許してなんて言わないから

東雲 椏水

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Ⅰ 地獄の始まり

第5話 ※

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シアンが笑みを貼り付けたまま、後孔に長い指を這わせてきた。
そのひんやりとした指の感触に、悪寒が走って反射的にシアンの手を掴んでしまう。
シアンはゆっくりと顔を上げて、凍えるように冷たい目を向けてきた。

「なに?」

「い…、いや、その……」

吸い込まれてしまいそうな、赤色の瞳を見続けられず視線を彷徨わせる。
こんな事なんとかやめさせたい。
もう、今すぐにでも目の前の身体を押しのけてこの部屋から出ていきたい。

だけど──────────────────、

『…ねぇ。拒んだらどうなるかくらい分かるよ
ね?』

あの地を這うような低い声が、耳から離れない。

俺はそもそも、イーシュ派にヴォルガー派を支援してもらうためにここにいるわけで。
ここでシアンの不興を買って、ヴォルガー派の支援を取りやめる───────なんてことになったら、師匠も弟子のみんなもきっとすごく悲しむはずだ。
それすなわち、ヴォルガー派が消滅の危機に瀕するかもしれないから。

沈む心とともに、どんどん頭が下がっていく。






やめろ──────────────────。



そう言いかけた唇をきつく引き結んだ。
シアンが俺の顔を覗き込んでくる。

「兄さん、どうしたの?」

「………いや、なんでもない」

そう言いながら、掴んだままだったシアンの手をゆっくりと離した。
居た堪れなさからシーツを見つめていると、その手で顎を掬い取られて、無理矢理目線を合わせられる。

驚いて目を見開くと、目の前で三日月型に歪められた真っ赤な瞳が、暗く光っていた。
その瞳から、目を逸らすことができない。
そんなことをしてしまえば、命を奪われてしまうような気さえした。

身じろぐことすら出来ずに赤色を見つめ続けていると、シアンが歪に口角を吊り上げて笑った。

「あはっ。びっくりしたぁ。もしかして、兄さんが俺を拒絶するんじゃないかと思って。そんなことされたら、俺悲しくてこの前の話なかったことにしちゃうかも」

目を瞠る。
やはりシアンは、俺が気に食わないことをしたらヴォルガー派の支援を取りやめるつもりでいるのだ。
こんなの、俺はシアンの言いなりになるしかないじゃないか。

過去の償いをするためには、シアンの言うことに従うのは当然のことだ。普段ならきっと、そう思えていただろう。
だけど、今はとてもそんなことは考えられない。さっきからずっと、冷や汗が止まらないのだ。
これから何をされるか分かっているのに、大人しく受け入れることなんて到底できなかった。

だけど俺は、師匠に恩返しをするために生きている。
ヴォルガー派のみんなのためにできることを、しなければいけないのだ。
何も出来ない俺が、できること。
今まで師匠に迷惑しかかけてこなかった俺が、ようやくその恩に報いることができるのだ。

ぐ、と奥歯を噛み締める。
後ずさりしそうになる身体を、必死にベッドに繋ぎ止めた。

「…も、もう、いやがらない、から………」

この間の約束は守ってくれ、と、口の端を引き攣らせて続けようとしたとき。





─────────────────どくん。



「…………っ、…え…………?」


一気に身体から力が抜ける。
心臓が、身体から飛び出しそうなくらい、ばくばくと早鐘を打ち始めた。
身体が異様に熱い。額から汗が噴き出してきた。
シーツに手をつき、心臓を押さえる。

「…っ、はぁ、はぁ、はぁっ……」

まるで運動後のように息が上がる。
暑いのに震えが止まらなくて、力の入らない腕で自分の体を抱きしめた。

「……っ…はぁっ、はぁっ……」

シアンが俺の顔を覗き込んできた。
楽しくて仕方がないとでもいうような、満面の笑みで。初めてシアンが心の底から笑った顔を見たような気がする。よりによって、こんな状況で。
こっちは苦しくて仕方ないというのに。

殴られ、蹴られて、髪が抜けるくらい強く掴まれた記憶が蘇る。
もしかしてシアンは、他人の痛みがわからないんじゃないか。
かつての、俺と同じように。
恐怖で喉が引きつる。

「やっと効いてきた?」

何が、効いてきたかなんて。
思い当たることは一つしか無い。
唇を震わせながら、なんとか口を開く。

「…………さっ……きの、………」

「うん。言ったでしょ?気持ちよくなれる薬だよ。兄さん、絶対大人しく従ってくれないと思ったから、頑張って手に入れたの」 

「っ……、……」

何か言おうと思ったけれど、思考がまとまらない。何も言葉が出てこなくて、俯いて唇を噛み締めた。
ただ、身体中の震えとありえないくらい激しい動悸に耐えることしか出来ない。
さっきから、身体が疼いて仕方がない。
腹の奥のほうが、じわじわと熱を持ち始めた。

首を僅かに動かして目線を上げると、シアンと目が合った。シアンは女の子が見たら一目惚れでもしてしまいそうな、美しい笑みを浮かべて、白い腕を伸ばしてきた。
肩をとん、と押されて、抗うこともできずそのままベッドに仰向けに倒れる。上等なシーツの柔らかい感触を感じながら、まとまらない思考で、なんとか腕に力を入れて起き上がろうとする。
だけど、本当に少しも力が入らなくて、身体を起こすことすらできない。

「はあ、はぁ…、はあ……」

自分の荒い呼吸だけが部屋に響き渡る。
制御不能な身体を抑えることに精一杯で、話す余裕すらなかった。

「そんなに強いのにしてないはずなんだけど。兄さん効きやすいんだね」

顔を包み込むように両手で挟まれる。
シアンのひんやりとした冷たい手が、熱い頬を冷やす氷のようで気持ちが良かった。
思わずその手に頬ずりしそうになって、慌てて思考を引き戻す。

シアンの手を引き剥がそうと腕を持ち上げるが、その白い手を掴むことすら出来なかった。
赤ん坊にでもなったような気分だ。
触れることしかできないなんて。

「は…っ、は………」

頭を動かすこともできず、眉を寄せて浅い呼吸を繰り返す。
ただただ、血のように赤い瞳を見つめ続けることしか出来ない。その、宝石みたいに綺麗な瞳がどんどん近づいてくる。
顔を逸らすことも出来ずに、柔らかい唇を受け入れる。
熱い舌が入り込んできて、歯列をなぞられる。

「ふ、うんっ…、ん… む…、…」

さっきよりも全身に力が入らなくなって、 腕をだらりとベッドに投げ出す。
抵抗することもできず、ただ口内を犯される。

頭がぼーっとして、薄く開けていた目を閉じかけたその時。
びくりと、腰が震えた。

後孔に、シアンの冷たい指が添えられたのだ。

「んっ!!…んん!!んぅ…!」

つぷ、とシアンの細くて長い指が、何のとっかかりもなくゆっくりと中に入ってきた。

力の入らない手を持ち上げて、シアンの髪を精一杯の力を込めて引っ張ると、ようやく唇が離れていった。

「ぷはっ……、はぁっ、は、…うぅ…!!」

ようやく解放された口で、深く息を吸い込もうとしたとき、中に入ったままの指が奥に入り込んできた。
強請るように、中の肉壁がシアンの指に吸い付く。
そのせいでシアンの指の形がはっきりと分かってしまって、恥ずかしさからただでさえ熱い顔が、より一層熱を持っていく。
きっと今俺の顔は、茹でダコみたいに真っ赤なのだろう。

どんどん身体に熱が溜まっていく。
風邪をひいた時みたいに、いやその何倍も、身体が熱くて仕方がない。

思わず目の前の腕に縋り付いてしまう。

「…た…すけて、…あつい…っ、…あつい……!」

「んー、そんなに熱い?そのうちよくなるから、我慢して。大丈夫、死にはしないから」

誰もが見惚れてしまうような美しい微笑みをうかべながら、あまりにも無慈悲な言葉をかけられて、肩が震える。
ああ、なんで、シアンに助けを求めたんだろう。
こんなことになっている原因は、目の前で笑っているこの男なのだから、助けてくれるはずがないのに。

怯えて唇を震わせシアンを見つめても、微笑むばかりで何もしてくれない。
それどころか、どんどん俺の中に指を沈めていった。

自分でも触ったことのない場所に触れられて、不快感が押し寄せる。
だけどそれ以上に、言いようのない快感が抑えられない。
腹の奥が疼く。熱い。

「あぁっ!!…ひぅ……ぁ…」

あの薬が強くないなんて、絶対嘘だ。
そうに決まってる。
じゃなきゃ尻の穴で、こんなに狂いそうなくらい気持ちいいはずがない。

あまりの快感に、いつの間にか涙が溢れ出していた。喉から嗚咽が漏れる。

中で肉壁が、まるでシアンの指を誘い込むようにひくひくと蠢いている。
中に入っている指が、どんどん奥まで入り込んでくる。
その間も、気持ちよさに唇が震えた。
歯がかちかちと鳴っている。

怖い。
これ以上、快感が与えられるのが。

思わず腰を引きかけた時、咎めるようにシアンの指がより深くに入り込んできた。
そのままずちゅずちゅと音を立てて、抜き差しされる。

「あ゙っ、ひぃぃっ!!うぁ…ぁっ…!」

「もう、逃げないでよ」

指が中でバラバラに動いて、穴を押し広げていくような感覚に身震いする。
いつのまにか3本に増えたシアンの指は、止まることなく俺の中で蠢いていた。
その指が、ある一点を掠めたとき、全身に電流が走ったような感覚に襲われた。
びくっ、と腰を震わせて、目を見開く。

「ひっぃ…!!は…、うあ、ぁ!」

「みーつけた」
 
楽しそうな弾む声が聞こえる。
滲む視界の端で、形のいい薄い唇が歪に吊りあがるのが見えた。
背筋が粟立つ。

手元にあったシーツを手繰り寄せて、精一杯の力で握りしめた。
それと同時に、とんとん、と、さっきの場所を叩かれる。

「ここでしょ?」

「や、ぁあっ…あ、ぁ!!」

体中の毛穴が開いたみたいに、ぞくぞくとした快感が駆け巡り腰が震える。
執拗にそこを攻められて、目の前でぱちぱちと星が散る。
さっきから止めどなく、俺の陰茎からは白濁が溢れ続けていた。

「あぁ、うっ!…いぁ、あっ!!」

「兄さん、きもちい?」

答えることもできずに、涙を流してただ喘ぎ続ける。

「返事してよ」

シアンが不貞腐れたような声でそう言ったかと思うと、咎めるようにさっきの場所を擦られて、反射的に口を開く。

「き、きも、ちぃ…!からっ、!も、…やめ…っ…、おねがい………っ!!」

「だめに決まってるでしょ。こんなのでへばんないでよ」

こんなの…?
恐ろしい言葉を吐かれて、また涙が溢れ出してきた。

頬に伝う涙を雑に拭われて、髪を掴まれる。
髪を掴まれた痛みも感じないくらい、今の俺の身体はおかしかった。
頭を無理やり持ち上げられて視線を前に向けると、シアンの指をひくひくと収縮しながら、根本まで飲み込んでいる窄まりが見えた。

そのグロテスクな光景に、ひっ、と喉の奥から情けない声が漏れた。

見せつけるようにゆっくりと指を引き抜かれて、また埋め込まれていく。

「ほら、頑張って」

「……や…やだぁ………っ!!あ、あぁっ、う…!」

首をふるふると横に震わせても、指の動きは止まらない。
抜き差しするスピードがどんどん速くなっていく。
往復するたびに、さっきの場所を擦られて、目の前がチカチカと点滅する。

もう、限界だ。

「し、…しあ…、しあん……っ!」

シアンの肩を掴む。
だけどやはり、力が入らず触れただけだった。
シアンの顔を見ると、ずっと俺の顔を見ていたのか目が合った。

「なに?」

「も、むり、…っ、いく、から…っ!て、とめて…!!」

「いいよ、いって」

今までで1番優しげな声でそう言いながら、指を動かすスピードを速めていく。
腰が小刻みに震えて、止まらない。
必死に首を振ってシアンの胸を叩いても、その指は動きを止めない。それどころか、さっきの場所を押し潰すように動かされて、膝をがくがくと震わせながら、足をぴんとのばす。

「ひ、あ゙あ゙っ…!!あ~~~──────────っ!!!」

目の前が真っ白に染まる。
頭を仰け反らせて達した。
陰茎から勢いよく白濁が吐き出されて、シアンの真っ黒な服を汚していた。
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