「錬金術師の母、異世界育児日記」

第9話: 「錬金術の真実」

リナは夜の静寂の中、フィン、カリーナ、そしてルーカスと共にヴァレリオの作業場に向かっていた。村で不安が広がる中、ヴァレリオが使っている「魔法で作物を成長させる技術」に何か重大な問題があることは明らかだった。リナはその真相を突き止め、村を救うために行動を開始していた。
「気をつけて、みんな。何か危険なことが起きるかもしれないけど、私が守るから。」
リナは子供たちにそう言い聞かせ、ヴァレリオの作業場へと足を踏み入れた。中には、見慣れない装置や材料が並び、異様な雰囲気が漂っていた。空気には重い緊張感が漂っていたが、リナは慎重に作業場を探り始めた。

「これが……ヴァレリオの装置か。」
リナは目の前にある巨大な装置をじっと見つめた。魔力を使い、作物の成長を加速させるために設計されたその装置は、見た目こそ精巧だったが、彼女はすぐにその構造に疑念を抱いた。
「この装置、魔力の流れが不自然だわ……こんなに強引に力を使うと、土地そのものに影響が出るはず。」
リナは自分の錬金術と現代科学の知識を駆使し、装置を分析し始めた。すると、彼女の予感は的中した。装置は、土地の生命力を無理やり吸い上げているのだ。これが原因で、村の作物が急激に成長した一方で、土壌が異常な状態になり、収穫物にも異変が生じていたのだ。
「やっぱり……！」
リナは装置の問題を確認し、村に広がる不調の原因がここにあることを確信した。しかし、これをどうやって村人たちに伝えるか――それが大きな問題だった。ヴァレリオは村人たちに信頼されているし、彼の技術は一見、村を豊かにしているように見える。もしリナが何も証拠なしに彼を糾弾すれば、逆に自分が疑われる可能性が高い。
「まずは証拠を集めなきゃ……」
リナは、装置の詳細を記録し、魔力の流れを測定するための錬金術的な分析を始めた。しかし、その時、背後から冷たい声が響いた。
「何をしているんだ、リナ？」
リナが驚いて振り返ると、そこにはヴァレリオが立っていた。彼の鋭い眼差しは、いつもの穏やかなものとは違い、冷酷な光を帯びていた。

「ヴァレリオ……やっぱり、あなたの装置に問題があるわ。このままでは村が危険にさらされる。」
リナは強い口調で言ったが、ヴァレリオは全く動じなかった。むしろ、彼は冷笑を浮かべた。
「問題だって？この装置は村のために作ったものだ。作物は順調に成長し、村は豊かになっている。それが問題だというのか？」
リナはヴァレリオの態度に驚いた。彼は自分の技術の危険性を理解していないのか、あるいは故意に無視しているのか――どちらにせよ、村の未来を考えれば、このまま放置するわけにはいかなかった。
「確かに作物は成長している。でも、その代償に土地の生命力が失われているのよ。このまま続ければ、村全体が荒廃してしまうわ！」
リナの言葉に、ヴァレリオは一瞬表情を硬くしたが、すぐに冷静な笑みを取り戻した。
「そうか。ならば、君がその土地を守るために何をするつもりか、見せてもらおう。」
彼はそう言い残し、手を振り上げた。次の瞬間、作業場全体が魔力に包まれ、空気が重く揺れ動いた。ヴァレリオは自らの魔力を解放し、リナに対して挑戦状を叩きつけたのだ。

「ヴァレリオ……！」
リナは即座に自分の錬金術の力を使い、フィンたちを守るために防御の魔法を張った。彼女はヴァレリオが単なる錬金術師ではなく、強力な魔法使いでもあることをこの時、完全に理解した。
「君は素晴らしい技術を持っているが、それを最大限に活かす覚悟があるのか？村を守りたいと言うなら、その力を見せてみろ。」
ヴァレリオはリナに向かって手を伸ばし、魔力の波動を送り出してきた。リナはとっさに反応し、魔力を吸収する装置を使ってヴァレリオの攻撃を受け止めた。
「私は村を守るためにこの技術を使う。それが私の役割よ！」
リナは叫びながら、自分の錬金術と魔法の力を融合させ、ヴァレリオの攻撃に対抗した。しかし、ヴァレリオの力は圧倒的で、彼の攻撃はリナを圧倒しつつあった。
「やはり君は限界があるようだな、リナ。私の技術は、君の力を遥かに凌駕している。」
ヴァレリオはさらに魔力を高め、リナを追い詰めようとしていた。だが、その時、フィンが母親の危機を察し、叫んだ。
「ママ！僕たちも手伝うよ！」
フィン、カリーナ、ルーカスはそれぞれリナの元に駆け寄り、自分たちが学んだ錬金術や魔法の力を使い始めた。フィンは小さな火を操り、カリーナは風を使ってヴァレリオの魔力をかき乱し、ルーカスはその特別な魔力を解放してヴァレリオの攻撃を防いだ。
「子供たち……！」
リナは驚きながらも、彼らの協力を得て再び立ち上がった。家族全員の力を結集し、ヴァレリオに立ち向かう決意を固めたのだ。
「この村を……そして、私たちの未来を守るために、私は負けない！」
リナは最後の力を振り絞り、家族と共にヴァレリオに向かっていった。錬金術と魔法、そして家族の絆が一つとなり、彼女は圧倒的な魔力を放った。

ヴァレリオはその力に驚き、一瞬防御が遅れた。その隙を突いたリナの攻撃は、ヴァレリオの装置を破壊し、彼の魔力を封じ込めることに成功した。
「くっ……ここまでとは……」
ヴァレリオは悔しそうに歯を食いしばったが、最後には力尽き、その場から姿を消した。

村に再び静寂が訪れた。リナはフィンたちを抱きしめ、深い息をついた。彼女たちは村を守り、ヴァレリオの脅威を退けたのだ。しかし、彼が消える前に言い残した言葉が、リナの心に重く響いていた。
「君の力を凌駕する存在は、この先、必ず現れるだろう……」

リナはその言葉を胸に刻みながら、家族と共に歩み続ける決意を新たにした