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参 まやかしの花器
つぐないと負い目【二】
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「ああ、いただく」
差し出された碗の茶を飲み、息をつく。その手首の細さに目を止め、見ぬ間に痩せたかつての妻に良心が痛んだ。
「まだ虎次郎と、祝言を挙げていないのか?」
思わず口をついて出た言葉。能面が張りついたような笑みを浮かべていた実緒の顔が、引きつった。
「……それが、わたくしを離縁した理由ですか。わたくしが虎次……尊仁さんと、通じているとお思いになられたからと?」
「いや、オレは」
「──もうっ、言い訳はたくさんっ!」
急に癇癪を起こされ、虎太郎はぎょっとして実緒を見返した。
眉をつり上げ、涙目となり、紅潮した頬を震わせ虎太郎をにらんでいる。
「コタもコジも、二人してわたくしを馬鹿にして! なんなのよ、もうっ……、いらない荷物を押しつけ合うみたいにして!」
「だからオレは前から言ってるだろ? お前は虎次郎と似合いだって」
「は? 夫婦の契りは形だけ、お前は虎次郎と上手くやれ、自分は領地の女とよろしくやるから放っといてくれ、ですって?
それでわたくしが周りから、どんな目で見られているか、一度でも考えてくれたことはありますかっ……!?」
「あー……、それは、本当にすまない。事実を話すより、オレがろくでなしだって思われたほうが、お前と虎次郎にとっていいと思ってだな」
「うるさいっ……! このっ、ど阿呆馬鹿オトコッ! 死んでから出直して来いっ……!」
半べそをかきながら、虎太郎の胸を両拳で叩きつける実緒は、幼い頃からよく知る利かん気な娘の姿だった。
「だよな、うん。オレが悪かった……。
いろいろ説明が面倒で、自分勝手に決めつけて、お前たちを振り回した」
だから、と、虎太郎は、ついに泣きじゃくり始めた実緒の目を見て言った。
「今晩、皆を集めてきちんと話す。オレがどうして、こうなかったかを。だから、頼む。もう少しだけこらえてくれ」
瞬間、実緒は糸が切れた操り人形のように、虎太郎のひざ上に顔を突っ伏した。
虎太郎は、嗚咽をこらえきれぬ彼女の細い肩をなだめるようにして、叩く。
つぐないにすらならなくとも、せめて泣き止むまでは側にいてやりたいと思った。
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