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憧れてるって言ったのに!

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 ジャガとの話が一段落したころ

「その辺にしてやってくれないかな?」

と聞き覚えのある声がする。

 不意に背後から聞こえた声。私には勿論それがユランだとわかる。

「ゆ、ユランの旦那……」

 ジャガがバツの悪そうな顔でユランを見る。さっきまでの元気は何処へ行ったのか。これだからパン派は。私は少し元気な気分にはなるが……ふと振り返ると、ユランが偏差値54くらいの女と立っていた。

「あら、ユランどうしたの、私をクエストに誘いに来たの?ちょうど空いてるわよ」

 偏差値54くらいの女は取り合えず無視して、私はユランに話しかける。

「いや、前に言ったように、君とはもう組まない。彼女と組むからね。彼女はスー。ソロでC級に上がった実力者だよ」

「こ、こんにちわっ!」

 そう言って54が「ぺこっ」と挨拶してくる。その姿を見てすぐピンと来る。

 あざと! あーあざと! こんにちわっ! だけでもあざといのにその前の「こ、」もあざとい。しかも私をもってしても「ぺこっ」としか表現できないような頭の下げかたもあざとい。

 つまり、大嫌いなタイプだ。あざとフィフティフォー、こいつの私のなかでの呼び名はAZT54だ。

 何より腹が立つのは、この女の本性を見抜けず、パートナーにしたユランに腹が立つ。

「とは言え、前のパートナーが悪く言われるのも嫌な気分だから……ジャガ、頼むよ」

「いや、旦那俺も悪く言うとかじゃなくて……」

 ユランの言葉にジャガが下らない言い訳を始めたのを遮って私は言う。

「余計なお世話よ、ユラン。そんなAZT54に騙されるような男が口出さないで」

「また出た……君の心の中だけのあだ名、急に言うのやめてくれよ……」

「そうするのよく知ってるんだから急じゃないでしょ、まぁいいわユラン見損なったわ、ギリ別れないけど」

 そう言って私はくるっと回って外へ向かう。今日はクエストどころじゃなさそうだ。

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 冒険者ギルドを出て、しばらく歩いていると後ろから走ってくる音が聞こえてきた。

 振り返るとさっきのAZT54だ。どうやら私を追いかけて来たらしい。私を追い越してから私の前で女は止まった。

「……何?」

 特に私には用が無いが……

 AZT54はしばらく話すことを考えているように下を向いたあと、意を決したように言ってきた。

「私、ユランさんと一緒に活躍するミランダさんを見て……憧れて……ミランダさんみたいになりたくて冒険者になったんです!」

 スーって言ったかしらこの娘、いい子ね。

「でも、ユランさんに色々聞いて見損ないました!」

 やっぱりさっきの無し。私は言われっぱなしは認めない。

「で何? それを言いに来たの? 勝手に憧れて勝手に失望? 気持ち悪すぎるんだけど。日記にでも書いといてくれない? そういうの。紙は無駄になるけど」

 私の発言にあざとさを維持できなくなったのか、スーが表情を変えて言う。

「うっさい無能、炊きたて」

 ほら、これがこの女の本性だ。さっきも言ったように私は言われっぱなしは認めない。

「黙れブス」

「……人に言えるほど美人だと思ってるんです?」

「人はちゃんと選ぶわ、あんたに言ってんのよブス」

 と、スーが私ではなく私の背後に視線を向けているのに気が付いた。失敗だ、まんまとやられた。こいつが途中から敬語にしたのは……私は振り向く。

 ユランが追いかけて来ていた。私を追い越していたこの女は、勿論ユランの接近に気が付いていた。そして今のやり取りの、黙れブス辺りから丁度聞かれた事を悟った。

「うう、ひどいです……」

 そう言ってスーは膝と膝を合わせつつも足を両方に広げた、正座が崩れたような座り方をして、ちょこんという効果音を出しながら泣き真似をした。

「ミランダ……酷いじゃないか」

 ユランは非難してくるが……

「ふん、茶番には付き合ってられないわ、私とあなたはまだ付き合ってるけど」

 そう宣言し、私は立ち去る。恐らく心の中で舌を出しているスーに憤慨しながら。
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