御結界の強化と多重の防御障壁!身を護るんだ!」

 ジャックくんが叫んで、ガイアスくんが大盾を展開して男を弾き飛ばし、続けざまに盾で体当たりした。『盾攻撃シールドチャージ!』

 ガイアスくんが男を再び『ロビー』側に押し返す。
 遺跡の通路は平常時に人が利用する分には充分すぎるほどの広さだが、剣や斧を使って戦うには決して広いとは言えない。

 そんな中で、右へ左へ回転でもさせるように軽々と振り上げられては振り下ろされる戦斧。

 ガイアスくんが盾で斧を受け止め続け、ジャックくんが剣に『氷結』を付与して重く鋭い攻撃を重ねていく。

 その間に私たちは通路の『5番目の魔物の部屋』の出入口前に設置された防御結界『屈強なコテージ』まで到着。

 バッシュくんとノアくんの防御障壁が手前から順に構築されていき、ガイアスとジャックくんを範囲内におさめる。

 その頃合いでガイアスくんが盾を大剣に切り替え、素早く男を大剣で殴りつけた。

 男が痛みで隙を見せ、ジャックくんが斧を取り上げて捨てさせ、ガイアスくんが羽交い締めから組み伏せて取り押さえ、ようやく制圧することが出来た。

「ロデリック、ここに何しに来た!」
 ガイアスくんが怒りに満ちた様子で問い質す。
 いつの間にか頭に傷を負っていて顔まで血に濡れている。
 ジャックくんも至るところに傷を受け、衣服が赤く血に染まった部分が見られた。

 ◇

 遺跡の通路の壁際に、バッシュくんたちの障壁で囲んでロデリックと呼ばれた男を閉じ込めた私たちは、彼が遺跡内にやって来た目的を聞くために尋問を開始したのだけど。

「愛しのエレイナを君たち悪漢から救いだしに来た」
 の一点張りでよくわからない。普通に助けに来てくれたというのであれば、ありがたいのだけど、どうもそうではないらしい。

 エレイナさんがガイアスくんたちに拐かされてここにいると思い込んでいるようなのだ。それも本気で。

 そのせいで迂闊に自由にすると、また攻撃をしてくる恐れがあって野放しに出来ない。
「悪いが、あんたの武器と荷物はこちらで預からせてもらう」
 ガイアスくんが言ってから
「人格に問題さえなければ、リュズミナル(神聖白金)への昇格が近いとさえ言われているあんたに油断するつもりはないよ」
 と付け加えた。

「障壁は一応自分より強い相手を想定して適用していますから、貴方でも簡単に破れると思わないでください」とノアくんがロデリックの抵抗に対して牽制する。

 ジャックくんたちによると、冒険者としての彼はランクが高く、ガイアスくんたちの地域で設けられた6段階の階級の中で、上から2番目のプラチナ(白金)を獲得し、英雄の称号を与えられた、実力者として名高い人物だという。

 1番上のリュズミナル(神聖白金)はほとんどの冒険者ギルドで条件を満たすものが不在で、事実上冒険者ギルド内で最高ランクと言って差し支えがないのはプラチナランクと一般的に認識されている。

 ガイアスくんたちのランクはシルバー(銀)なので、完全にロデリックの方が格上ということになる。

 ちなみに最高ランクのリュズミナル(神聖白金)への昇格条件の全ては公にされないものの、限られた極少数だけに与えられる階級となっており、条件を満たして昇格を果たすと、戦の神イベルナにあやかり戦神の称号が与えられる。

 世界でも上位で通用することが求められる階級に位置し、この階級に対応するクラスの実力者は世界でも数えるほどしかいない。

「百歩譲ってエレイナを救いだしに来たのはいいが、脱出の方法はわかってるんだろうな?」
「ふん!そんなもの、来たときと同じ道を通れば良いだけのこと。或いは来る道があるなら当然帰り道も用意されている。そうでなければ造った者自身とて出られないだろう」

 ガイアスくんの質問に、何をわかりきったことをとでも言いたげに答えたロデリックに場にいる全員がガッカリを隠せなかった。特にエレイナさんの表情は笑っているのに、これでもかというほど、声が冷たい。

 彼がここまで来た方法は私たちと同じで、洞窟内の転送術を魔導ギルドの協力の下で作動させ、やって来たらしい。

「冒険者ランクが高いから、ゴリ押しで来ちゃったかもしれないね」バッシュくんが苦い顔を見せた。

 冒険者ギルドから与えられるランクは、個の戦闘能力だけでなく、組織での実績を示すものなので、冒険者ランクが高いということは、難易度の高い依頼をこなすだけの、実力と実績がランクに見合うだけあるという証にもなっている。

 ランクが一定以上になると、ほとんどの国と地域で大した審査を必要とせずに立ち入る許可が下りるようになるくらいだ。

 例えばガイアスくんたちの国だと、シルバーランクなら単独でさえなければ、立ち入れない国や場所がほとんど無いレベルには達しているとみなされる。ちなみに一番低い一般のランクは植物を表すボタニカルランクで、カードには成長する若葉をイメージした柄があしらわれている。

「帰る方法は考えているが、今すぐに実行して外に出ることはできない」

「……」

 ガイアスくんたちから説明を受けているうち、ロデリックという人物が無言になった。どうやら全く話を聞かないという訳でもないようだけど、先ほどの彼の行動は赦す気にはなれない。
 対抗していなければ殺されていた。ガイアスくんたちが比較的落ち着いて話しているのが不思議なくらいだ。

「ガイアス、この人の荷物の中に食料や回復アイテムがほとんど入っていないぞ」ジャックくんとエレイナさんがガイアスくんに言うとロデリックが「私の鎧は身に付けているだけで体力も魔力も回復してしまうからな」と自慢気に発言した。

「そいつは結構な装備品だが、餓えや渇きもどうにかしてくれるのか?」ガイアスくんの目が鈍い光を湛えた。

 ◇

 ロデリックとの一戦のあと、彼から森の状態や洞窟、遺跡について知っていることが無いか聞き出そうとしたガイアスくんたちだったけれど、彼が私たちがここへ来る以前に知っていた以上のことを知らないことがわかったため、私たちはやむなくロデリックを通路に残し、もとの予定に戻って『4番目の魔物の部屋』へ向かうことにした。

 部屋の入口に立ったガイアスくんが、入口付近に集まった魔物たちを盾技能で強引に魔物たちを部屋の内側へ圧していく。

 ガイアスくんとジャックくんの怪我はすぐにエレイナさんとバッシュくんたちの回復魔術によって治療され、2人の動きや表情からも疲れは見えない。

 ガイアスくんに強引に盾で押される魔物たちが、爪と牙を剥き出しにして壁を引っ掻くような動作をし続け、腕をグイグイと伸ばし続けている。

 そこにバッシュくんたちが『二重奏』、エレイナさんが風属性魔術『風刃』で魔物を倒しながら、私が地属性魔術『アースバインド』で入口付近の魔物の動きをわずかな時間だけど止めてしまうことで、一時的に空白地帯を作った。

 その隙に、ガイアスくんが部屋の中に加工された水属性の魔石を投げ入れると、水属性の魔力が火属性の魔力に反応して、激しい爆発と炎上を繰り返す。

 防御結界の防御壁で隔てられた魔物の部屋で起きる爆発と炎上によって、次々と魔物が倒されていくのを確認すると「みんな少し休んでくれ」とガイアスくんが私たちを振り返って休憩を促した。
 水属性のエネルギーと火属性のエネルギーのぶつかり合う部屋は、中に入るガイアスくんやジャックくんまで巻き込む勢いで、危険な様相になっている。

「この様子だとオレたちが部屋の中に入れるようになるまでに少し時間がかかりそうじゃないか?」

 ジャックくんがそう言うと、エレイナさんがほっとした表情で頷いて「ガイアスたちが休むのにもちょうどいいわ」
 と言って魔力と体力を少しだけ回復するビスケットを3枚ずつ配ってくれた。

 粉砂糖でコーティングされた、艶のあるビスケットをバッシュくんとノアくんが美味しそうに食べて、涙を浮かべていた表情かおはすっかり消えた。

 ◇

 短い休憩のあと、『4番目の魔物の部屋』の中を見ると、魔物の数が予想以上に減っていて、私は『水属性の魔石』の威力に驚かされた。
 水属性の魔術を使えるエレイナさんも驚いているので相当な効果を発揮したのは間違いないと思う。

「火属性の魔物の中に、引火を誘発するのがいそうだな」
 ガイアスくんはそう言うと私たちを振り返り
「属性攻撃をしてくるかも知れないから、このまま結界で待っててくれ」
 と待機を促した。

『5番目の魔物の部屋』の魔物が雷の力を使ったように、魔術とまで言えなくても火属性の攻撃をしてくるくらいの魔物になっている可能性が高いということだ。

「私も行くわ」
 エレイナさんが言うと
「もっと数を減らしてからだ」
 と、ガイアスくんが首をふった。

「数が多いから私も行くわ!」
 エレイナさんが食い下がると、今度はジャックくんが

「バッシュたちの魔導術で強化していれば大丈夫だろう。数が多いときは広範囲に攻撃出来るエレイナの魔導術は有効だ」
 とエレイナさんに加勢した。

 ガイアスくんがそれでも首をふり
「数で囲まれたら攻撃を防げない」

 と言うと、バッシュくんとノアくんが

「僕たちがさっきみたいに障壁を作る。それに水属性の魔力があるから火属性の力に耐性があるよ!」と小さな手を揃って上げた。
 それでもガイアスくんは首を縦にはふらず
「エレイナたちの魔導術は射程距離が長い。結界の中からでも範囲内になる魔物を頼む」と続けた。

 それだと治癒かいふくの魔導術が届かない。

回復薬ポーションはちゃんと使う。危なくなったら戻る」

 ガイアスくんがそう言ったところで、ジャックくんがまた口を挟んだ。「ガイアス、ロデリックとやりあったあとでお前が慎重になるのはわかるが、過保護だぞ」

 こういうときに続けて彼が発言するのは珍しい。
 エレイナさんが嬉しそうにジャックくんを見た。

 ◇

「こっちは終わったぞ」ジャックくんが魔物の部屋の右手側から手を上げてガイアスくんたちのいるほうへ合図を送った。

 部屋の左手側にいるノアくんが「こっちはまだもう少しかかりそう」とガイアスくんの肩の上から両手をふった。

 バッシュくんとノアくんが魔術で反り返った形状の防御障壁を2か所作り、前方にいる魔物を一時的に囲い込んでいる。

 ガイアスくんよりも大きくなった魔物たちの身体から、小さい火が噴き出して暴れているけれど、バッシュくんたちの防御障壁は影響を受けていない。

 行き場の限られた魔物たちが、誘われるようにガイアスくんめがけて移動する。

 私はその様子を、地属性魔術『アースバインド』で魔物を数体足止めしながら、部屋の中央から眺めているという状態だ。

 私の役割はバッシュくんたちの防御障壁と連携しながら、魔物たちを壁代わりにして、魔物を分断させておくこと。

 ジャックくんたちの方側の魔物が片付いたようなので後は自分の身を護るために魔物の動きを封じる。

 正直冷や汗がにじむ。

 ガイアスくんが前方の魔物をガシガシと切り払い、バッシュくんとノアくんが魔力を回復させて『二重奏』を発動させた。

 数を減らしていると言っても、魔物はまだ1,000体位残っている。大きさにさほど変化は見られないものの、ガイアスくんやジャックくんよりも小さな個体はいない。

 この『4番目の魔物の部屋』の魔物は弱って本能的に魔石で回復するだけというのとは違い、魔石を取り込むことで強化をするようになっている。

 けれど『5番目の魔物の部屋』と『1番目の魔物の部屋』で見られたような、積極的な同士討ちや力の奪い合いはあまりしていないので、魔物の移動を制限して魔石を拾わせないようにすることで強化を防ぐことにしたのだ。

 強化を防ぐために魔石を私たちの方が拾いながら対応するのは無理があったからだ。

 エレイナさんが部屋の右手側から左手側にいる魔物に水属性魔術『水散弾』を発動させ撃ち抜いていく。

 その間にジャックくんがエレイナさんを追い越し、ガイアスくんたちのいるところへ到着したところで、入れ替わるようにしてバッシュくんとノアくんがガイアスの肩から素早く飛び下り、自分たちに防御魔術を施して私の後ろに待機した。

 バッシュくんたちの防御魔術が私にも付与される。
 私はちょっとだけ勿体ないなーと思いながら享受した。
 バッシュくんたちの防御魔術は強力な上に優秀で、力や魔力値も上昇するのだ。

 ガイアスくんの側にあった2ヶ所の障壁の消失が始まって魔物たちが拡散し、攻撃をガイアスくんだけでなくジャックくんとエレイナさんにも向け始めた。

 ガイアスくんがその行く手に立ちはだかり、ジャックくんが剣と体術、エレイナさんは水属性魔術『水散弾』で魔物を次々に倒していく。

 風属性の魔力で押し出されるように発射された無数の水の弾が高速で魔物を襲う。

 3人にはバッシュくんたちからの強力な魔術の補助があり、魔物の数は圧倒的にも関わらず、危うさが1つも感じられない。

「ガイアス思い出せ。エレイナは魔術師にしては頑丈な部類だ」

 先ほどのジャックくんのエレイナさんへの評価を私は思い出して少しだけ笑ってしまいそうになった。

 ジャックくんが彼女の参戦の意志に加勢するために言ったことなのだけど、きっとそれは本当なのだろう。

 彼女の戦いを見てそう思う。そして同じようなことはバッシュくんたちにも言える。

 ジャックくんからの評価を聞いたエレイナさんは少し複雑な表情を見せて憤慨したけれど、ガイアスくんには響いたらしく、今こうして一緒に戦っている。

 ところで……

 かれこれ地属性魔術『アースバインド』を100回ほど発動させている。そろそろ、いろいろな意味でキツく感じてきました。

 回数が多くなるのは私の術の効果時間が短いのが原因で、時間にするとそれほど経っているわけではない。

 自分の魔術に文句をいうのはおかしいかもしれないけど、もう少し効果の持続時間は伸びないものか。

 効果のある範囲や射程距離は最初より広がっているのに、相変わらず効果の続く時間は10を数える程度なのだ。
 希望通りにうまくいかない。

「マクスさん!頑張って!」「うん」
 バッシュくんたちの声を聞いて少し気を取り直す。
 あと少しで残った魔物が全て私の地属性魔術『アースバインド』の効果範囲内に収まる数になるはずだ。
 予定ではその頃合いでガイアスくんたちが魔物を誘導しながらこちらに来て、まとめて対峙する手筈になっている。

 私はアイテムバッグから魔力回復薬を取り出し、魔力を回復させる。ここが終わったら『魔物の部屋』は、あと1つ。

 ◇

「マクスさん!助かった、あとは任せてバッシュたちと休んでくれ!」

 ガイアスくんとジャックくんが前方にいる、魔物たちの前に立ち、後方にいる私に言った。

「マクスさん!お待たせしました!」
 エレイナさんはそう言うと、魔力を回復させて前方の魔物めがけて水属性の水の弾を上空に出現させ、高速で発射する。

水散弾ウォーターショット
 放たれた水の弾丸が火属性の魔物からエネルギーを奪い、水蒸気が上がる。
 もっと高い位置から発動させることが出来れば相当な威力を発揮する魔導術。ただし飛距離を増して失速させずに、より高速で水弾を飛ばし続けるのには相応の魔力と魔導技術を必要とする。

 飛距離を稼げない場所でそれに匹敵する威力を発揮させるにも、高い魔力と魔導技術への理解が求められている。

 ガイアスくんたちが参加してくれたことで、ほっとした私の集中が切れ、地属性魔術『地縛り』アースバインドが解けて火属性の魔物たちが活発に一斉に動き出した。

 ジャックくんが自分よりも大きな魔物を高い機動力でねじ伏せ、エレイナさんが威力の高い『水散弾ウォーターショット』を発動させ、魔物たちが倒されていく。

 薄く水属性の魔力を纏ったジャックくんの剣が切ったあとも火属性の魔物から熱を奪っている。黒い霧に混ざって水蒸気が上がる。

 残った魔物の多くは魔石を取り込み大きくなっていたけれど、バッシュくんたちの『二重奏』で体力を大きく削られた魔物たちを倒すのに、彼らは時間を必要としない。

 時刻魔導具の短い針は、まだ明るい時間を指していて、盤面に装飾された12個のとても小さな魔石が白く明るい光を湛えている。
「残る魔物の部屋はあと1つだ。このまま行けそうか?」
 ガイアスくんがそう言ってから
「この部屋の魔石と素材を回収しながら、部屋を調べて『3番目の魔物の部屋』の魔物は明日にするというのでも俺はかまわないし、今日は休むというのも考えよう」

 と付け加えて私たちを見回した。

 ロデリックの乱入があったものの、時間としてまだ早い時間だ。ガイアスくんやジャックくんの具合さえ悪くないなら、私は残りの『魔物の部屋』へ行くことに異存はない。

 無理せず休むというのも有効だし、部屋を調べるというのも問題無い、どれを選んでも有意義な選択に思えた。

 バッシュくんとノアくん、エレイナさんも少し迷っているようだ。ジャックくんも特に意見をいうつもりがなさそうに見える。

 私は思いきって休むことを提案することにした。

「私は『魔物の部屋』は万全の態勢にしてから挑むのが良いと思う。明日ならそれが出来るんじゃないかい?」

 明日の段取りを考えるのに時間を使ってもいい気がする。

 するとバッシュくんとノアくんが「明日なら火属性の魔石を用意できるよ」と言って、それを聞いたガイアスくんが、明るい調子で「雷属性の魔石と水属性の魔石を温存できる」と頷いた。

『拠点』の魔冷保存個に使っている魔石もいずれ回収するだろうから、明日、火属性の魔石を使っても少なくとも1つは火属性の魔石が残る。

 『出口』の先に、まだ何があるかわからない。用心に威力のある魔石は属性ごとにあると良いとガイアスくんは思っているようだ。
「もう少し威力を抑えるか、逆に上げても良いが。効果範囲を狭くすると使いやすくなる」とガイアスくんが使い勝手をいうのをノアくんが記録メモしている。

 エレイナさんは「明日なら体力も魔力も自然に回復してるわね」と明るく言って、ジャックくんが「空いた時間で気晴らしするのも悪くない」と言って頷いた。

 話が決まるとすぐ隣の『5番目の魔物の部屋』の出入口に設置した防御結界『屈強なコテージ』の『小屋』まで戻ることにして、早速通路へ出た。

 障壁で閉じ込められたロデリックが通路にちゃんといるのを確認する。どうやら大人しく座ってくれているようだ。

 エレイナさんが、険しい目付きでロデリックを見ていると、「あいつのおかげで外の様子が一応わかった。悪いことばかりじゃない」とガイアスくんが言った。

「食料はお菓子を持ってきてるみたいだし、それでまかなってほしいわ!」エレイナさんが言うとガイアスくんが「菓子ばっかり食わせるわけにはいかないが、基本的にはロデリックが自分で持ってきたものでなんとかさせる」
 と言って苦笑した。
「ギルドに戻ったら、話も聞かずにロデリックに殺されそうになりましたってちゃんと報告しなくては駄目よ!」
「わかってる」「僕たちも証言する」

 バッシュくんたちもロデリックには苦い記憶が元からあったようで、そこに追い討ちをかける行為。
 ものすごく怒っている。

 ジャックくんが通路に座ったロデリックを振り返ったけれど、なにも言わずすぐに正面を向き直って私たちと一緒に『小屋』の中に入った。

 ◇

「かわいいな」「かわいいわね」
 エレイナさんとガイアスくんが、テーブルの上で魔石の欠片をモシャモシャと食べるブタ型の魔導具を見ながら、幸せそうな顔で頬杖をついている。

 ジャックくんは魔石を与えるのが面白いらしく、魔石をわざわざ一粒ずつあげてみたりするので「ジャック、意地悪しないでもっと1度にあげればいいじゃない」とエレイナさんに言われている。
 その様子を小窓の下に置かれた飾り棚の魔力コイン箱にコインを入れて魔力を補充したバッシュくんが、ジーっと見ている。

 バッシュくんは私たちがブタ型の魔導具に魔石を食べさせすぎないか気になっているようだ。
 私もガイアスくんたちも、もう立派な大人だ。
 前に作りすぎた反省から今回は作る魔力コインを3枚までと決めている。

 ちなみに、バッシュくんたちのブタ型魔導具は魔力コインを精製するだけでなく、未使用の魔力コインを貯めておける便利な魔導具でもある。

「バッシュのブタ型魔力コイン箱、肥えたね」ノアくんにバッシュくんがコクりと頷いた。

 ◇

『小屋』に戻ってしばらく時間が経つと、テーブルの上に『書斎』から持ってきた本が置かれ、バッシュくんを含めたみんなで椅子に腰かけた読書の時間が始まった。

 テーブルの中央にはビスケットを並べたお皿と燻製肉とチーズの入った小皿、紅茶と水の入った湯呑茶碗カップそれぞれの手元に置かれている。

 休憩を兼ねた手がかり探しだ。

『拠点』の『書斎』に所蔵された本は物語形式のものが多くあり、『魔物の部屋』について書かれた本は、そうした物語形式の本に混ざって所蔵されていたもので、一見しただけでは『遺跡』について書かれたものとわからないものだった。

 そういう本が他にもあるかもしれない、というわけである。

 それとは別に魔術にも関連した本も多くあり、密かに暇を見て読んでいる。
 役に立ちそうなら取り入れようというのもあるし、失われた古代技術という響きだけでも浪漫だ。

「全部怪しく思えてくるよな」
 例によって例のごとく、ガイアスくんが悩み始めた辺りでジャックくんが「ほどほどに読め」という助言をしている。

「お砂糖を塗ったビスケットもいいけど、こっちのクッキーも美味しい」「サクサクしてるね」読書の合間につまむ甘味にバッシュくんとノアくんが目を細め、ガイアスくんが「晩のごはんもしっかり食べるんだぞ」と声をかけている。

 不測の事態さえなければ、いよいよ明日で『魔物の部屋』の魔物を全て倒しきるか、そうでなくても調べることのできる状態にはなりそうだ。

 もしも魔物の部屋、それ自体が古代遺跡の仕掛けなのだとしたら、魔物を倒しきることで、何か起きるのだろうか。では『鍵』とはなんだったのだろうか。

 今までに見つけている外に繋がる『出口』候補は3つ。残りの2つの部屋でも見つかれば5つ。

 魔物を倒しきってもなにも起きなければ、やはりガイアスくんに床を破壊してもらって脱出を試みなければならなくなる可能性が高いけれど、そもそも本当に外に繋がった出口なのか。

「ここの構造がわかるものが見つかるとありがたい」
 確証が少しでもあれば。

 ◇

 時刻魔導具が晩ごはん時を教えてくれる頃合いになって、食事の準備をしているとガイアスくんが自分の分の野菜スープを別の容器に入れている。

 どうやらロデリックに差し入れるつもりのようで、エレイナさんが「食事を分けてやる必要なんてないわ。彼が持ってきたお菓子や水はそのまま返しているんだし」と首を横にふっている。

 私もエレイナさんと似たような意見だ。

「まあ、そう言うなって。あとで役に立ってもらうかもしれないだろ?」
 とガイアスくんが笑って言い、ロデリックのもとへ私とバッシュくんとノアくん、ジャックくんにも一緒に行くことになった。
 エレイナさんは結界の方がおそらく安全だ。
 バッシュくんとノアくんには障壁の管理があってやむを得ない。

 通路へ出てロデリックのところへ行き、ガイアスくんが野菜スープを差し出すと彼は横柄な態度は崩さなかったが、器を受け取ると意外なことに礼らしき言葉を口にした。

「バッシュ、ノア」ロデリックがバッシュくんとノアくんに話しかけた。「もう少しこの障壁を広くしてもらえないか?これでは横になれない」

 するとバッシュくんが「僕たちの実力では今より広い障壁だと、貴方に逃げられるからね」と少し不機嫌そうに返した。

「逃げたりしない」とロデリックが言うと「前にボクらのチームの結界から逃げたじゃないですか!」とノアくんが言い返した。
 前歴があった。
「よく覚えてるね」とロデリックがひどく残念そうにするのを見て、バッシュくんとノアくんが「ついこないだだから」と呟いた。

 ガイアスくんとジャックくんが呆れている。

「この多重の障壁も何個かもう破壊しようとした形跡がある……全然信用できないよ」

 バッシュくんは困った顔でそういうと、ノアくんと一緒に障壁を張り直してさらに強固に補強している。

「魔導ギルドのマスターから苦情がいったはずなんだ。冒険者ギルドはどうしてこの人を自由にしてるの」

 それには「上の事情はわからないが、冒険者ギルドは荒い連中が少なくないからな……」とガイアスくんが苦笑した。

 ロデリックを処分したり罰を加えると、他にも大勢似たような人をどうにかしなくてはいけなくなるのだろうか。

 彼への用が済んで『小屋』に戻ると、待っていたエレイナさんが出迎えてくれた。

 テーブルには野菜スープの他に塩漬けの魚を使った料理や胡桃や芋を煮込んだ料理が盛られた皿が並んでいる。
「いただきます」バッシュくんたちの明るい声が響いて食事が始まった。

 明日に備えて夜が更けていく。


 ────────
 ────────

 籠城戦9日目

 推定魔物討伐数 ???~30,000体、素材獲得数 ???個(赤青黄白黒)、魔石の欠片 ???個

 前日の獲得数 素材 1,252個(赤青黄白黒)、魔石の欠片 2,000個

 □共有アイテム□

 ◇主な食料50日分

 ◇嗜好品お菓子類(魔導系回復あり)、嗜好品、お菓子類(飴6粒)、未調理穀物6日分
 ◇魔力回復ポーション(EX132本、超回復112本、大252本、中1,024本、小1,390本)
 ◇治癒ポーション(EX132本、超回復254本、大1,020本、中2,420本、小5,017本)、薬草(治癒2,216袋、解毒120袋)2,336袋、他

 □各自アイテムバッグ
 ガイアス、ジャック、エレイナ、バッシュ、ノア、マクス
 □背負袋
 ガイアス、ジャック、エレイナ、バッシュ、ノア、マクス
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