星の迷宮と英雄たちのノスタルジア

いわみね

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第27話 時を越えた再会

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 ◇
 見失ったスライムの件を門の衛兵さんに伝え、2日目の警戒の任務を終えた私たちがその報告のためにギルド出張所へ向かうと、ギルド建物の前にイシュタルさんが立っているのが見えた。
「イシュタルさま!どうしてここに?」
 エレイナさんとバッシュくん、ノアくんの3人が駆け寄る。
「一応私はお前たちの依頼人だからな」
「そういえばそうでした。じゃあ何か用件があって来たわけじゃないんですか」
 そう少し嬉しそうに話すエレイナさんに、イシュタルさんが言った。
「いや、一応用があって来たんだ」
 ガイアスくんが周囲に人がいないのを確認してから、声を潜めてそっと聞く。
「百犬隊のことか?何かわかったのか」
「聞いたのか。まあ、お前たちなら仕方無いだろう。その件は無事を信じるより手がない状態だ。ワルゴの状況次第でこちらから援軍と捜索隊を新たに編成するため人員の募集をかけることになるかもしれんのだが。それより今はお前たちに見てほしいものがあって来た」
 エレイナさんたちに聞かれてイシュタルさんが答えた。
「これなのだが、まずシナップ何かわかるか?バッシュ、ノア、お前たちも見てくれ」
 そう言うとイシュタルさんは屈んだ姿勢になって小さな木箱に入れられた黒い破片のようなものをシナップくんたちに見せた。
 ガイアスくんの足元から少し身を乗り出すようにして破片を見てシナップくんが言った。
「魔力の塊なのだ」
「魔石ということか?」
「広い意味では魔石と言えてしまうのだよ。もっと狭い意味でボクたちに判断させたいのなら、どういう状態のものがこうなったのか教えて欲しいのだ。推測するに『ヤマルの森』に出現した謎の『黒い物体』の欠片だとは思うけどなのだよ。ボクはそれ以上何も知らないのだ」
「説明不足ですまない」
「イシュタルさん、説明に時間が必要なら、食事のあと、宿の部屋で話すといい。エレイナ、宿の許可を得るのを頼む。俺はギルドに今日の報告を済ませてから戻る。遅いようなら先に食べて部屋にいてくれ」
「了解したわ」
「ガイアス、お前も何か気づいたことや、似たものの心当たりがあれば後で聞かせてくれないか」
「了解」
 ガイアスくんはバッシュくんとノアくんから今日のメモを受けとるとギルド出張所に入っていった。
 それを見送るとシナップくんが
「良ければ後でそれの解析の役に立つかも知れないものをあげるのだ」
「本当か!恩に着るよシナップ!」
「ボクの方も調べて欲しいものがあるのだ。それと今度甘食を……」
 シナップくんが言い終わらないうちにイシュタルさんが言った。
「両方お安いご用だ!それと、忘れぬうちに渡しておこう。今日の礼だ。ひとまずこれを皆で分けてくれ」
 イシュタルさんが手土産のお菓子の入った袋をくれたのだった。
「ありがとうなのだ!」「わあ、ありがとうございます」「いつもありがとうございます!」

 ◇

 それから宿に戻った私たちは、食堂で先に料理を頼んで待っていた。
 けれど頼んだ料理が人数分テーブルの上に揃って並ぶ頃になってもガイアスくんは来ない。
 シナップくんが小首を傾げた。
「ガイアス君、遅いのだ」
「ほんとだね。どうしたんだろう」
「確かに報告だけにしてはやけに時間がかかっている」
「新しい情報が入っていて、話を聞いているのかもしれないわ。先に食べましょうか」
 エレイナさんがそう言うとロデリックくんがうなずいた。
「本人も先に食べるよう言っていたのだから、気にする必要もない」
 ジャックくんとイシュタルさんもうなずいて食事が始まった。

「いただきます」「いただきますのだ」
 しばらく食事を進めている間にガイアスくんが戻るかと思ったけれど、ガイアスくんは宿の食堂へは来なかった。

「先に部屋のほうに戻ったのかな」
 食事を終えてしばらく待っても戻って来ないので、バッシュくんが伝魔を飛ばして反応を待つ。
 短距離なら魔力番号を知っていれば互いに短い伝言を送りあうことができるのだけど。
 反応がない。
 カマルくらいの広さの街なら遠くて届かないということは考えにくい。どこか魔力が通りにくい遮蔽物近くや建物内にいるか、話していて気付かないのだろうか。
 時刻も過ぎて注文も締め切られる時間が近づいている。
 イシュタルさんも黒い破片について話したそうにしているので、私たちは部屋へ行って先に話を聞くことにしたのだった。

 ◇

「それで、何故に『黒い物体』はこのような姿に成り果ててしまったのだね?聞いていた話ではもっとこう、大きさのある謎めいた物を想像していたのだけどなのだ?」
 宿の部屋に戻った私たちは、シナップくんと一緒にイシュタルさんから預かった黒い破片を観察していた。
 破片は黒曜石のように光沢があって、少し鋭利な形をしている。
「それが、よくわからんのだ。今朝報告があって森へ行ってみると1つが砕け散っていた。自然にこうなったのか、誰かが意図的に破壊したのかも不明だ。一応日中は見張りと記録魔導具を使った監視はしていたのだが。物体の見つかった箇所以外森への出入りは禁止しておらぬし、記録魔導具は物体自体を映すためには置いていなかった」
 イシュタルさんの説明にロデリックくんが冷ややかに言った。
「粗っぽい冒険者に壊されるのを懸念して遠ざけた割に、お粗末な警備だ」
「返す言葉もないよ。だがそのおかげでこうして破片として持ち出すことが出来た!」
「……結局のところ、壊れた経緯は不明なのだ?それを最初に言うのだ。推測しか出来ないけれど、見た目と触った感じ、これは魔物の“成れの果て”と思うのだよ」
「魔物の成れの果て?」
「目新しいことは言ってないと思うのだ。そっちでもう大体の目星がついていて、確信に繋がる何かが聞きたくて来たんじゃないのかね?」
 シナップくんの金色の瞳に見つめられ、イシュタルさんがふうっと息を吐いた。
「我々のほうでは破片の元になった黒い物体の正体は、魔物そのものが変化したものではないかという考えに行き着いている」
「順番から言っても、それであってると思うのだよ」
「そうか」イシュタルさんが正解を引き当ててほっとしたような表情で言った。
「後で渡すものと一緒に解析すると、そっちでもっと調べられると思うのだ」「そうか、よろしく頼む」「こちらこそよろしく頼むのだ」
 古代遺跡の遺物とか、そういうのじゃなかったんだね。
 現代いまはもういないはずの古代の魔物が遺したわけだから古代の遺物といえなくもないのかな。
 私が意外に思っていると、ロデリックくんも
「古代遺物の類いではなかったのか」と意外そうにした。
「はじめは私たちもその線で調べていたのだが、組成が魔物の出す“黒い霧”と酷似していることがわかって、どうも違うようだと考え方を改めた」
 イシュタルさんがそう話すと、バッシュくんとノアくんが納得しながらうなずいた。彼らの予想の範疇だったのだろう。
「それはそうとイシュタルさま、今回どうしてこの警戒の依頼者に?」
「ああ、ホレスから頼まれたのだ」
 多忙な領主のホレスさんに代わってイシュタルさんが依頼の指示や報告の事務処理を一部受け付けることを引き受けたようだ。
「おかげで魔物の一件で情報が入ってきやすい」
「何かわかったんですか?!」
「ふふ、まだ公開されていない極秘のすごい情報がある。聞いたら驚くぞ。極秘だが聞きたいか?」
 極秘情報をイシュタルさんが私たちに話しちゃって良いかどうかは兎も角、自信溢れるその様子にみんなで
「聞きたい」「聞きたいです!」
 と興味津々で話を促した。
 シナップくんがカップを用意し、バッシュくんとノアくんと私で宿に備えられた魔石ポットのお湯で紅茶を淹れ、エレイナさんは小皿にビスケットを用意して準備万端整った。
 そうして差し出された紅茶を飲みながら、イシュタルさんが若干厳かな様子で告げた。

「なんと!喋るイビルキャットが発見されたんだ!」

 まだ公開されていない喋るイビルキャットの情報。
 それを聞いた私たちの反応がいまひとつになってしまったことは否めず、イシュタルさんを満足させることが出来なかったのは当然だ。
「なぜ驚かない!イビルキャットだぞ?元々知性や魔力の高い魔物が喋るとかそういうのじゃないぞ?!」
「驚いてます!ちゃんと驚いてます」「のだ」「驚いてる」「驚いてる」「ああ、もちろん驚いているとも」
 そこへ
 バン!
 音をたてて扉を開け、部屋へ入ってきたガイアスくんが、
「スライムだ!喋るスライムを見つけた!!イビルキャット以外にも喋る魔物がいるんだ!」
 ガチャン!と荒々しく扉を閉じるなり言った。
「喋るスライム……だと?」
「ん?」
 遅れて帰ってきたガイアスくんに、一同の視線が注がれている。
「ガイアス、喋るスライムってどういうこと!?」
「お前たち、極秘情報の喋るイビルキャットのことを知っていたのか?!」
 
 これは順を追って説明して整理しながら、話したほうがいいのかもしれない。

 ◇

「所長さんたちの話から、イビルキャットが喋ったという件が公開されていないのは、上層部のヒトたちに信じられていないせいかと思っていたんですが、違うんですね」
「ああ、違う、その逆だよ。むしろ重く見て極秘扱いされている」
 ヒルデブラントくんの件で喋る魔物がいるということを認識済みの上層部は、イビルキャットの情報を手に入れた直後、混乱を避けるため、この情報を現状非公開とするように情報元、つまりラスターくんをはじめとする所長さんたちに通達したそうだ。
「百犬隊の件は公表されていない情報として預かったんですが、喋るイビルキャットの方は、その、話しても信じないでしょう?的な……」
 魔物のヒルデブラントくんを知らない所長さんやラスターくんたちは、その口止めを、情報が突飛で信用されなかったものと考えたのだ。
 私たちに対しても、信じてもらえると思わないという口ぶりだった。
 極秘情報の漏洩の可能性だなんて夢にも思っていないだろう。
 ガイアスくんが言った。
「本気で秘匿するならもっと徹底して上層部は伝えるべきだ」
 所長さんの処遇を気にしたガイアスくんに、イシュタルさんが「心配するな。咎めるつもりはない」と笑った。

 それにしても。

「ボクの真似はやめるのだ」『お前こそ止めるのだ』
「何をーこの!この!」『この!この!』
「ふぬー」『ふぬー』
「シナップもスナップも落ち着けよ」
「ジャック君、こんなのにボクの名前を混ぜてつけるのはよすのだ!」
 シナップくんに『こんなの』呼ばわりされたのは丸く研かれた巨大な藍玉アクアマリンのような見た目の魔物スライムだ。パッと見はジュエルスライムのようだけど、彼らよりもだいぶ小さい。
 このスライム、本当にスライムなのだろうか。
 シナップくんたちとのやり取りが、どこかほのぼのとしているせいなのかもしれないけど。
 なんというか魔物独特の尖ったような感じがまるでないというか。
 私はちょっとだけ感じる違和感に首を傾げた。
「喋るイビルキャットの次は喋るスライムか。ヒルデブラントという名の魔物のことにしても、魔物たちに何かが起きているのは決定的だ」
 イシュタルさんはそう言うと残った紅茶を一気に飲み干し、遅れて戻ったガイアスくんが連れて来たスライムに向かって言った。
「スライム、お主どうやって街に入ったんだ?」
『普通に入れたのだ』
 ガイアスくんの帰りが遅くなった理由の1つがこのスライムくん(?)だ。
 私たちと別れたあと報告を済ませたガイアスくんは、ギルド出張所を出たところでこのスライムを建物の物陰に見つけて追いかけたそうで。
「そんなことはないだろう、カマルの街には塀や門番だけでなく結界もあったはずだ。この街の結界は王都と違ってスライムだって通しはしない」
 イシュタルさんがそう言うとエレイナさんが言った。
「この子、昼間外で見たスライムじゃないかしら?」
「魔力探知の魔導具が反応しなかったスライムか」
 ガイアスくんとエレイナさんの会話にイシュタルさんが
「なんだそれは」と聞き咎めた。
「ギルドや衛兵には報せてあるんで、明日には依頼者のイシュタルさんにも情報としてあがるとは思うんだが……」
「先にここで教えてくれ。出来ればここ数日のお前たちの行動も知りたい」
「概要を聞くだけでも閲覧可能な報告書から大方の見当はつけてしまうだろうが。一応、受けた依頼のことは話せないぞ」
「話せる範囲でいい」

 ◇

「冒険者界隈や衛兵たちの間で広がっている噂に、消えたスライムと喋る魔物。回復導具を使うために馬車を襲う可能性があるだと。それは聞いていない情報だ、全然聞いてない!」「報告はしているらしいぞ」
 私たちの話を聞いていたイシュタルさんが額に手をあてた。
「この様子だと魔物たちの異変はかなり前から始まっていたことになる」
 するとシナップくんが「スライムが人語を喋ることを驚くことに関して異論は無いのだけど、キミたちは魔物が言葉を使うこと自体に驚きを抱いているように見えるのだ?」と口を挟んだ。
「魔物も言葉を使っている、ということなのか?」
 イシュタルさんの質問にシナップくんは言葉を使わなかったけれど、目を逸らすこともなく無言で見つめ返した様子は、ある種の肯定を意味しているのだと、うかがえた。
 考えてみれば、これまでにもシナップくんは魔物の知性の高さについて言及するようなことを私たちに度々示してきている。
 シナップくんにとって魔物が人と同じ言葉と理解をするということに驚きを持っても、言葉を使っているということ自体は、それほどの驚きに値していないということだ。

「魔物たちに異変が起きていると判断することは、ボクも否定したりはしないのだ」
 シナップくんはそう言うと、目の前にいるスライムくんを指先でちょん、と押した。
 するとつい今しがたまでシナップくんと言い合っていたスライムくんが『久しぶりだねシナップ!3,000年ぶり!会いたかったのだ』と言い出し私たちを驚かせた。

 次の瞬間
 ボーン!
 部屋のなかで煙のようなものが現れてスライムくんを包み込んで、さらに私たちを驚かせる。
「?!」「魔術!?」
 目眩ましのような煙が消えて再び私たちの目の前に姿を現したのは、さっきより大きくなったスライム?
「でかくなった?」
「いや、違う、こいつは」
「ジュエルスライム!?」
 私たちが驚いていると、シナップくんが金色の目を細くしてジュエルスライムに変身したスライムくんを眺めながら言った。
「ボクは別に会いたくなかったのだ」
「どういうこと?シナップ!」「知ってたの?!」
 バッシュくんとノアくんがジュエルスライムとシナップくんを交互に見て言った。イシュタルさんも気がついていなかったらしい。
「どことなく変わったスライムだとは思っていたが、まさかジュエルスライムの変化の術だったとは!兎に角説明してくれないかシナップ」
「仕方ないのだ。話すのだ」
 そう言って渋々始まったシナップくんの説明によると、喋るスライムくんの正体はシナップくんと面識のあるジュエルスライムだというのである。
 ジュエルスライムは魔力で構成された体や魔力をエネルギーとして動く魔物と違い、人や動植物と同じ魔力と別の活動エネルギーを作っているため、ガレディア領内では魔物として扱われていないし、通常は人語は喋らない。
 少なくとも喋るジュエルスライムはこれまで知られていないはずだ。
 イシュタルさんが言った。
「一体この地で何がはじまっているんだ……」

 ◇

 ジュエルスライムの『スナップ(仮)』くんをガイアスくんが連れ帰ってからしばらく時間が経過した。
 乾パンや飲み物で食事を済ませたガイアスくんと、シナップくんのふたりから私たちが大方の話を聞き終える頃には遅い時間になっていた。
「結局このジュエルスライムはどうすればいいんだ?」
 シナップくんによると、人を襲ったり危害をわざと加えるということは無いそうなのだけど。
「シナップの知り合いなんだろ、そのジュエルスライム。どうする?連れて行動するなら人前で話したりするのは不味い」
「うーん、どうするのだエド?塔に戻っておくのだ?」
『嫌なのだ。喋らなければいいのだ?』
「まあ、そうだな。一緒にいたいならせめて飼魔獣として印を付けることと、報告する必要はあるが」
『かいまじゅう。印?』
「ヒトに飼われてますって証になるものを身に付けるんだ」
『か、飼われる?!ボクが!』
 目や口は無いけど全身で嫌がってる感じが溢れてる……
 するとシナップくんが急に目を輝かせた。
「わかったのだ!『印』を付けて『報告』するのだ!」
『大賢者にして大魔導師エリエルの愛弟子のボクが……』
 スナップ(仮)くんが小さな声で呟いた。
 どうやら『エド』というのが本当の名前のようだね。
 すごいヒトに弟子入りしているみたい。
 だから話せるようになったのかな。
「それにしても昼間のスライムは謎のままなのね」
「そうだな。スライムは小型で半透明だから見失っただけという可能性は残るが……。明日は飼魔獣連れの一行の魔獣の確認は適当にしないように注意しておこう」
 先ほどジュエルスライムのエドくんが飼魔獣連れのヒトたちに紛れて街へ入ったことが判明したところだ。
 スライムに変化していたのはその方が小さくて目立たないと思ったようで、昼間私たちが見たスライムに関してもエドくんには身に覚えが無いことがわかった。
 どちらにしても私たちにとって世にも珍しいスライムであることに変わりはない。
 バッシュくんとノアくんはもちろん、イシュタルさんたちも興味深そうにしている。
 聞いてみたいことは山ほどあるに違いないのだけど。
「色々聞くのは明日にしよう」
 ガイアスくんがそう言うと
「そうね、今日はもう遅いからあとは明日にしましょう」
 エレイナさんがバッシュくんたちにも就寝の準備を促しながら言った。
 イシュタルさんはジュエルスライムのエドくんをじぃっと見たまま何か考え込んでいる。
 よほど喋る魔物や動物に驚いたんだなぁ。
 当たり前といえば当たり前だ。私も驚いている。
「イシュタルさまも今日はゆっくり休んでください」
 エレイナさんが自分用に折り畳みの寝台を用意して、イシュタルさんに声をかけると、イシュタルさんがエレイナさんにお礼を言った。
「ありがとうエレイナ、世話をかける」
 飼魔獣の『印』用の装飾品は、『専用に作られた物』という決まりが無く、誰の飼魔獣かわかるよう装飾品に印を刻んで登録すれば良いと聞いたシナップくんが、エドくんにあげる『印』を付ける装飾品をどれにしようか楽しげに色々考え始めた。
 エドくんの体の形は球に近いけど、何処に付けるんだろう?

 エドくんとシナップくんとの関係は今のところ詳しくよくわからないけれど、3,000年前一緒に旅をしたり塔で過ごしたりした仲であることは確かなようだ。

 ──そしてその夜……

『うう、ボクが……かい魔獣、うう』
 すやすやと健やかに寝息を立てて眠るシナップくんやバッシュくんたちに挟まれて、うなされるジュエルスライムのエドくんの寝言が、私たちが借りた宿の一室で聞かれることになるのであった。3,000年前は普通に一緒にいることが出来たのだろうか。

 ◇

 翌日の早朝

 街の外へ出る前の持ち場確認のため、冒険者ギルド『カマル出張所』に訪れた私たちを見るなり、所長さんが言った。
「よぉ!待ってたぜ!良い報告と悪い報告がある。どっちから聞きたい?」
 聞かれた私たちは顔を見合わせて、どちらを先に聞くかガイアスくんに任せた。
 所長さんが傍らにいるエドくんに気づいているようだけど、喋ったりしていないこともあって、すぐにどうこう尋ねるつもりは無さそうだ。
「まずは良い報告から頼む」
「了解」そう言って所長さんが切り出そうとしたところで、別の冒険者が入り口から入って来た。
 所長さんがラスターくんとパットくんに受付を任せ、私たちに2階の部屋への移動を促した。
 部屋につくと椅子にどかっと座り、私たちにも座るよう言ってから「良い報告の方だ」と話し始めた。
「どうやらお前さんたちの推測通りだ。ワルゴで編成された別のパーティが、それらしい魔物を見つけて優先して討伐するようになってから魔物の数が減り始めたって報告が来た。術者が強化される危険は承知済みだ。まず推測が正しいかどうかわからねぇことにはって話だ」
「型がつきそうか?」
「すぐにとは行かなさそうだ。予想はしていたことだが、群れのなかにいる本体より、別の場所に隠れ潜んでいる本体が多そうなんでな。考えてみると当たり前だが。1箇所にかたまっていてくれりゃあまだ良かったが、本体は勿論だが術者を探し出すのにも時間がかかりそうだと報告が来た」
「それが悪い報告?」
「だったら良かった」
 所長さんの渋い表情かおに、もっと悪い報告があるらしいと覚悟を決めて運んでもらったお茶を飲む。
「ここからが悪い報告だ。ワルゴ城壁周辺にまた違う種類の魔物が3ヶ所に別れて現れた。それも今までよりそれぞれ数が多いらしい。つまるところ、減ったと思った魔物の数が種類を変えて増えちまったかも知れねぇ」
 所長さんが続ける。
「それで今後だが、闇雲に倒すだけでは人側の方が疲弊してしまうっていうんで、城壁内部へ侵入されないようする以外は、あえて現状を維持しつつ、本体を探して討伐していくという方針でしばらく行くらしい。早急に術者も探し出さねぇといけねえ。面倒なことになったもんだ」
 そこまで言い終えると
「さて、お次は本題の今日の持ち場の確認だが、その前に」
 所長さんがエドくんを見て言った。
「さっきから気になってたが、そこのジュエルスライムはあんたらの飼魔獣でいいのか?昨日までは連れてなかったように思うし、登録もしてないんじゃないか?」
「ああ、報告し忘れて。悪いがここで登録したいんだがいけるか」
 所長さんがガイアスくんに少し訝しむ表情を向けたけれど
「ふうん。まあ魔導ギルドのマスターがくっついてて、そう言うんなら問題は起こさない案件なんだろう」
 と言って、部屋に控えていた職員の女性にエドくんの登録番号の作成を依頼した。
 イシュタルさんが、自身のギルドマスターとしての威光に、どうだと言わんばかりの表情かおをしている。
 無事にエドくんを飼魔獣として登録できそうで良かった。
 直前に喋らないようシナップくんが言い含めていたこともあって、所長さんには普通のジュエルスライムにみえているはずだ。
 
 一寸前のやり取りでは少し心配だったけれど。
 ──
「よく聞くのだエド。今のご時世はお前が思うより魔獣に世知辛いのだ!下手をすると、珍ジュエルスライムとして見世物小屋とか実験場行きかも知れないのだ。それでも良いのだ?」『嫌!』「だから喋っちゃ駄目のだ」『わかったのだ』
 ──
 見世物小屋や実験場も怖かったかも知れないけれど、エドくんはシナップくんと一緒にいようという意志が感じられたので、それが良かったのだろうと私はほっと胸を撫で下ろした。
「昔は魔物を魔力で調伏させて従魔として連れ回して戦わせていた時代があったらしいが、今はすっかり廃れて見かけねえ」
 所長さんがエドくんたちを見ながら言った。
「それにしても実態を持つ動物と違って魔力体しか持たねぇ、弱らせりゃそのまま魔物は大抵消えっちまうか、傷を負わせりゃこっちに反発と敵意しか持たねぇもんだし、契約って言ってもどうやってたんだろうな?」
 するとイシュタルさんが
「一部にまだ魔物を従える術を持った一族が残っていると聞いて、そのうちの1つの民と会って話したことがあるぞ。だが確かにどうやって従えているかはわからなかったな。気前良くやり方まで教えてくれたのだが、試してみても何かが足りんのか出来なかった」
 と、残念そうに言った。
 手順がわかるだけではどうにもならない、何かを解る必要があるのだろう。
 ふと頭に思い浮かんだのは、私からみて酷い扱いを受けてなお『何者か』に従おうとするヒルデブラントくんの姿だった。
 必要な理解は、彼ら魔物自身へ向けられる優しさとはかけはなれたものなのかもしれない。
 少しすると職員のヒトがシナップくんから預かったギルドカードと、装飾品アクセサリー予備を含めた2つを持って帰ってきた。
 見えにくいけれど識別番号が刻まれていて、ギルドの専用魔導具を近づけると、それぞれでエドくんの情報と飼い主の情報がわかるようになっている。
「ごくろうさん、アニタ」
 シナップくんが早速エドくんの体の天辺近くに、飼魔獣とわかるように花の形をした装飾品をペタッとくっつけた。
 これだけでも飼い主がいることはわかる。
「これで間違えて狩られたりはしねぇだろ。良かったな!」
 所長さんが満足げに言った。

 ◇

 報告も聞き終わり、打ち合わせも済ませて北の門から街の外へ出る。
「この辺りがいいか」
 今日は衛兵の人たちも一緒に持ち場へ付くことになっていて、細かい調整は現場で行うことになった。
 今日は昼までイシュタルさんも一緒だ。
 ──これまでにもワルゴ側を気にしないわけではなかったけれど、こうして立ってみると隆起した地面が多い。予想より見通しの悪い地形の場所があるんだね。
 街に設けられた高さを上げた見張り台と、地上からの見張りを増やすことで、北と北西側の警戒を補完している。
 ワルゴに近い北西には、東の山岳地帯より低い山が短く連なっていくらかの森林を形成している。
 遠眼鏡で確認すると、昨日の持ち場から見た時の印象と変わらない。
 それぞれ付かず離れずの距離感に争うわけではない様子で、明らかにワルゴ方面に魔物の数が多い。
 遠目に見ればかたまるようにして魔物たちがいて、群れていると言われれば、そう見えなくもない状態が保たれている。
 衛兵さんの1人が難しい表情で言った。
「もともとここから北は西も東も魔物の数が昔から多いのが普通ではあるんですが、それは配備される兵の数の少なさも影響してたもので。現在のように結界やある程度の戦力を用意してもこうだとなると……」
「いつ頃からこんな状態になっているんだ?」
「それほど昔からではなく、最近ですね。といっても5、60日ほどは経っていて。それも急にと言うわけでもなく」
 事前に聞いていた情報ではあるけれど、目の当たりにすると深刻な状況に思えた。
 ワルゴ方面は地上がまるでダンジョンのようになっている。
 逃げ場が無いというのとは違うだけ、ずいぶんとマシだけれど。
 放置すると、まだ結界の強化されていない道には魔物が普通に入り込んでしまうのだろう。幹線道の外側に魔物と交戦している人たちが遠眼鏡で確認出来た。
 ワルゴへ近い場所へ行くほど魔物の数は増して行くため、結界の補強も強化もそちらが優先されている。道のりは長い。

「ワルゴは持ちこたえられると践んではいるのだろうな」
 イシュタルさんが遠くに魔物を確認しながら言うと、衛兵さんが
「いえ、そういうわけでは無いかと思われます」
「ではなぜ積極的にこちらへ援軍の要請を行って来ない!」
「……彼らが誇り高き火の一族、だからでしょうか」

 衛兵さんがそう言うと、イシュタルさんが言った。
「彼らの要請に応えた『百犬隊』は、いまも消息不明が続いている」



 ────────
 ────────

 □共有アイテム□

 ◇主な食料の在庫
 内訳(長期保存食料165食分)
 ◇嗜好品お菓子(魔導系回復あり)、各種調味料、未調理穀物5日分

 ◇魔力回復ポーション(EX102本、超回復74本、大153本、中647本、小970本)
 ◇治癒ポーション(治癒薬EX107本、超回復69本、大885本、中2,072本、小4,588本)、薬草(治癒1,059袋)1,059袋、他

 □各自アイテムバッグ
 ガイアス (魔力回復薬小3本)(治癒薬EX2本、超回復4本、大10本)薬草(治癒5袋、解毒5袋)麻痺解除薬5本

 ジャック (魔力回復薬小4本)(治癒薬EX2本、超回復4本、大10本)薬草(治癒5袋、解毒5袋)麻痺解除薬1本)

 エレイナ (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大6本、中1本、小3本)(治癒薬EX3本、超回復3本、小10本)薬草(治癒5袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)

 マクス (魔力回復薬EX3本、超回復5本、大5本、中5本、小10本)(治癒薬超回復5本、大5本、中10本、小20本)薬草(治癒18袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)

 バッシュ (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大2本)(治癒薬EX1本、超回復1本)薬草(治癒1袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)

 ノア (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大2本)(治癒薬EX1本、超回復1本)薬草(治癒1袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)

 シナップ 『塔にあるもの全部』
 ロデリック『私物とお菓子』

 □背負袋

 ガイアス 『共有アイテム』『バッシュとノアの本』『エレイナ、バッシュ、ノア、シナップの荷物』『食糧』

 ジャック (魔力回復薬EX11本、超回復10本、大50本、中210本、小140本)(治癒薬EX1本、超回復85本、大35本、中80本、小120本)薬草(治癒10袋、解毒10袋)麻痺解除薬2本)『もしもの時の燻製肉』

 エレイナ (魔力回復薬EX3本、超回復10本、大20本、中50本、小100本)(治癒薬EX5本、超回復25本、大30本、中50本、小50本)薬草(治癒60袋、解毒20袋)麻痺解除薬2本、万能薬3つ)『お菓子』

 マクス (魔力回復薬大10本、中100本、小100本)(治癒薬超回復50本、大100本、中200本、小200本)薬草(治癒1,000袋、解毒30袋)麻痺解除薬4本、石化解除薬4つ、万能薬4つ)『草』

 バッシュ (魔力回復薬EX5本、超回復5本)(治癒薬EX5本、超回復5本)薬草(治癒25袋、解毒5袋)麻痺解除薬5本、石化解除薬1つ、万能薬5つ)『カリカリフード』

 ノア (魔力回復薬EX5本、超回復5本)(治癒薬EX5本、超回復5本)薬草(治癒25袋、解毒5袋)麻痺解除薬4本、石化解除薬2つ、万能薬5つ)『カリカリフード』

 シナップ 『塔にあるもの全部』
 ロデリック『私物とお菓子』

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俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

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透けてるブランディシュカ
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悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

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「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

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