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第二章 拾弐
しおりを挟む美咲が、悲鳴をあげていると、自分の手の中がブルブルと震えているのに気付き、巫女の両目から顔を逸らす事が出来た。
自分の手を見ると数珠が震えている。そして、パンッと数珠が弾け飛び、地面に落ち転がる。
弾けた数珠を暫く見てから、美咲は再び、巫女の霊の方に顔を向ける。
だが、先程まで居た巫女の霊の姿が消えていた。
「美咲、持ってた数珠はどうしたの?」
ユキが話し掛けて来た。
さっきまで叫んでいたのに、何事もなかった様にユキが普通に隣りに立って美咲を見ている。
「え······ユキ、大丈夫なの?」
「何が?」
「だって、見たでしょ? 巫女の霊······」
美咲が、戸惑って言うとユキが、
「は? 巫女の霊? 何を言ってるの? 見てないよ。どうしたの? 美咲」
ユキが首を傾げている。
「そこに居たでしょ! 私もユキも全員、見てたじゃない!」
美咲が声を大きくして言う。
感情的になっている美咲に、今度はユキが戸惑う。
「どうしたんだね? 一条美咲さん」
黒木が、カメラを持って話し掛けて来た。
杉村もアキナも何事も無かった様に境内を見回している。
「なんで、どうして······確かに全員で巫女の霊を······」
美咲が絶句していると黒木が、
「巫女の霊を見た? 邪眼の巫女を見たのかね? 一条美咲さん」
美咲は黒木の言葉に頷き、
「はい······見ました。黒木さんも見ていた筈です。本殿の扉が開いて、中から巫女の霊が現れて······」
黒木が、本殿の方を見る。
だが、本殿の扉は閉じたままだった。
黒木は片手で髪を掻き上げ、
「うーん」
と考え込んでいると、本殿の裏で姿を消していた、江古田と森山が本殿の裏から姿を現し、本殿の脇を通って黒木の元へと歩いて来た。
江古田はハンディカムカメラで撮影している。
「江古田、何か撮れたかね?」
黒木が江古田に聞く、
「いや、何も変わったモノは撮れませんでした。ただ、煙草の箱とライターが地面に転がってましたね。誰かが落として行ったんでしょう」
「そうか、ご苦労」
黒木が再び、真っ青になっている美咲の顔を見る。
「黒木部長。もう暗くなるわ。山を下りましょう。結局、何も起きなかったわね」
アキナが何事も無かった様に言った。
その隣りで杉村はカメラで撮影を続けている。
美咲は困惑していた。
「なんで······そんな。黒木さんも友近さんも杉村さんもユキも見たはず······どうして······」
「美咲、何を言っているの? しっかりして」
心配したユキが、美咲の肩に手を置く。
「何かあったの? 一条さんの様子がおかしいけど」
アキナが言うと黒木が、
「うむ。邪眼の巫女を見たらしいんだ。しかも、我々も見ていると言う事らしいんだが」
「見てないわよ。一条さんが幻覚でも見たんじゃないかしら」
アキナが言うと美咲が、
「幻覚? でも、数珠が弾けて······」
美咲の持っていた短い数珠は、確かに弾けていた。
砂利の地面に、転がっている弾けた数珠の玉を見ながら、黒木は顎に手を当て考え込んでいる。
美咲は納得いかない。
確かに見たはず、生々しい巫女の霊を、そして、あのおぞましい両目を見た。
「そうだ! 杉村さん、カメラで撮影をしていましたよね? 巫女の霊が映っているはずです!」
美咲の言葉を聞いて、ハンディカムカメラの映像を調べる杉村。
「いや、映ってないよ一条さん。巫女の霊なんて撮影してないよ」
「そんな······」
美咲は絶句した。
「さぁ、もういいわ。黒木部長、山を下りて車に戻りましょう」
アキナが黒木に帰りを促す。
「うむ。そうだな、諸君、今回はここまでだ。山を下りよう」
メンバーは、神社の出口にある石段に向う。
「美咲、帰ろう。きっと数珠は古くて自然に弾けたんだよ」
ユキが、美咲の手を掴みメンバーの後に続き石段へと歩き始める。
全員は、暫く参道を下りて行き、二台の車へと戻ると、それぞれ来た時と同じメンバーで車に乗り込む。
薄暗い空の下、美咲達は茨城県から東京へと向かい車を走らせる。
帰りの道中、ずっと美咲は頭の中で父親も見たであろう邪眼の巫女を鮮明にうつしていた。
黒木やアキナやユキとの会話にも上の空だった。
この時、美咲は気付いて無かった。
デニムパンツのポケットに入れておいた、紫色の御守りが、黒く変色していたのを。
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