もう誰も愛さない

飲食店

宿から出てアルカンレティアを歩き始めるとすぐに気づいた。

「お父さん、アルカンレティアって来たことなかったからそんなんでもないと思ってたけど。本当に飲食店が少ないんだね。ぜんぜんないじゃん。」

アメリアの言葉にルイは苦笑する。

「なんていってもお貴族様の避暑地だからな。高級な食材は売っていても貴族のご令嬢は外食なんてほとんどしないからな。カフェとかでお茶はするだろうが夕食を外で取ることはあまりないだろう。」

「そっか。そうなんだ。」

2人はゆっくりと歩きながら飲食店を探す。大通りにあるお店のほとんどが服飾店と食料品店だ。飲食店はまったくなく、1時間ほど探したものの飲食店は見つからなかった。

「さすがにおかしい。以前来たときはここまで飲食店は少なくなかったが。何かあったのか？」

ルイは近くで庶民向けの安い食料品を売っていた女性に声をかけた。

「すみません、少し聞きたいことがあるのですが・・・。」

「あ、観光客の方ですか？ようこそ、アルカンレティアへ。」

女性はに愛想よく笑う。

「それにしてもアルカンレティアに観光だなんて。珍しいですね。親子ですか？」

「ええ、はいそうなんですが。」

ルイは女性に事情を説明した。

「観光ではなかったのですね。それは失礼しました。うーん、飲食店ですか？少し前までは5店舗くらいはあったんですけどね。今は1店舗しかなくて。時々何も知らない観光客が来るんですけどすごい驚かれるんですよね。お客さんたちは一応知ってはいたみたいですけど・・・。」

「以前来たときはここまで少なくはなかったので。」

ルイの言葉に女性はうなづいた。

「そうですよね。アルカンレティアはお貴族様の避暑地ですからね。」

「なにか原因でもあるのですか？」

「うーん、あるにはあるんですけど。その前まで5店舗あったといったんですけど、その5店舗のオーナーが全員違う人だったんです。飲食店は数が少ないので競争が激しくて。観光客も少ないですし。ここに住んでいる人も飲食店にはいかないですからね。みんなお貴族様を相手に商売しているのでかなり金持ちなんですが飲食店もびっくりするぐらい高いので観光客くらいしか行かないんですよね。観光客もお金に余裕のない人は宿で済ませてしまいますし。そもそも宿の数も少ないのでお祭りの期間中は本当に大変ですよ。宿が足りなくて隣町に泊まる人がかなりいますからね。お祭りの間は屋台がたくさん出るので飲食店はぜんぜん儲からないんですよね。そんなところに5店舗あっても赤字でほとんどのオーナーが割に合わないって店を閉めてしまったんですよ。それで残ったのが1店舗だけで。そこのオーナーも閉めるつもりだったそうなんですが観光客が困るからって領主様に頼まれて続けることになったみたいです。それなりに補助金ももらってるみたいなんですよね。だけど値段は変わってなくて。そのお金を何に使ってるんだって話ですよ。まぁ、私たちは関係ないのでいざこざに巻き込まれるくらいならって何にも言わないんですよ。」

「そう、なんですか。」

ルイが何とも言えない表情をする。

「普通に宿屋で追加料金払って食べちゃった方がいいと思いますよ。」