悪役令嬢ですが、前世で乙女ゲームは未プレイなもので!

席ゆづる

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▼サファイアガラスのやくそく

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一通り直してもらったあと鏡で最終チェックをして、自室で婚約者、エイベル・ディオンの到着を待った。


約束の時間に遅れることなく馬車を滑らせてきたディオン家御一行は、なんというかまぁ、華やかで煌めいていた。

ローラン家の両親、弟もなかなかの美形だと思うが、ディオン家は彩色が派手というか、なんというか、ともかく華々しい面々だった。薄桃色の髪の毛とか初めて見ましたし。


そして、ディオン家はローラン家に負けず劣らずのほんわかしたご家庭で、もともと父達は親交があったとはいえあっという間に母達も打ち解けてしまった。ただ、アレクシスは終始不機嫌であったため、おやつを出すべく母が席を外し、私がアレクシスと引っ付いて座った。


「ご兄弟なかよしなんですね、羨ましいな」


ハッキリとした発音でニッコリと笑ってくるさまは王子様オーラ抜群だが、私にはこうかはいまひとつだった。

はぁ、となんとも冴えない返事を返しながら、エイベルの空いたカップに紅茶を注ぐ。軽くありがとうと返す様さえ様になる。


その間にもアレクシスはどんどんと私の服全体をを吸収していっていて、ブラックホールになりそうだ。


「お待たせ、アレクシス。おかあさまにはどこになにがあるかわからなかったわ。」


生粋のお嬢様である母に、このイベントが立て込んでバタバタしている屋敷からなにかを探すというのは無理だったようだ。

使用人に頼めばいいものを、気を使ってしまったのだろう。

そんな母の手にあるものを見て固まってしまった。

それは、劇物。時期を見て出そうと部屋に置いてあった筈のものであるが、母は何をどこまで探しに行ったのか…


「!アリシアちゃんの、クッキー!!」


まだ何も言っていないのに感じ取るアレクシスもアレクシスである。

わっと包装紙を剥いで中身を覗いて今度はアレクシスが固まってしまった。


「アリシア嬢は料理もされるんですか?」


驚いたような嬉しそうな顔でアレクシスの元に近づき同じく覗き込んだが、鉄壁の笑顔が崩れることは無かった。王子様は伊達ではないなと感じつつラッピングごとアレクシスの手からクッキーを取り上げると、


「僕が食べますね。」


と意を決したように呟いた。

食べられたら困るし、食べないことに意義があるのでその決意、本当に意味が無い。


「おはずかしい。おやめください。」


手を伸ばすが僅かに届かない。


「いえ…これで僕は…」


くっと目を閉じて紫色のなにかを口に入れて咀嚼してしまった。


ぽりぽりぽりぽり、ごくん。

「…おいし、い?」


おいしい!と感動したようにそのままアイシングクッキーと紅茶を無心で口に運んでいくエイベルをローラン家とディオン家の両親がにこやかに眺めている。

クッキーを攫われてしまったアレクシスは呆然としていた。

おいしいおいしいと食べてくれてはいるが、所詮作ったのはプロではなく私なので、そこまで感動的な味ではない。

なにが彼をそこまで感動させたのか分からないが、ここまで言われて悪い気はしない。そもそも食べられてしまった時点で決着は着いてしまっていたのであるし。


とにかく、今から暴れてもこの和やかな空気は壊せそうにないので、今日のところは諦めることにした。


お疲れ様、誕生日おめでとうわたし。


×××


「アリシアちゃん、おたんじょうび、おめでとう」


アレクシスにそう言われるのは本日2度目だ。しかし、さっきと違うのは、ここは大広間で、みんな私の誕生日パーティーで歓談をしていて、会場の中央で赤い絨毯の上に小さな膝小僧を乗せて跪いたアレクシスがこちらに向かってパカリとビロードの箱を開けたのだ。


「まぁ、可愛らしいプロポーズ」

「おねえさまが大好きなのね」


この後婚約発表があることを会場の全ての人が知っていた上でアレクシスの幼い愛情表現にホッコリする。


「ありがとう、アレクシス。」

「きょうのドレスにあうようにえらんだんだ。つけてもいい?」


小さな掌に乗るサイズの髪飾りはサファイアブルーの輝きをしていた。

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