婚約者と家族に裏切られた公爵令嬢は復讐の鬼となる

ルー

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婚約者と家族に裏切られた公爵令嬢は復讐の鬼となる

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地下牢はじめじめしている。

光のささない場所は時間の感覚を私から奪った。

石畳の牢はひんやりしていて、私の体から熱を奪う。

食事は一日に一回のみ。

あの日から、あのパーティーの日から一週間経った。

地下牢に入ってくるのは食事係の兵士のみ。

そう、一週間経っても当事者であるヴィオ様とリーナは来なかった。

「ほら、食え。」

一日に一度のみやって来る兵士が粗末な食事を小窓から中に入れる。

乾パンに味付けのされていない野菜。

そして水の入った瓶。

瓶だけは飲み終わるまでは私が持っていることが許されていた。

水で空腹をごまかす日々が続いた。

転機が訪れたのは、食事係の兵士からの提案だった。

いつもは食えとしか言わない兵士が、話しかけてきた。

「お前、ここから逃げたいとは思わないか?」

にやっと笑った顔は、いつもの食事係の兵士の顔ではなかった。

まったくの別人。

「あなたは・・・?」

私の口から出たのはその言葉のみ。

「俺の名前はウィルソン。炎の悪魔ウィルソンだ。」

悪魔・・・。

悪魔は聖女の敵・・・。

彼の手をとれば、もしかしたら復讐できるかもしれない。

今まであきらめてきていた思いがいっきに膨れ上がった。

「んで?どうする?逃げたい?逃げたくない?」

悪魔は催促する。

「私は・・・私は逃げて、それで復讐したい。」

私の願いを聞いて彼は嗤った。

「ああ、お前の願いかなえよう。」

その日私は悪魔、いいえウィルソンと一緒に地下牢から逃げ出した。

行く先はわからない。

私はウィルソンについていくだけ。

そうして辿り着いたのは悪魔の王国サヘラだった。

ウィルソンはそこで大公位を賜っている大貴族だった。

国王にも謁見した。

そこで復讐について悪魔の力を貸してやる、そう言われた。

そして私は悪魔のうちでも最強と名高いウィルソンと契約することになった。

悪魔を使役すれば不可能を可能に変えることができる。

まず手始めにやったのは天候の変化。

温暖な気候ですみやすい国だったヒルテミィナ王国の気候を寒帯にした。

寒くて植物がまったく育たない。

そんな土地にした。

そして次にやったのが病気の蔓延だった。

ウィルソンにそれを頼むとどこか別の世界からとんでもない病気を見つけてきて、そしてそれを広めた。

そうこうしているうちにさすがのヒルテミィナ王国も私の仕業だと気づいたのだろう。

やっと私が逃げたことに気づいたようだった。

その時には時すでに遅く、時を見計らったかのように悪魔王国の国王陛下が大量の兵士を向かわせたったの一日で国を滅ぼしてしまった。

妹リーナ、王太子ヴィオは私の前にひきづりだされた。

私にしたことを誠心誠意詫びるなら許してあげよう、そんな生易しいことを考えていた。

けれど二人は命乞いなんてしなかった。

詫びなんて入れなかった。

いっそすがすがしいほどに私を罵倒した。

「あんたのせいで国が滅んだ!」

違うでしょ。

私を断罪した、無実の罪で断罪したあなたが悪いんでしょう?

神様だって助けてなんてくれやしない。

「お前は悪女じゃない。正真正銘の悪魔だ!」

ええ。

そうですとも。

私はウィルソンについていった時から覚悟していた。

私は人間ではない別の何かに身を落としたとしても絶対に復讐だけは成し遂げるってね。

「あんたさえいなければ幸せだったのに。」

安心して、リーナ。

真の聖女じゃないあなたを神は見捨てるわ。

その時幸せだったとしても結局は神に見捨てられる。

変わらない最後を迎えるのよ。

それが私に罵倒されるか神に恨み言を吐かれるのかが違うだけで他は何ら変わらないわ。

いっそすがすがしいほどに罵詈雑言を吐きまくる二人に私は心が落ち着いた。

だから笑顔で言ってあげた。

「あなた達は殺さないわ。」

ああ、そんな嬉しそうな表情をしないで、笑えて来るわ。

ええ、どん底に叩き落としてあげる。

「ウィルソンの実験の材料にしてあげる。」

だから私は微笑んで毒を吐く。

それがどんなに最低な物でも。





「私と結婚してください。」
契約していたウィルソンにそう言われた時。私はうまく微笑むことができただろうか?



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